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「……尋ねたいことがあるのだが、良いだろうか」
愛しい子の育児に対して、常に私に助言を授け、助けてくれた偉大なる森の賢者。その人に、私はまたひとつ疑問を投げかけようとしていた。
「また、我らの血族が貴方を悩ませているのだろうか」
「悩ませているというか、なんというか。……とても……尋ねにくいことなのだが」
「何でも問うてくれ」
賢者の前に立った今この瞬間でさえ、尋ねることに躊躇を抱いている。けれどもう、ここまで来ては質問するしかない。私を意を決して顔を上げた。
「あの子は、男として成熟したようで……その、朝に、辛そうなことになっていて」
「あぁ、なるほど。随分と遅かったが、ちゃんとその時期に突入したか」
私の抽象的な物言いで、賢者は理解してくれた。数日前から、あの子は夢を見ながら荒い呼吸をして、己の中心を硬く反り立たせているのだ。私にはどうすることも出来ず、おろおろとしながら愛しい子の姿を見守ることしか出来なかった。
「こういった場合、どうすれば良いのだろう。己の手で慰めるには、随分と手が届きにくく苦しそうだった」
「己の手で……? あぁ、そうか。貴方がたの一族ではそうするのか。承知の通り、我々の体型では己のものに触れるのは難しいため、番に慰めてもらうのだ」
「番に……? あの子はまだ八歳なのに、もう番が必要なのか……?」
「八歳などと遅すぎる。遅すぎて、あの子は異常な体なのかと思ったくらいだ」
「……異種族の私が育てたからだろうか」
「それは関係ない。貴方を落胆させたいわけではない」
言葉の合間に差し込まれる彼の気遣いの言葉に、私は少なからず救われていた。
「我らは群の中で番を見つけ、男として成熟すると同時に子作りをするのだ」
「……なんと早い」
「子を作れば、発情を抑えられる。好き好んで発情し、子を作り続ける同胞もいるが、私は子を作ってさっさと発情期とはおさらばした」
「では……群を外れたあの子は、どのようにして番を見つければ良いのだろうか」
「おそらく、見つけることは不可能だろう。群から抜け落ちた時点で、あの子はもう森の賢者としての真っ当な一生は送れない。直面している苦しみも、なんとかして自分で慰めるしかないだろうな」
「……番が見つからず、子を作れないあの子は一生、望まぬ発情に苦しむということか」
「そうなる」
あまりにも、哀れだった。あの子を拾ったことは後悔していない。あそこで私が拾わなければ、きっと誰も拾わなかっただろう。あの子の一生は、そこで終わっていたのだ。そうしてあげた方がましだった、などとは微塵も思わない。覚悟を決めるしかない。私が、あの子の苦しみをなんとかして癒してみせる。
「貴方がた、森の隣人には発情期というものが無いそうだな」
「……私たちは、番といるときのみ、うっすらとそういった気分になる」
「なんと儚い一族だ」
私たちの一族は、長命ゆえかあらゆる事象に淡泊なところがある。子を残さねばと必死になって発情することはなく、子が出来ぬ同性同士でも番になることは珍しいことではなかった。
「そういえば、貴方には子がいないのか? たしか、数十年前までは番と共にいたのだろう?」
「あ……いや、私と番の間に子は……」
その言葉は、懐かしい記憶を呼び起こした。この賢者は、もう百年近くこの森にいる。私が、愛しい人と過ごしたことも知っているのだ。
「……番?」
その声は、どこからともなく現われた。私たちの後方で、茫然として立ち尽くしていたのは私の愛しい子。その子が目を見開いてこちらを凝視していた。
愛しい子の育児に対して、常に私に助言を授け、助けてくれた偉大なる森の賢者。その人に、私はまたひとつ疑問を投げかけようとしていた。
「また、我らの血族が貴方を悩ませているのだろうか」
「悩ませているというか、なんというか。……とても……尋ねにくいことなのだが」
「何でも問うてくれ」
賢者の前に立った今この瞬間でさえ、尋ねることに躊躇を抱いている。けれどもう、ここまで来ては質問するしかない。私を意を決して顔を上げた。
「あの子は、男として成熟したようで……その、朝に、辛そうなことになっていて」
「あぁ、なるほど。随分と遅かったが、ちゃんとその時期に突入したか」
私の抽象的な物言いで、賢者は理解してくれた。数日前から、あの子は夢を見ながら荒い呼吸をして、己の中心を硬く反り立たせているのだ。私にはどうすることも出来ず、おろおろとしながら愛しい子の姿を見守ることしか出来なかった。
「こういった場合、どうすれば良いのだろう。己の手で慰めるには、随分と手が届きにくく苦しそうだった」
「己の手で……? あぁ、そうか。貴方がたの一族ではそうするのか。承知の通り、我々の体型では己のものに触れるのは難しいため、番に慰めてもらうのだ」
「番に……? あの子はまだ八歳なのに、もう番が必要なのか……?」
「八歳などと遅すぎる。遅すぎて、あの子は異常な体なのかと思ったくらいだ」
「……異種族の私が育てたからだろうか」
「それは関係ない。貴方を落胆させたいわけではない」
言葉の合間に差し込まれる彼の気遣いの言葉に、私は少なからず救われていた。
「我らは群の中で番を見つけ、男として成熟すると同時に子作りをするのだ」
「……なんと早い」
「子を作れば、発情を抑えられる。好き好んで発情し、子を作り続ける同胞もいるが、私は子を作ってさっさと発情期とはおさらばした」
「では……群を外れたあの子は、どのようにして番を見つければ良いのだろうか」
「おそらく、見つけることは不可能だろう。群から抜け落ちた時点で、あの子はもう森の賢者としての真っ当な一生は送れない。直面している苦しみも、なんとかして自分で慰めるしかないだろうな」
「……番が見つからず、子を作れないあの子は一生、望まぬ発情に苦しむということか」
「そうなる」
あまりにも、哀れだった。あの子を拾ったことは後悔していない。あそこで私が拾わなければ、きっと誰も拾わなかっただろう。あの子の一生は、そこで終わっていたのだ。そうしてあげた方がましだった、などとは微塵も思わない。覚悟を決めるしかない。私が、あの子の苦しみをなんとかして癒してみせる。
「貴方がた、森の隣人には発情期というものが無いそうだな」
「……私たちは、番といるときのみ、うっすらとそういった気分になる」
「なんと儚い一族だ」
私たちの一族は、長命ゆえかあらゆる事象に淡泊なところがある。子を残さねばと必死になって発情することはなく、子が出来ぬ同性同士でも番になることは珍しいことではなかった。
「そういえば、貴方には子がいないのか? たしか、数十年前までは番と共にいたのだろう?」
「あ……いや、私と番の間に子は……」
その言葉は、懐かしい記憶を呼び起こした。この賢者は、もう百年近くこの森にいる。私が、愛しい人と過ごしたことも知っているのだ。
「……番?」
その声は、どこからともなく現われた。私たちの後方で、茫然として立ち尽くしていたのは私の愛しい子。その子が目を見開いてこちらを凝視していた。
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