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第八章・皇女・クリスティーナ。15

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 おぎゃあ、おぎゃあと大きな泣き声が小屋の外まで聞こえるほどだった。
 はぁはぁっと肩で息をする。脱力感が残る中、レイヴァン様を見る。
 レイヴァン様は慣れない手付きで、恐る恐るだが赤ん坊を、たらいのぬるま湯で洗う。そしてバスタオルで優しく包み込みながら拭く。
「エルザ……よく頑張ったな。ありがとう……クリスティーナだぞ」
 レイヴァン様は目尻に涙が溢れさせながら、私の傍に連れて来てくれた。
 連れて来られた赤ん坊はベッドの上に置く。覗いて見ると目を開けたクリスティーナと目が合う。あっ……やっと会えた。
 夢みたいな無の世界でしか会った事はなかったけど、ようやくちゃんとした形で出会うことに。嬉しさと何とも言えない感情が溢れてくる。
 産まれたばかりの割には整った顔立ちをしており、色も白い。髪も皇族特有の白銀で碧眼。大きな目でジッと私を見ていた。
「クリスティーナ。ママよ。分かる?」
 私は優しい声で話しかける。ジッと見ていたクリスティーナはニコッと微笑むと、
「まんま~」と元気よく呼んできた。
『クリスティーナ。産まれたばかりの赤ん坊が母上の名を言うのはおかしいぞ?』
 するとクリスは容赦なくそうツッコんだ。まぁ、確かに産まれて間もない赤ん坊はハッキリと言葉に出来ないが。
 それに耳は聞こえても、視力はまだ弱くて見えないはず。
「いや……クリス。君の場合の方が凄かったぞ? 心の中で喋りまくっていたのだからな。今もそうだが……」
 レイヴァン様が呆れたように同じ事に対してツッコんだ。私はそのやり取りを聞いてクスクスと笑ってしまう。フフッ……似た者同士ね。
 そう思いながらクリスティーナの手に触れるとギュッと握り返してくれた。そしてニコニコと笑ってくれる。この時を待っていたわ。可愛い私の娘。
 アルセント帝国第一皇女であり、時の神・クロノス様の次期後継者。どんな人生を歩むのか分からないけど、いっぱいの愛情を注いであげたいと思った。
 するとレイヴァン様が「もう一度抱いてもいいだろうか?」と聞いてきた。
 私はクリスティーナを渡すと、レイヴァン様は大事そうに抱き直す。よしよしとあやしながら
「クリスティーナ。パパだぞ。パパって言ってごらん?」
 またパパと言わせようと話しかけている。この前は失敗して泣かせてしまったが、今回はどうだろうか? 
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