15 / 27
15
しおりを挟む
薄衣を剥いで、僕はヨルハに押し倒された。
本部屋の大きなベッドの上。慣れたその場所なのに、異常なほど緊張している。これは、相手がヨルハだからなのだろうか。鼓動がうるさい。耳のそばを走る血管が強く脈打って、頭にその音が強く響く。
「アサヒ……、アサヒ」
僕はロファジメアンのウェザリテ、リュシラ。でも、ヨルハは僕をアサヒと呼ぶ。僕はヨルハにアサヒとして抱かれようとしている。
そのことが恐ろしく思えた。自分自身がそのことをどう受け止めているのかが、よく分からない。未知の領域に足を踏み入れる、そんな恐怖があった。
ヨルハは僕の胸に舌を這わせ、執拗に尖ったそこを強く押した。その感覚が腰に響く。疼きそうになる下半身を必死に抑えているというのに、彼の手が僕のものに触れて、優しく包んだ。
「ヨル……っ、僕のは、いいから……!」
「なんでだよ。気持ちよくしてやるって」
客の殆どは、僕を良くしようなどとは思わない。大抵は、気持ちよくしてもらいに大金叩いて来館するのだ。それなのに、ヨルハは自分のことは二の次で、僕を高みへと追い詰める。
手と口で愛撫された胸は痛いくらいに硬くなって、ヨルハに甘噛みされるとそれだけでイってしまいそうになる。けれど、その度に僕のものを包むヨルハの手が絶頂を許さない。もっと高みへと、強く促される。
「もうっ、もうやだっ、ヨルハもう許して……っ」
「俺は別にアサヒをいじめてるわけじゃない。気持ちよくしてやりたいだけだ」
胸から離れ、体を起こしたヨルハが僕のものを扱きながらもう片方の手で後ろの孔に指を突っ込んだ。太くて長い。中指だろうか。何度も抜き差しされ、感じやすい場所に指先が掠る。
「あ……ぁっ!」
「アサヒはここがいいのか、覚えた」
その場所を何度も突かれ、頭の中が真っ白になっていく。もう何も考えられない。ヨルハが笑っているような気がした。シーツを強く掴み、何かに耐える。こんな感覚、久々すぎて忘れていた。
「あっ、あっ……ヨルハっ、ヨルハっ……ああっ!」
彼の名前を叫びながら、僕は果てた。こんなに簡単にイってしまうなんて。頭がぼうっとして、何も考えられなくなる。僕が吐き出したものを掌で受け止めていたヨルハが、それを舐めていた。
「すげぇ出たな。出すのは久しぶり?」
掌には白濁したものが滴るほどに付着していて、自分でも驚いてしまう。普段、客とする時は僕は果てない。果てたとしても、そんな量を出したことは今までに経験がなかった。
「……こんなの、初めて」
口をついて出た自然な言葉。けれど、それはどうやらヨルハを驚かせたようだった。彼は目を見開いて僕を見て、一瞬だけ苦しそうな顔を見せる。
「そういうこと、いつも言うのか」
「……え?」
何を言われたのかが分からなかったのは、一瞬のこと。急に思考が冷静になって、高くなっていた体温が下がっていく。手練手管だと、そう思われたのだ。僕の発言は、誰にでも言うおきまりの台詞だと思われたのだ。
「いや、悪い。なんでもない。俺だけ、だよな。アサヒ。……俺以外にそんなこと言うなよ」
唇を奪われながら、そう言われた。僕は、ヨルハ以外にはそんなことは言わない。けれど、ヨルハはそれを疑っている。疑われるような立場にいるのは、僕だ。それが無性に悲しくて、涙が出た。
結局のところ、僕は男娼なのだ。それはもう変わらない。
僕が年老いたり、男娼としての価値が無くなって娼館から捨てられるまでそれは変わらない。そんな僕はずっとヨルハの信頼を得られないのだろう。
「アサヒ、なんで泣いてるんだよ」
「別に」
「……嫌だった?」
心配そうに僕の頰に手をやって、優しく額に口付けをするヨルハ。大好きだった。そんなヨルハが、大好きで堪らなかった。それなのに僕は、はなから彼との全てを諦めている。
土台、無理な話なのだ。この穢れきった身で、彼と歩むことは出来ない。他でもない僕が、それを許さない。
「早く、済ませて。……早く、終わらせて」
「随分な言い方だな」
普通の客だったらこんなことは言わない。ヨルハだから、ついついこんな言葉を使ってしまった。僕は、一刻も早く終わりたかった。自分自身を保てなくなる前に。ウェザリテとして振る舞えなくなる前に、終わりにしたかった。
「そんなに早く終わりたいなら、少しくらいは手伝ってもらわねーと」
ヨルハは、怒っているようだった。表情や声には出ていないけれど、少しばかり怒りが雰囲気の中に滲んでいる。体を起こした彼は足を開いて、僕に立ち上がったものを見せて、それを指さした。
「濡らしてくんない?」
