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8.閑話
60.永那 中3 夏《如月梓編》
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それから毎朝、永那とどんな会話をしたか、紬は事細かに話してきた。
まるでもう、永那の恋人気分だ。
永那は恋人が欲しいんじゃない、セフレが欲しいんだ。
それって、傷つくだけの恋じゃん…。
学期末試験が終わった日、私は永那を呼び出した。
お母さんはパートで家にいないし、お兄ちゃんもバイトだ。
こんな話、外じゃ出来ないから、家に来てもらった。
「永那」
「はい」
部屋に、2人で正座して向き合った。
「ハッキリ言うね」
「うん」
「紬には、手を出さないで欲しい」
「…わかった」
「え…?」
「ん?」
「あ…え…?いいの?本当にわかったの?」
「うん」
「ほ、本人が“シたい”って言っても、断ってよ!?」
「え!?紬に“シたい”って言われるの?私」
「も、もしもの話!」
「もしもか~。ん~、どうしよ?本人がシたいんなら、私も断る理由ないしな…なんでダメなの?」
「つ、紬は…!」
「うん」
「私の、妹みたいな子なの。実らない恋をして、傷ついてほしくない」
「ふーん。…それって、梓が紬のことを勝手に決めていい理由になるの?」
「え…?」
「っていうか、梓は私に告白して、傷ついた?」
永那に真っ直ぐ見つめられ、言い表せない不安に襲われる。
「無理矢理告白させるようなことして傷つけたなら、謝る。…ごめん」
永那が頭を下げ、まるで土下座しているみたいな形になる。
「ちょ…ちょっと…そんな…」
「ごめんね」
ジクジクと胸が痛み始める。
…こんな…こんな風に、謝ってほしかったわけじゃない。
「紬のことは、考えとく。少なくとも、私からは誘わない。それは約束する」
永那が顔を上げる。
悲しそうな笑みを浮かべた。
「最近、マジで頭おかしくってさ、自分でもコントロール利かないんだよ。今日のテスト終わりにさ、教師に呼び出されて、それとなーく叱られちゃったし」
「ハァ」とため息をついて、彼女が鞄を取る。
「私成績良いしさ、教師も強く言えないんだろうな」
自嘲するように笑って、部屋から出ていこうとする。
「梓がハッキリ言ってくれて、ちょっと目、冷めた気がする。ありがと」
「ちょっと…!待って…」
彼女の手を掴む。
バランスを崩しながらも立ち上がって、彼女を見る。
「い、言われてみれば…私…傷ついて、ない…」
「え!?そうなの!?」
「最初から実らない恋って…わかってたから…」
「最初から…」
「だ、だから…たぶん、ストーカーみたいなことしちゃったんだと、思う。遠くから見ていられれば、それでいいって」
「そっか…。まあ、傷ついてないなら、良かった」
「本当は…」
彼女の手をギュッと握る。
「本当は、紬に、取られたくないって…思ってるの、かも…」
「ん?…紬を心配してたんじゃなくて?」
「心配してたのも、本当。でも、私が永那と仲良くなったのに、紬に取られるのも嫌。…私よりも紬の方が永那と仲良くなるのは、嫌」
「ふーん」
「昔から、私のおもちゃ、紬に取られてた。それが、不満だった。お母さんはいっつも紬ばっかり褒めるし、私より1歳下だからって…なんで私が紬のお姉ちゃんみたいなことしないといけないの?紬には、遊んでくれる優しいお兄ちゃんだっているのに。紬のお母さんだって紬を褒めてる。じゃあ誰が私を褒めてくれるの…?褒められるところなんて、ないのかもしれないけどさ…。学校でもそう。毎日昼休みに私のクラス来て、私の友達と仲良くするの。私の友達なのに」
「そっか」
「あ…!ご、ごめん…こんな話…」
「ねえ」
永那が私の手を引っ張って、抱き寄せる。
「じゃあ、どうする?」
「えっ?ど、どうするって…?」
「とりあえず、キスでもしとく?」
「は!?え!?なんで!?」
「だって、私と仲良くなりたいんでしょ?紬より」
顔が近いってば…!
近い…のは…キス、するから…?
本当に?本当にするの!?
