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愛しすぎても、痛い。

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 振られる……!
 阿子はすぐにそう思った。『今までありがとう』だなんて、別れの時にしか言わない。

「もうひとりで我慢するなよ。阿子がそこまで俺のこと想ってくれてるとは思わなかったからさ、すっごく嬉しい」
「え?」
 返ってきた言葉が意外なものだったので、今度は阿子が声を裏返した。

「たしかにそうだよな。苦しいことだけひとりで背負うなんておかしいよ。まぁ大学のヤツはさ、友達だし、急に話さないっていうのは無理だよ。それはわかって?」
「わかるよ、わかる。わかるんだけどね」

 人間は熱いものを触ると火傷をする。
 逆に、冷たすぎるものを触っても火傷をする。
 恋愛も同じようなものだな、と阿子は思った。人を愛しすぎても、痛い思いをするんだな、と。

「これからはさ、阿子が苦しいって思ったら、それを隠さずに言って? 俺も無意識に阿子のこと傷つけちゃってるかもしれないしさ。やめられることなら、やめていきたいし、阿子のこと苦しめたくないし」
「真信君……」

 阿子の『女子と話しているだけで嫉妬してしまう』という素直で真っ直ぐな想いは、正直に伝えたことにより、真っ直ぐに真信に伝わった。遠回しに伝えたりしていたら、それこそ真信がうんざりして振られていたかもしれない。
 阿子が、真信を好きだという自分を信じたからこそ、伝わったのだ。

 次の日、阿子は真っ先に美嘉にこのことを伝えた。

「美嘉!」
「何? 朝から元気すぎない? あ、昨日どうだった?」
 2人は1限目の講義がある講堂へ移動して、隅っこの席に座って話し始めた。

「思ってることは全部伝えたつもり。うまく伝わったような気がする」
「真信君はなんて?」
「今度からは、苦しいと思ったら言ってくれって」
「よかったじゃん!」
「私、真信君のことが好きだっていう自分のことも、アドバイスくれて味方だって言ってくれた美嘉のことも、信じてよかったと思う」
 美嘉は照れ臭そうにペットボトルのお茶を飲んだ。

「阿子! 美嘉ちゃん!」
 その時、講堂に真信が入ってきて阿子と美嘉に声をかけた。今までの真信では考えられない行動だ。
「意識してくれてるみたいじゃん」
 美嘉がヒソヒソと阿子に耳打ちした。

「え、内緒話?」
「女の話~。っていうか和解したんだね、よかったよかった」
「喧嘩はしてねぇよ(笑)」
「阿子が真信君のことでうじうじ悩んでるの、しんどかったんだからね~! 今度ご飯奢ってよね!」
 美嘉のこういうオープンな性格が、阿子はやっぱり大好きだと思った。

 その後、阿子と真信は阿子が恐れていた『1年壁』を乗り越え、今もまだ穏やかに付き合っている。
 幸せも、痛みも苦しみも2人で分け合うようになった2人だったが、真信は
「出産の痛みと生理痛だけはもらってあげられなくてごめんな」
と、たびたび阿子を笑わせるという。


『あなたといると、わたしはくるしい。』
──完──
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