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凶刃
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自室に戻るとホッとして私はいつものカウチソファに崩れ落ちた。
レギアスが私を膝枕して頭を撫でてくれると侍女たちがお茶をいれてくれて着心地の悪い祭祀服を脱がせてくれる。
自動的に部屋着に着替えさせられてメイクも落としてスッキリした私は、起き上がって飲み頃の温度になったハーブティーを飲んでいた。すると何か起きたのかヒソヒソと扉の外で誰かと話していたハンナが戻って報告に来た。蒼白で、見るからにただ事ではない顔をしている。
「陛下……キャロラインが、刺客に襲われて重症です」
「そんな……」
私の大切な侍女を……!やはり汚い手を使ってきた。あの男、許せない!!
私は怒りに任せてすぐに国中を結界で覆った。もう不便がどうのと言っていられない。
ただ、国がままならなくなるから祝福がある民は素通りできる設定にしたけれど……敵に祝福をかけてしまっている可能性があるのが心配だった。
「キャロラインは今どこ?すぐに治療しに行くわ!それと、国土を結界で覆ったから宰相に連絡をお願い!」
そう言うとジャンジャックと近衛がシーツに包まれて担架に乗せられたキャロラインを運んで使用人控え室から入ってきた。クリスティーヌも付いてきている。
「申し訳ございません。影を操る刺客で……取り逃がしてしまいました」
ジャンジャックはそう言いながらローテーブルに担架ごとキャロラインを下ろした。
キャロラインは腹部に複数の刺し傷があった。クリスティーヌの治癒術で痛み止めと止血はされているけれど、これほどの重症をすぐに治せるのはこの国に私しかいない。
私は怒りを抑え、精神を集中させた。回復力に特化した祝福をまず施し、次にオリジナルの治癒術で傷を治した。はらわたをグチャグチャにされていたから、かなり難易度の高い施術になり時間も精神力も大幅に削られた。
「陛下……ありがとうございます……」
キャロラインが目を覚まし、口を開いた。
「いいえ、わたくしのせいで貴女をこんな目に遭わせてごめんなさい。血を失った分はすぐにはどうにもならないから、クリスティーヌの指示に従ってしっかり休んで治すのよ」
「陛下のせいだなんてそんな……しっかり治してまたすぐに陛下の元に戻ります」
私が治療に時間をかけている間にレギアスがジャンジャックに話を聞いていたようだった。
なんでも影使いがまた現れて葬儀会場から戻る途中のキャロラインを襲ったのだとか。気配に気付いたジャンジャックが駆けつけて追い払ってくれたらしい。
今までに祝福で刺客を何人か炙り出しているけれど、やはり影使いは影に潜れるからか私の探知に引っかからないのね……
「敵は彼女を殺すより、痛めつけるのが目的のようでした」
「脅してわたくしを意のままにするつもりなのでしょうね。結界で防げるといいのだけど……ジャンジャック、キャロラインを助けてくれてありがとう。貴方が居なければ、もっと酷い目に遭わされていたかも……」
「いえ、仕留められず、申し訳ありません」
「ジャンジャック。お前、ビビアンに手伝ってもらってアスタレイウスを仕留めてこい」
抑えきれない殺気を僅かに漏らしながらレギアスが言った。
「ビビアン様?隠蔽魔術を使ってドラゴンで潜入するって事?ジャンジャックさんはそういうの得意な人なの?」
「ああ、コイツは俺と一緒に竜王から扱かれてたから戦闘力はかなりのものだし、隠密行動もできる。コイツがダメだったらレティシアの護衛を師匠に任せて俺自身が行く」
「そんな……。あの……アレは……おそらくティーリーンでしょう?神を相手にたった2人でなんて……危険じゃ……」
レギアスが私を置いて行くという事にショックを受けたけれど、それはひとまず頭から振り払った。
ティーリーンの事は勘違いかもしれないけれど、用心に越した事はない。結界を破り私をセレスティアと呼んだ事といい大事な侍女を狙った事といい、皇帝アスタレイウスがセレスティアの兄のティーリーンである可能性は高そうだ。
そもそも帝国のあるあたりは元々神話の舞台だった場所だ。あのあたりも昔から天災のほとんどない豊かな土地だけれど、セレスティアと同じ豊穣を司る神のティーリーンがいるとなれば納得だった。
「じゃあとりあえず居場所を探れればそれでいいから、バレずに死なずに帰ってこい。できるか?」
暗部によれば暗殺しあぐねているのはアスタレイウスがどこにいるかわからないかららしい。
宮殿の居室に潜入してもいつも不在で住んでいるところがわからない上に、滅多に行事などに出てこないのだとか。現れても突然だから狙うのがとても難しいようだ。
やはり今日殺しておけばよかったかしら……
「かしこまりました。では、すぐに発ちます」
「あの……ビビアン様を説得できたらわたくしのところに来てください。戦闘に特化した祝福を受け取って欲しいので……」
