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スキトヲル声
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突然放り出された出口は、玲奈が最後に記憶しているあのビルの屋上だった。こんなところで何も持たずに身一つで、何をすればいいかわからない玲奈は、自分が身を投げた場所にヘナヘナと座り込んでしまった。
「私、地獄にも行けなかったってこと……? この世にもあの世にも、居場所がないってこと……? いったいこれからどうすれば……」
その時、屋上のドアが開く音がした。
──ガチャ……キィィー……バタン。
玲奈は特に気にするふうでもなく、ずっと街を見ていた。今から飛び降りようとしているわけでもない。今さら誰が来たって遅いのだ。この人が飛び降りようが、屋上で気分転換するだけだろうが、仕事をサボってコーヒーを飲んでいようが、玲奈には関係のないことだ。
人の気配はだんだんと玲奈に近づいてくる。
「何……? 私に何か用……」
!
その人物の姿を見た玲奈は、しばらく目を見開いたまま動けなくなった。
「な……つや……」
玲奈が飛び降りたその場所にふらりと現れたのは、飲みかけの缶コーヒーを片手に持った夏弥だったのだ。
夏弥は口の開いた缶コーヒーをフェンスの脇に置き、両手を合わせて目を瞑る。自分のせいで人が1人自殺したのに、そんなに悲しんでいるようには見えなかった。
──そっか。夏弥には新しい恋人がいるんだもんね。悲しくなんかないよね。
それでも玲奈は、自分のことを無かったことにせず、こうして手を合わせに来てくれた夏弥に温かい気持ちになる。
隣に玲奈がいるのに、夏弥はその存在にまるで気づかなかった。フェンス脇に供えた缶コーヒーをまた手に取り、自分で飲み始める。その目は街の遠くを見てから、ビルの下のアスファルトを見た。せつなく、痛いような視線で。
──「夏弥……」
玲奈はそんな悲しい目をした夏弥を見ていることが辛く、声を掛けた。
「……」
しかし、夏弥は玲奈の声に耳を貸さない。
──「夏弥……!」
「……」
──「ねぇ! 夏弥ってば!」
玲奈の声は、もう夏弥には届かない。夏弥は缶コーヒーを飲み干し、先ほど入ってきた屋上のドアに向かって歩き出す。
「私の声はもう夏弥に届かないんだ……。声で振り向いてもらえないなら、着いていってみよう」
玲奈は夏弥の腰に手を回してみたけれど、やっぱり夏弥は何もなかったように歩き続ける。玲奈が触れても、何も感じることがなかった。
見る人が見るとそれは、女の霊が憑いている状態なのだが、玲奈は夏弥に悪いことはしないし、夏弥もそれによって気分が悪くなったりすることがなかったため、本人はまったく気づかないまま過ごすことになった。
玲奈にそのつもりはなかったが、『着いていく』というよりは『憑イテイク』という表現の方が正しいだろう。
「私は夏弥に何も悪いことはしない。だから……お願いだから祓ったりしないで……!」
──「ねぇ夏弥」
「あ、部長、この資料なんですけど……」
──「なーつやっ♪」
「あ、俺にもコーヒー淹れてくれる?」
右から、左から、上から、下から、どこから声をかけても、やっぱり夏弥に玲奈の声が届くことはなかった。それでも玲奈は、夏弥と一緒に過ごせるこの時間が幸せで、一方的にくっ憑イテイルこの状態でもそれが維持できればよくなっていた。
ある日、夏弥が仕事終わりにどこかの待ち合わせスポットに向かった。玲奈もその腰にまとわり憑イテイル。
すぐに玲奈の知らない女が駆け足でやってきて、
「ごめんね~! 仕事長引いちゃって! 待った?」
と声をかけた。
「私、地獄にも行けなかったってこと……? この世にもあの世にも、居場所がないってこと……? いったいこれからどうすれば……」
その時、屋上のドアが開く音がした。
──ガチャ……キィィー……バタン。
玲奈は特に気にするふうでもなく、ずっと街を見ていた。今から飛び降りようとしているわけでもない。今さら誰が来たって遅いのだ。この人が飛び降りようが、屋上で気分転換するだけだろうが、仕事をサボってコーヒーを飲んでいようが、玲奈には関係のないことだ。
人の気配はだんだんと玲奈に近づいてくる。
「何……? 私に何か用……」
!
その人物の姿を見た玲奈は、しばらく目を見開いたまま動けなくなった。
「な……つや……」
玲奈が飛び降りたその場所にふらりと現れたのは、飲みかけの缶コーヒーを片手に持った夏弥だったのだ。
夏弥は口の開いた缶コーヒーをフェンスの脇に置き、両手を合わせて目を瞑る。自分のせいで人が1人自殺したのに、そんなに悲しんでいるようには見えなかった。
──そっか。夏弥には新しい恋人がいるんだもんね。悲しくなんかないよね。
それでも玲奈は、自分のことを無かったことにせず、こうして手を合わせに来てくれた夏弥に温かい気持ちになる。
隣に玲奈がいるのに、夏弥はその存在にまるで気づかなかった。フェンス脇に供えた缶コーヒーをまた手に取り、自分で飲み始める。その目は街の遠くを見てから、ビルの下のアスファルトを見た。せつなく、痛いような視線で。
──「夏弥……」
玲奈はそんな悲しい目をした夏弥を見ていることが辛く、声を掛けた。
「……」
しかし、夏弥は玲奈の声に耳を貸さない。
──「夏弥……!」
「……」
──「ねぇ! 夏弥ってば!」
玲奈の声は、もう夏弥には届かない。夏弥は缶コーヒーを飲み干し、先ほど入ってきた屋上のドアに向かって歩き出す。
「私の声はもう夏弥に届かないんだ……。声で振り向いてもらえないなら、着いていってみよう」
玲奈は夏弥の腰に手を回してみたけれど、やっぱり夏弥は何もなかったように歩き続ける。玲奈が触れても、何も感じることがなかった。
見る人が見るとそれは、女の霊が憑いている状態なのだが、玲奈は夏弥に悪いことはしないし、夏弥もそれによって気分が悪くなったりすることがなかったため、本人はまったく気づかないまま過ごすことになった。
玲奈にそのつもりはなかったが、『着いていく』というよりは『憑イテイク』という表現の方が正しいだろう。
「私は夏弥に何も悪いことはしない。だから……お願いだから祓ったりしないで……!」
──「ねぇ夏弥」
「あ、部長、この資料なんですけど……」
──「なーつやっ♪」
「あ、俺にもコーヒー淹れてくれる?」
右から、左から、上から、下から、どこから声をかけても、やっぱり夏弥に玲奈の声が届くことはなかった。それでも玲奈は、夏弥と一緒に過ごせるこの時間が幸せで、一方的にくっ憑イテイルこの状態でもそれが維持できればよくなっていた。
ある日、夏弥が仕事終わりにどこかの待ち合わせスポットに向かった。玲奈もその腰にまとわり憑イテイル。
すぐに玲奈の知らない女が駆け足でやってきて、
「ごめんね~! 仕事長引いちゃって! 待った?」
と声をかけた。
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