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8.閑話
59.永那 中3 夏《如月梓編》
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それから、永那のクズエピソードを散々聞かされた。
校内にファンクラブみたいなのがあるらしく、その子達を片っ端から食べたとか、ムカついた子に迫って惚れさせるまで追い詰めたとか…問題児も問題児じゃないか。
他校の子にも何人か手を出して、引っ叩かれたこともあるとか…。
正式に誰ともお付き合いしてないからって、あまりに酷い内容だった。
なんか…人間を魅了して食べるドラキュラとか、そういった類の妖怪なのかもしれない。
コスプレしたら、すごく似合いそう…。
「ねえ、梓」
「なに?」
「興味あったら、いつでも言ってね」
家の前につくと、彼女は爽やかな笑顔でそう言った。
「言いません」
「ストーカーまでしてたのに?」
「あれは…!申し訳なかったと思ってるよ…」
「ストーカーするほど好かれてても、直球はダメなのかー」
なんか、ゲームでもしてるのかな?
リアルで恋愛ゲームをしないでほしい。
「梓…?」
ギクッと肩が上がる。
このタイミングで…!
「え!?待って待って待って待って!…永那先輩?」
「はい、永那先輩です。えっと…もしかして幼馴染の…?」
「あ!そうです!梓の幼馴染の、紬です!」
「紬ちゃん」
「わ~!めちゃくちゃかっこい~!」
…紬を守んなきゃ。
「ありがと」
「連絡先!交換してください!」
「いいよ」
「待っ…!待って…」
2人が私を見て、首を傾げる。
“待って”と止めたはいいものの、何も言葉が出てこない。
「永那先輩!これ、私のです」
「あ…!ちょ…!」
何も言わない私を見て、しびれを切らした紬が永那に自分のスマホを見せる。
「おっけー」
「あぁ…」
項垂れることしかできない。
「先輩、めっちゃかっこいいですね!超好みです」
「ありがと。嬉しい」
「付き合ってる人いるんですか?」
「いないよ」
紬の顔がパッと明るくなる。
悪魔の所業だ…。
「先輩!一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
「いいよ」
紬がキャッキャッキャッキャッと喜びながら、スマホのカメラを起動する。
「ほら、梓も」
グッと腰を抱かれ、一気に顔が熱くなった。
だから、顔が近いって…!
紬が何枚か写真を撮って、解放される。
クズってわかってるのに…!クズってわかってるのに…!!
一度落ちてしまったら、戻れないものなの?
恋って恐ろしい…。
“百年の恋も冷める”なんて言葉もあるはずなのにな。
「あ、そろそろ帰んなきゃ」
「え~、もう行っちゃうんですか?もっとお話したかったです」
「またね」
紬の頭を撫でる。
胸がザワザワする…。
制服の裾をギュッと握りしめる。
「梓も」
ポンポンと撫でられて、胸がぎゅぅぎゅぅ締め付けられた。
彼女が踵を返す。
小走りになって、私はようやく、まともに永那を見た。
彼女の背中は既に小さくなっていた。
「梓、ひどい」
「え…?な、なにが?」
「あたしと永那先輩のこと、邪魔しようとしたでしょ?」
「は!?え…っ!?違うよ…!」
「じゃあなに?なんで連絡先交換しようとした時、止めようとしたの?」
「あの…あの、さ?永那は、紬が思ってるような人じゃないよ?」
「あたしが思ってるような人?」
「そう。めちゃくちゃモテるし」
「そんなの当たり前でしょ。あんだけかっこよかったら」
「いや、それは、そうだけど…。モテるから、いろんな子に手を出してるんだって。付き合ってる人はいないって言ってたけど、あくまで、付き合ってる人がいないだけなんだよ!?」
「へえ…」
なぜか紬が口角を上げる。
「りょーかい!じゃ、また明日ね、梓!」
「あぁ…」
紬はスキップしながら家に入っていった。
もう、ダメだ…。
その日の夜、目を瞑ると、自販機で永那に迫られたことを思い出して、全く眠れなかった。
“セックスしたい”と囁かれたのも、いつまでも耳にこびりついている気がして、髪をぐしゃぐしゃにした。
布団を被ってみたり、足をバタバタさせてみたりしたけど、やっぱりあの声は消えなかった。
お兄ちゃんのゲームを借りようと思って部屋に入った時、たまたまマウスに当たってしまって、スリープ画面になっていたパソコンにエロゲが表示された。
興味本位で、お兄ちゃんがいない時にプレイした。
興味がないわけじゃない…!
自慰行為だって…したことがないわけじゃない…。
でも…付き合ってないのに…そんなこと…。
「あああああっ」
枕に顔をうずめて叫ぶ。
翌朝、紬がいつものように私に抱きついた。
「見てっ」
スマホの画面には、夏休みに永那と遊ぶ約束をするメッセージが表示されていた。
「良かったね…」
私が歩きだすと、紬が顔を覗き込んできた。
「嫉妬?」
「え…?違うよ」
「じゃあ、もっと喜んでよ」
「“良かったね”って言ってるじゃん」
「それは、全然喜んでない」
喜べるわけ…ないじゃん。
昔から紬はそうだ。
一緒に遊ぶってなった時、私が遊んでるおもちゃを欲しがった。
私が“嫌”と言っても駄々をこねて、泣いて、私のお母さんが「梓の方がお姉さんなんだから少しくらい貸してあげなさい」と怒るんだ。
そして結局、紬が遊びたいタイミングで遊びたいおもちゃで遊ぶ。
子供の時となんも変わんない…!
