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嘆きの皇宮

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 レティシアを散々抱いたあと、俺はドラゴンと離反者の首を届けに故郷ソーマ王国に帰った。

 父王に会い、レティシアと結婚するから国を出ていくと言ったら激怒していた。

「お、お前は俺の次にこの国の王になるんだ!よその国になんてやれるか!!」
「やっぱりそんなこと考えていたのか……親父、よくも俺とレティシアを邪魔してくれたな」
「な、なんのことだ!」
「同盟国の姫だと知ってて隠してたろうが!さっさと教えてくれていたらもっと早く……クソっ!」

 俺が遠慮なく殺気を出したらわかりやすくビクつく父王。さてどう言い訳するつもりだ?

「わ、我が国は1番強いものが王位を継ぐと決まっておる。強くなければドラゴンも兵も従わないからだ。……お前は竜王に気に入られて、その竜王の息子に騎乗を許されているんだぞ!お前はあの当時から飛び抜けていたのだから仕方がないだろう」
「おかげで性格が歪んで王にするには評判が悪いだろう?王子が悪魔だなんて呼ばれるのは困るって隠してるもんな。王子というより次代の王だからだったのか?まだ邪魔すると言うなら……今から破壊の限りを尽くしてやってもいいんだぞ?」

 殺気だけじゃなく魔力も解放して睨みつけてやったら親父の脂汗が凄い。
 普通に椅子に座っていられるのはさすがソーマの王というところか。

「わ、わかった!アンサリムとは兄弟国のようなものだからな。そのかわり、より同盟を強固にして何かあったらお前がすぐに駆けつけろよ!」

 はっきり言って父王どころかこの国の総力をあげても俺には勝てない。
 脅せば従わざるを得ないのが実情だ。
 まあ本気でやれば竜王が出てきて途中で止められるだろうが。

「まあ、善処してやる。ところで俺のドラゴンは連れていくが当然許可するよな?ついでに番を選んでもう1匹連れてくからそれも許可してくれ」
「グっ……ドラゴンを連れ出すとなると前例もないし反対を抑え込むのも苦労する。何かアンサリムからドラゴンと同等のものは貰えるか?」
「うーん、そうだな。レティシアから定期的に女神の祝福が貰えないか交渉してみるか」

 確かアンサリム皇主は時おり他国でも祝福を施すと聞いたことがある。

「そ、それが上手く行けばお前がいなくても我が国の戦力は上がるな!頼んだぞ!」
「あー……レティシアから離れたら3日で効果切れるから。3日のうちに怪我や病気はたいてい治るが」
「知っておるわ。怪我が治るだけで戦力がぜんぜん違うし、術がかかってる間に戦術や必殺技が閃いたりするんだ。まあ高度すぎるものは後で使えなくなるがな。祝福ならかけてもらったことがあるからわかる」
「そうなのか。思った以上に便利なんだな」
「よし、ではちゃんと竜騎士団長の引き継ぎをして帰れよ。あと家族を集めておくから今夜は晩餐に出ていけ」
「ああ、わかった」

 面倒だが実家といい関係でいた方がレティシアは喜ぶだろう。



 父王と別れて竜騎士団長の引き継ぎを済ませると相棒のドラゴン、ヴァルグと共に番探しをした。

「お前はどんな女が好みなんだ?……ん?アレか??」

 森林地帯を飛んでいると前方に珍しい純白のドラゴンを見つけた。

「アレはレティシアに似合うな。よし!口説きに行くぞ」

 純白のドラゴンは気位が高くなかなかなびいてくれなかったが、俺とヴァルグに負けて俺たちを認めてくれた。
 普通なら戦わずとも俺と竜王の息子の組み合わせでほとんどのドラゴンが従うのだが……なかなか根性のあるやつだ。
 俺はレティシアのいい護衛兼乗り物が見つかったと喜んでいた。

 ドラゴンを連れ出すことへの説得や各種手続きに時間がかかり、俺がアンサリム皇国への帰途についたのは翌日の夕方だった。荷物を運ぶのに元部下数人と、挨拶するとかで第1王子の兄マティアスが付いてきている。

 アンサリム皇国に近づくと皇宮が金色の結界で覆われているのが遠目からでもハッキリと見えた。

「何かあったのか!?」

 俺は最高速度で城に向かい、何故か結界を素通りした。

 俺もヴァルグもレティシアに祝福を授けられているからか?

