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9.移ろい
498.新学年
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「そろそろ、教室戻る?」
穂が腕時計を確認する。
バド部もバスケ部も、片付け始めていた。
「そうだね!」
ようやく優里がお昼を食べ終えて答える。
「ん…気持ち良かった。ありがとう、永那ちゃん」
上目遣いに見られて、襲いたくなる。
穂がパチパチと瞬きをして、ゆっくり目をそらした。
「さ!行こっか!」
わざとらしく手をパチンと合わせ、彼女が立ち上がる。
スカートを叩いて、座ってついたシワを伸ばす。
それに倣って、みんなも立ち上がった。
穂が歩き出そうとするから、手首を掴む。
彼女の耳元に口を近づける。
「穂がするのはいいけど、されるのはダメだからね?覚えてる?」
「わ、わかってるよ…!」
小声で返される。
彼女は私の方を見ないけど、桃色に染まる頬は丸見えだ。
手首から、そっと手の平に移動し、手を繋ぐ。
当然、恋人繋ぎだ。
桜、千陽、優里の順で階段を下りていく。
やっと彼女が私を見て、眉をハの字にさせた。
彼女が歩き出す。
引っ張られるように、私も足を一歩前に踏み出す。
「私もシたいな」
「…永那ちゃん!」
シーッと人差し指を唇に当てる。
その唇にキスしたい。
穂が小気味よく階段を下りていくから、自然と私も早足になった。
3人の視線が一瞬、私達の手元にいくけど、すぐに何でもない事と判断される。
手を繫いだまま、私達は教室に戻った。
普段の穂だったら多少は嫌がるけど、そんな素振りを見せなかったのは、私が不満を伝えたからかな?
先週の水曜日、ロングホームルームの時、席替えがあった。
学籍番号順に座ると、私の前が桜で、後ろが燈夏になる。
起きている時は、燈夏が休み時間の度に話しかけてくるから、ちょっと鬱陶しかったけど、既に解放されている。
相変わらず穂とは席が離れている。
今回は5人ともバラバラで、自分のくじ運の悪さを呪いたい。
バラバラと言っても、桜は斜め前になったけど。
いつか穂の前後左右になれる日は来るのだろうか…。
「両角」
「んぁ?」
「さっき1年来てたよ」
「え…」
思わず顔が引きつる。
「空井さんのことも探してたみたいだけど」
「なんか言ってた?急ぎの用事?」
「知らね。特になんも言ってなかった。いないって言ったら帰ってった」
「ふーん」
息を吐き出す。
めんどくせー!!!
「もし明日も来たらさ、なんか用あるのか聞いといてよ」
「はー?めんどくせー」
「めんどくせーけどお願いします」
「わかったよ」
翌日、やっぱり2人は昼休みに私達の教室に来たらしい。
“生徒会のことで聞きたいことがあった”と言っていたみたいだけど、本当かな?
とりあえず穂にもそのことを伝えた。
穂がメッセージを送ると、特に急ぎの用事でもない内容が返ってきた。
さすがの穂も違和感を抱いたらしく、苦笑する。
「完全にストーカーでしょ」
千陽が興味なさげに言う。
「これがストーカーか」
優里が興味深げに頷く。
「グサッとされない…?」
穂は相変わらず、そればっかり心配している。
でも、ちょっと私も怖くなってきた。
「どうしたらいいんだ…」
私は頭を抱えた。
「いっそのこと、空井さんと両角さんが仲良くしているところを見せびらかした方がいいのでは…?」
桜が提案してくれる。
「そんなの、あたしのこと完全に視界に入ってない子の視界に入る?」
「千陽、地味に傷ついてたの?」
「は?傷つくわけないでしょ」
…どうかな。
かなり根に持ってそうだけど。
「こんなに可愛い千陽が視界に入らないなんて、どうなってるの!?おめめがないのかな…?」
優里が驚愕する。
「大丈夫だよ~千陽~、きっと千陽が可愛すぎて、眩しすぎて、見れなかったんだよ」
千陽を抱き寄せて、優里は聖母のような表情で千陽の頭を撫でた。
千陽がちょっと嬉しそうにしているから、この件は良しとする。
それより…!!
「ねえ!みんな!!」
私は立ち上がる。
勢いよく、ドンッと足を踏み鳴らして。
「何か忘れてない!?」
穂が目をそらす。
優里がキョトンとする。
千陽は仏頂面。
桜はちまちまお弁当を食べていた。
「おい~、なんでだよ~、なんでなんでなんで~!!」
地団駄を踏む。
「私の!…私の!!」
胸をドンッと叩く。
「私の誕生日!!」
「おめでとう、永那ちゃん」
穂が笑いかけてくれる。
私は盛大に項垂れた。
もう、半泣きだ。
朝、穂からメッセージが1番にきた。
でも他の誰からもなかった…!
クラスメイトの誰からも!!
なんで!?去年は祝ってくれたじゃん!!
「あー…忘れてたー。おめでと~っ」
優里が棒読みで言う。
嘘っぽい…わざとだな…?
「おめでと」
千陽はいつも通り。
ってか、こいつが忘れたことなんて1回もないんですけど!?
「おめでとうございます」
桜は…まあ、仕方ないけど。
でも…!祝ったじゃん!
私、ちゃんとみんなの誕生日祝ったじゃん!!
