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9.移ろい
515.大人
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「興味ないから」
苦笑する。
「嫌なこと言われたりされたりしたわけじゃないなら、仲良くなってみたら?」
「目つきが嫌」
「目つき…」
私も昔、色んな人から目が怖いって言われたことあったなあ…。
睨んでるつもりはないのに、そう見えたらしい。
「あいつらと同じ感じがする」
千陽が顎をくいっと上げて、室内にいる大人達を指す。
「媚売ってるっていうか…ヘラヘラしてるっていうか…」
「そっ…か。私には、わからない感覚だなあ」
「穂はわかんなくていい。わかられたら、困る」
「え!?なんで!?」
千陽は伏し目がちに、小さく息を吐いた。
「あたしのこと、嫌いになってほしくないから」
「嫌いになんてならないよ?」
「わかんないじゃん。…あんなママとパパじゃ、さ?」
「あんな…」
「ママもパパも、あたしに厳しくしたりしない。自由にさせてくれる。でも、何かを褒めてくれるわけでもない。愛情があるとも、思えない。パーティの度に思う。あたしって、2人の人形みたいって」
「でも、それが、私が千陽を嫌いになる理由にはならないよ?」
「パーティでの作法は教わった。最低限の食事のマナーは教わったし、ファッションについても教わった。人に媚を売る方法も教わった。自慢して人を不快にさせる方法も…。でも、それが悪いことだなんて、あたし、昔は知らなかった」
「千陽…」
「そのせいでイジメられたんだって気づいたのは、永那が守ってくれるようになってから」
テーブルに肘をついて、わざと悪態をつくように、フォークを食べ物に何度も刺す。
「もし…もし…あの時、穂に出会ってたら…穂が叱ってくれたのかな…。そしたらあたし、ちゃんと自分で気づいて、イジメられなかったのかも」
「私、友達いなかったよ…?私が千陽に何か言っても、的外れなことしか言えなかった気がする」
「でも、きっと、守ってくれた」
大きな瞳が私を映す。
その微笑みは作り物ではなくて、友愛に満ちていた。
「あたし、ママとパパの子じゃなくて、穂の子になりたかったな」
「…すぐそう言うんだから」
「ホントのことだもん」
彼女は食べ物をイジメるのをやめて、軽快に口に放り込んでいく。
「ママとパパ、今夜はホテルに行く。今だって、ラブラブなのをみんなに見せつけるために、そう言いふらしてる」
「そうなんだ」
苦笑することしか出来ない。
「そういうのが当たり前だとさ、気づいたらあたしも、そういうこと言ってんの。同級生に」
「そっか」
「今は気をつけてるけど」
「うん。今の千陽からは想像も出来ない」
「本当?」
「うん」
「あたしと仲良くなる前は?」
彼女が頬杖をついて、私を見下ろすように見る。
…確かに、永那ちゃんに対して…そういう態度を取っていたような……。
「思い当たるでしょ?」
思わず、頬を掻く。
「ホント良かった、穂が鈍くて」
「に、鈍いって…」
「そうでしょ?」
彼女は両眉を上げて、ニコリと笑う。
それは…作り笑顔だ。
“むぅっ”と唇を突き出すと、今度は、彼女が自然に笑った。
「食べ物や飲み物のおかわりはいかがですか?お嬢様方」
声をかけられ、顔を上げる。
爽やかな、スーツを着た高身長の男性が、お皿とコップを手に、立っていた。
「ありがとうございます、久米さん」
千陽がコップを受け取る。
私も真似して、受け取った。
「千陽ちゃん、今日も素敵だね。チャイナ服がよく似合ってる」
「嬉しいです。久米さんも、今日のネクタイは中華風ですね?」
「ハハッ、よく気づいたね。…実は、さり気なく肉まんの模様なんだ」
久米さんと呼ばれた男性が小声で言う。
「本当だ…!」
思わず声を出すと、久米さんが楽しそうに笑う。
「桃さんには叱られちゃうかな?」
スーツのボタンを外して、ネクタイをよく見せてくれる。
「どこで見つけてくるんですか?そういうの」
「ヒ・ミ・ツ。…ところで千陽ちゃん、紹介してもらえるかな?」
「私達の仲に入ろうって魂胆ですか?」
「だめ?」
2人のやり取りが仲睦まじく感じられる。
千陽は隠すこともせず「ハァ」と息を出した。
「こちら、空井穂さん。クラスメイトで、親友です。…穂、こちら、久米聡さん。パパの部下」
演技するように、彼女は手の平を久米さんと私に向ける。
「“優秀な部下”って言ってくれないかな?」
「大学生の時からインターンでパパの会社にいて、優秀だからってパパがお願いして会社に入ってもらったの」
「よろしくね、穂ちゃん」
「よろしくお願いします、久米さん」
「正確には、入社したというより、フリーランスで業務委託契約をしている形ではあるんだけど…まあ、インターンの時からの癖で、部下って感じだね」
ただ、頷く。
…ということは、久米さんも社長さんという立場ではあるのかな?
