オーリの純心

シオ

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 唇を押し付けるように重ね合って、舌を絡め合う。このまま溶けて、一つになってしまいそうだ。そうなれば良いのに。そうすれば、テオドールと永遠を共に過ごせる。

「……オーリ様」

 テオドールの両手が、私の体を遠ざけた。唇と唇が離れていく。恋しくて、切なくなった。酸素の足りていない頭はぼんやりとしていて、現状をうまく把握できない。

「これ以上は……、お辛くありませんか」

 何を問われているのかが、分からなかった。けれど、少しずつ鮮明になっていく頭でテオドールのおもてを見れば、察するものがある。これ以上触れて合っていることが、私の傷を抉ることにはならないか、と彼は問うているのだ。

「辛くない……もっと、して」

 テオドールと口付けをしていた時に、辛さなど微塵も感じなかった。こんなに気持ちが良くて、幸福になる口付けを今までに経験したことがない。恍惚な心地で、彼からもたらされる口付けを味わっていた。

「焦らずとも、私はずっとおそばにおります」
「……今日じゃなきゃ、いやだ。……今夜、テオのものにして欲しい。……また日を置いたら、尻込みしてしまうかもしれない」

 私は、さらに愛し合いたかった。それが何を意味するかを感じ取れないテオドールではない。分かった上で、焦る必要はないと言っているのだ。

「もう、何も怖くない」

 何も焦ってなどいない。心が望むままに、テオドールの熱が欲しかったのだ。こんな風に体が疼いたことなど、今までに一度もない。何度も抱かれたが、私が快楽を得ることは皆無だった。だが、今の私は違う。テオドールの熱が欲しくて、後ろが落ち着かないほどなのだ。

「それとも、私ではその気にはならないか?」
「何故そんなことを仰るのです……私がどれほど、貴方を求め続けたか」
「……私も同じ気持ちなんだ。……テオに、深く愛して欲しい」

 嬉しい。テオドールに求められていることが、とても嬉しい。覚悟を決めた顔つきになったテオドールに、ゆっくりとベッドの上に押し倒された。そうして彼の顔が、私の首筋に埋まる。

「本当に、良いんですね」

 首筋を、テオドールの舌先が舐める。ぞくり、とした感覚が脊髄を撫でていったが、それは不快感ではない。腰が疼いてしまって、すでに前が切なくなっていた。私は、頷いた。

 テオドールの舌先は、首筋から下へと降りて鎖骨の窪みを撫でた。そのあたりに散らばる傷の一つ一つに口付けを落としていく。

 普段は触れてもなんとも思わない傷たちだけれど、こうしてテオドールに触れられると、妙にぞくぞくとしてしまって、そこだけ敏感になっているような感覚があった。

「あ……っ!」

 口から小さな悲鳴が漏れたのは、テオドールが私の胸の突起を口に含んだ時だった。舌先でぐりぐりと押されると、その衝撃が腰へと届き、切なさが強くなっていく。

 私の下半身が切なくなっていることを分かっていたのか、テオドールの手が下に伸び、立ち上がっている私のものを掌で包んで上下に扱いた。

「まって、……ぁ、だめ……テオ、待って……!」

 テオドールは私の胸に吸い付いたままで、なんの言葉も発しない。胸に走る傷跡を舐められ、乳首を強く吸われるだけでも頭が真っ白になるのに、彼の手は私を絶頂へと連れて行こうと躍起になる。

「あっ、あ、ぁ……っ、だめ、だめ……!」

 大きな声を出してしまいそうで、己の両手で口を押さえた。溜まりに溜まったものが、一気に放出するような快感が体を襲う。腹の上が濡れているのは、自分自身のもののせいだと分かっていた。

「たくさん出ましたね。精を吐き出すのは、久しぶりですか?」

 腹の上に溜まる白濁したそれを、テオが指ですくう。白く濁りきったそれは、どれだけの期間私が欲を処理していなかったかを如実に語っていた。

「……私だけ、すまない」
「オーリ様に果てて欲しくて、私が追い立てたのです。気にしないでください。……貴方の可愛い姿が見られて、私は幸せです」

 テオドールは、とても楽しそうだった。そんな楽しそうな彼を見て、私も幸福な気持ちになる。とはいえ、私はテオドールにも気持ち良くなって欲しい。

「テオ、私を起こしてくれ」

 両手を伸ばして抱き起こしてもらうと、私はベッドのふちに座り込む。そんな私の前にテオドールは立っていた。丁度、彼の下半身が私の目の前だ。ごくり、と唾を嚥下して、私は彼の寝間着のズボンに手を掛ける。

「……口で、しても良いだろうか」
「それは……嬉しいですが、その……オーリ様が、お辛くはないですか」
「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとう」

 辛くはない。今は、テオドールに気持ち良くなって欲しいという気持ちで一杯だった。こんな感情は、過去の悲惨な記憶の中ではひとつもない。辛い記憶には、一切紐付かないのだ。だからこそ、何も辛くはない。

 ズボンを少しだけ下ろし、腰巻に手をかけて彼のものを取り出す。ずっしりとした重さで、とても長い。こんなもので貫かれたら、どうなってしまうのかと後ろの孔が切なくなった。

「大きくて……太い」

 先端に口付けをするように、軽く吸う。そして、ゆっくりと口の中へと入れていった。歯は立てないように、頬の肉で彼を愛撫する。顔を前後に動かして、私の唾液でどろどろにしていった。

