女神皇主は悪魔王子に溺愛されて受難の日々です!

如月ニヒト

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初恋

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「邪魔するなんて酷いな、もちろん僕は2番目でいい。まさか君、皇主を独り占めできるなんて思ってる?」

 サラがベッドに乗り出し、また私の手を握る。
 聖印の効果が最大になるから握られると痛みも和らぐし心地はいいのだけど、だけど……これじゃないって思ってしまう。

「できるに決まってるだろ。前皇主だって妃は1人だけだったし、女皇主に夫が複数居たところで子は増えないだろ。お前は予備としてしっかり他の女と皇族を増やしておけ」
「君ならわかってくれると思うけど、僕はレティ以外の女は抱きたくないんだ」

 レギアス以外の男の人に抱きたいとか言われてる……?ちょっとかなり、嫌かも。しかも今手を握られてる人に……うう、嫌かも……。でも振りほどくわけにはいかないわよね……まあそもそも今動けないけれど。

「ああ、わかる。だがレティシアを抱けるのは俺だけだ。例えお前が夫の座を手に入れたとしても、レティシアには触れさせないから覚えておけ」

 なんか、私抜きで話が進んでる……けど口を挟みたくない。
 そうだ、眠ってしまおう ……
 レギアスお願い、頑張って……

「陛下!……やっと意識を取り戻していただけたのに……どうしてくれるのですか!」

 落ちていく意識の中ハンナの怒り狂う声が聞こえる……

「いやあ、今なら一瞬でも聖印が消えたら困るし、言いたいこと言ってもレギアス殿下に殺されることもないかなって思ってさ。すまない」
「レティシアが回復したらすぐに殺してやるから待っていろ」
「レギアス殿下!陛下のお体に障ります!殺気をしまってください!!」
「もう、うるさいなぁ……眠れないよ」

「聖上!ご自身に浄化術を使って下さい!できますか?」

 クリスティーヌの声、多分私が目覚めてハンナが呼んできたのね。
 浄化ね、体は動かないけど術ならなんとかできるかしら。

「浄化?うーん、うまく神聖力が……少しずつならなんとか……」

 神聖力が体の中でバラバラになっていて上手く扱えない。バラバラというか侵食されているというか……とにかくレギアスの魔力に掻き回されているのがわかる……

 魔力でまで私をいじめるのねレギアスは……

 防衛反応で神聖力が頑張って魔力を相殺しようとしているけど、術式を組んでいないからかなり効率が悪いようだった。
 いつもとは桁違いの小さな力だけど、浄化を内部に発動すると少しずつレギアスの魔力が霧散し痛みが和らいでいく。

「ああ、うん、ほんの少しだけど楽になってきた。このままいけば大丈夫よ。神聖力が枯渇する前に術師たちを休ませてあげて。みんな、わたくしのために手を尽くしてくれてありがとう」

 動けなくてよく見えないけれど寝室には10数人の神聖術師がいて私に浄化をかけていたらしい。神聖術師が身近に沢山いる環境で助かった。
 人数が少ないのを考えると既に神聖力が枯渇して休んでいる術師がいるのかもしれない。
 それにしても……今の状態の私の浄化の方が彼ら全員の分よりはるかに効力が高いってちょっと情けないかもしれない……そんなものなの?

「とんでもございません。またお力になれることがあればいつでもお呼びください」

 術師達が私の前まで来て一番位の高そうな術師が言うと、みな頭を下げゾロゾロと部屋を出て行った。

「サラ、さっきの話……考えさせて。できればしばらくそばにいて欲しいのだけど、いいかしら」

 本当はさっさと断りたいけど、断っておいて利用だけさせてくれとは言えない……

「もちろんだよ。たとえ断られたとしても、僕の君への忠誠は変わらない」
「サラ……ありがとう。……ごめんなさい」

 ごめんなさいに本心を込めたので気づいてくれると嬉しい……

 それから、レギアスに甘えたかったけれどサラの手前できなくて、ただじっとレギアスの腕に抱かれながら私は自身を浄化し続けた。



 しばらくして私が少し動けるようになり、3人で遅い昼食を摂ることなった。倒れた時は朝食を食べていたのに……かなり長く意識を失っていたらしい。
 まだスプーンを持つのも難しい私はいつものようにカウチソファに座ってレギアスに食べさせてもらった。
 レギアスが来てからダイニングテーブルを使う機会がかなり減ってしまったな……お行儀が悪いけど、まあいいか。