「かしこまりました。行ってまいります」
ジャンジャックは私たちに向けて綺麗に礼をすると颯爽と立ち去った。
それから2人でかなり遅い昼食を食べ、そのままレギアスにもたれて休んでいた。
「レティシア、さっきアイツがかがんだ時、胸に聖印みたいなのが見えた」
「え!?」
「最初は勘違いかと思ったけど、距離と光の色が合うし……多分間違いない」
「セレスティア神が昔刻んだものって事??」
私は驚いて体を起こし、レギアスと向かい合った。
「レティシアが与えたものじゃないならそれしかないんじゃないか?」
「私を欲しがるはずね……今度会ったら術を取り消してやる……」
「そうされない自信があるんじゃないか?昔のだから今の聖印とはシステムが違うかもしれない」
「もし効果を止められないとなったら……厄介ね。私は捕まったら飼い殺しにされる……」
レギアスは私を抱きすくめて私の首元に顔をうずめた。
「まあ強迫すればずっと言うこと聞くと思ってるだけかも」
「絶対に屈してなんかあげないんだから……」
「ふふ、レティシア、さっきカッコよかったよ」
「煽られてすぐに切れちゃって全然ダメよ……怖がらずにいられたのは、レギアスがそばに居てくれたからだし……」
「レティシア……アイツにはっきり俺のこと大好きだって言ってくれて、嬉しかった」
レギアスに見つめられて、そっと、甘やかに口付けられた。
さっきまで全然そんな気分じゃなかったのに思い出したように体に熱が拡がって、私たちは夢中で舌を絡め合った。
「レギアス、ベッドに連れて行って……」
レギアスに抱き上げられ寝室に連れて行かれて……すっかり安心して気持ち良くなった私は夢の世界に旅立った。
「レティシア起きて、パーティーの支度するって」
「ん……あれ?私、寝ちゃったの?」
レギアスは苦笑いして私を見つめた。
「ベッドに連れて行って、なんて色っぽく言って期待させてさ、まさか眠っちゃうとは思わないよね」
「え、えと……ごめんね?」
「まあ疲れてただろうからね、許してあげる。今日だけだよ?」
「えへへ、ありがとうレギアス」
私はベッドから体を起こすと隣に座るレギアスに抱きついてキスをした。レギアスの唇は柔らかくて気持ち良くて、もうずっとキスしていたい誘惑に駆られる。
「こ、こら、レティシア。そんなことしたら今から襲うよ?俺必死に我慢してるんだから」
「もう少し我慢して?ね?」
なるべく可愛くおねだりしてみるとレギアスはため息を吐きながら私を抱き上げ、リビングの侍女のところに連れて行った。
再会した当初は少しでもキスしたらもう止まらないとか言っていたのに、短期間でレギアスも我慢強くなったなぁ。嬉しいような、ちょっと寂しいような……
レギアスが私を膝枕して頭を撫でてくれると侍女たちがお茶をいれてくれて着心地の悪い祭祀服を脱がせてくれる。
自動的に部屋着に着替えさせられてメイクも落としてスッキリした私は、起き上がって飲み頃の温度になったハーブティーを飲んでいた。すると何か起きたのかヒソヒソと扉の外で誰かと話していたハンナが戻って報告に来た。蒼白で、見るからにただ事ではない顔をしている。
「陛下……キャロラインが、刺客に襲われて重症です」
「そんな……」
私の大切な侍女を……!やはり汚い手を使ってきた。あの男、許せない!!
私は怒りに任せてすぐに国中を結界で覆った。もう不便がどうのと言っていられない。
ただ、国がままならなくなるから祝福がある民は素通りできる設定にしたけれど……敵に祝福をかけてしまっている可能性があるのが心配だった。
「キャロラインは今どこ?すぐに治療しに行くわ!それと、国土を結界で覆ったから宰相に連絡をお願い!」
そう言うとジャンジャックと近衛がシーツに包まれて担架に乗せられたキャロラインを運んで使用人控え室から入ってきた。クリスティーヌも付いてきている。
「申し訳ございません。影を操る刺客で……取り逃がしてしまいました」
ジャンジャックはそう言いながらローテーブルに担架ごとキャロラインを下ろした。
キャロラインは腹部に複数の刺し傷があった。クリスティーヌの治癒術で痛み止めと止血はされているけれど、これほどの重症をすぐに治せるのはこの国に私しかいない。
私は怒りを抑え、精神を集中させた。回復力に特化した祝福をまず施し、次にオリジナルの治癒術で傷を治した。はらわたをグチャグチャにされていたから、かなり難易度の高い施術になり時間も精神力も大幅に削られた。
「陛下……ありがとうございます……」
キャロラインが目を覚まし、口を開いた。
「いいえ、わたくしのせいで貴女をこんな目に遭わせてごめんなさい。血を失った分はすぐにはどうにもならないから、クリスティーヌの指示に従ってしっかり休んで治すのよ」
「陛下のせいだなんてそんな……しっかり治してまたすぐに陛下の元に戻ります」
私が治療に時間をかけている間にレギアスがジャンジャックに話を聞いていたようだった。
なんでも影使いがまた現れて葬儀会場から戻る途中のキャロラインを襲ったのだとか。気配に気付いたジャンジャックが駆けつけて追い払ってくれたらしい。
