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7.向
475.序開
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2回目に話したのは、友達と遊んでいる時だった。
たまたま先輩とすれ違った。
永那先輩の横には芸能人みたいに綺麗な人が立っていて、焦った。
でも、動揺はしたけど、ひとりになると冷静になった。
永那先輩レベルの人になれば、あれくらい綺麗な元カノがいて当然。
最終的にはひそかが先輩の相手になるんだから、なんの問題もない。
友達が何か言っていたような気がするけど、全然聞いてなかったから適当に頷いておいた。
永那先輩と最後に話した時、初めて先輩に触れられた。
冬の寒い日だった。
優しく頭を撫でられて、輝くような眩しい笑顔を向けられた。
それだけで卒倒しそうになって、頭が真っ白になって、この世の幸せを全部かき集めたみたいな気分になった。
先輩が去った後も、しばらく幸せの余韻に浸っていた。
でも隣から友達の泣き声が聞こえてきて、嫌でも現実に引き戻された。
「だ、大丈夫…?」
そう聞くと友達はしゃがみこんだ。
涙をアスファルトに落として、鼻を啜る。
「わかってたけどさー…わかってたけど、あぁぁ…」
祈るように合わせた両手を額につけて、彼女はため息をついた。
彼女が何を“わかってた”のか、ひそかには全然わからない。
後からわかったのは、彼女が先輩に告白して、振られたのだということ。
ひそかからすれば当然のことすぎて、“なんだ、そんなことか”と思ってしまった。
友達が落ち込んでいるんだから、絶対にそんなことは言わないけど。
しばらく落ち込んでいる友達のそばに座っていると、彼女は頬を叩いて涙を拭いた。
「よし!吹っ切れた!」
…そんな簡単に吹っ切れる恋なんて、全然運命的じゃない。
「ハァ~、先輩かっこよかったなー!」
友達は思いっきりブランコをこいで、叫んだ。
「そうだね」
「思い出すだけでドキドキするー!」
その気持ちは、すごくわかる。
それから数ヶ月経って、先輩に会えない時間が長くて辛くなった。
授業も集中できないし(元々勉強なんてできないけど)、ついお母さんに八つ当たりしちゃうし、友達にもイライラしちゃって大変だった。
友達が、“吹っ切れた”とか言っておきながら、会うたびに何度も先輩の話をするから。
同じ学校っていうだけで、ひそかよりも先輩との思い出がたくさんあるのがずるい。
先輩は、本当に色んな子に手を出していたらしく、さすがのひそかも嫉妬しちゃう。
どれだけひそかが先輩の運命の相手だって決まっていたとしても、そんなに色んな子に浮気されたくはない。
「ひそか」
友達の部屋でお菓子を食べていると彼女が照れながら話し始めた。
「なに?」
「実はね、私も先輩に迫られたことあるの…!」
「は…?」
「やっぱりさ、そしたらさ、期待しちゃうよねー。忘れられなくなっちゃうよね。…あの時、緊張しすぎて逃げちゃったの、めちゃくちゃ後悔してるんだ」
友達はため息をついて俯いた。
「クラスに、先輩に振られてすごい泣いてた子がいてさ?その子に比べたら私なんて…って思ってたんだけど、やっぱりダメだ~」
へへへと笑いながらも、彼女はまたため息をつく。
「その子、永那先輩と…その…キスとかもしてたんだって…」
血の気が引いていく。
動悸が激しくなっていく。
それでもひそかは平静を装う。
装うつもりだった。
なのに、気づけば友達を床に押し倒していた。
「ひそか!?ちょっ…痛い!痛いって!」
そう叫ばれて、慌てて手を離した。
彼女はひそかが掴んだ両肩を擦りながら起き上がった。
「なに…急に…」
「べ、べつに…」
先輩が恋人を取っ替え引っ替えするのは理解できる。
あれだけ完璧な人だったら当然。
ひそかの恋人になる人だったら、それくらいモテて当然。
でも…付き合ってもない人とキスするとか…そんな嘘、信じられない。
あんな完璧な先輩が、そんなだらしないことするわけない。
嘘ついてまで、ひそかと先輩の運命を引き裂きたいの?
イライラしすぎて、頭がおかしくなりそうだった。
帰り道、これ以上先輩がひそかを見失わないようになんとかしなきゃと思った。
先輩の連絡先を知りたかったけど、友達は“知らない”と、また嘘をついた。
進学した高校も知らない、家も知らないなんて信じられない…!
それで、3ヶ月くらいかけて、やっと先輩の居場所を見つけた。
先輩に話しかけたい気持ちを必死に抑えて、絶対に同じ高校に行くんだって気持ちで勉強した。
お母さんに頼み込んで塾にも通わせてもらった。
全然勉強してこなかったから、1年とちょっとの間、死ぬかと思った…。
お母さんもお父さんもやたら喜んだけど、そんなのはどうでも良かった。
早く高校生になりたかった。
同じ学校に入れても、先輩が卒業するまで、たった1年間しかない。
いくらその後も恋人であれるからって、せっかくならいろんな思い出を共有したい。
体育祭も文化祭も、夏休みも冬休みも…!