 門前に降り立つと待ち構えていた近衛騎士に急かされ、皇宮の大会議室に通された。
 そこにはものものしい雰囲気で大量の衛兵が配置され、高位の文官達が何やら話し合っていた。
 部屋の奥に目をやると張り詰めた顔のレティシアが駆け寄ってきた。

「レギアス、レギアス!」

 俺はしがみついて泣きじゃくるレティシアをそっと抱き寄せる。

「レティシア、遅くなって済まなかった。いったい何があったんだ?」
「僕から説明するよ」

 レティシアの居た方から薄緑の髪の男が来て言った。

「僕はサラディール・ルナメリア。レティの従兄だ。」
「レティ?」

 なんだかムカつくが今は黙っておく。

「深夜に両陛下が暗殺されたんだ……」
「な、まさか……」

 一昨日会ったばかりの優しげなレティシアの両親が思い浮かぶ。
 あの人たちが……死んだ?しかも殺されただと??

「残念ながら本当だ。しかもレティを拐って行こうとしてね……レティの結界術で難を逃れたのだけど」
「なんだと……」

 レティシアまで……!!
 俺は怒りで殺気を撒き散らしそうになり、レティシアの感触で何とか抑えた。

「敵が諦めたかどうかわからないから、レティがずっと結界を張っているんだ。眠ると維持できるか不安だって言って一睡もせずにね。それどころか食事をとることも泣くことすらせず気を張りつめて。だから……キミが帰ってきたことだしレティを休ませてやって欲しいんだ」
「わかった」

 俺は未だ泣き続けるレティシアを横抱きにして彼女の部屋に行った。

 リビングのカウチソファにレティシアを抱いて座ると、侍女がお茶や水、タオルなどを置いて出ていった。
 俺はタオルでレティシアの涙を拭いてやり、ゴツゴツした上着を脱いでからまたレティシアを抱き寄せた。

「レギアスの匂い……好き……」
「ずっとここで、好きなだけ泣いていろ」

 そう言って、俺は静かに泣いているレティシアを抱きしめながら心の中に渦巻く怒りを押さえ込んでいた。
 今すぐ詳しい話を聞いて敵を殺しに行きたいが、レティシアを置いていくわけには絶対にいかない。
 色々なパターンを想定しながら使える駒を頭の中で数えていた。



「ん、んん……レギアス、レギアス……ん……ダメ……」

 レティシアが眠ったのでベッドに移動して添い寝すること3時間……レティシアが俺の腕の中でピクンピクンしてる……
 俺に抱かれてる夢を見ているんだろうが、ずっと生殺しに耐えていた男には辛いものがある……おい、待て、反応するな俺!!

「ん…………!!……レギアス??」
「おはようレティシア」
「あ、あの私……何か眠りながら口走ったり……してた??」
「うん、色っぽくて我慢するの大変だった」

 あーレティシア真っ赤になって可愛すぎる。

「レティシア、何か食べられそう?そろそろディナーだから起こそうかと思ってたんだよ」
「朝なのにディナー???……あ、ああ、そうか……」
「ごめん、嫌なこと忘れてたのかな……」
「うん……おかげで幸せな目覚めだったわ。ありがとうレギアス……食事、行きましょうか」
「そう、良かった」

 起き上がってレティシアを支えてあげようとすると、

「気を遣ってくれて嬉しいのだけど、キスくらいは……私だってその、し、して欲しいのだけど……」

 あーまた真っ赤になってホント可愛すぎる!

「いや、うん。気を遣ってるのはその通りなんだけど……それより……これ以上触れるとちょっと俺がまずい……その、さっきのレティシアの寝言に当てられてて……」

 あ、レティシアさん……俺の股間に注目するのやめてください……何を考え込んでいるんですか?

