王の愛は血より濃し 吸血鬼のしもべ第2部

時生

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第三章 我、太陽の如き愛の伯(おさ)とならん

第五十二話 太陽と交わる(1)※

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 最初の一本は、難なく入った。当然だ、と朱昂は眉を寄せながら息を吐く。直腸の広がりは指一本などものともしない。括約筋は少々厄介だが、違和感を乗り越えれば直に順応するだろう。それに、と朱昂は往復のたびに指に油をまぶす伯陽を見る。男同士の房事に関して「月鳴」以上の相手はいないだろう。安心して身を任せていい。伯陽はきっと無理強いをしない。

「朱昂……」

 伯陽は朱昂の足元に座り直していた。横向きに寝たままの朱昂の尻や腹をなでながら、右手はゆっくりと菊門を濡らし、ほぐしている。朱昂が左手を伸ばすと、伯陽の左手にとらわれ、愛撫される。尻の中に指を浅く挿れたままくちづけられる。「気持ち悪くないか?」「綺麗だ、愛してるよ」と囁かれる。
 ふー、と満足の息を吐く瞬間、くりんと括約筋を広げるように伯陽の指が中で回転した。

「あっ、ふ……」

 色づいた吐息が出る。口を覆うと、伯陽の指が浅く抜き差しをした。早い動きに菊門が発火したように熱くなる。
 ちょくちょくちょくちょく、と水音が響き、交接を想起させる音に朱昂は自身をしごいていた。陰嚢の裏、付け根にあたるところに伯陽が指をいれ、ぐっとやや強めに押しながら菊門までなぞる。

「んっ、く」

 菊門の熱が陰嚢の裏まで広がる。思わず足が跳ねたところを、伯陽が円を描くように押す。尻の中できゅうきゅうと熱い何かが膨張と収縮を繰り返す。

「あー……!」

 ちゅこちゅこちゅこちゅこ。
 水音は止まない。射精とは違う何かがこみ上げる。菊門が痺れる。あたたかい。伯陽がぐりぐり押す。押してはだめなところ。しごく手が止まらない。押してはだめ。それ以上押されたら、尻が弾ける。弾けそうだ。

「あーっ、いい!」

 我を忘れて叫んだ。伯陽の指が一瞬菊門の縁に引っかけるように動き、抜け出た。
 ぐぱと開いた菊門が収縮した感覚と同時に、尻全体から胸まで一気に炎の波が押し寄せた。不随意に背筋がしなり、筋が痙攣する。胸がしびれて涙がこぼれた。

「あ、あー……」
「んん、朱昂前立腺いけそうだな」

 うつ伏せになった朱昂の上にのしかかるように伯陽が抱きしめてきた。声が弾んでいる。

「ん……、直接押したらどうなるんだこれぇ」
「今押してやる。また気持ちよくなったら俺の名前呼んで」
「なんでだよ」
「お前の感じた時の声すっごくかわいい。かすれてて、甘えてて。その声で呼んでくれ」

 気にしていることを言われ、朱昂は口をへの字にした。腕の間に顔を埋めて返事をしないでいると、伯陽がうなじにくちづける。伯陽が触れる首を振った。耳元で「どうした」と囁いてくる。

「声。たまに女にからかわれる」
「そうか。――いい声だよ。腰にビンビンくる」
「調子に乗るな」

 目を合わせると、伯陽が目じりを下げて笑う。「至福」と顔に書かれていて、かわいいと思う自分にげんなりする。自分の顔にも書かれていたらどうしようとまた顔を覆う。

「乗るだろ。好きな相手とこうしていて、調子に乗らなきゃ不感症の馬鹿だ。こっち向いて」

 仰向けになると、伯陽と胸を合わせる。伯陽に抱きしめられたまま唇を結ぶ。
 膝を立てるよう言われ、足を開くと伯陽の指が入ってきた。しばらく往復していたかと思うと、指が二本に増える。根元まで入ると、さすがに苦しくて呻いてしまった。ぎゅーっと指が侵入するたびに、腹の奥がもやもやとする。

「指の多さに慣れるまで前立腺を押したりしないから、少し力抜け。大丈夫」
「伯陽っ、なえてないか?」
「ものすごく元気。気にしてくれてありがとう」
「んー」

 ためらいはあったが、取り繕ってもむだだと朱昂は伯陽に向かって腕を広げた。伯陽はすぐに飛び込んでくる。鎖骨に吸いつく頭を抱くと、ほっとした。

 傍にいてほしいとずっと思っていた。本当は腕から放したくないし、誰の目にも触れさせたくない、と朱昂は揺れる想いを抱きしめる腕に込める。
 日向の匂いがする。伯陽の匂いだ。すーっと嗅ぐと、体の力が抜ける。

「伯陽……んっ」

 また指が増えた。たまに、関節の部分が触れるとちろりと油を舐める火のように、快感が広がる。腹側の一点。前立腺だ。

「伯陽、押して」

 いいのか、と目で問いかけてくるので、うなずくと、伯陽の指が熱のこもった場所を押した。

「んっ、んっ」

 とん、とん。
 腹を広げられる苦しさと、快感のツボを押される快楽で呼吸が乱れる。大きく息を吸って、声をもらしながら長く息を吐く。陰茎の先端まで溶岩のような何かがにるにるとせり上がる。全身の敏感な場所に広がっていく。

「んあ、あー……っ」

 伯陽の指がぐりぐりと円を描くように前立腺を押す。すると、訳が分からぬうちに、勃起したモノの先端から熱水が次々に出る感覚があった。

「すごいな……」

 伯陽の興奮した声。
 屹立したままの自身を見ると、先走りが根元にどろどろと伝うほど迸っていた。

「なんだ、これ」

 うそだろ、と指を伸ばすと、ごぷりと先端の孔から透明な液体が出る。遅れてびくりと頭の中まで刺激が走る。

「あ……っ。なにこれぇ、射精?」
「いいや、中を刺激されたせいだ」
「うっ、――くぅ」

 ビン、ビン、と、神経の束を弾かれたように快感が伝わる。片膝を抱えて何とか耐えるが、伯陽の指が中でうごめくのが止まらない。明らかに最初より自由に動いている指に、広がってしまったと朱昂は熱い吐息をもらす。

「挿れてみていいか?」
「もう……」

 のしかかってくる伯陽の足の間を見れば、裏側が見えるほどそり立っている。
 指を抜かれて、朱昂はぐっと尻を掴んだ。そうすることで、野放図に振りまかれる快感に対抗する。

「もう、暁ちゃんの……」

 脳裏には「果てたい」という文字が鎮座している。しかし、「果てそう」ではない。この山を越えたら、ものすごく気持ちよくなれそうな気配がする。

「好きにして……」

 好奇心に負けた朱昂は、紅潮した腕を伯陽に伸ばした。
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