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1人だけしか愛せない?

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「主様!良くなったんですのね!!」

 目が覚めてレギアスとリビングに行くとシャリーアが駆け寄ってきた。
 ヴァルグと一緒にこの国をあちこち見て回っていたらしいのだけど戻ってきていたようだ。
 シャリーアは立ち止まって私をまじまじと観察すると、そっと抱きついてきた。

「主を失うかと思いましたわ。どうかもう危険なことはやめて下さいまし」
「心配かけてごめんなさいシャリーア。まさかレギアスの魔力を吸ったらいけないなんて思わなくて」

 シャリーアは人型になってもスベスベで柔らかくて、抱きしめると心地いい。

「主様、この男の魔力なんて見るからに禍々しくて危険じゃありませんか。こんなものを取り込もうだなんて常軌を逸してますわ」
「そ、そう言われると……私も最初はそう思ってたのだけど、やっぱり好きな人の魔力だと思うと禍々しいとは思えなくなっちゃうみたい……」
「主様、冷静になって考え直した方がいいですわよ?女神が悪魔と交わるなんて不吉ですわ」

 レギアスがすぐ後ろで聞いてるのになんてこと言うのかしら……シャリーアも命知らずね。

「私の祖先のセレスティア神は豊穣の女神でね、それはもう数々の浮き名を流したのよ。本当かどうかわからないけど相手が神だろうが人間だろうが動物だろうがお構いなしで、悪魔も例外じゃないわ」

 悪魔に関しては詳細不明だけどチラッとそんな記述があったはず……

「だからね、我が国は世界一恋愛が自由な国なの。種族や性別や年齢差なんてお構いなしに誰とでも結婚できるのよ?もちろん子供相手には色々制約があるけれど」

 夢の国と呼んで憧れる者もいれば変態の巣窟と蔑む者もいるが余計なことは言うまい。

「そんな国の皇主でセレスティアの生まれ変わりかもしれない私が今更相手が悪魔だからとか気にすると思う?」
「ご先祖は色んな相手と恋愛して……問題は出なかったんですの?」
「え?……あ、うーん……あったから、逃げてきたんじゃないかしら……」

 アンサリム皇国の成り立ちは女神セレスティアが人間の男と結ばれて他の神々から逃げてきたことから始まる……

 思わぬ反撃に遭ってしまった……
 シャリーアにジッと見つめられる。
 レギアスの視線も痛い。

「詳しい事は記録に無くて……。でも、後悔していないから自由恋愛を変わらず推奨したのだと思うし……それに……なにを言われようが私はレギアスを手放す気はないの」
「手放してもらえないの間違いではないんですのね。まあ、私も主様に嫌と言われても離れたくないからわかりますわ」

 シャリーアにまた抱きしめられる。気持ちいい。

「ふふっ、わかってくれてありがとうシャリーア」
「わかったならそろそろ離れろ」

 レギアスに脇の下を掴まれて強引に引き剥がされた。
 そのまま後ろから抱きすくめられて、レギアスはまた私の髪の毛に顔を擦り寄せている。

「ちょっと!あなた主様にくっつき過ぎですわ!今は気持ちが盛り上がってるからいいでしょうけど、一日中離れられないのにそんなんじゃすぐに嫌がられるようになりますわよ?」
「そ、そんなわけあるか……」
「これでも私、色々と人間を観察してましたの。こんなにベタベタしていられるのはどんなに長くてもせいぜい最初の3ヶ月くらいですわ。飽きられないように時々私に主様を預けるといいんですの」

 物語では運命の恋人同士はいつまでも変わらず仲良かったりするけれど違うの?
 お父様とお母様は……とても仲が良かったけど、さすがにこんなにベタベタはしていなかったわね。
 でも、確かに一日中そばにいるのは特殊よね……1人の時間が無いことにいつまで耐えられるのかしら……

