女神皇主は悪魔王子に溺愛されて受難の日々です!

如月ニヒト

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家族との顔合わせ

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「れ……レティシア!!」
「すぐに侍医を呼んで!!殿下、どいて下さい」

 ハンナはリビングの侍女に指示を出して俺を押しのけた。
 俺はレティシアの隣に移動し、彼女の手を取って呼びかけた。

「レティシア、レティシア!」
「……レギアス?……どうしたの?」
「血が……血が溢れて……ごめん、俺本当にレティシアを壊しちゃった?」
「ああ…………大丈夫よ。少し……早いけど、たぶん月のものが来たん、だと……思うわ。レギアスの刺激が強すぎて、たくさん出ちゃった……の、かも。始まる前に、最後にしておいて……良かったわね。ああ……ちょっと、血が、足りない、みたい……」

 そう言ってレティシアはまた意識を失った。

「レティシア!レティシア!!」
「レギアス殿下!陛下を休ませてあげて下さい!!……この状態でサラディール猊下に来ていただく訳にはいきませんね……とりあえず侍医を待ちましょう」

 俺はとりあえず落ちついて魔術で身体を清めて服を着た。レティシアも、と思ったら侍女達がテキパキ動いている。
 俺の視線に気づくと睨まれた。
 初めての時ほどじゃないけど無体の跡が大量だし……嫌がる声も聞かれてただろうし……
 仕方ない、大人しく小さくなっておこう。

 少しして侍医が到着した。まだ若く見える女性だった。
 医師だろうが男にレティシアを診られるとか想像するだけで俺が暴れそうなのでホッとした。
 侍医がレティシアに向けて魔術を発動させる。この感じは探査魔術か?

「安心してください。胎盤が剥がれていますから月のもので間違いありません。通常より急激に進んで出血が多いですが、栄養を摂って休めば問題なく回復するでしょう」
「よ、良かった……」

 俺は深くため息をつき、レティシアを失う恐怖に苛まれていた事を自覚した。
 今頃手が震えてきた……

「それはそうとレギアス殿下」
「な、なんだ」

 これ絶対怒られるやつだ……

「聖上陛下に対して無体が過ぎるようですね。大切な御身によくもこのような痛々しい跡を。膣内も酷く炎症を起こしています。このような事になったのも殿下の乱暴が原因です。反省して二度となさらないようお願い申し上げます!」
「ぐっ…………すまない。気をつける……」
「貧血が酷いですから今日の公務は中止してゆっくり休んでいただいて下さい。また夜に診察に来ます」
「待って……」

 レティシアが目覚めてか細い声を出した。

「今日は、レギアスのお父様との予定なの。午前の会談は中止するとしても、この部屋で一緒に昼食をとったりとか、できないかしら」
「陛下の自室に招くなど……」

 侍女達がざわめいている。

「半年後にはわたくしのお父様でもあるのよ。家族になるのだから自室に招いてもいいと思うのだけれど……。わたくしが多少具合悪くてもレギアスがいれば間は持つだろうし。レギアス、どう?」
「俺は構わないが……」
「ハンナ、わたくしは少し休むけど、寝ている間に調えておいてね、頼んだわ……」
「聖上!おやすみになる前に薬湯を飲んでくださいませ!」

 侍医に急ごしらえの薬湯を飲まされてレティシアは眠りに落ちた。


 それから俺は魔術でレティシアとベッドを洗浄して着付けを手伝った。
 スヤスヤ眠るレティシアを支えると、侍女によって素早く着飾られていく。よく休めるように締めつけの少ないシンプルな女神っぽい衣装だ。賓客に会うとあって普段とは違うさりげなく地模様の入った、やたら豪華な生地を使っている。
 その系統に首が隠せるものがなかったらしく、俺の噛み跡がくっきり見える……

 まあ相手は俺の親父と兄貴たちだし……
 こまめに髪の毛でカバーしよう、うん。

 これまで全く目覚める様子のないレティシアをカウチソファに寝かせると、侍女が隣室のサラディールを呼びに行った。
 気に入らないが聖印の効果を最大にするために手を握っていて貰うそうだ。
 確かに俺もレティシアに触れているとめちゃめちゃ調子が良くて心地いいが……レティシアもサラディールに触れられると心地よいのだろうかと考えると胸がザワザワする。

 サラディールが部屋に来て、カウチソファの上で俺の膝枕で眠るレティシアを見て顔を顰めた。

「レティ……大丈夫なのかい?」
「ただの貧血だから大丈夫だ」
「今までレティが貧血で倒れたことなんてないんだよ。両陛下の事があったとはいえ……君の乱暴が原因なんじゃないのか?」
「そんなことはない」

