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第二章 月ニ鳴ク獣
第四十五話 小さき勇者たち(2)
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何かあったかと急かすと、乱華は困ったように首を傾げる。
「僕もただのおつかいを頼まれちゃっただけというか。とりあえず、この子たちを届けてくれって父から頼まれたもので。ほら、出ておいで」
前かがみになった乱華が腿をぽんぽんと叩く。すると、乱華の腰に掴まるようにして立つふたりの幽鬼が現れた。うつむき加減でぐす、と鼻を鳴らす子どもの頭を乱華がなでる。青年が「朱昂様だよ」と背中を押すと、子どもたちが慌てた様子で顔を上げた。息せき切って語りだす。
「あの、おれたちげつめい、しゃ……」
「あわ……」
口を開けたまま、子どもたちは朱昂の目を凝視した。リスのような瞳がふるふるっと揺れる。瞬く間にたっぷりと涙が盛り上がり、あっという間に決壊した。
「あぁあああああ~~~~」
「ごめんなしゃいぃいい!!!!!」
「あらら」
「ぬう」
「あー、やっぱりだめだった」
朱昂の後ろで玄姫が呆れ、向かい側で仁波が唸る。何だこれはと、朱昂が怒気を隠さずに目で問うと、乱華が首をすくめる。
「父の前でもこうなっちゃったんですよ。月鳴案件だろうから真血公にってことで、急いで連れてきたんですけど」
「要件を聞けていないのか?」
「はい。ほらほら泣かない、泣かない。落ち着いて」
子どもの泣き声が不調の朱昂の耳に障る。いらいらしていると、白郎がひっそりと動いた。少年の横に立つと、わずかに透けた手を子どもの頭に潜りこませる。
「ひゅ!」
目を丸くした双子は、次第にぼーっと虚空を見る表情になる。白郎が両手を双子の頭に突っ込んだまま口を開いた。
「この子どもらは伯陽様の使い魔です。何か伝言を頼まれているのか……早く主様に言え」
白郎の手から解放された幽鬼の子らは、ぼんやりとした表情のまま朱昂に向かった。
「月鳴様が、朱昂に知らせろって」
「痣が剥がれたんです」
「痣……」
朱昂は思わず首の後ろを押さえていた。それを見ていた少年がこくんとうなずく。伯陽は朱昂と会話するといつも不調を訴えた。必ず、首の裏の痣から痛むのだと言っていた。その痣が剥がれたということは――。
一瞬、翠の光が目の裏を走った気がした。
――龍玉の罰が消えた。
朱昂は立ち上がった。今なら行ける。今なら会える。
「金の用意をしろ。湛礼台に行く」
かしこまりました、という声が重なる中、双子は固く手を繋いで震えている。朱昂は双子を抱き上げ、廊下を走り始めた。双子は朱昂に問われ、ようやく名乗る。
「子静、子躍、よく知らせに走った。そなたらの主は必ず助けよう」
はい、と幼い声が答える。朱昂は階段を飛び降りるようにして玄関に向かった。
「僕もただのおつかいを頼まれちゃっただけというか。とりあえず、この子たちを届けてくれって父から頼まれたもので。ほら、出ておいで」
前かがみになった乱華が腿をぽんぽんと叩く。すると、乱華の腰に掴まるようにして立つふたりの幽鬼が現れた。うつむき加減でぐす、と鼻を鳴らす子どもの頭を乱華がなでる。青年が「朱昂様だよ」と背中を押すと、子どもたちが慌てた様子で顔を上げた。息せき切って語りだす。
「あの、おれたちげつめい、しゃ……」
「あわ……」
口を開けたまま、子どもたちは朱昂の目を凝視した。リスのような瞳がふるふるっと揺れる。瞬く間にたっぷりと涙が盛り上がり、あっという間に決壊した。
「あぁあああああ~~~~」
「ごめんなしゃいぃいい!!!!!」
「あらら」
「ぬう」
「あー、やっぱりだめだった」
朱昂の後ろで玄姫が呆れ、向かい側で仁波が唸る。何だこれはと、朱昂が怒気を隠さずに目で問うと、乱華が首をすくめる。
「父の前でもこうなっちゃったんですよ。月鳴案件だろうから真血公にってことで、急いで連れてきたんですけど」
「要件を聞けていないのか?」
「はい。ほらほら泣かない、泣かない。落ち着いて」
子どもの泣き声が不調の朱昂の耳に障る。いらいらしていると、白郎がひっそりと動いた。少年の横に立つと、わずかに透けた手を子どもの頭に潜りこませる。
「ひゅ!」
目を丸くした双子は、次第にぼーっと虚空を見る表情になる。白郎が両手を双子の頭に突っ込んだまま口を開いた。
「この子どもらは伯陽様の使い魔です。何か伝言を頼まれているのか……早く主様に言え」
白郎の手から解放された幽鬼の子らは、ぼんやりとした表情のまま朱昂に向かった。
「月鳴様が、朱昂に知らせろって」
「痣が剥がれたんです」
「痣……」
朱昂は思わず首の後ろを押さえていた。それを見ていた少年がこくんとうなずく。伯陽は朱昂と会話するといつも不調を訴えた。必ず、首の裏の痣から痛むのだと言っていた。その痣が剥がれたということは――。
一瞬、翠の光が目の裏を走った気がした。
――龍玉の罰が消えた。
朱昂は立ち上がった。今なら行ける。今なら会える。
「金の用意をしろ。湛礼台に行く」
かしこまりました、という声が重なる中、双子は固く手を繋いで震えている。朱昂は双子を抱き上げ、廊下を走り始めた。双子は朱昂に問われ、ようやく名乗る。
「子静、子躍、よく知らせに走った。そなたらの主は必ず助けよう」
はい、と幼い声が答える。朱昂は階段を飛び降りるようにして玄関に向かった。
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