「座ってもいいかな?」
「もう戻ってくれてもいいんですよ?」
「冷たいなあ、千陽ちゃんは」
ニコニコ笑みを浮かべながら、空いている席に久米さんが座る。
「邪魔しないでください」
そう言いながら、千陽は頬を膨らます。
その姿は愛らしい。
苦笑する。
「嫌なこと言われたりされたりしたわけじゃないなら、仲良くなってみたら?」
「目つきが嫌」
「目つき…」
私も昔、色んな人から目が怖いって言われたことあったなあ…。
睨んでるつもりはないのに、そう見えたらしい。
「あいつらと同じ感じがする」
千陽が顎をくいっと上げて、室内にいる大人達を指す。
「媚売ってるっていうか…ヘラヘラしてるっていうか…」
「そっ…か。私には、わからない感覚だなあ」
「穂はわかんなくていい。わかられたら、困る」
「え!?なんで!?」
千陽は伏し目がちに、小さく息を吐いた。
「あたしのこと、嫌いになってほしくないから」
「嫌いになんてならないよ?」
「わかんないじゃん。…あんなママとパパじゃ、さ?」
「あんな…」
「ママもパパも、あたしに厳しくしたりしない。自由にさせてくれる。でも、何かを褒めてくれるわけでもない。愛情があるとも、思えない。パーティの度に思う。あたしって、2人の人形みたいって」
「でも、それが、私が千陽を嫌いになる理由にはならないよ?」
「パーティでの作法は教わった。最低限の食事のマナーは教わったし、ファッションについても教わった。人に媚を売る方法も教わった。自慢して人を不快にさせる方法も…。でも、それが悪いことだなんて、あたし、昔は知らなかった」
「千陽…」
「そのせいでイジメられたんだって気づいたのは、永那が守ってくれるようになってから」
テーブルに肘をついて、わざと悪態をつくように、フォークを食べ物に何度も刺す。
「もし…もし…あの時、穂に出会ってたら…穂が叱ってくれたのかな…。そしたらあたし、ちゃんと自分で気づいて、イジメられなかったのかも」
「私、友達いなかったよ…?私が千陽に何か言っても、的外れなことしか言えなかった気がする」
「でも、きっと、守ってくれた」
大きな瞳が私を映す。
その微笑みは作り物ではなくて、友愛に満ちていた。
「あたし、ママとパパの子じゃなくて、穂の子になりたかったな」
「…すぐそう言うんだから」
「ホントのことだもん」
彼女は食べ物をイジメるのをやめて、軽快に口に放り込んでいく。
「ママとパパ、今夜はホテルに行く。今だって、ラブラブなのをみんなに見せつけるために、そう言いふらしてる」
「そうなんだ」
苦笑することしか出来ない。
「そういうのが当たり前だとさ、気づいたらあたしも、そういうこと言ってんの。同級生に」
「そっか」
「今は気をつけてるけど」
「うん。今の千陽からは想像も出来ない」
「本当?」
「うん」
「あたしと仲良くなる前は?」
彼女が頬杖をついて、私を見下ろすように見る。
…確かに、永那ちゃんに対して…そういう態度を取っていたような……。
「思い当たるでしょ?」
思わず、頬を掻く。
「ホント良かった、穂が鈍くて」
「に、鈍いって…」
「そうでしょ?」
彼女は両眉を上げて、ニコリと笑う。
それは…作り笑顔だ。
“むぅっ”と唇を突き出すと、今度は、彼女が自然に笑った。
「食べ物や飲み物のおかわりはいかがですか?お嬢様方」
声をかけられ、顔を上げる。
爽やかな、スーツを着た高身長の男性が、お皿とコップを手に、立っていた。
「ありがとうございます、久米さん」
千陽がコップを受け取る。
私も真似して、受け取った。
「千陽ちゃん、今日も素敵だね。チャイナ服がよく似合ってる」
「嬉しいです。久米さんも、今日のネクタイは中華風ですね?」
「ハハッ、よく気づいたね。…実は、さり気なく肉まんの模様なんだ」
久米さんと呼ばれた男性が小声で言う。
「本当だ…!」
思わず声を出すと、久米さんが楽しそうに笑う。
「桃さんには叱られちゃうかな?」
スーツのボタンを外して、ネクタイをよく見せてくれる。
「どこで見つけてくるんですか?そういうの」
「ヒ・ミ・ツ。…ところで千陽ちゃん、紹介してもらえるかな?」
「私達の仲に入ろうって魂胆ですか?」
「だめ?」
2人のやり取りが仲睦まじく感じられる。
千陽は隠すこともせず「ハァ」と息を出した。
「こちら、空井穂さん。クラスメイトで、親友です。…穂、こちら、久米聡さん。パパの部下」
演技するように、彼女は手の平を久米さんと私に向ける。
「“優秀な部下”って言ってくれないかな?」
「大学生の時からインターンでパパの会社にいて、優秀だからってパパがお願いして会社に入ってもらったの」
「よろしくね、穂ちゃん」
「よろしくお願いします、久米さん」
「正確には、入社したというより、フリーランスで業務委託契約をしている形ではあるんだけど…まあ、インターンの時からの癖で、部下って感じだね」
ただ、頷く。
…ということは、久米さんも社長さんという立場ではあるのかな?
「座ってもいいかな?」
「もう戻ってくれてもいいんですよ?」
「冷たいなあ、千陽ちゃんは」
ニコニコ笑みを浮かべながら、空いている席に久米さんが座る。
「邪魔しないでください」
そう言いながら、千陽は頬を膨らます。
その姿は愛らしい。
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