下唇を噛んで、泣きそうになるのを必死に堪える。
「あ…あ!ほら!今度、永那の誕生日パーティしよ?ね?誉の誕生日も近いんだし!」
優里が慌てて言うけど、もう遅い。
瞬きをした瞬間、涙が溢れた。
穂が腕時計を確認する。
バド部もバスケ部も、片付け始めていた。
「そうだね!」
ようやく優里がお昼を食べ終えて答える。
「ん…気持ち良かった。ありがとう、永那ちゃん」
上目遣いに見られて、襲いたくなる。
穂がパチパチと瞬きをして、ゆっくり目をそらした。
「さ!行こっか!」
わざとらしく手をパチンと合わせ、彼女が立ち上がる。
スカートを叩いて、座ってついたシワを伸ばす。
それに倣って、みんなも立ち上がった。
穂が歩き出そうとするから、手首を掴む。
彼女の耳元に口を近づける。
「穂がするのはいいけど、されるのはダメだからね?覚えてる?」
「わ、わかってるよ…!」
小声で返される。
彼女は私の方を見ないけど、桃色に染まる頬は丸見えだ。
手首から、そっと手の平に移動し、手を繋ぐ。
当然、恋人繋ぎだ。
桜、千陽、優里の順で階段を下りていく。
やっと彼女が私を見て、眉をハの字にさせた。
彼女が歩き出す。
引っ張られるように、私も足を一歩前に踏み出す。
「私もシたいな」
「…永那ちゃん!」
シーッと人差し指を唇に当てる。
その唇にキスしたい。
穂が小気味よく階段を下りていくから、自然と私も早足になった。
3人の視線が一瞬、私達の手元にいくけど、すぐに何でもない事と判断される。
手を繫いだまま、私達は教室に戻った。
普段の穂だったら多少は嫌がるけど、そんな素振りを見せなかったのは、私が不満を伝えたからかな?
先週の水曜日、ロングホームルームの時、席替えがあった。
学籍番号順に座ると、私の前が桜で、後ろが燈夏になる。
起きている時は、燈夏が休み時間の度に話しかけてくるから、ちょっと鬱陶しかったけど、既に解放されている。
相変わらず穂とは席が離れている。
今回は5人ともバラバラで、自分のくじ運の悪さを呪いたい。
バラバラと言っても、桜は斜め前になったけど。
いつか穂の前後左右になれる日は来るのだろうか…。
「両角」
「んぁ?」
「さっき1年来てたよ」
「え…」
思わず顔が引きつる。
「空井さんのことも探してたみたいだけど」
「なんか言ってた?急ぎの用事?」
「知らね。特になんも言ってなかった。いないって言ったら帰ってった」
「ふーん」
息を吐き出す。
めんどくせー!!!
「もし明日も来たらさ、なんか用あるのか聞いといてよ」
「はー?めんどくせー」
「めんどくせーけどお願いします」
「わかったよ」
翌日、やっぱり2人は昼休みに私達の教室に来たらしい。
“生徒会のことで聞きたいことがあった”と言っていたみたいだけど、本当かな?
とりあえず穂にもそのことを伝えた。
穂がメッセージを送ると、特に急ぎの用事でもない内容が返ってきた。
さすがの穂も違和感を抱いたらしく、苦笑する。
「完全にストーカーでしょ」
千陽が興味なさげに言う。
「これがストーカーか」
優里が興味深げに頷く。
「グサッとされない…?」
穂は相変わらず、そればっかり心配している。
でも、ちょっと私も怖くなってきた。
「どうしたらいいんだ…」
私は頭を抱えた。
「いっそのこと、空井さんと両角さんが仲良くしているところを見せびらかした方がいいのでは…?」
桜が提案してくれる。
「そんなの、あたしのこと完全に視界に入ってない子の視界に入る?」
「千陽、地味に傷ついてたの?」
「は?傷つくわけないでしょ」
…どうかな。
かなり根に持ってそうだけど。
「こんなに可愛い千陽が視界に入らないなんて、どうなってるの!?おめめがないのかな…?」
優里が驚愕する。
「大丈夫だよ~千陽~、きっと千陽が可愛すぎて、眩しすぎて、見れなかったんだよ」
千陽を抱き寄せて、優里は聖母のような表情で千陽の頭を撫でた。
千陽がちょっと嬉しそうにしているから、この件は良しとする。
それより…!!
「ねえ!みんな!!」
私は立ち上がる。
勢いよく、ドンッと足を踏み鳴らして。
「何か忘れてない!?」
穂が目をそらす。
優里がキョトンとする。
千陽は仏頂面。
桜はちまちまお弁当を食べていた。
「おい~、なんでだよ~、なんでなんでなんで~!!」
地団駄を踏む。
「私の!…私の!!」
胸をドンッと叩く。
「私の誕生日!!」
「おめでとう、永那ちゃん」
穂が笑いかけてくれる。
私は盛大に項垂れた。
もう、半泣きだ。
朝、穂からメッセージが1番にきた。
でも他の誰からもなかった…!
クラスメイトの誰からも!!
なんで!?去年は祝ってくれたじゃん!!
「あー…忘れてたー。おめでと~っ」
優里が棒読みで言う。
嘘っぽい…わざとだな…?
「おめでと」
千陽はいつも通り。
ってか、こいつが忘れたことなんて1回もないんですけど!?
「おめでとうございます」
桜は…まあ、仕方ないけど。
でも…!祝ったじゃん!
私、ちゃんとみんなの誕生日祝ったじゃん!!
下唇を噛んで、泣きそうになるのを必死に堪える。
「あ…あ!ほら!今度、永那の誕生日パーティしよ?ね?誉の誕生日も近いんだし!」
優里が慌てて言うけど、もう遅い。
瞬きをした瞬間、涙が溢れた。
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