 彼のものを一度口から出し、そして、その太い竿の裏側を舐めて根本まで顔を持っていく。ぱんぱんに膨らんだ袋に優しく噛み付いて、吸い付いた。私を見て、こんなにも膨らんでいるんだと思うと、たまらなく幸せな気持ちになる。

 先走りなのか、私の唾液なのか分からないものが、彼の先端から垂れ落ちている。もう一度口に含んで、テオドールを愛した。私で気持ち良くなって欲しい。その一心で頭を動かす。

「……オー、リ様……っ」

 昂っているのか、テオドールの口からは切ない声が漏れ出た。このまま私の中で果てて欲しい。そう思っていたのに、彼の手がぐいと私の肩を押して、私の口から彼のものが出ていってしまう。

 そして、彼は己の手で吐き出したものを受け止めた。大量の精液が、彼のものから吹き出して、勢いよく彼の手を汚していく。私は少し、残念な気持ちになっていた。
 
「……飲みたかった」
「それはまだ、……私には刺激が強いので」

 飲んではいけないのなら、せめて顔にかけて欲しかった。そんなことを言えば、淫乱だと思われるだろうか。だが、一度、愛する人のものを顔に浴びてみたいという好奇心が私の胸の中にはあった。

 テオドールが、己の手を汚した白濁をシーツで拭こうとするので、その手を掴んで止めた。

「せめて……それで、後ろを解して欲しい」
「いや、しかし……潤滑油なら用意がありますので、それを持ってきます」
「テオのものが良いんだ……、だめだろうか」

 テオドールが出したものの滑りを利用して、後ろを解して欲しい。潤滑油など使わなくても、テオドールのものがあるじゃないか。そう主張する私に、テオドールは困ったような表情を見せた。そして、最後には小さく笑うのだ。

「……なんて、お可愛らしいおねだりをなさるのですか」

 根負けしたテオドールの前で、私は自らベッドに背中をつけて、左足を抱え込んだ。そうすると、右足は動かせないままであっても、後ろの孔が彼に見えるような姿勢になる。

「テオのものが欲しくて……ずっと、疼いているんだ」

 ごくん、と大きな音を立てて唾を嚥下したのは、私だったのか、テオドールだったのか。お互いに、獰猛な熱に魘されて、欲するままに動いていた。

 テオドールの指が私の後ろの孔にぴったりとつけられ、私は期待する。テオドールが私の中に入ってきてくれると、全身が喜んでいた。ぐぐ、と力を込めて私の中へ押し入ってくる指には滑りがあり、それは先ほどテオドールが吐き出したものなのだろう。

「苦しくは、ないですか」
「……大丈夫……、大丈夫だから、早く」

 そんなに丁寧に解してくれなくても、きっと私の体はテオドールを受け入れることが出来る。それなのに、彼は何度も何度も指を出し入れして、本数を増やして広げていった。過ぎるほど丁寧な解し方にもどかしくなるが、そこに彼の優しさを感じ、愛おしさが増していく。

「テオ……っ、もう、十分だから……!」

 これ以上されては、テオドールの指だけで果ててしまいそうだった。それくらい、彼は絶妙なところを掠めて、下腹部に響くようなところをトントンと突いていたのだ。

 私のものも再び立ち上がっているが、テオドールには触らないで欲しいと告げた。指で後ろを弄られて果てるのではなく、彼のものを受け入れてから達したかったのだ。

「オーリ様……っ」

 指が引き抜かれ、指とは異なる質量のものが孔に押し当てられる。そしてゆっくりと私の中に入ってきた。体の中の肉や臓器を押しのけて、テオドールが入ってくる。

「あぁ……っ、あ、ぁあっ……!」

 声が抑えられない。頭が真っ白になって、何も考えられなかった。ゆっくりと奥まで入ってきたテオドールが、同じ速度で入り口まで後退していく。そして再び奥まで突いて、その繰り返し。

「あっ、ぁ、あぁ……っ」

 テオドールの律動に合わせて、私の喉から悲鳴が漏れる。私の立ち上がったものも、その動きに連動してぶらぶらと揺れていた。全身が気持ち良くて、頭が可笑しくなってしまいそうだ。

「きもちぃ……、テォ、きもち……あぁっ」
「オーリ……さまっ……、オーリ、……オリヴィエ……!」

 体の奥に、熱いものが放たれる。それと同時に、私の張り詰めたものも弾けた。触れられてもいないのに、体を貫かれる気持ち良さだけで達してしまった。こんなことがあるのかと驚く。

 私の中にあるテオドールが僅かに痙攣している。私の中で果ててくれたんだ。そのことが嬉しくて、涙が出そうになる。己の腹部を撫で、その中に埋まっているテオドールのものを感じた。

 これが、愛しい人との交わりなのかと、思い知った。私が今まで経験してきた性交は単なる暴力であって、愛のある交わりではなかった。私は今日、初めて人に愛されて抱かれたのだ。

「……テオ」

 愛する人の名を呼んで、手を伸ばす。私を押し潰さないようにしながら、覆いかぶさったテオドールの首に両腕を回して抱き寄せる。そっと、口付けをした。

 啄むように、音を立てて口付けを何度も交わす。嬉しくて、幸せで、ついつい笑ってしまった。額をつけて、鼻先を触れ合わせて。私たちは幸福な時間を共に過ごす。二人の唇が、静かに同じ言葉を口にした。

「愛してる」


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