いたずらはため息と共に

常森 楽

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9.移ろい

512.パーティ

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金井かねいさん、おはよう」
「おはようございます。…どうぞ」
お茶の入ったコップを渡される。
「ありがとう」
「ところで、両角もろずみ先輩とお話させてもらえる機会、いつ作ってくれます?」
「あ…忘れてた…」
「先輩…先輩のくせに仕事が遅いですね?」
「…ごめんなさい」
金井さんに睨まれる。
「昨日、永那ちゃんの誕生日で…サプライズパーティを計画するのに忙しかったんだよ。生徒会も、やることがたくさんあったし」
「言い訳ですね?」
“うっ…”と顔が引きつる。
手厳しい…。

「永那先輩、誕生日だったんですか!?」
「あ…飯田いいださん…おはよう」
千陽達が永那ちゃんのストーカーと言っていたから、なんとなく、ほんの少し気まずさを感じる。
飯田さんは、何も気にしていないようだけれど。
「ひそかちゃん!永那先輩の誕生日だったんだって!!プレゼント渡した!?」
中川なかがわさんが首をぶんぶん横に振る。
「ヤバいじゃん…!誕生日って、かなり大事なイベントだよ!?」
「あの…2人とも…空井先輩が挨拶をしているのだから、ちゃんと挨拶は返してください。3年生ですよ?」
金井さんが眉間にシワを寄せる。
「あ…すみません。おはようございます」
「…おはよう、ございます」
2人はそれだけ言って、永那ちゃんに渡すプレゼントについて会議を始めた。

巻き込まれそうになったので、私はその場から離れ、ご飯を受け取りに行く。
金井さんが隣を歩く。
「なんか…面倒そうな子達ですね…」
「め、面倒そうって…そんな風に後輩のことを言っちゃダメだよ?」
金井さんの目が細くなる。
「先輩は、人が好いですね」
…皮肉に聞こえる。
「そんなんだから、私にもナメられるんです」
「私、金井さんにナメられてたの?」
「ペロペロキャンディです」
「…ごめん、ちょっと意味がわからない」
その後も、たまに飯田さんに話しかけられた。
永那ちゃんのことを根掘り葉掘り聞かれるので、曖昧に濁して、その度にご飯に逃げた。
2年生の時とは反対に、食べ過ぎてしまった…。
歓迎された1年生の時が、1番普通に楽しめたかも。

バーベキューは4時間ほどでお開きになった。
片付けはみんなで行い、テキパキと進んだ。
「空井先輩!」と駆け寄ってきてくれるのは嬉しいのだけれど、飯田さんの目的は明らかに永那ちゃんで、片付けの最中もたくさん話しかけられて大変だった。
確か…中川さんが永那ちゃんに憧れて、この高校に入ったんじゃなかった?
中川さんよりも、どちらかと言うと飯田さんの方が永那ちゃんのことが気になるみたいだ。
たまに金井さんが助けに入ってくれて、後輩の気遣いに嬉しくもなった。
金井さんは、いつも厳しくて(特別私には)、何を考えているのかよくわからない子…という印象があったけれど、少しずつ、変わっていく。

ぐってりと疲れて、翌日の日曜日は、ついダラけてしまった。
体の疲労が凄くて、勉強をする体力が残っていない。
こんな状態は初めてで、思っていたよりも、自分のキャパシティ以上に頑張っていたのだと知る。
でも…永那ちゃんの喜んだ顔を思い出すと、頬が緩んだ。
頑張って良かったって、心の底から思う。
こんな疲れも悪くないな、なんて思えるから不思議。

そして水曜日、誉の誕生日があった。
誕生日プレゼントに悩むことはなかったけれど、ケーキの予約や簡単な部屋の飾りつけもしたから、これの準備も含めて、今月の私は忙しくしていた。
誉の欲しがっていたゲームソフトをプレゼントすると、さっそく遊び始めて、お母さんと苦笑した。
永那ちゃんや優里ちゃんは、いつ誉の誕生日パーティをしようかと悩んでいた。
もうすぐゴールデンウィークだし、その時にしようか?とか…それじゃあ遅すぎるか?とか…。
でも、土曜日は千陽の家でパーティがある。
休日にするなら、どちらにしてもゴールデンウィークに差し掛かってしまうことは明白だった。
誉も、それでいいと言っていた。
「楽しみ!」と笑顔が弾けたから、私も楽しみになる。

あっという間に土曜日は来て、目が回ってしまいそうだ。
相変わらず優里ちゃんは行けないことを悲しんでいた。
今回は、とりあえず、私と永那ちゃんだけの参加。
主催は千陽ではなく、千陽のお父さんなのだし、私達が大人数で押しかけるのも、あまり良くないのではないかと思ったので、結果的には良かったと思う。
優里ちゃんが行く時には、森山さんと2人で行けば、人数バランスもちょうどいいように思えた。

ホテルに行った日と同じ格好。
永那ちゃんもきっと同じ。
でも、誕生日プレゼントに鞄を貰っていたから、さすがに今回はコンビニの袋では来ないよね?
想像して、笑みが溢れる。
慌てて周りを見渡して、口元を手で隠した。

駅から千陽の家に行くまでの道のりにある公園で、永那ちゃんと待ち合わせ。
公園につくと、既に彼女はそこにいた。
ダルそうにベンチに座って、目を閉じていた。
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