 あ、まずい。目が泳いでしまった。バレバレだな。

「はぁ、レティが早く回復できるように手を握るよ。嫉妬して殺気出したりしないでくれよ?」

 サラディールはレティシアの足元の空いたスペースに浅く腰かけて手を握ろうとした。

「おい待て、今の時点で手が足に触れてるだろ。手は握らなくても充分だ」
「そういや君、レティと同い歳なんだっけ。18か……大人気なくても仕方ないか」

 ため息をつくサラディール。

「若くて悪かったなオッサン。お前そのレティってのやめろよ。レティシアはもう皇女じゃなく皇主なんだぞ。馴れ馴れし過ぎるだろ」
「僕はまだ26だ!オッサン呼ばわりされる歳じゃない!僕はずっとレティに兄のように慕われているんだ。もうレティと呼ぶのも僕だけだし……やめたら悲しむと思うよ?」
「お前はレティシアを妹のように思っているのか?」

 俺が睨みつけるとサラディールは哀しそうにレティシアを見つめた。

「……さあ、どうだろうね」

 こいつやっぱり排除したい……


「そろそろソーマ国王陛下御一行がお越しになります。聖上陛下はお目覚めになれそうですか?」

 若い侍女のキャロラインが空気を読んだように話しかけてきた。見るからに怯えている。
 俺はレティシアの手を取り呼びかけた。

「レティシア、起きられるか?レティシア」

 長く美しい金色の睫毛が震え、まぶたが開く。

「ん、起きる……」

 俺が抱き起こすとレティシアはまだ夢うつつといった感じで俺にもたれてボーッとしている。
 侍女達が手際良くレティシアの装いを整えていくが、表情はずっとぽやんとしていて可愛い。
 キスしたくてソワソワしていると侍女達が次々睨んでくる。つらい。
 衣装がシンプルな分、髪の毛が可愛らしく編み込まれて生花が沢山飾られた。

 女神だ、本物の女神がいる…
 寝ぼけ顔がいつも以上に神秘的さを醸し出すとか奇跡か!

 ワナワナしていると侍女長のハンナに案内されて親父たちがぞろぞろと部屋に入ってきた。
 親父と兄、お供の竜騎士が親父が連れてきた分も含めて10人に増えている。

「おい、ぞろぞろと連れて入ってくるな!」
「いやスマン、こやつらがお前の嫁をひと目見たいと言うものでな。すぐに退出させるから許してやってくれ」

 レティシアが俺の手を取るとおもむろに立ち上がり、親父に向かって軽く礼をする。

「ソーマ国王、お越しいただき光栄ですわ。こちらの事情でお待たせしてしまい申し訳ありません」
「レティシア姫、いや、今は陛下だな。体調が優れないと聞いたがもう大丈夫なのかね?」
「敬称は要りません。どうかただレティシアとお呼びください。休みましたのでもうすっかり平気ですわ」

 レティシアは神々しく微笑み、部屋中の人間の胸を打った。
 感動で誰も口を開けずにいるとレティシアがフラリと後ろに倒れ込み、慌てて抱きとめた。

「レティシア!……急に立ち上がって無理するから……ここは俺に任せて休んでろ。な?」
「レギアス……ごめんなさい。頼んだわ」

 俺はレティシアと一緒にソファに座り彼女を抱き寄せた。

「大丈夫か?病気なのかね?」
「いや、ただの貧血だ。祝福の効果もあるし食べればすぐに治る」
「それならいいが……お前、レティシア殿に無理をさせすぎなんじゃないか?」

 さっきまで髪の毛で隠れていたレティシアの生々しい首の跡に親父たちの目は釘付けだった。

「うわぁ、最近レティシア姫が露出の少ない服ばかり着てると思ったら……これ隠すためか。兄もドン引きだよレギアス」
「……とにかく、飯を食うぞ!レティシアのためのスペシャルメニューだから健康になって帰れ!後ろのお前らも護衛は要らんから他の部屋で用意してもらって食ってこい!!」
「うわー図星なんだ。隊長マジ悪魔」
「皇主様マジ女神なのに可哀想……」

 なんか元部下たちが口々に好きなことを言っている。

「お前ら……今すぐ跡形もなく消されたい奴はここに残ってもいいぞ?」
「いえいえ!有難く飯食ってきます!!女神陛下とお幸せに!!」
「レギアス、ちゃんと仲間と仲良くしてたのね。ハンナ、この部屋の空いたスペースにテーブルセットを運んで竜騎士の皆さんも一緒に食事を取れるように準備させてちょうだい」

 レティシアが楽しそうにクスクス笑っている。可愛い。

「あれが仲良く見えるのか?貧血で判断力まで落ちてるぞ。てかあいつらまで一緒に食べるのか??」
「もう、そんなことないもん。無駄に広いのだし、人数多い方が楽しいでしょう?」

 レティシアが膨れてる。可愛い。

 それからしばらくして大テーブルのセットが運び込まれ、順次食事も並べられた。
 俺は親父たちの相手は半ば放り出してレティシアに食べさせる。
 俺の手から素直にモグモグ食べるレティシアが可愛い。

 結婚相手との顔合わせなんだから仲良いところを見せつけるのが1番だろ。なんかサラディールが頑張ってるし、任せた。
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