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戦場再び

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 レギアスとドラゴンに乗り戦場に戻ると戦線は膠着状態だった。
 私が兵に施した祝福は戦闘用から通常のものに切り替わってしまっていたし、総大将の私が攫われてさらに将軍が居ない状態では士気を保てない。
 私はドラゴンの上でレギアスに抱えられながら戦闘用の祝福をあわててかけ直した。
 舞い散る花びらに私の帰還を知り兵たちがざわめく。

「これが噂の女神の祝福か。美しいものだな」

 レギアスに耳元で囁かれ体がビクビクと震える。

「そんな反応をされたら離したくなくなる……」

 そう言って首筋に舌を這わされた私は息を乱しながらレギアスの腕にしがみついた。

 後ろで笑いを漏らす声が聞こえ、同時に魔力を練り上げている気配がする。
 私が後ろを振り向いてレギアスを見ると

「見ていろ」

 レギアスがそう言って笑った。
 レギアスが敵兵に向け手をかざしたのでそちらを見ると急に敵の動きが止まった。
 剣を打ち合わせていた自軍の兵が更にざわめいている。

「まさか……敵だけを正確に狙って凍らせたのですか?」
「ああ。凍らせるのは得意なんだ」

 混戦の中そんなことができるなんて…有り得るの?

 目の前の光景が信じられず目をパチパチさせていると

「皆殺しにするなら兵を引かせてくれ。焼き尽くすから」

 怖いことを言い出した……

「いえ、その必要はありません」

 レギアスに振り向き慌てて言い募る。

「では大将首を取ってきてやるから待っていろ」
「で、できれば無傷で捕らえてください!」
「そうか?わかった」

 レギアスはドラゴンを本陣の前にゆっくりと降ろし、私を駆けつけた近衛騎士と侍女に預けるとすぐにまたドラゴンに乗って敵の本陣に向かった。
 臣下達がみな私に向け無事を喜ぶ言葉を唱え、侍女たちは涙ぐんでいる。

「ひ、姫様。ご無事で何よりです!その、凍ってるヤツらはどう致しますか?このままではいずれ溶けてしまいますが……」

 副官が慌てて私の指示を聞きに走り寄ってきた。

「ああ、溶ける方の凍結なのね。ずっと凍られていては邪魔だものね。……そうね……全員じゃなくていいわ、前の3列分だけでいいから片脚の腱を切っておきなさい」

「はっ!」

 そう言って連絡に走る副官は怯えた目で私を見ていた。

 なんでそんな目で見られないといけないのかしら。失礼しちゃうわ。


 レギアスを待つ間に私は身支度を調える事にした。
 やっと顔のお手入れができるとホッとしながら侍女に服を脱がせて貰っていると悲鳴が上がった。

「ひ、姫様!なんて事!!」

 あ、身体中に痣やら歯型やらがありますねたぶん。
 治癒術で消しておけば良かったと後悔したがもう手遅れだ。
 回復術と治癒術で疲れや体の痛みも取ろうと思えば取れるのだが、自然治癒力が衰えるので余程のことがない限りは使わない。

「お、おいたわしい……」

 長年仕えてくれている侍女長のハンナが泣き出してしまった。

「え、えーとね。ちゃんと同意の上だったの。お互い一目惚れで……わたくしたち結婚の約束をしたのよ?無理矢理とかではなくって、ただちょっと彼の力が強すぎたっていうか……」

「あんな悪魔のような男と姫様が……わかりますわ、あんなものに逆らえるわけはありませんもの」
「う、うん……そうなんだけど……好きになったのは本当なの。辛いことは何もないから心配しないで?」

 私は心から笑って見せた。

「う……姫様……おいたわしい……」

 どうしよう、全然信じてくれてないみたい。
 泣きながらもきっちり仕事するハンナは流石だけれども。
 他の侍女たちも顔を見て青褪めさせていたわりの声をかけてくれる。
 お父様に報告されちゃうんだろうな……すんなり許してくれるといいけど。

 肌を見せず動きやすいドレスに着替えて顔も簡単に調えて貰うとテントの外がざわめいていた。

「何かあったの?」

 私がテントから出ると縛り上げた敵将らしき人物を引きずったレギアスがこちらに歩いてきていた。

「レティシア!」

 レギアスは私を見つけると花が綻ぶように微笑み、荷物を置いて駆け寄ってきた。

 そ、そんな顔で笑うとただただ美しいわ…ドキドキするからやめて……

 レギアスの顔の豹変ぶりに周りもどよめいていると、彼は私の手を取り指にキスした。

「先程までの姿も凛々しくて美しかったが、ドレス姿はやはり可憐で美しい……俺のレティシア」
「ありがとうございます。……あ、あの……レギアス殿下。わたくし達はまだ正式な婚約を結んでいないので……これ以上触れるのは、その……控えてくださいませ」

