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第二章 月ニ鳴ク獣
第二十二話 恋の錯覚※
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薄い膜がびちりと張っている先端へ、くすぐるように息を吹きかけ、浅くくわえた。
顎をあけて亀頭を迎え入れる。白いふさふさとした尾の付け根を指を輪の形にしてしごくと、白火の口から短いうめきが漏れ、少し腰が動いた。喉に近いところを突かれて一旦口を離すと、座り直した白火が上体を曲げた。
寝台の上で手足をたたみ白火の足の間にうずくまる青年の背と、狐の胸が近くなる。白火が、青年の後孔から出かかっていた張り型の底部に指を乗せた。ゆっくりと押し込んでいく。
青年は「月鳴」と名付けられていた。
「んぉ、おぉ……」
ぬちゅちゅちゅ、と張り型を飲み込む時、異物感と同時に弱いが別の感覚がある。
もっと押し込んで突いてほしい。連日伽の指南の間中張り型をくわえ、最後の射精は必ず肛門の奥を刺激されていた月鳴は、前立腺で得る悦びを覚えていた。
月鳴の啼きを聞きながら、白火はわずかに体外に出ている張り型の底を指で叩いては上下する。トン、トン、と不規則に快楽のツボを刺激され、もどかしさに顎を上げる。
「あぁあ、あ、ん」
腰をくねらせると張り型が内壁を様々に押す。白火の弄ぶような動きに焦れて、自ら快を求めて腰を、尻を振りたくる。白火が陰茎の先を口に向けてきて、夢中でそれを含む。
――これで、突かれる。
こうまで孔虐を教え込まれてなお、月鳴の菊門は男を迎え入れていなかった。数日かけて蹂躙され、ようやく口を開き始めたつぼみに今夜とうとう、雄をねじこまれるのだ。
燃え上がる体は求めることをやめない。果たしてこの仕打ちに耐えているのは失った宝を取り戻すためか、ただ淫楽に耽りたいだけなのか、月鳴に判断できる力は残っていなかった。
「恋をしていると思え」と、白火は稽古の間中繰り返し言った。「目の前の相手と混ざり合うことが、相手も自分も至上の幸福だと思え。交わりを心の悦びにつなげられるかどうかで、お前の価値は決まる」と。
白火が月鳴の体を反転させ、上にのしかかる。敷布にまだ短い月鳴の黒髪と、長い白銀の髪が広がる。顔を上気させ汗を流す月鳴を、白火の切れ長の瞳が見下ろす。じっと見つめあう。膝を抱えられた。
「月鳴、――私を受け入れるか?」
言葉を投げかけられて、月鳴の眉が震えた。じわじわと瞳に涙が盛り上がる。
――どうして、俺に確かめる。
もう後戻りできない。生きるか死ぬか。朱昂を、自分を取り戻せるかどうかなのだ。白火を、見知らぬ誰かを受け入れなければ、自分は死ぬ。選択肢など存在しないのに、なぜ。
涙をこぼして月鳴は白火を見つめ、熱っぽく潤む黄色を見つめるうちに理解した。白火は問うているのだ、「恋をしていると思えるかどうか」を。
十日近い記憶しかない月鳴は恋を知らない。だが、相手と混じりたいと思うほど強い気持ちを恋というなら、もしかしたら、朱昂への想いは恋に匹敵するかもしれない。
月鳴は目を閉じる。闇の中に、白い肌と心の底を刺し貫く眼差しを思い浮かべる。心臓よりもずっと奥の方で、波立つものがあった。ゆっくりとそれは大きくなる。膨れ上がる、弾けて片割れと混ざり合う時を待っている。
月鳴は瞳を開いて、手のひらを白火の頬にあてた。黒い瞳は軽薄な快楽に浸かっているのではなかった。強く求めているのだと訴える。白火が見入るように眉を下げ、漆黒を見つめる。
「欲しい……、あげるから、下さい。あなたを」