それに私は…ただ、永那から紬を守ろうとしただけなのに…。
校内にファンクラブみたいなのがあるらしく、その子達を片っ端から食べたとか、ムカついた子に迫って惚れさせるまで追い詰めたとか…問題児も問題児じゃないか。
他校の子にも何人か手を出して、引っ叩かれたこともあるとか…。
正式に誰ともお付き合いしてないからって、あまりに酷い内容だった。
なんか…人間を魅了して食べるドラキュラとか、そういった類の妖怪なのかもしれない。
コスプレしたら、すごく似合いそう…。
「ねえ、梓」
「なに?」
「興味あったら、いつでも言ってね」
家の前につくと、彼女は爽やかな笑顔でそう言った。
「言いません」
「ストーカーまでしてたのに?」
「あれは…!申し訳なかったと思ってるよ…」
「ストーカーするほど好かれてても、直球はダメなのかー」
なんか、ゲームでもしてるのかな?
リアルで恋愛ゲームをしないでほしい。
「梓…?」
ギクッと肩が上がる。
このタイミングで…!
「え!?待って待って待って待って!…永那先輩?」
「はい、永那先輩です。えっと…もしかして幼馴染の…?」
「あ!そうです!梓の幼馴染の、紬です!」
「紬ちゃん」
「わ~!めちゃくちゃかっこい~!」
…紬を守んなきゃ。
「ありがと」
「連絡先!交換してください!」
「いいよ」
「待っ…!待って…」
2人が私を見て、首を傾げる。
“待って”と止めたはいいものの、何も言葉が出てこない。
「永那先輩!これ、私のです」
「あ…!ちょ…!」
何も言わない私を見て、しびれを切らした紬が永那に自分のスマホを見せる。
「おっけー」
「あぁ…」
項垂れることしかできない。
「先輩、めっちゃかっこいいですね!超好みです」
「ありがと。嬉しい」
「付き合ってる人いるんですか?」
「いないよ」
紬の顔がパッと明るくなる。
悪魔の所業だ…。
「先輩!一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
「いいよ」
紬がキャッキャッキャッキャッと喜びながら、スマホのカメラを起動する。
「ほら、梓も」
グッと腰を抱かれ、一気に顔が熱くなった。
だから、顔が近いって…!
紬が何枚か写真を撮って、解放される。
クズってわかってるのに…!クズってわかってるのに…!!
一度落ちてしまったら、戻れないものなの?
恋って恐ろしい…。
“百年の恋も冷める”なんて言葉もあるはずなのにな。
「あ、そろそろ帰んなきゃ」
「え~、もう行っちゃうんですか?もっとお話したかったです」
「またね」
紬の頭を撫でる。
胸がザワザワする…。
制服の裾をギュッと握りしめる。
「梓も」
ポンポンと撫でられて、胸がぎゅぅぎゅぅ締め付けられた。
彼女が踵を返す。
小走りになって、私はようやく、まともに永那を見た。
彼女の背中は既に小さくなっていた。
「梓、ひどい」
「え…?な、なにが?」
「あたしと永那先輩のこと、邪魔しようとしたでしょ?」
「は!?え…っ!?違うよ…!」
「じゃあなに?なんで連絡先交換しようとした時、止めようとしたの?」
「あの…あの、さ?永那は、紬が思ってるような人じゃないよ?」
「あたしが思ってるような人?」
「そう。めちゃくちゃモテるし」
「そんなの当たり前でしょ。あんだけかっこよかったら」
「いや、それは、そうだけど…。モテるから、いろんな子に手を出してるんだって。付き合ってる人はいないって言ってたけど、あくまで、付き合ってる人がいないだけなんだよ!?」
「へえ…」
なぜか紬が口角を上げる。
「りょーかい!じゃ、また明日ね、梓!」
「あぁ…」
紬はスキップしながら家に入っていった。
もう、ダメだ…。
その日の夜、目を瞑ると、自販機で永那に迫られたことを思い出して、全く眠れなかった。
“セックスしたい”と囁かれたのも、いつまでも耳にこびりついている気がして、髪をぐしゃぐしゃにした。
布団を被ってみたり、足をバタバタさせてみたりしたけど、やっぱりあの声は消えなかった。
お兄ちゃんのゲームを借りようと思って部屋に入った時、たまたまマウスに当たってしまって、スリープ画面になっていたパソコンにエロゲが表示された。
興味本位で、お兄ちゃんがいない時にプレイした。
興味がないわけじゃない…!
自慰行為だって…したことがないわけじゃない…。
でも…付き合ってないのに…そんなこと…。
「あああああっ」
枕に顔をうずめて叫ぶ。
翌朝、紬がいつものように私に抱きついた。
「見てっ」
スマホの画面には、夏休みに永那と遊ぶ約束をするメッセージが表示されていた。
「良かったね…」
私が歩きだすと、紬が顔を覗き込んできた。
「嫉妬?」
「え…?違うよ」
「じゃあ、もっと喜んでよ」
「“良かったね”って言ってるじゃん」
「それは、全然喜んでない」
喜べるわけ…ないじゃん。
昔から紬はそうだ。
一緒に遊ぶってなった時、私が遊んでるおもちゃを欲しがった。
私が“嫌”と言っても駄々をこねて、泣いて、私のお母さんが「梓の方がお姉さんなんだから少しくらい貸してあげなさい」と怒るんだ。
そして結局、紬が遊びたいタイミングで遊びたいおもちゃで遊ぶ。
子供の時となんも変わんない…!
それに私は…ただ、永那から紬を守ろうとしただけなのに…。
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