舐めろと言っているのだ。悲しいことに、それが分からないほど初心ではない。僕はヨルハのものをまじまじと眺める。
大きくて、太くて、色黒で血管が浮いている。あれで荒々しく抜き差しされたら、狂うほどに良いのだろうな、などと考えてしまって後ろの孔がきゅっとしまった。
這い蹲ってヨルハ足の間に入り、手でそっと握って口の中に入れる。先走りを舐めとって、舌で彼のものを撫でる。口内全体で包み込んで、頭を上下に動かす。ヨルハのものが、少しばかり大きくなったような気がする。
「……はっ、上手なんだな、仕込まれたの?」
昔は、嫌で嫌でしょうがなかった。男のものを口に入れるなんて、生理的に受け付けなかった。けれど嫌がると折檻が待っていたのだ。それが怖くて、無理に覚えた性技だった。
けれど、ヨルハのものを咥えるのは嫌ではなかった。むしろずっとこうしたかったと、そう思うような何かがあって戸惑う。
「くそ……っ、やっぱ、そういうところは腹立つよな……アサヒ、もっと奥で可愛がってよ」
彼の悪態の理由が分からないまま、頭を押さえ込まれ、喉の奥まで彼のものが入ってくる。えづく不快感に苛まれ、反射的にヨルハから逃げてしまった。噎せて苦しむ僕を、ヨルハは再びベッドに押し倒す。
「ごめん、苦しかった?」
「……うん」
「本当、ごめん、……優しくしたいって思ってんだけどな」
「ヨルハは……優しいよ」
「ありがとう、アサヒ」
酷い客には、今までに少なくない回数遭遇している。そんな彼らを思えばヨルハは優しい客だった。けれど、ヨルハを客として受け入れなければならないという現実は、僕を酷く苦しめる。
「……抱いても、いいか?」
客と男娼でさえなければ。ただの恋人としてであれば、堪らないほどに幸福な言葉だっただろう。抱かれるのも、口付けも、触れられるのも、全てヨルハが初めてな僕であれば、最高だった。けれど現実が全ての理想を否定した。
「いいよ」
こんな僕でいいのなら。
本部屋の大きなベッドの上。慣れたその場所なのに、異常なほど緊張している。これは、相手がヨルハだからなのだろうか。鼓動がうるさい。耳のそばを走る血管が強く脈打って、頭にその音が強く響く。
「アサヒ……、アサヒ」
僕はロファジメアンのウェザリテ、リュシラ。でも、ヨルハは僕をアサヒと呼ぶ。僕はヨルハにアサヒとして抱かれようとしている。
そのことが恐ろしく思えた。自分自身がそのことをどう受け止めているのかが、よく分からない。未知の領域に足を踏み入れる、そんな恐怖があった。
ヨルハは僕の胸に舌を這わせ、執拗に尖ったそこを強く押した。その感覚が腰に響く。疼きそうになる下半身を必死に抑えているというのに、彼の手が僕のものに触れて、優しく包んだ。
「ヨル……っ、僕のは、いいから……!」
「なんでだよ。気持ちよくしてやるって」
客の殆どは、僕を良くしようなどとは思わない。大抵は、気持ちよくしてもらいに大金叩いて来館するのだ。それなのに、ヨルハは自分のことは二の次で、僕を高みへと追い詰める。
手と口で愛撫された胸は痛いくらいに硬くなって、ヨルハに甘噛みされるとそれだけでイってしまいそうになる。けれど、その度に僕のものを包むヨルハの手が絶頂を許さない。もっと高みへと、強く促される。
「もうっ、もうやだっ、ヨルハもう許して……っ」
「俺は別にアサヒをいじめてるわけじゃない。気持ちよくしてやりたいだけだ」
胸から離れ、体を起こしたヨルハが僕のものを扱きながらもう片方の手で後ろの孔に指を突っ込んだ。太くて長い。中指だろうか。何度も抜き差しされ、感じやすい場所に指先が掠る。
「あ……ぁっ!」
「アサヒはここがいいのか、覚えた」
その場所を何度も突かれ、頭の中が真っ白になっていく。もう何も考えられない。ヨルハが笑っているような気がした。シーツを強く掴み、何かに耐える。こんな感覚、久々すぎて忘れていた。
「あっ、あっ……ヨルハっ、ヨルハっ……ああっ!」
彼の名前を叫びながら、僕は果てた。こんなに簡単にイってしまうなんて。頭がぼうっとして、何も考えられなくなる。僕が吐き出したものを掌で受け止めていたヨルハが、それを舐めていた。
「すげぇ出たな。出すのは久しぶり?」
掌には白濁したものが滴るほどに付着していて、自分でも驚いてしまう。普段、客とする時は僕は果てない。果てたとしても、そんな量を出したことは今までに経験がなかった。
「……こんなの、初めて」
口をついて出た自然な言葉。けれど、それはどうやらヨルハを驚かせたようだった。彼は目を見開いて僕を見て、一瞬だけ苦しそうな顔を見せる。
「そういうこと、いつも言うのか」