試験前は先輩に勉強を教えてもらったりして…。
想像するだけでふわふわと宙に浮いちゃいそう。
春休みがやたらと長く感じられた。
まるで季節がひそかに意地悪してるみたいに。
たまたま先輩とすれ違った。
永那先輩の横には芸能人みたいに綺麗な人が立っていて、焦った。
でも、動揺はしたけど、ひとりになると冷静になった。
永那先輩レベルの人になれば、あれくらい綺麗な元カノがいて当然。
最終的にはひそかが先輩の相手になるんだから、なんの問題もない。
友達が何か言っていたような気がするけど、全然聞いてなかったから適当に頷いておいた。
永那先輩と最後に話した時、初めて先輩に触れられた。
冬の寒い日だった。
優しく頭を撫でられて、輝くような眩しい笑顔を向けられた。
それだけで卒倒しそうになって、頭が真っ白になって、この世の幸せを全部かき集めたみたいな気分になった。
先輩が去った後も、しばらく幸せの余韻に浸っていた。
でも隣から友達の泣き声が聞こえてきて、嫌でも現実に引き戻された。
「だ、大丈夫…?」
そう聞くと友達はしゃがみこんだ。
涙をアスファルトに落として、鼻を啜る。
「わかってたけどさー…わかってたけど、あぁぁ…」
祈るように合わせた両手を額につけて、彼女はため息をついた。
彼女が何を“わかってた”のか、ひそかには全然わからない。
後からわかったのは、彼女が先輩に告白して、振られたのだということ。
ひそかからすれば当然のことすぎて、“なんだ、そんなことか”と思ってしまった。
友達が落ち込んでいるんだから、絶対にそんなことは言わないけど。
しばらく落ち込んでいる友達のそばに座っていると、彼女は頬を叩いて涙を拭いた。
「よし!吹っ切れた!」
…そんな簡単に吹っ切れる恋なんて、全然運命的じゃない。
「ハァ~、先輩かっこよかったなー!」
友達は思いっきりブランコをこいで、叫んだ。
「そうだね」
「思い出すだけでドキドキするー!」
その気持ちは、すごくわかる。
それから数ヶ月経って、先輩に会えない時間が長くて辛くなった。
授業も集中できないし(元々勉強なんてできないけど)、ついお母さんに八つ当たりしちゃうし、友達にもイライラしちゃって大変だった。
友達が、“吹っ切れた”とか言っておきながら、会うたびに何度も先輩の話をするから。
同じ学校っていうだけで、ひそかよりも先輩との思い出がたくさんあるのがずるい。
先輩は、本当に色んな子に手を出していたらしく、さすがのひそかも嫉妬しちゃう。
どれだけひそかが先輩の運命の相手だって決まっていたとしても、そんなに色んな子に浮気されたくはない。
「ひそか」
友達の部屋でお菓子を食べていると彼女が照れながら話し始めた。
「なに?」
「実はね、私も先輩に迫られたことあるの…!」
「は…?」
「やっぱりさ、そしたらさ、期待しちゃうよねー。忘れられなくなっちゃうよね。…あの時、緊張しすぎて逃げちゃったの、めちゃくちゃ後悔してるんだ」
友達はため息をついて俯いた。
「クラスに、先輩に振られてすごい泣いてた子がいてさ?その子に比べたら私なんて…って思ってたんだけど、やっぱりダメだ~」
へへへと笑いながらも、彼女はまたため息をつく。
「その子、永那先輩と…その…キスとかもしてたんだって…」
血の気が引いていく。
動悸が激しくなっていく。
それでもひそかは平静を装う。
装うつもりだった。
なのに、気づけば友達を床に押し倒していた。
「ひそか!?ちょっ…痛い!痛いって!」
そう叫ばれて、慌てて手を離した。
彼女はひそかが掴んだ両肩を擦りながら起き上がった。
「なに…急に…」
「べ、べつに…」
先輩が恋人を取っ替え引っ替えするのは理解できる。
あれだけ完璧な人だったら当然。
ひそかの恋人になる人だったら、それくらいモテて当然。
でも…付き合ってもない人とキスするとか…そんな嘘、信じられない。
あんな完璧な先輩が、そんなだらしないことするわけない。
嘘ついてまで、ひそかと先輩の運命を引き裂きたいの?
イライラしすぎて、頭がおかしくなりそうだった。
帰り道、これ以上先輩がひそかを見失わないようになんとかしなきゃと思った。
先輩の連絡先を知りたかったけど、友達は“知らない”と、また嘘をついた。
進学した高校も知らない、家も知らないなんて信じられない…!
それで、3ヶ月くらいかけて、やっと先輩の居場所を見つけた。
先輩に話しかけたい気持ちを必死に抑えて、絶対に同じ高校に行くんだって気持ちで勉強した。
お母さんに頼み込んで塾にも通わせてもらった。
全然勉強してこなかったから、1年とちょっとの間、死ぬかと思った…。
お母さんもお父さんもやたら喜んだけど、そんなのはどうでも良かった。
早く高校生になりたかった。
同じ学校に入れても、先輩が卒業するまで、たった1年間しかない。
いくらその後も恋人であれるからって、せっかくならいろんな思い出を共有したい。
体育祭も文化祭も、夏休みも冬休みも…!
試験前は先輩に勉強を教えてもらったりして…。
想像するだけでふわふわと宙に浮いちゃいそう。
春休みがやたらと長く感じられた。
まるで季節がひそかに意地悪してるみたいに。
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