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第六話 夢王の懲罰(5)
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「淘乱?」
「ちょっと虐めたらしくしく泣いちゃってまあ、可愛いんだから。ほら、拭いてあげる。着替えもさせてやるから泣きやみなさい」
「自分でやる」
膝を割り開こうとする淘乱の手から布巾を奪って、体を拭う。傍で淘乱が笑う気配がしたかと思うと、胸の袷の間に淘乱が腕を突っ込み、上着を脱がしてくる。裸の肩に口づけられるのにびっくりして肩を揺すると、淘乱が噴きだして笑った。
「月鳴の傍にいて何でそんなに初心なのかな。もしかして初めてだったの?口でされるの」
「お、俺は化け物なんだろ!触るなよ!」
「拗ねるな、謝るよ。ごめんな。初めてならもっと優しくすれば良かった」
布巾を奪われたかと思うと、肩を抱かれくちづけられる。嫌なのに、またも目を覗きこまれ、腕を上げて、膝を開いて腰を上げてと好き勝手命じられるまま体をいじられる。
「はい。お終い」
ぽん、と手を叩かれ、はっと気がつくと、藍色の長袍を身に纏っていた。驚いて裾を摘まんでいると、淘乱がくすくすとおかしげに笑って抱きついてくる。
「何されてると思ったの?お前、泣き顔もいいけどびっくりした顔も中々いいね。ね?『英龍』」
「なっ!?」
にんまりと笑った淘乱から出た本名に、魁英は目を丸くした。淘乱がすりすりと頬ずりをする。不精髭がちくちくと魁英の頬を刺す。
「ふふ。本名を教えないのは賢いけどな、夢を操ると言っただろう。俺は夢も覗けるんだ。お前、気絶している間に夢の中で英龍って呼ばれていた」
「嘘だ。そんな夢見ていない……」
「夢のことをいちいち覚えてる奴はいねえなぁ。そんな顔するなよ、俺の名前を知っているんだからおあいこだろう?あとな人前じゃ夢王って呼ぶんだな。俺も意外に偉いんだよ。淘乱って呼んでいいのはお互い裸の時だけ、な?」
耳元に囁かれながら太ももを意味ありげに撫でられる。やめろ、と身をよじろうとした魁英の耳に氷のような声が聞こえた。
「触るな」
「月鳴様」
「朱昂!終わったか?」
月鳴に睨まれ動けない魁英の傍から立ち上がった淘乱は、月鳴の隣に立つ朱昂に駆け寄る。
「あと丸一日安静にしていれば、今までどおりに動けるようになる」
ありがとう!と屈託なく笑う夢王に、朱昂は頷くとさっと背を向けた。
「帰るぞ、伯陽。それ、連れて帰るのか?」
「……」
「朱昂、ちょっと耳貸せ。――。」
無言のままのしもべに、軽く肩をすくめてそのまま歩き出した朱昂を、夢王が引き留める。長身を屈めて小柄な朱昂に耳打ちをすると、二人そろって魁英を盗み見た。
にやつく夢王と少し眉を上げて見つめてくる紅い目。主人の様子に月鳴までもが訝しげに魁英を見る。
「どうしてそんなこと」
「野暮なこと聞くなよ」
魁英から視線を外して見上げてくる朱昂に、夢王は喉を震わせて笑うとわずかに舌をちらつかせた。
「悪食」
ぼそり。小声で夢王を罵ると朱昂が月鳴に短く命じる。
「連れて帰る。このまま夢に堕とされるのも嫌なのだろう、お前は」
黙り込む月鳴の隣で、朱昂は徐に自分の手を口に持っていくと、がぶりと噛みついた。皮膚を噛み切ると、赤いものが床に滴る前に、甘すぎる匂いに気づいた魁英が牙を震わせた。唾液が湧いて、抑えきれない衝動が背筋を駆けのぼる。
魁英の表情の変化に気づいた月鳴が魁英に飛びつくと、拳で鳩尾を殴った。
瞳孔を細め獣のように叫んだ魁英に、夢王が顔を引きつらせる。その表情に出会うのは初めてではない朱昂は、だらりと血で濡れた手首を思い切りよく振った。
飛び散った血液がまるで意志があるかのように魁英の手首と足首に飛びつく。赤い粘液がじわりと皮膚を侵食したかと思うと、うねりながら魁英の手首と足首をそれぞれ縛り上げた。もう一度手首を振ると、朱昂の血液が魁英の口を覆う。
手足を拘束されても尚、朱昂の血液を求めて暴れる魁英の喉笛を月鳴の足が踏み潰す。次いで鳩尾を再び殴られ、ようやく魁英は小刻みに震えるだけになった。
「ヴ、う……」
「おいおい……」
「邪魔したな」
月鳴はぐったりとした魁英を肩に担ぎ、朱昂の下に歩み寄る。うっすらと微笑みながら朱昂は淘乱に別れを告げて、そのまま悠々と夢王の屋敷から去っていった。