今までに祝福で刺客を何人か炙り出しているけれど、やはり影使いは影に潜れるからか私の探知に引っかからないのね……
「敵は彼女を殺すより、痛めつけるのが目的のようでした」
「脅してわたくしを意のままにするつもりなのでしょうね。結界で防げるといいのだけど……ジャンジャック、キャロラインを助けてくれてありがとう。貴方が居なければ、もっと酷い目に遭わされていたかも……」
「いえ、仕留められず、申し訳ありません」
「ジャンジャック。お前、ビビアンに手伝ってもらってアスタレイウスを仕留めてこい」
抑えきれない殺気を僅かに漏らしながらレギアスが言った。
「ビビアン様?隠蔽魔術を使ってドラゴンで潜入するって事?ジャンジャックさんはそういうの得意な人なの?」
「ああ、コイツは俺と一緒に竜王から扱かれてたから戦闘力はかなりのものだし、隠密行動もできる。コイツがダメだったらレティシアの護衛を師匠に任せて俺自身が行く」
「そんな……。あの……アレは……おそらくティーリーンでしょう?神を相手にたった2人でなんて……危険じゃ……」
レギアスが私を置いて行くという事にショックを受けたけれど、それはひとまず頭から振り払った。
ティーリーンの事は勘違いかもしれないけれど、用心に越した事はない。結界を破り私をセレスティアと呼んだ事といい大事な侍女を狙った事といい、皇帝アスタレイウスがセレスティアの兄のティーリーンである可能性は高そうだ。
そもそも帝国のあるあたりは元々神話の舞台だった場所だ。あのあたりも昔から天災のほとんどない豊かな土地だけれど、セレスティアと同じ豊穣を司る神のティーリーンがいるとなれば納得だった。
「じゃあとりあえず居場所を探れればそれでいいから、バレずに死なずに帰ってこい。できるか?」
暗部によれば暗殺しあぐねているのはアスタレイウスがどこにいるかわからないかららしい。
宮殿の居室に潜入してもいつも不在で住んでいるところがわからない上に、滅多に行事などに出てこないのだとか。現れても突然だから狙うのがとても難しいようだ。
やはり今日殺しておけばよかったかしら……
「かしこまりました。では、すぐに発ちます」
「あの……ビビアン様を説得できたらわたくしのところに来てください。戦闘に特化した祝福を受け取って欲しいので……」
「かしこまりました。行ってまいります」
ジャンジャックは私たちに向けて綺麗に礼をすると颯爽と立ち去った。
それから2人でかなり遅い昼食を食べ、そのままレギアスにもたれて休んでいた。
「レティシア、さっきアイツがかがんだ時、胸に聖印みたいなのが見えた」
「え!?」
「最初は勘違いかと思ったけど、距離と光の色が合うし……多分間違いない」
「セレスティア神が昔刻んだものって事??」
私は驚いて体を起こし、レギアスと向かい合った。
「レティシアが与えたものじゃないならそれしかないんじゃないか?」
「私を欲しがるはずね……今度会ったら術を取り消してやる……」
「そうされない自信があるんじゃないか?昔のだから今の聖印とはシステムが違うかもしれない」
「もし効果を止められないとなったら……厄介ね。私は捕まったら飼い殺しにされる……」
レギアスは私を抱きすくめて私の首元に顔をうずめた。
「まあ強迫すればずっと言うこと聞くと思ってるだけかも」
「絶対に屈してなんかあげないんだから……」
「ふふ、レティシア、さっきカッコよかったよ」
「煽られてすぐに切れちゃって全然ダメよ……怖がらずにいられたのは、レギアスがそばに居てくれたからだし……」
「レティシア……アイツにはっきり俺のこと大好きだって言ってくれて、嬉しかった」
レギアスに見つめられて、そっと、甘やかに口付けられた。
さっきまで全然そんな気分じゃなかったのに思い出したように体に熱が拡がって、私たちは夢中で舌を絡め合った。
「レギアス、ベッドに連れて行って……」
レギアスに抱き上げられ寝室に連れて行かれて……すっかり安心して気持ち良くなった私は夢の世界に旅立った。
「レティシア起きて、パーティーの支度するって」
「ん……あれ?私、寝ちゃったの?」
レギアスは苦笑いして私を見つめた。
「ベッドに連れて行って、なんて色っぽく言って期待させてさ、まさか眠っちゃうとは思わないよね」
「え、えと……ごめんね?」
「まあ疲れてただろうからね、許してあげる。今日だけだよ?」
「えへへ、ありがとうレギアス」
私はベッドから体を起こすと隣に座るレギアスに抱きついてキスをした。レギアスの唇は柔らかくて気持ち良くて、もうずっとキスしていたい誘惑に駆られる。
「こ、こら、レティシア。そんなことしたら今から襲うよ?俺必死に我慢してるんだから」
「もう少し我慢して?ね?」
なるべく可愛くおねだりしてみるとレギアスはため息を吐きながら私を抱き上げ、リビングの侍女のところに連れて行った。
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