白火の男根があてがわれた。月鳴が息を吐くのに合わせて侵入を始める。張り型とは段違いだった。圧倒的なものに、こじ開けられる。内壁は痛みながらも白火に吸いついた。侵入者にぎゅうっと絡みつく。
「っあ、」
「あぁ……」
白火が呻きながら腰を引く。絡みつく粘膜を振りほどくように離れ、また押し込まれる。引きずられては、突き入れられ。満ちては引いて。雄を迎え入れる内壁が熱を持ち、膨らむような気持ちを月鳴は覚えた。熱くなる。こすられる度、受け入れる度、ぐっと雄の嵩が明らかに増した。膨らんでいる。一緒に求めあっている。
「ああぁ!」
月鳴が悦びに叫んだ。ぐっと膝が割り開かれ、うねる内壁に埋まった快楽の実を肉杭で穿たれた。
「いやぁ! いや、あ、あ」
張り型とは全く違う。熱くて、大きくて、どこに腰を逃がしても追いかけてくる。強すぎる快感に拒否の声を上げながら、月鳴は敷布を掴む。白火は下で悶える月鳴を抱きしめた。逃れられない強い腕に月鳴は涙を流す。嬉しい。そんな自分に戸惑う気持ちも、高まる鼓動に掻き消える。
「だめ、だめ……いいの、いい。だめ、もういっぱいだから!!」
拒否と悦びを交互に繰り返す。頭の中がかすんでくる。気持ちいいでいっぱいになる。白火が小さく甘い息を吐いている。鼻にかかった呻きが、月鳴をさらに追い立てる。高みに、もう逃げられない。もう後戻りできない。
――許して。
唇だけで、請うた。月鳴が涙を落としながら叫ぶ。
「いく、いく、いっちゃ、ぅう!」
「くっ、月鳴、受け入れろ!!」
何かが、決壊した。鋭い快感の奔流にのまれて、目の前が真っ白になる。いつの間にかさすられていた陰茎から白い蜜を噴き上げた。
「くぅううう……!」
激流に喘ぎながら奥が熱くなる。白火に精を吐かれている。なかがいっぱいになっちゃうと、男根が引き抜かれる際の快感に腰を震わせる。とくりと白濁を滲ませながら、月鳴は大きく息をついた。
どうか許してくれと、告げる先もない懺悔が最後に残った。
顎をあけて亀頭を迎え入れる。白いふさふさとした尾の付け根を指を輪の形にしてしごくと、白火の口から短いうめきが漏れ、少し腰が動いた。喉に近いところを突かれて一旦口を離すと、座り直した白火が上体を曲げた。
寝台の上で手足をたたみ白火の足の間にうずくまる青年の背と、狐の胸が近くなる。白火が、青年の後孔から出かかっていた張り型の底部に指を乗せた。ゆっくりと押し込んでいく。
青年は「月鳴」と名付けられていた。
「んぉ、おぉ……」
ぬちゅちゅちゅ、と張り型を飲み込む時、異物感と同時に弱いが別の感覚がある。
もっと押し込んで突いてほしい。連日伽の指南の間中張り型をくわえ、最後の射精は必ず肛門の奥を刺激されていた月鳴は、前立腺で得る悦びを覚えていた。
月鳴の啼きを聞きながら、白火はわずかに体外に出ている張り型の底を指で叩いては上下する。トン、トン、と不規則に快楽のツボを刺激され、もどかしさに顎を上げる。
「あぁあ、あ、ん」
腰をくねらせると張り型が内壁を様々に押す。白火の弄ぶような動きに焦れて、自ら快を求めて腰を、尻を振りたくる。白火が陰茎の先を口に向けてきて、夢中でそれを含む。
――これで、突かれる。
こうまで孔虐を教え込まれてなお、月鳴の菊門は男を迎え入れていなかった。数日かけて蹂躙され、ようやく口を開き始めたつぼみに今夜とうとう、雄をねじこまれるのだ。
燃え上がる体は求めることをやめない。果たしてこの仕打ちに耐えているのは失った宝を取り戻すためか、ただ淫楽に耽りたいだけなのか、月鳴に判断できる力は残っていなかった。