 私はレギアスの笑顔とキスにやられてもうしどろもどろで情けなかった。

「へえ……そんな真っ赤になって拒絶されると……逆に誘われてる気がするな」

 え、笑顔がまた悪魔に変わってる!
 でもこっちも好きだわ……

 悪魔に魅入られてすっかり思考能力をダメにされた私は反論もできずに固まってしまった。
 そして悪魔は嬉しそうに私の腰を引き寄せて唇を奪った。

 あ、取られた手の指がいつの間にか絡んでいやらしく動いてる!
 き、キスだけでも気持ち良くてアタマが痺れてくるのにそんな……

「ん、んっ……んんぅ……」

 堪えきれずに声が出てしまい、わたしは恥ずかしさで泣きそうだった。いや、もう少し泣いてた。

「きっ、貴様ぁ!姫様から離れろ!!」

 近衛たちが剣を向ける気配がする。
 あなた達反応が遅すぎると思うの……でも余計なことをしてレギアスを怒らせるのはやめてお願い……

 レギアスはヤレヤレと言った感じで私の唇を解放すると、私は立っていられなくて彼の胸にすがりついた。

 騎士服の硬い布越しなのが残念とか思ってる私の思考が残念……

 レギアスは私ごと近衛たちの方に身体を向けると私の手と腰を離して両腕を広げてみせた。

「お前たちはそう言うが俺のレティシアは離れたくないみたいだ。残念だったな?」
「き、貴様!」

 一触即発の空気やめてぇ……

「鎮まりなさい!」

 近衛たちの方へ体ごと振り返り、主の威厳を取り戻すために私は気合を入れた。

「剣をしまいなさい。レギアス殿下とは結婚のお約束をしたのです。このあと両陛下にお許しを頂く予定です。みなはわたくしの夫と思って接しなさい」

 何とか誤魔化されてお願い。

「姫様!先ほど中の会話が聞こえてしまいました!姫はその……無理やりその男に襲われたのですよね?そうなったからには結ばれるしか無いとのお考えもわかりますが……それではあまりにもっ!」
「なっ、それは本当か!?」

 あーあーあーますます事態が悪化したわ……どうしてくれよう。

「お、どうやら将軍達が帰って来たようだ。レティシアの護衛も足りるだろうし俺はちょっと昨日のドラゴンを捕獲してくる」

 遅くなるようなら先に皇宮に帰っていろと言ってレギアスはいつの間にかドラゴンで飛び立っていた。

 逃げてくれて助かったけど、近衛たちの間をどうやって抜けて行ったの?

 キツネにつままれたようにその場の皆がポカンとしていた。

「ひ、姫様!本当にあんなやつを夫に迎えるおつもりですか!?」

 我に返った近衛の1人が口火を切って次々に皆が同意する。

「あんなやつって……彼は最も古き同盟国、あの強国ソーマの第2王子よ?強くて美しくて……申し分のない相手だと思うのだけれど」
「で、ですが……あんな、姫様を自分の物のように……」
「あら、彼だってわたくしのモノよ?さっき彼の力を見たでしょう?敵将も捕まえてきてくれたみたいだし、軽々とこれだけの事ができる戦力よ?せっかくわたくしのモノになってくれたのに、あなた達が邪魔して他所のものになって我が国と敵対したりしたら困るのよ?わかるでしょう?」

 私はニッコリと微笑んだ。

「わたくしはわかるかと聞いているのよ?さっさと返事をなさい!」
「「わ、分かりました姫様!」」

 その場の近衛全員が直立不動で一斉に答えた。

「あとね?わたくしはレギアス殿下に恋をしているの。相思相愛なのよ?まるで汚された女のように私を見るのはやめてちょうだいね?」
「「ははっ!」」

 素直に受け取ってくれた者はどれくらい居るかしら……
『そう自分に言い聞かせている不憫な姫』だと思う者の方が多いかしら……まあ私自身が少しそう思っているのだから仕方のないことよね……
 とりあえず素直に受け取ったフリでも貫いてくれれば嬉しいわ。
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