執筆徒然日記

期待

「人に期待なんかしない方がいいんだよ。私はそうしてる！」
胸を張って、友人が言った。
1人ではない。
2人が直接私にそう言い、もう1人は賛同し、困って調べたネットの記事にも書いてあった。
その言葉に、無性に苛立った。
それは“期待し過ぎないように”という意味だったのかもしれないが、それでも私は嫌だった。
「人に期待しない」なんて、思いたくない。
思ったとしても、口になんかしたくない。
ましてや、そんな宣言、絶対にしたくない。

わかる。
わかってる。
その方が楽だ。
何もかも諦めてしまえば楽になる。
諦められればよかった。
私も、諦められたらよかった。
でも、そういう性格じゃない。
諦められない。
口では「諦めた」と言ったとしても、絶対に諦められない私がいるのだ。

「あんたに期待なんかしていない」と言われて育ってきた。
期待されていないから、私の話なんか誰も聞いてくれなかった。
「誰かやりたい人はいますか？」と先生が聞いて、手を挙げた時、先生は私を無視して手を挙げていない子を指名した。
（そういう先生ばかりだったわけじゃないけれど）
その子は困っていた。
「なんで私…？」って、すごく戸惑っていた。
私は必死に笑顔を作って、「やりなよ」って言った。
悔しかった。
誰も期待してくれない。
誰も話を聞いてくれない。
誰も…。

だから、私は人に「期待しない」なんて言わない。
そう言われて楽になる人もいるのかもしれない。
過剰に期待されて育ってきた人は、期待されることに怯えるのかもしれない。
何度も何度も人から裏切られた人は、期待しないことで自衛しているんだろう。
わかる。
それはその人の価値観で、その人はその人の考えを貫けばいい。

…まあ、貫けているところなんて見たことないけど。
見ていて、「期待しないとか言いながら、期待してんじゃん」ってことがほとんどだ。
期待しちゃうから、わざわざ宣言してるんだろうな…と思う。
本当に人に期待していない人は、わざわざ「人に期待しないようにしてる」なんて言わない。
「え？あ、何も考えてなかった！まあ、いいんじゃん？」って返される。
そういう人のことは、素直に「すげー…」って思う。
きっと、人に期待してない…というより、自分軸がしっかりある人なんだろうなって思う。
他人に対しては“こうしてくれればいいな～”くらいの感覚で、たとえ相手が何もしてくれなくても、勝手にその人はその人のやりたいようにやるのだ。
それが、傍からは、人に期待していないように見えるんだと思う。

そういう人でも、パートナーは浮気しないって、信じてるんじゃないかな。
「この人は裏切らない」って、期待するから、お付き合いするなり結婚するなりするんじゃないかな。
もちろん、複数人を同時に好きになるセクシャリティもあるから、そういう人は別として。
基本的にそういう人は、相手に自分のセクシャリティを明かすことを前提としているらしいし。
まあ、とは言え、自分軸がしっかりした人はパートナーに浮気されても、結構すぐに復活すると思うけども。
それでもやっぱり、人に期待しないなんて、なかなか出来ないと思うんだよな。
どんなに自分軸がしっかりしていても。
本当に全く誰にも期待せずにいられる人は、サイコパスの部類に入るんじゃないかな？

たとえば「この人は浮気する人だろう」と最初からわかっていたら、受け止められる人は受け止められるんだと思う。
「この人は浮気するだろうけど、金は稼いでくれるからそれでいい」と割り切っている人は、世の中に案外たくさんいるんだと思う。
それは、“浮気しない”という期待をしない代わりに“金を稼いでくる”という期待をかけているわけだ。
全く何も期待していない相手と一緒にいて、なんの意味があるのか？
ただの時間の無駄じゃないか？

たとえば「期待されたくない」と思っている人でも、仲良くする友人はいて。
「この人は私に期待しないでいてくれるから居心地が良い」と言うわけだ。
つまり、相手が自分に期待しないことを期待している。
やっぱり期待している。

さて。
私は2年とちょっと前に、とある人ととある約束を交わした。
綿密に計画を立てて、各々やれることを一生懸命やるのだと、私は信じていた。期待していた。
私の人生で1番キラキラした夢になった。
長丁場になるだろうけれど、その人となら乗り越えられると信じていた。
その人の短所も長所も理解しているつもりだった。
この世界で誰よりも信頼していた。
もちろん盲信というわけではなく、他にも信頼している友人はいるけれど、それでも“誰よりも”と言い切れる自信があった。
だからその人の短所をカバーすることくらい、なんてことなかった。
なんてことなかった、はずだった。

半年過ぎて、その人は各々頑張るどころか、私の足を引っ張るようになった。
引っ張るというより、蹴落とすに近い。
“短所”なんてものじゃない。
カバーできるとかできないとかの問題じゃない。
今まで見たこともないような態度で、まるで私の知らない人みたいな態度で、私を振り回した。
それでも、なんとか夢のために、私は必死に歩いた。
だって2人で約束した夢だったから。
2人でワクワクしながら交わした約束だと思っていたから。
きっと、彼女は彼女なりに辛いのだろう…と案じ、その分、私の身を、たくさん削った。
いつか戻ってくれますように、と祈りながら。
いつか「ごめんね、ありがとう。お待たせ」って笑ってくれますように、と願いながら。
でも、次第に心が折れるようになった。
次々と言葉の刃でグサグサと刺された。

そして私の自信は粉々に打ち砕かれた。
人間不信になった。
こんなにも本気で死を望んだのは、初めてだった。
死のうとしたことを告げようか散々迷って、結局告げた。
告げたら何か変わると、わかっていたのかもしれない。
期待通り、彼女は変わってくれた。
努力してくれた。
彼女は「自分でも自分がわからなくなっていた」と言った。
たくさん謝ってくれた。
でも、死を天秤に掛けた私は、彼女を信じられなくなってしまった。
私は1番掛けちゃいけないものを、掛けてしまったのだ。
「私が死のうとしたから、変わってくれたんでしょ？努力してくれたんでしょ？」と卑屈になった。
彼女が何をしてくれても、心が動かなくなっていた。

落ち着いた彼女ともう一度約束の話をした。
「まだ、この計画を実行する気はある？」と。
そしたら、今の、死にたい状態の私とでは、約束は果たせないと返された。
他にも色々理由を言われたけれど…そんなのは約束した時点で何もかもわかっていたような内容だった。
そして、わかったんだ。
私の心を壊すことで、彼女は約束を反故にしたかったのだと。
無意識だったのかもしれない。
でも本当は、彼女は私と同じ夢を見たくはなかったのだと悟った。
悲しくて仕方なかった。
勝手に1人で浮かれていた。
もう記憶にないけれど、もしかしたら私が彼女に押し付けてしまったのかもしれないと思った。
だとしたら、申し訳ないと、心底思った。

ワクワクする未来を期待していた。
夢を、見ていた。
あれから、次のやりたいことが見つからない。

期待した私が悪かったの？
約束なんかしなきゃよかったの？

落ち着いたら彼女は「ごめんね、頑張ってくれてありがとう。お待たせ」って、「今度こそ2人で頑張ろう」って、言ってくれると心のどこかで信じていた。
でも、そうはならなかった。
約束は果たせないと言われてしまった。

どうすればいい？
どうすれば立ち直れる？
もう、あれから1年半も経つのに、全然立ち直れない。
全然、ワクワクしない。
夢が、見つからない。
何を思い浮かべても「それをして何になるんだよ」って…「どうせ」って、思ってしまう。
ただ、生きてるだけ。
そのことに、全く意義を感じない。
意味を探したいとも思わない。

昔何度も聞いて、何度も救ってくれた曲にも、もう救われない。
【積み重ねた　思い出とか　音を立てて崩れたって　僕らはまた　今日を記憶に変えていける】
そう思えたのは、希望があったからだ。
今の私には、何がある？

ひとりだけで叶える夢に、何の意味がある。
もう、叶えてきたよ。
自由になったし、ご飯も美味しく食べられるようになったし、毎日歯磨きもしてるしお風呂も入ってるし自炊もしてるし、ちゃんと定期的に掃除が出来るようになったし、運動も頑張れてるし、百均で働けたし、たくさんの国や街に行ったし、大企業にも入れたし、家族からも友人からも尊敬されるようになった。
大学の先生からは「院に行けばいいのに」って言ってもらえたし、会社の先輩からは「すごいよ！！本当に！！」って目をキラキラさせながら言われたし、副社長がやたら気に入ってくれたし。
大企業の副社長だよ！？
すんごい気に入ってくれてさ、イケオジでさ、きっと昔の私だったら見向きもされないだろうに…努力の賜物だよ。
…もう、十分だよね。
十分だよねって、思うんだよ。

それでも、手元には今、何も残っていない気がしているんだよ。
だからね、もう自分の寿命なのだと、思ってしまう。
だけどね、大切にしたいモノはまだ残っているし、なんとか…なんとか…立ち直りたいって思ってる。
全力で逝こうとする私に、必死に抗ってる。
自分に期待してる。
未来に期待してる。
でも同時に絶望している。

「期待しない」なんて言わないで。
期待していて。
「期待しない」なんて思わないで。
ずっとずっと期待していて。
「がんばれ、がんばれ」って、まだ言っていて。