「恋をしていると思え」と、白火は稽古の間中繰り返し言った。「目の前の相手と混ざり合うことが、相手も自分も至上の幸福だと思え。交わりを心の悦びにつなげられるかどうかで、お前の価値は決まる」と。
白火が月鳴の体を反転させ、上にのしかかる。敷布にまだ短い月鳴の黒髪と、長い白銀の髪が広がる。顔を上気させ汗を流す月鳴を、白火の切れ長の瞳が見下ろす。じっと見つめあう。膝を抱えられた。
「月鳴、――私を受け入れるか?」
言葉を投げかけられて、月鳴の眉が震えた。じわじわと瞳に涙が盛り上がる。
――どうして、俺に確かめる。
もう後戻りできない。生きるか死ぬか。朱昂を、自分を取り戻せるかどうかなのだ。白火を、見知らぬ誰かを受け入れなければ、自分は死ぬ。選択肢など存在しないのに、なぜ。
涙をこぼして月鳴は白火を見つめ、熱っぽく潤む黄色を見つめるうちに理解した。白火は問うているのだ、「恋をしていると思えるかどうか」を。
十日近い記憶しかない月鳴は恋を知らない。だが、相手と混じりたいと思うほど強い気持ちを恋というなら、もしかしたら、朱昂への想いは恋に匹敵するかもしれない。
月鳴は目を閉じる。闇の中に、白い肌と心の底を刺し貫く眼差しを思い浮かべる。心臓よりもずっと奥の方で、波立つものがあった。ゆっくりとそれは大きくなる。膨れ上がる、弾けて片割れと混ざり合う時を待っている。
月鳴は瞳を開いて、手のひらを白火の頬にあてた。黒い瞳は軽薄な快楽に浸かっているのではなかった。強く求めているのだと訴える。白火が見入るように眉を下げ、漆黒を見つめる。
「欲しい……、あげるから、下さい。あなたを」
白火の男根があてがわれた。月鳴が息を吐くのに合わせて侵入を始める。張り型とは段違いだった。圧倒的なものに、こじ開けられる。内壁は痛みながらも白火に吸いついた。侵入者にぎゅうっと絡みつく。
「っあ、」
「あぁ……」
白火が呻きながら腰を引く。絡みつく粘膜を振りほどくように離れ、また押し込まれる。引きずられては、突き入れられ。満ちては引いて。雄を迎え入れる内壁が熱を持ち、膨らむような気持ちを月鳴は覚えた。熱くなる。こすられる度、受け入れる度、ぐっと雄の嵩が明らかに増した。膨らんでいる。一緒に求めあっている。
「ああぁ!」
月鳴が悦びに叫んだ。ぐっと膝が割り開かれ、うねる内壁に埋まった快楽の実を肉杭で穿たれた。
「いやぁ! いや、あ、あ」
張り型とは全く違う。熱くて、大きくて、どこに腰を逃がしても追いかけてくる。強すぎる快感に拒否の声を上げながら、月鳴は敷布を掴む。白火は下で悶える月鳴を抱きしめた。逃れられない強い腕に月鳴は涙を流す。嬉しい。そんな自分に戸惑う気持ちも、高まる鼓動に掻き消える。
「だめ、だめ……いいの、いい。だめ、もういっぱいだから!!」
拒否と悦びを交互に繰り返す。頭の中がかすんでくる。気持ちいいでいっぱいになる。白火が小さく甘い息を吐いている。鼻にかかった呻きが、月鳴をさらに追い立てる。高みに、もう逃げられない。もう後戻りできない。
――許して。
唇だけで、請うた。月鳴が涙を落としながら叫ぶ。
「いく、いく、いっちゃ、ぅう!」
「くっ、月鳴、受け入れろ!!」
何かが、決壊した。鋭い快感の奔流にのまれて、目の前が真っ白になる。いつの間にかさすられていた陰茎から白い蜜を噴き上げた。
「くぅううう……!」
激流に喘ぎながら奥が熱くなる。白火に精を吐かれている。なかがいっぱいになっちゃうと、男根が引き抜かれる際の快感に腰を震わせる。とくりと白濁を滲ませながら、月鳴は大きく息をついた。
どうか許してくれと、告げる先もない懺悔が最後に残った。
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