「ちょっと虐めたらしくしく泣いちゃってまあ、可愛いんだから。ほら、拭いてあげる。着替えもさせてやるから泣きやみなさい」
「自分でやる」
膝を割り開こうとする淘乱の手から布巾を奪って、体を拭う。傍で淘乱が笑う気配がしたかと思うと、胸の袷の間に淘乱が腕を突っ込み、上着を脱がしてくる。裸の肩に口づけられるのにびっくりして肩を揺すると、淘乱が噴きだして笑った。
「月鳴の傍にいて何でそんなに初心なのかな。もしかして初めてだったの?口でされるの」
「お、俺は化け物なんだろ!触るなよ!」
「拗ねるな、謝るよ。ごめんな。初めてならもっと優しくすれば良かった」
布巾を奪われたかと思うと、肩を抱かれくちづけられる。嫌なのに、またも目を覗きこまれ、腕を上げて、膝を開いて腰を上げてと好き勝手命じられるまま体をいじられる。
「はい。お終い」
ぽん、と手を叩かれ、はっと気がつくと、藍色の長袍を身に纏っていた。驚いて裾を摘まんでいると、淘乱がくすくすとおかしげに笑って抱きついてくる。
「何されてると思ったの?お前、泣き顔もいいけどびっくりした顔も中々いいね。ね?『英龍』」
「なっ!?」
にんまりと笑った淘乱から出た本名に、魁英は目を丸くした。淘乱がすりすりと頬ずりをする。不精髭がちくちくと魁英の頬を刺す。
「ふふ。本名を教えないのは賢いけどな、夢を操ると言っただろう。俺は夢も覗けるんだ。お前、気絶している間に夢の中で英龍って呼ばれていた」
「嘘だ。そんな夢見ていない……」
「夢のことをいちいち覚えてる奴はいねえなぁ。そんな顔するなよ、俺の名前を知っているんだからおあいこだろう?あとな人前じゃ夢王って呼ぶんだな。俺も意外に偉いんだよ。淘乱って呼んでいいのはお互い裸の時だけ、な?」
耳元に囁かれながら太ももを意味ありげに撫でられる。やめろ、と身をよじろうとした魁英の耳に氷のような声が聞こえた。
「触るな」
「月鳴様」
「朱昂!終わったか?」
月鳴に睨まれ動けない魁英の傍から立ち上がった淘乱は、月鳴の隣に立つ朱昂に駆け寄る。
「あと丸一日安静にしていれば、今までどおりに動けるようになる」
ありがとう!と屈託なく笑う夢王に、朱昂は頷くとさっと背を向けた。
「帰るぞ、伯陽。それ、連れて帰るのか?」
「……」
「朱昂、ちょっと耳貸せ。――。」
無言のままのしもべに、軽く肩をすくめてそのまま歩き出した朱昂を、夢王が引き留める。長身を屈めて小柄な朱昂に耳打ちをすると、二人そろって魁英を盗み見た。
にやつく夢王と少し眉を上げて見つめてくる紅い目。主人の様子に月鳴までもが訝しげに魁英を見る。
「どうしてそんなこと」
「野暮なこと聞くなよ」
魁英から視線を外して見上げてくる朱昂に、夢王は喉を震わせて笑うとわずかに舌をちらつかせた。
「悪食」
ぼそり。小声で夢王を罵ると朱昂が月鳴に短く命じる。
「連れて帰る。このまま夢に堕とされるのも嫌なのだろう、お前は」
黙り込む月鳴の隣で、朱昂は徐に自分の手を口に持っていくと、がぶりと噛みついた。皮膚を噛み切ると、赤いものが床に滴る前に、甘すぎる匂いに気づいた魁英が牙を震わせた。唾液が湧いて、抑えきれない衝動が背筋を駆けのぼる。
魁英の表情の変化に気づいた月鳴が魁英に飛びつくと、拳で鳩尾を殴った。
瞳孔を細め獣のように叫んだ魁英に、夢王が顔を引きつらせる。その表情に出会うのは初めてではない朱昂は、だらりと血で濡れた手首を思い切りよく振った。
飛び散った血液がまるで意志があるかのように魁英の手首と足首に飛びつく。赤い粘液がじわりと皮膚を侵食したかと思うと、うねりながら魁英の手首と足首をそれぞれ縛り上げた。もう一度手首を振ると、朱昂の血液が魁英の口を覆う。
手足を拘束されても尚、朱昂の血液を求めて暴れる魁英の喉笛を月鳴の足が踏み潰す。次いで鳩尾を再び殴られ、ようやく魁英は小刻みに震えるだけになった。
「ヴ、う……」
「おいおい……」
「邪魔したな」
月鳴はぐったりとした魁英を肩に担ぎ、朱昂の下に歩み寄る。うっすらと微笑みながら朱昂は淘乱に別れを告げて、そのまま悠々と夢王の屋敷から去っていった。
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