 あ……、私、お父様とお母様を思い出しても泣かないで済むようになってる……
 ってそう思ったらちょっと泣きそうになってきたわ、危ない。

「お、おおお俺とレティシアをその辺のヤツらと一緒にするな!」
「ふふふ、動揺していますわね?あなたは聖印があるからいつでもくっつきたいでしょうけど、主様は違うのですわ。嫌がられるのも時間の問題ですわ」
「れ、レティシア!!」
「わ、私は今のところ、大丈夫よ?さっき、レギアスがそばにいるのに触れてくれなくて……寂しかったし……」
「今のところ、とか怖いこと言うなよ……」

 レギアスが私の体を半回転させて向かい合う形になった。レギアスの銀の瞳が不安で揺れている。

「う、でも……これからもずっと1人の時間がトイレしか無いって想像すると確かに……」
「そ、そんなの皇女に生まれたんだから俺がいなくても元々無いだろ??」
「そ、そう言われると……そうね……」

 1人の時間が元々無い同士だからこそやっていけるとかあるかしら……そうだといいな。
 あ、でもレギアスは違いそう。

「レギアスは、今まで1人の時間多かったんじゃない?私とずっと一緒だと息が詰まらない?」
「え、俺は1人って言ってもずっとヴァルグが居たから……あいつお喋りでうるさいし」

 そうは見えないけど凄い絆なのね。念話も使えなかったのにお喋りって……
 リビングの中央のソファに目をやると、ヴァルグが竜王様に街で買った土産の食べ物を見せびらかして一緒に食べているのが見える。夕食前だけどドラゴンの胃袋には関係ないわよね。

「俺は1人の時間なんていらない。ずっとレティシアのそばがいい」

 そ、そんな抱きしめられたら苦しい!苦しいから!!

「わ、わかったから!私も同じよ?ね?落ち着いてレギアス」
「レティシア。愛してる」

 力は弱まったけど全身で擦り寄ってくる。色々くすぐったい。
 シャリーアが舌打ちしながらこっちを見ている。

「さっきはちょっと辛かったのだけど、相手がシャリーアなら板挟みもちょっと嬉しいわ。ふふっ、これからもよろしくね」
「ああ、あの男は気持ちが悪かったですわね……アレならこの悪魔のほうがマシですわ」

 気づかなかったけどあの時もう帰って来て見てたんだ……

「ちょ、ちょっと、本当のことでも本人に聞こえるところでは絶対言わないでね??」
「わかってますわ」
「くくっ、さ、サラディール、可愛そうなヤツ」
「わ、笑い事じゃないわよ!どうしたらいいのかしら……聖印を他の人にかけ直してもらうとか、さすがに余程のことがなければできないのよ……」

 でもまあサラの気持ちもわかる。聖印を与えてくれた相手にはたいてい好意を抱くものなのだ。私がレギアスや竜王様に計算してやったように、サラも期待していたのね……
 しかもサラの場合おそらくたった一人にしか使えない術だったわけで……応えられなくて申し訳ない。
 私はセレスティアだから……1人だけしか愛せないなんて思いもよらないのだろうな。

「もしも万が一あの男が政治力で夫の座を手に入れたらどうするんですの?義務として抱かれてあげるんですの?」

 言われて、想像してしまった……
 鳥肌と震えが全身に走る。

「レギアス、そうなっても触れさせないって、さっき言ってたわよね?」
「当たり前だ」
「良かった……私の意思で拒否するのはちょっと可哀想だから……レギアスに任せる。……うう、めんどくさい……」

 私は自身を抱きしめて腕をさすった。
 ……そういえばレギアスがサラに後で殺すとか言ってた気がするけど、今はそんな気は無さそうね。良かった。

「主様って、やっぱり聖女らしくないですわね……」
「私の聖女属性はただ神聖力が凄いってそれだけよ」
「そんなわけあるか、あの治癒術はお前のオリジナルだろう。あれは気高い精神性がなければ到達できない技だ」

 ヴァルグと一緒にソファで寛いでいた竜王様が口を挟む。
 気高いとか言われてしまったわ。その通りなのだけど竜王様に言ってもらえるとちょっと照れる。

「あ、ありがとうございます……」
「おい、レティシア、赤くなるな」

 レギアスがギリギリしている……
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