いたずらはため息と共に

常森 楽

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9.移ろい

494.新学年

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「部活紹介の時にやったシャトルのジャグリング、やってみたいって子も来てくれて、その子は入ってくれそう~」
「あれ、凄かったもんね。私も教えてもらいたいくらい」
「いつでも教えてあげるよ~!穂ちゃんにはいつも勉強教えてもらってるし!…バド部で動画もあげててさ」
つまんない。
すごくつまんない。
穂の体に抱きつくのをやめて、モソモソと腕の下に潜り込む。
勝手に膝枕だ。
太ももに顔をうずめて、思いっきり息を吸う。
ぐりぐりと顔を押し付ける。
ふいに頭を撫でられ、心がふわっとあたたかくなる。
涎が垂れそうになって、ズズッと啜った。
あー、エッチしたいなー。
穂の膝下に手を伸ばして、そのままスカートの中に侵入。
膝を擦ると、頭をペシッと叩かれた。

「おつかれさまです!空井先輩!」
「飯田さん、中川さん、お疲れ様」
「隣、良いですか?」
「うん、もちろん」
まさか穂繋がりでひそかちゃんとこんなに関わることになるとは思わなかったよ…。
私は顔を上げずに息を吐き出して、憂鬱な気持ちを紛らわす。
「え、永那ちゃん…起きて…」
「どうして…?」
穂の太ももに顔を押し付けてるから、私の声がくぐもる。
「その…ほら…後輩の前だし」
「いつもこうしてるじゃん…!」
「永那ちゃん、TPOをわきまえないと」
「TPO?…助けて~、ポリスが、追いかけてくる~」
「…うん。あながち間違ってないから、起きて?」
渋々起き上がる。
くしゃくしゃになった髪を、穂が指で梳かしてくれる。

「タッチしたい、ぽよんぽよんの、おっぱい」
…睨まれた。
凍えそうなほど冷たい目で睨まれた。
なぜかプッと桜が笑ってくれて、なんとか生き延びた。
桜のこと、大好きかも。
「最っ低」
千陽が頬杖をつきながら私を見下ろすように睨む。
ちっちゃい“つ”が地味に傷つく!
「あははっ、気持ちはわかるよ!永那!」
グッと優里が親指を立てる。
「千陽のは最高だからね~、へへ~」
「優里うるさい」
千陽、優里より私に厳しいの、なんで…?
「永那ちゃん?TPOっていうのは」
「Time、Place、Occasion…時間、場所、場面でしょ!時と場所と場面を考えて行動しろと!!わかってますよ!わかってますよー!!」
「うわ、でた!無駄に頭が良いやつ…。こんなところで発揮しなくていいよ!」
優里が、持っている箸を振り回す。
「こんなの常識だろ。頭良いとか、そういうんじゃないし」
「あー!なにその言い方ー!!私、その常識知らない!TPOって言葉は知ってるけど、英語まではわかんないよ!普通!」
振り回していた箸でピシッと指される。
「はっ、凡人め」
「バカにされた!永那最低~最低~!」
「千陽の真似すんな!」
テーブルの下で蹴り合いが始まる。
「永那ちゃん、わかってるなら、ちゃんとTPOをわきまえてください」
むぅっと唇を突き出して抗議しても、穂は取り合ってくれない。
「やーいやーい!永那怒られてやんのー!」
目を細めて優里を睨んでみるけど、べーっと舌を出された。

杏奈ちゃんが笑って、みんなの視線がそちらに向く。
「面白いですねっ、先輩方」
杏奈ちゃんの隣に座る…いつの間にか私の隣に座っていたひそかちゃんは、なぜか赤面している。
「2人は、もう生徒会入ること決定したの?」
「私は、決めました!」
「へえ。良かったね、穂」
「うん」
落ち着いた雰囲気を醸し出しているけど、私の目にはルンルンしているように映っている。
「可愛い」
一瞬目を見開いて、穂は少し頬を桜色に染める。
目を細めて、髪を耳にかけた。
お弁当のご飯を小さく口に運ぶ。
「いや~、ごめんね~!いつも永那こんなだから、気にしないでね」
優里が後輩達に告げる。
「“こんな”ってなんだ!こんなって!」
フフッと杏奈ちゃんが笑う。
「はいっ」
「杏奈ちゃん?普段は優里がおかしいからね?いつもは優里が怒られてるんだからね?」
「残念でした~、百聞は一見に如かず!今、永那が何を言っても永那がおかしいに決まってます~!」

「あー!?」
勢いよく立ち上がると、穂が私の腕を引っ張った。
「永那ちゃん、大人しくしてて?」
優里がゲラゲラ笑う。
本格的に機嫌が悪くなってきた…。
重力のままにダランと座って、肺の空気を全部吐き出す。
とろけるチーズみたいに椅子の背もたれに全体重を乗せる。
「私に味方はいないのか…」
天井の石膏ボードをボーッと眺める。
なんであの天井って変な傷みたいなのをわざとつけてるんだろう?
なんか、もっと洒落たデザインとかにしないのかな?
…まあ、学校にお洒落さなんか求める方がおかしいか。
「ひそかは」
小さな声が横から聞こえてきて、そちらを向く。
「ひそかは、永那先輩の味方です」
ひそかちゃんは今日もカレーを食べている。
スプーンの先端にちょこんとカレーをよそって、食べる。
私はその姿を見てから、力なく笑った。
「ありがと、ひそかちゃん」
なんとか起き上がり、腕を枕にして、今度はテーブルに体重を預けた。
「私の味方はひそかちゃんだけか」
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