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第三章 我、太陽の如き愛の伯(おさ)とならん

第五十一話 初恋の果て(1)※

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 崩れたあぐらを組む足の間に向かいあうように朱昂を座らせて、抱きしめたまま伯陽はくちづけを繰り返した。
 左腕は朱昂を抱いたまま、右手で朱昂の耳の縁をなで、あごをなぞり、髪を指でく。
朱昂の体温と甘い血の匂いがじわじわと肌に伝わるにつれ、頭にズクズクと熱がたまっていく気がする。
 ちゅむちゅむとついばむようなくちづけをくすぐったがって、朱昂が身じろぎをした。唇が逸れて頬にぶつかると、伯陽はそのまま頬からこめかみ、眉の上と唇をすべらせる。

「遊ぶなよ、くすぐったい」
「嫌だったら朱昂からもして」

 ぐいっと大きな手で朱昂に頬を掴まれ、伯陽があごを引くと朱昂が唇を押し付けてきた。唇の形が変わりそうなほど吸われ、少しだけ離れるも息継ぎをする間もなくもう一度朱昂が挑んでくる。唇の間を舐められる。熱くてとろりとした舌先に出会い、伯陽はたまらず口を開いて朱昂の舌を迎え入れた。首の裏をつかむ朱昂の手が、強くて、生々しい気分になる。
 舌の先をこねていたかと思うと、舌の裏まで朱昂に舐められ、伯陽の鼻からくぐもった吐息がもれた。口と口が離れる瞬間、「ずるっ」と湿った音が耳の奥まで響き、小さく背が揺れた。

「朱昂……」

 糸を引くだ液を手の甲で拭うと、朱昂も真っ赤に染まった唇を親指で拭って、唇を吊り上げた。悪い笑みを浮かべる朱昂の体に腕を巻き付け直して、そのまま敷布に押し倒す。首筋を噛むと、朱昂の牙が肩を穿った。深く刺さっていく牙。尾てい骨の辺りの敏感な部分がくん、と引っ張られるような感覚がした。痛がゆいような甘い感覚だ。朱昂の牙が深くなるほど、快感の中枢までも朱昂に食われているようだった。ぐん、と牙がさらに入ってくる。

「あぁ……!」

 たまらずあごを上げて色のついた声を放つと、朱昂がくつくつと喉を鳴らして笑う。

「敏感だ」

 低い声に、伯陽は何とか声を抑えて息を長く吐いた。朱昂の声にはたっぷりと悦びが含まれていて、欲望をたぎらせる朱昂に、伯陽は胸がしびれる。

 くちづけると、朱昂が首に腕を回してすり寄ってくる。耳に触れた唇を肩へ、二の腕へと押しつけていくと、朱昂が腕を開いた。夜着の袖の上から唇を落とし、裸の手の甲を吸う。中指の先を舐め、ちゅうと音を立てて唇が離れる。

 朱昂の左手を愛撫しながら、重なった腰を揺するように動かした。直接的な刺激に背筋が震える。腰が止まらない。伯陽の動きに朱昂の髪が敷布の上で小さく跳ねていた。腰をそのままで中指をしゃぶりながら朱昂を見ていると、白い眉間に皺が寄り、やがて赤い唇がうっすらと開いた。呼気が揺れる。

「あ……」
「お前だって」

 すかさず詰ると朱昂の頬の色が明らかに変わった。

「綺麗だよ、朱昂」

 耳元で囁くとぐいっとあごを押された。目の縁まで赤くなっている。きつい眼差しで睨まれても、伯陽の頭には美しいという感動しか起こらない。

「よく俺にそんな声出せるな」
「さっきの『敏感だ……』も、相当だったぞ」
「うるさい!」

 いまさら照れているのか、朱昂の肌がますます赤く染まっていく。首筋までほんのり色が変わっているのを見て、伯陽は頭がくらくらした。
 一旦朱昂の上を降りると横向きに寝そべる。朱昂の長い髪を踏まないようになでつつ、背中から抱きしめた。右手を朱昂の夜着の中に滑り込ませる。まっすぐ左胸に手を当てると、ふっくらとした胸筋の下辺りで、心臓が力強く鼓動しているのが分かった。興奮する朱昂の体すべてが愛おしい。
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