いたずらはため息と共に

常森 楽

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7.向

478.序開

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「お父さん!あんな大声で呼ばないでよ!!」
「悪い悪い。でも、ひそかがこんなに大きく立派に育ったんだなって思うとお父さん嬉しくてさ!“学校行きたくない”って言ってたから、ずーっと心配してたんだよ?」
「“学校行きたくない”って思っちゃいけないってこと?お父さんは、ひそかがいじめられててもそう言うの!?」
「い、言わないよ。言わないけど…な…?」
お父さんがお母さんを見る。
「そうそう。ひそかが頑張って勉強して入学したんだから…ね?お母さんもお父さんも嬉しいの」
イライラして、2人を置いてけぼりにして、早足に家に向かった。
電車の中でも離れて座った。
途中2人が近づいてきたけど、無視した。

月曜日、永那先輩を探しながらの登校。
人が多くて見つからなかった。
でも大丈夫。
今日は対面式がある。
全校生徒が集まるから、絶対に先輩はいる。
ドキドキしながら教室に向かった。

「ひそかちゃん!おはよ!」
「杏奈ちゃん…おはよう」
「ひそかちゃんと学籍番号近かったら、恋人になる予定の相手、誰か教えてもらえたのに~!」
「結構、目立ってると思うよ。かっこいいから」
「マジ!?探してみよ~っ」
友達…って、思ってもいいのかな…?
朝に雑談をするなんて、中学の時までのひそかには考えられなかった。
たまにはあったけど、こんな風に積極的に話しかけてもらえるなんて…。

ホームルームが始まると、今後の授業や行事についての説明を受けた。
今は2、3年生が始業式をしている最中らしく、それが終わると対面式。
その後、部活紹介が始まり、1週間の体験入部期間を経て、どこかに入部したければ入部する。
…やっぱり、生徒会に入らなきゃいけないのかなあ?
入部届が配られて、ため息が出る。
ひと通りの説明が終わると、対面式の時間まで自由時間になった。
各々交流をし始めて、教室内が賑やかになる。
杏奈ちゃんを見ると、いろんな子に囲まれていた。
ああ…やっぱり…って感じ。
見るからに陽キャな杏奈ちゃんとひそかが合うわけがないんだ。

机に突っ伏していたら、対面式の時間になった。
一気に鼓動が速まる。
最後に先輩にのは、高校の合格発表の2日後。
受験勉強中も愛を確認するために何度か会いに行ったけど、合格を確認した直後のあの日ほど、先輩に話しかけたい衝動を必死に抑えたことはなかった。
いつも遠くから先輩と会っていたし、近距離で会うのは最後に話した日以来…2年ぶり!
先輩、驚くかな?喜ぶかな?
もしかしたら、嬉しすぎて対面式の最中にひそかを抱きしめに来ちゃったりして!!
…いや、式の最中に抱きしめに来るのは、さすがにないか。
でもきっと目が合って、合った瞬間にあの眩しい笑顔を向けてくれるんだ。

体育館に入って、1番に永那先輩を見つけた。
鳥肌がゾワリと立つ。
永那先輩はまだひそかに気づかない。
少し面倒そうに拍手している。
そんな姿も好き…。

綺麗に列を作った後も、永那先輩と目が合わなくてソワソワした。
学籍番号が真ん中なのが憎い。
ひそかは身長もそんなに高くないし、これじゃあ人で隠れて先輩に見つけてもらえない…!
生徒会長が挨拶をして、新入生代表の挨拶も終わる。
全員で校歌を歌い終えると、新入生は床に座った。
「では、これから部活動紹介に移りたいと思います。部活動紹介に参加しない2、3年生は教室に戻ってください」
教師が言うと、ぞろぞろと先輩達が帰っていく。
その中に、永那先輩もいた。
…嘘!?
これじゃあ永那先輩が何部かわかんないじゃん!!
そもそも部活をしているのかどうかもわからない。
結局1度も目が合わなかったし…。

なんだか賑やかな部活紹介だったけど、ひそかはそれどころじゃなかった。
一応、少し興味のあった漫画研究会と、“興味がある”と言ってしまった生徒会の説明だけは聞いておいた。
ダンス部なんかはものすごく華やかで、もしかしたら永那先輩と繋がりの多い人がいるかもしれない!と思ったけど、絶対ひそかには無理だと思って、すぐ見るのをやめた。
部活紹介が終わると、1年生がクラス順で教室に戻っていく。
ひそかのクラスは最後だったから、その時間がもどかしかった。

教室に戻って、担任が挨拶をして、解散。
急いで教室を出ようとすると、杏奈ちゃんに声をかけられた。
「ごめん…!先輩に会いに行きたいから」って言ったら、杏奈ちゃんもついてくると言うから、2人で小走りに3年生の教室に向かった。
向かってる最中「左から2列目の人?」とか色々聞かれたけど、全部違った。
っていうか、杏奈ちゃん勘違いしてる…。
「先輩、女だよ?」
「え!?…えぇぇっ!?先言ってよ!それ!!」
息を切らしながら階段を上った。
「お、危な」
上った先に、先輩がいた。
「先輩…!」
永那先輩が首を傾げる。
「永那先輩!」
「う…ん?」
先輩がひそかの隣に立つ杏奈ちゃんを見て、もう一度ひそかを見た。
先輩の左眉が上がる。
ゆっくりと左の口角が上がって…その表情は、ひそかが期待していたようなものじゃなかった。

“先輩はひそかのこと、覚えてないと思うよ”
こんな時にわざわざ思い出さなくても…。
「ごめん…えっと、中学の時の後輩?」
絶望の淵に立たされたような気分。
…だけど、めげない!
だって先輩はひそかの運命の人なんだから!
ここから始まるの!ここから!
一歩踏み出して、決意を表すようにドンと音を立てて床を踏む。
「ひそかです!先輩!!ひそかです!!」
ひそかは運命を諦めない。
これから始まるんだ。ひそかと先輩の物語が。
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