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第五章・愛するが故に。4

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「幸正様。お下がりください。伊賀の忍び達に挟み撃ちにされました」

 幸正だって⁉ ってことは、この中年男性が甲賀の当主で母の許嫁だった人⁉
 私も驚いたが、すぐハッとして構える。しかし望月幸正という男は私を見て驚いていた。

「紅葉……良かった。生きていたんだな?」

 まだ母と間違えて生きていることに喜んでいる。どうやら母に似ている上に同じ服装だから勘違いをしているようだった。

「違います。私は、服部紅葉の娘。アイリスと言います」

 私は自己紹介をする。すると幸正という男は驚いた表情をした後に眉をひそめる。不機嫌そうに。

「紅葉の……娘だと⁉」

「はい。母はギルス大国で私を産んで、守るために孤児院に預けました。母は死にました。だから私は母ではありません」

 この人が母の事を愛していたんだ? 死に追いやったと思い伊賀を憎むほどに。
 それを聞いた幸正って人は、さらに怪訝そうな表情になる。

「紅葉か、異国の地で他の男と恋をし、子供を宿したと聞いていたが。まさか貴様が、その娘だとはな」

「はい。この度は母の勝手を申し訳なかったと思っています」

 話し合いで解決が出来るのならそうさせたい。しかし一度亀裂が出来た穴は、そう簡単には塞がらないだろう。

「アイツ……紅葉は私を裏切った。本来なら異国の男ではなく私と一緒になるはずだった。その上、自殺をするなんて。それも全ては異国に行かせたからだ」

 綺麗な顔立ちが歪むほどに怒りを露わにしていた。祖父の言う通りに母を愛するが故に伊賀に怒りを示していた。

「待って下さい。それは逆恨みと言うものではありませんか? 確かに母は、異国で恋に落ちた。でも、それは母が本気で好きになった人で。あなたではなかっただけです。誰が悪いとかではなくて。どうしても譲れなかったんだと思います」

 母はどんな風に父に出会い惹かれたか分からないけど、きっと恋に落ちる瞬間は皆一緒だと思う。愛しくて胸がギュッと締め付けられるぐらいに切なくなって。
 この人ではないとダメだと想うの。それが恋だから。

「逆恨み? 例えそうだったとしても紅葉はもう居ない。私の手にも……こんな屈辱。
こんな裏切られ方は許すものか」
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