「……え?」
何を言われたのかが分からなかったのは、一瞬のこと。急に思考が冷静になって、高くなっていた体温が下がっていく。手練手管だと、そう思われたのだ。僕の発言は、誰にでも言うおきまりの台詞だと思われたのだ。
「いや、悪い。なんでもない。俺だけ、だよな。アサヒ。……俺以外にそんなこと言うなよ」
唇を奪われながら、そう言われた。僕は、ヨルハ以外にはそんなことは言わない。けれど、ヨルハはそれを疑っている。疑われるような立場にいるのは、僕だ。それが無性に悲しくて、涙が出た。
結局のところ、僕は男娼なのだ。それはもう変わらない。
僕が年老いたり、男娼としての価値が無くなって娼館から捨てられるまでそれは変わらない。そんな僕はずっとヨルハの信頼を得られないのだろう。
「アサヒ、なんで泣いてるんだよ」
「別に」
「……嫌だった?」
心配そうに僕の頰に手をやって、優しく額に口付けをするヨルハ。大好きだった。そんなヨルハが、大好きで堪らなかった。それなのに僕は、はなから彼との全てを諦めている。
土台、無理な話なのだ。この穢れきった身で、彼と歩むことは出来ない。他でもない僕が、それを許さない。
「早く、済ませて。……早く、終わらせて」
「随分な言い方だな」
普通の客だったらこんなことは言わない。ヨルハだから、ついついこんな言葉を使ってしまった。僕は、一刻も早く終わりたかった。自分自身を保てなくなる前に。ウェザリテとして振る舞えなくなる前に、終わりにしたかった。
「そんなに早く終わりたいなら、少しくらいは手伝ってもらわねーと」
ヨルハは、怒っているようだった。表情や声には出ていないけれど、少しばかり怒りが雰囲気の中に滲んでいる。体を起こした彼は足を開いて、僕に立ち上がったものを見せて、それを指さした。
「濡らしてくんない?」
舐めろと言っているのだ。悲しいことに、それが分からないほど初心ではない。僕はヨルハのものをまじまじと眺める。
大きくて、太くて、色黒で血管が浮いている。あれで荒々しく抜き差しされたら、狂うほどに良いのだろうな、などと考えてしまって後ろの孔がきゅっとしまった。
這い蹲ってヨルハ足の間に入り、手でそっと握って口の中に入れる。先走りを舐めとって、舌で彼のものを撫でる。口内全体で包み込んで、頭を上下に動かす。ヨルハのものが、少しばかり大きくなったような気がする。
「……はっ、上手なんだな、仕込まれたの?」
昔は、嫌で嫌でしょうがなかった。男のものを口に入れるなんて、生理的に受け付けなかった。けれど嫌がると折檻が待っていたのだ。それが怖くて、無理に覚えた性技だった。
けれど、ヨルハのものを咥えるのは嫌ではなかった。むしろずっとこうしたかったと、そう思うような何かがあって戸惑う。
「くそ……っ、やっぱ、そういうところは腹立つよな……アサヒ、もっと奥で可愛がってよ」
彼の悪態の理由が分からないまま、頭を押さえ込まれ、喉の奥まで彼のものが入ってくる。えづく不快感に苛まれ、反射的にヨルハから逃げてしまった。噎せて苦しむ僕を、ヨルハは再びベッドに押し倒す。
「ごめん、苦しかった?」
「……うん」
「本当、ごめん、……優しくしたいって思ってんだけどな」
「ヨルハは……優しいよ」
「ありがとう、アサヒ」
酷い客には、今までに少なくない回数遭遇している。そんな彼らを思えばヨルハは優しい客だった。けれど、ヨルハを客として受け入れなければならないという現実は、僕を酷く苦しめる。
「……抱いても、いいか?」
客と男娼でさえなければ。ただの恋人としてであれば、堪らないほどに幸福な言葉だっただろう。抱かれるのも、口付けも、触れられるのも、全てヨルハが初めてな僕であれば、最高だった。けれど現実が全ての理想を否定した。
「いいよ」
こんな僕でいいのなら。
11
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
俺たちの誓い
八月 美咲
BL
高校生の暖と琥珀は血の誓いを交わした幼なじみで親友だった。
二人にはある思い出があった。それは雪の日に見た二人の男たちの死で、男同士の友情に強い憧れを持つ琥珀は、二人は究極の血の誓いを交わしたのだと信じていた。
そんな琥珀は文化祭で走れメロスを演じることになる。
演技の勉強にと、暖と演劇を観に行った帰りに暖の彼女と間違えられた琥珀は、もっと男らしくなる! と周りに宣言し、暖に弟子入りするが......。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる