執筆徒然日記

常森 楽

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希望

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実は、去年…正確には一昨年の末から、私はメンタルの不調が続いていた。
虐待されていた時にも、それ以外に辛いことがあった時も、メンタルクリニックとかには通わずに、なんとか生き抜いてきた。
メンタルクリニックに通わない代わりに、たくさん本を読んで、たくさん勉強して、たくさん行動して、考え方を変えて、自分で自分の心を癒やしていった。
自分の良いところも悪いところも全部、客観的に見られるようになったし、それを適切に表現する術も身につけた。
こんな辛い経験を乗り越えられたのだから、私はこれから、どんな辛いことがあっても、大体は乗り越えられるだろう…と思っていた。
でも、まさか、虐待されていた時よりも辛い思いをする日が来るとは思わなかった。

虐待されていた時は、「自由になりたい」という、ある種の希望があった。
親から束縛されていたから、やりたいことはたくさんあるのに、何一つやらせてもらえていない感覚が強かった。
それは希望だった。
何度殴られても、何度傷ついても、立ち上がるための希望だった。
希望があるのは、救いだ。
その希望に向かって走っていけばいいのだから。
「そこに向かうためにはどうすればいいのか?」考え、模索し、失敗しても、また別の方法を探す。
失敗は敗北ではなかった。
「この方法がダメだとわかっただけ。それはむしろ一種の成功だ」と、まるでエジソンの名言を真似るように心の中で繰り返した。
そして、行動している内に上手くいくことが増えていった。
最終的には、虐待していた親からも、私を見下していた祖父母からも尊敬されるようになった。

希望に向かっている最中、何度も死にたくなった。
何度も自殺未遂をした。
それくらい、辛かった。
でも過ぎ去ってみれば、冷静に思い返してみれば、いつも本気じゃなかった。
一時的な苦痛から逃れたくて、衝動的にそうしていたように思う。
その一瞬は本当に死にたかったけれど、結局いつも希望が私の胸の内に輝いていた。
あの時、死ななくて良かった…と、思った。

これだけ酷く辛い経験を自力で乗り越えられたのだから、もう、自分は大抵のことは乗り越えられるだろう…と自信もついた。
だけど…たった1年半の間で、本気で死にたいと何度も願ってしまうような出来事が起きた。
死を切望する自分を殴り、何度も何度も回避しようと努力した。
まるでであるかのように、そちらに全力で向かおうとする私を、必死に理性で止めた。
5時間以上、本気で命を絶とうとする自分を説得することもあった。
何度も、何度も。
メンタルクリニックに通うようになった。
嬉しかった思い出をたくさん引っ張り出す。
歌を歌う。
自殺に失敗した人のブログを読む。(失敗すると車椅子生活になる人も多いらしい)

『いたずらはため息と共に』を書き始めたのも、妄想することで現実から目を背けるための手段のひとつだった。
まさか嬉しい感想を書いてくれる人が現れるだなんて思いもしなかった。
それもまた、私の命を繋いでくれた。

でも次第に、それすらも効力が薄れていった。
「あぁ…もう、ダメだ…」と思うことが増えて、自分の命を繋ぎ止めるのも限界に達しようとしていた。
神様なんて信じていないけれど、一応祈祷でもしてもらうか…と思って、有名な神社で、人生で初めて祈祷してもらった。
心なしか、良い風が吹くようになった気がした。
…なるほど、人はこうして宗教にハマるのだな…と知った。
まあ、私はまだ、ハマってはいないんだけれど。
前の記事でも書いたけれど、「事実は小説より奇なり」という言葉が好きなので、私には見えないだけで、お化けや妖怪、神様は存在すると思っている。
だって、存在しなきゃ、物語は生まれないだろうから。
(もちろん、科学が発達する前、理解できない現象をお化けや妖怪や神様が原因だと結びつけたという文化は知っている)

虐待されていた時、ストレス発散のために、よく殴っていたぬいぐるみがある。
いつも殴り終えたあとに「ごめんね」って謝って、いずれ私はこれを人にしてしまうのかもしれないと怯えた。
恐怖と共に、ぬいぐるみを抱きしめた。
幸い、現在まで家族以外に手を出したことはない。
(家族に手を出した時も、私からしたことはなく、相手が私に暴力を振るうから、自衛のためにやり返していた)
悲しい時も怒った時も嬉しかった時も、いつも、そのぬいぐるみに話した。
自信がついてからは、そういうことをしなくなっていた。
祈祷してもらった後、そのぬいぐるみに、よく話しかけるようになった。
また、良い風が吹くようになった気がした。

人間不信になって、殻にこもった。
でも、怯えながらも、過去の経験から、人には会った方が良いと思っていたから、「この人は、私を傷つけるようなことは言わないはず」と思える人とは、極力会うようにした。
それでも、今の私は薄い氷のように繊細だから、本当に些細なことで傷ついた。
普段なら傷つかないようなことで傷ついた。
もっと殻にこもった。
どんどん会う人数が少なくなっていった。
最後に残された人が3人いた。
その内2人は、とても心許なく、癒やしてはくれるものの、命を繋ぎ止めてくれるほどの存在ではないと思っていた。
なぜなら、まだ子供だから。
まだ、この世に生を受けてから、たった5年しか経っていなかったから。
…でも、違った。

真っ直ぐに私を見つめて、彼らは私を受け止めた。
受け止める気なんて、さらさらないだろう。
そもそも、彼らに私の苦悩は理解できない。
当然、打ち明けたこともない。
でも彼らは私を簡単に受け止めた。
「大好き!」って抱きしめてくれた。
「楽はかっこいいし可愛い!」って褒めてくれた。
親でもないのに、彼らは、私を見つけると駆け寄ってきてくれる。
私の存在を、丸ごと受け止めてくれた。
私の努力を、何も知らないくせに、いとも簡単に認める。
嬉しくて、嬉しくて、どうしようもなく涙が溢れた。
切れかかっていた命の糸が、新たに紡がれていく。
ホッとした。
必死に回避しようとしていたの光が、少し陰った気がした。
完全に消えたわけではない。
まだまだ不安定だ。
それでも…この、ほんの少しの陰りが、私にとっては心地良い。

そして最後の1人に、最近、会った。
子ども達と会って、割とすぐ後のことだった。
率直に、会えて良かった。
子ども達に会った後だったのも良かった。
その人は、私にとっては眩しかった。
努力家で、前向きで、出会った頃は幼い印象が強かったのに、会う度に驚かされ、日々成長しているのだと感じさせられた。
眩しすぎて、あまり会いたいと思えなかった。
それでも、大切にしたい存在だったし、子ども達のおかげで少し回復したし、誘われたので会うことにした。
彼女は言った。
「たくさん友達はいるし、友達と遊んだり話したりするのは楽しい。でも、言葉で言い表せないモヤモヤがある」と。
「このモヤモヤが何かはわからない。でも、居心地の悪さみたいなのを感じる」と。
まさか、誰とでも親しくなれる彼女がそんなことを思っているだなんて、想像したこともなかった。
いつも楽しそうだったし、多少の悩みはあるんだろうけれど、毎日が充実していそうで羨ましいなあと思っていた。

だから、少し安心した。
彼女でも、そういう風に思うのか…と。
人間不信に陥っていた私は、彼女のその悩みを聞いて、安心した。
私だけじゃないんだ…と。
私が苦悩を打ち明けると、彼女は「頑張ったんだね」と呟いた。
今まで会った人…悩みを打ち明けた人の、誰も、そんなことを言ってくれはしなかった。
ああ、そうだ…。
私はずっとそう言ってほしかったんだと知る。
努力を否定され、それでも頑張って頑張って頑張って、なのに認めてもらえず、自分の存在意義がわからなくなった。
レズビアンやゲイ(バイも含む)は今の国(自民党)から存在を認めてもらえていない。
元々それに対して不満があったから、この繊細になっている状態では、ニュースを見た時に余計に傷ついたりもした。
だからニュースもほとんど見なくなっていた。
周囲の人からも認められない、国からも認められない、そんな私の存在意義が、わからなくなっていた。

私にはイメージが浮かぶ時があって。
子ども達と、その子のおかげで、自分の体からプシューッと黒い影みたいなのが抜け出た感じがした。
悪いものに取り憑かれていて、それが消えていったみたいな…そんなイメージだ。
イメージが浮かぶと、自分の悩みの形が理解できたような気がして、前進できた感覚が得られる。
まだまだ不安定な感覚も残っている。
完全に抜け出せたわけでもない。
でも「少しずつ、良くなってきてるのかな?」と思えた。
そう思えただけで、今の自分には十分だ。
虚無から抜け出せたのなら…が希望ではないのだと、感覚的に少しでも掴めたのなら、それは良い事に決まってる。
もう少し…もう少しだけ、待ってみる。
果報は寝て待てとも言うし。
寝るのは得意だよ?

次の希望…もとい、夢や目標が見つかるといいな。
そしたら、私はまた立ち上がれる。

私は、悪いことを思い出してばかりいるからね、思い出しちゃうのは仕方ないけれど、なるべく良いことも同時に思い出すように意識し始めた。
リングフィットアドベンチャーで運動も始めたし、なるべく、少しでも自分が「楽しそう」とか「良さそう」って思ったことは、躊躇わずにやってみることにしたんだ。
忙しさも落ち着いてきたし、そろそろ『いたずらはため息と共に』も書くのを再開したい。
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