「あ、あのね?簡単に1回だけで終わらせることとかって……できるの?」

 な、何その質問!誘ってるのもしかして??
 ちょっとくらいなら襲われてもいいから俺とキスしたいってそういう事??

「え、ええと……頑張れば……できるかも……」

 俺はレティシアにそっと口付けて、そのまま唇に舌を這わせて吸い付き味わった。

「ん……」

 舌をレティシアの口内に差し入れようとしたその時、ノックの音が聞こえた。

「晩餐の準備が整いました。出席なさいますか?」
「え、ええ!行くわ!」

 項垂れる俺をレティシアが困った顔で見ていた。

 仕方ない。何とか完全にその気になった相棒を押さえ込もう。はあ、つらい……

「あ!そういえば兄貴たちが来てるんだった!!」
「ええ!?」
「えーと今どこに居るんだろ……あれ?結界って今もそのまま??」
「えーと、ちゃんと維持できてるみたい。たぶんどこか近くの貴族の屋敷に案内されていると思うわ……聞いてみましょう」

 兄たちはやはり1番近い貴族の邸宅でもてなされているらしく、呼び出してレティシアの祝福を施し、急遽人数分のディナーも揃えて貰った。
 いちおう葬儀で人が集まるまでは結界を維持するつもりらしい。

 少し遅れてしまったが、ディナーの席には宰相とサラディールとかいうレティシアの従兄とその父親、さらにレイノルズ将軍がいて、後ろにもぞろぞろ控えていた。
 機密事項を話し合うつもりだったのかもしれないが、ソーマの協力は是が非でも欲しいはずだ。悪くないだろう。

「お久しぶりですレティシア姫。いえ、陛下。大変な時に訪ねてきてしまい申し訳ありません。もう既に家族だと思って、僕らに協力できることがあればなんなりと仰ってください」
「マティアス殿下。ご厚情感謝します。是非ともお力をお貸し下さい。それと、未来の妹に敬語はやめて下さいませ」
「ふふ、こんな素敵な人が妹になるなんて嬉しい限りです。わかりました。これからは今まで以上に協力関係を築いていきましょう」

 各々外面全開でやり合った後、とりあえずは食事を楽しもうと言うことでものものしい話は控え、デザートが出てから暗殺者の情報などが出てきた。

 影の魔術はこの大陸の東南部にある島の呪術師が使うものらしく、帝国との繋がりは不明だが、帝国に雇われた可能性は高いだろうとのことだった。
 レティシアを襲った後の目撃情報も無く、手がかりはなさそうだ。まあ影の中を移動するような術者だから仕方がないが、厄介だな。
 俺のいる時に襲いに来てくれれば一瞬で殺してやるのに……それがわかってるからあのタイミングを狙ったのだろうが。

「俺とレティシアの事を知るものはまだごく少数だったはずだ。どこから情報が流れたか推測はついているのか?」

 宰相が苦い顔をして答える。

「あのタイミングで来たことを考えると、元々城に入り込んでいたと考えるのが妥当でしょう。陛下を監視して誘拐する隙をずっとうかがっていたのかもしれません。魔道具か魔術か、遠方と即時に連絡をつける手段も持っているのかと……」
「いや、それなら油断して寝てる隙を襲えばあの影の魔術でとっくにレティシアを誘拐できていたはずだ。レティシアを拐った竜戦士の仲間だと考えれば……あの場を監視してる仲間が居れば俺達のことを知るのも容易だったし、そのまま後を追ってきて入り込んだのかもしれない」
「確かに……レギアス殿下の事を知って焦って事に及んだという所か……」
「私を狙ったついでにお父様とお母様を殺したのかしら……」

 レティシアが真っ青になって震えている……まずいな。

「すまない、俺はレティシアとそろそろ部屋に下がることにする。話はまた明日教えてくれ」
「ええ、それが良いかと」

 申し訳なさそうに項垂れるレティシアを無理やり抱き上げ、挨拶もおざなりに部屋に下がった。
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