「はぁ……、レティが男もいけるってわかって僕にもチャンスがあるかと思ったんだけど……一世一代の告白の直後なのに全然意識すらしてもらってない……」

 隣りに座って私の手を握るサラが項垂れて愚痴る。

 ごめんなさい。そういえばプロポーズされた気がするけど忘れてた……

「男もいける??どういうことだ?」
「さ、サラ!その話は2人だけの秘密だって言ったでしょう!?」

 あ、私ったら余計なこと言ったわ……どうしよう……
 私を抱きしめるレギアスの腕に力が入っていく。
 苦しい……

「2人だけの秘密……ねぇ」
「レギアス殿下!殺気!殺気しまって!!怖いから!レティに障るから!!」
「しまって欲しかったら話せ」
「レティ、ごめん……」

 もう私はため息をつくしかなかった。

「……レティは、初恋の女の子が忘れられなかったらしくて……男に興味が持てないし結婚したくないけど世継ぎ作りは義務だからって悩んでたんだ」
「へぇ……初恋の女の子……ねぇ。それってもしかしてストロベリーブロンドの子だったりする?」
「あ、ああ、君もその子のことレティから聞いた事あるのか?」
「ああ、ある」

 レギアスが私を抱きしめながら私の髪の毛の中でひたすらニヤニヤしている気配がした

「ど、どうしたの?」
「気にしないで……」
「おいサラディール、俺はレティシアと2人で話がしたい。もう少しくらい離れても大丈夫そうだから自分の部屋に帰ってろよ」
「勝手に決めるな。君と2人きりになんかしたらまたレティを疲れさせるようなことするに決まってるだろ。昨日の、僕の部屋にまで響いてた……」

 昨日って……あの扉の前のおしおき……?

「せ、せっかく忘れてたのに……ねえサラ、みんなの記憶消してくれない?それで最後に自分の記憶も消して……お願い……」
「えっと、ごめんレティシア……僕には記憶を消す術は使えないし教団にも使える術師は2人しか居なくて……そんな理由で頼むのはちょっと……あの……レティの声、凄く可愛かったよ?」

 最後のセリフの気持悪さに全身鳥肌が立つ。

「や、やだ、私やっぱり今回ので死ねばよかった……」
「おい!冗談でもそういうこと言うな。本当に死ぬかと思って生きた心地がしなかったんだ」

 レギアスが私の体を引き剥がして自分と向き合わせると私を強く睨みつけた。銀色の瞳が潤んで涙が零れ落ち、私の夜着を濡らした。

「ご、ごめんなさいレギアス……な、泣かないで!」

 レギアスはそのまま私を苦しいほど強く抱きしめた。

「ごめんなさい、ごめんなさいレギアス……」

 私はレギアスにしがみついてひたすら謝ることしかできなかった。

「おい、サラディール。何度も言わせるな。邪魔だから消えろ」
「……そうか、銀の瞳……。10年も前にどこで出会ったのかと思ったら……そうか……。初恋同士が運命の再会ね……はは、厳しいね。まあ諦めてなんてあげないけど」
「何言ってるか分からないが、わかったなら諦めて消えろ」
「諦めないって言ってるだろ。本当は男に興味なんて無くたって、君さえ現れなかったらレティが渋々結婚する相手は僕の可能性が高かったんだ!話ならレティが回復してからゆっくりするか、僕は気にせずするといい」

 まあ確かに、皇帝のおかげで私と結婚したいなんて名乗りをあげる相手は居なくなったし……順当に行けばサラが結婚相手の候補に上がる可能性は高かった。というか私が知らないだけで候補だったのかしら……
 レギアスが現れてくれて良かったです。ごめんなさい。気持ち悪いです。どうしよう他の人に聖印貰い直したい……さすがにそんなわがままは言えないけど。

「お願い、喧嘩しないで。疲れる」

 とりあえず黙らせて問題を先送りにした。



 それから黙って食事を終え、サラは書類を持って来させて仕事を始めた。私はレギアスの腕の中で浄化を続け、数時間でレギアスの魔力を体内から完全に取り除くことに成功した。
 レギアスは魔術書で暇を潰すこともなく、ずっとただ心配そうに私を抱きしめ、髪の毛に顔を擦り寄せていた。

 サラを帰し、疲れたから夕食まで眠ろうとレギアスと寝室のベッドへ行った。
 レギアスは魔術書を読むためヘッドボードにもたれて私の頭を撫でている。
 レギアスの手の感触が気持ちよくて、泣きそう……

「私、レギアスの気持ち……わかるの」

 レギアスが頭を撫でる手を止めて私の目を見た。
 私はその手をとって祈るように顔を寄せた。

「あの時、どうしてもレギアスを手に入れたくて聖印を刻んだの。そうすれば心を縛れるってわかってた……ごめんなさい……」
「なんで謝るんだ?それを聞いても俺は嬉しいだけだ」
「ありがとう……」

 私はレギアスの左手の聖印に顔を押し付けると涙が溢れて……レギアスは何も言わずにただ私を抱きしめてくれた。

 私は愛しい人の胸で眠れる今があることに、初めて神に感謝した。
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