「嫌なら、しない。ハッキリ断って?」
少しずつ、顔が近づく。
永那の息が顔にかかって、鼻と鼻が触れ合って、気づけば私は、目を閉じていた。
柔らかくて、あったかい感触が唇に触れる。
それがゆっくり離れていって、フッと彼女が笑うから、目を開けた。
「嫌じゃない?」
「嫌じゃ、ない…」
「良かった。もう1回していい?」
頷いて、瞼を閉じる。
唇が重なり合う。
初めてのキス…。
こんなに良いものだったんだ…。
またゆっくり離れて、永那を見る。
彼女が微笑むから、私もぎこちなく笑う。
「梓、可愛い」
「え!?」
キュンとした隙に、少し強引な3回目のキス。
あぁ…ダメだよ…。沼に、ハマりそう…。
ガチャッ!ドタドタドタドタ!と轟音が家に鳴り響いて、ビックリして永那から離れる。
「梓!梓!!」
「な、なに!?紬…」
「なにやってんの!?」
「え…」
永那を見ると、ニッと笑っていた。
顔が熱くなる。
「あたしが…!あたしが永那先輩のこと好きって知っておきながら!ひどい!!」
「ひ、ひどいって…」
「見えてたから!丸見えだったから!!」
紬が窓を指差す。
私達の部屋は、真向かいだった。
まるでもう、永那の恋人気分だ。
永那は恋人が欲しいんじゃない、セフレが欲しいんだ。
それって、傷つくだけの恋じゃん…。
学期末試験が終わった日、私は永那を呼び出した。
お母さんはパートで家にいないし、お兄ちゃんもバイトだ。
こんな話、外じゃ出来ないから、家に来てもらった。
「永那」
「はい」
部屋に、2人で正座して向き合った。
「ハッキリ言うね」
「うん」
「紬には、手を出さないで欲しい」
「…わかった」
「え…?」
「ん?」
「あ…え…?いいの?本当にわかったの?」
「うん」
「ほ、本人が“シたい”って言っても、断ってよ!?」
「え!?紬に“シたい”って言われるの?私」
「も、もしもの話!」
「もしもか~。ん~、どうしよ?本人がシたいんなら、私も断る理由ないしな…なんでダメなの?」
「つ、紬は…!」
「うん」
「私の、妹みたいな子なの。実らない恋をして、傷ついてほしくない」
「ふーん。…それって、梓が紬のことを勝手に決めていい理由になるの?」
「え…?」
「っていうか、梓は私に告白して、傷ついた?」
永那に真っ直ぐ見つめられ、言い表せない不安に襲われる。
「無理矢理告白させるようなことして傷つけたなら、謝る。…ごめん」
永那が頭を下げ、まるで土下座しているみたいな形になる。
「ちょ…ちょっと…そんな…」
「ごめんね」
ジクジクと胸が痛み始める。
…こんな…こんな風に、謝ってほしかったわけじゃない。
「紬のことは、考えとく。少なくとも、私からは誘わない。それは約束する」
永那が顔を上げる。
悲しそうな笑みを浮かべた。
「最近、マジで頭おかしくってさ、自分でもコントロール利かないんだよ。今日のテスト終わりにさ、教師に呼び出されて、それとなーく叱られちゃったし」
「ハァ」とため息をついて、彼女が鞄を取る。
「私成績良いしさ、教師も強く言えないんだろうな」
自嘲するように笑って、部屋から出ていこうとする。
「梓がハッキリ言ってくれて、ちょっと目、冷めた気がする。ありがと」
「ちょっと…!待って…」
彼女の手を掴む。
バランスを崩しながらも立ち上がって、彼女を見る。
「い、言われてみれば…私…傷ついて、ない…」
「え!?そうなの!?」
「最初から実らない恋って…わかってたから…」
「最初から…」
「だ、だから…たぶん、ストーカーみたいなことしちゃったんだと、思う。遠くから見ていられれば、それでいいって」
「そっか…。まあ、傷ついてないなら、良かった」
「本当は…」
彼女の手をギュッと握る。
「本当は、紬に、取られたくないって…思ってるの、かも…」
「ん?…紬を心配してたんじゃなくて?」
「心配してたのも、本当。でも、私が永那と仲良くなったのに、紬に取られるのも嫌。…私よりも紬の方が永那と仲良くなるのは、嫌」
「ふーん」
「昔から、私のおもちゃ、紬に取られてた。それが、不満だった。お母さんはいっつも紬ばっかり褒めるし、私より1歳下だからって…なんで私が紬のお姉ちゃんみたいなことしないといけないの?紬には、遊んでくれる優しいお兄ちゃんだっているのに。紬のお母さんだって紬を褒めてる。じゃあ誰が私を褒めてくれるの…?褒められるところなんて、ないのかもしれないけどさ…。学校でもそう。毎日昼休みに私のクラス来て、私の友達と仲良くするの。私の友達なのに」
「そっか」
「あ…!ご、ごめん…こんな話…」
「ねえ」
永那が私の手を引っ張って、抱き寄せる。
「じゃあ、どうする?」
「えっ?ど、どうするって…?」
「とりあえず、キスでもしとく?」
「は!?え!?なんで!?」
「だって、私と仲良くなりたいんでしょ?紬より」
顔が近いってば…!
近い…のは…キス、するから…?
本当に?本当にするの!?
「嫌なら、しない。ハッキリ断って?」
少しずつ、顔が近づく。
永那の息が顔にかかって、鼻と鼻が触れ合って、気づけば私は、目を閉じていた。
柔らかくて、あったかい感触が唇に触れる。
それがゆっくり離れていって、フッと彼女が笑うから、目を開けた。
「嫌じゃない?」
「嫌じゃ、ない…」
「良かった。もう1回していい?」
頷いて、瞼を閉じる。
唇が重なり合う。
初めてのキス…。
こんなに良いものだったんだ…。
またゆっくり離れて、永那を見る。
彼女が微笑むから、私もぎこちなく笑う。
「梓、可愛い」
「え!?」
キュンとした隙に、少し強引な3回目のキス。
あぁ…ダメだよ…。沼に、ハマりそう…。
ガチャッ!ドタドタドタドタ!と轟音が家に鳴り響いて、ビックリして永那から離れる。
「梓!梓!!」
「な、なに!?紬…」
「なにやってんの!?」
「え…」
永那を見ると、ニッと笑っていた。
顔が熱くなる。
「あたしが…!あたしが永那先輩のこと好きって知っておきながら!ひどい!!」
「ひ、ひどいって…」
「見えてたから!丸見えだったから!!」
紬が窓を指差す。
私達の部屋は、真向かいだった。
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