いたずらはため息と共に

常森 楽

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7.向

472.序開

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ご飯を食べ終えて、2人で布団に潜った。
お風呂には入れそうになかったから汗拭きシートで体を拭いていたのに、彼女に押し倒される形で寝ることになった。
「穂、服脱ご?そんで、くっつこ?」
「えー…私、汗拭けてないんだけど」
「私が拭いてあげるから!服脱いだ方が拭きやすいでしょ?」
服の裾を捲られ、そのまま、あれよあれよという間に脱がされる。
永那ちゃんもさっさと服を脱ぎ捨てて、生まれたままの姿になった。
抱きしめられると、永那ちゃんの肌がひんやりしていた。
頬を胸元に擦り付けるから、彼女の髪がふわふわと舞って、くすぐったい。
二の腕やら脇腹やら太ももやらをモミモミされ、永那ちゃんが「気持ち~」と呟く。
「永那ちゃん、拭いてくれるんじゃないの?」
「拭いてあげる!」
テーブルに置いてあったシートを取って、首筋から拭いてくれる。
耳の裏まで重点的に拭くから、思わず笑みが溢れる。
こういうところ、永那ちゃんは変に丁寧だ。
まるで私を宝物みたいに扱ってくれる。
気持ち良くて、目を閉じた。
拭かれたところがスーッとするけれど、決して冷たいわけではなく、ベタついた汗が綺麗に拭い取られていく感覚が気持ち良い。

予想はしていたけれど、胸元を拭く時、彼女は胸を揉んだ。
「永那ちゃん?」
叱るように言うと、彼女は楽しそうに笑う。
「谷間はちゃんと拭かないとね~!」
胸を揉み続けながら、汗拭きシートを上下に動かして谷間を拭く。
「汗が溜まりやすい場所ですからね~」
声音を高くして、デパ地下の店員さんみたい。
「はい、それではこちらもですね~、汗が溜まりやすい場所となっておりますので、拭かせていただきますね~」
…いや、電話する時に声が高くなる人みたいな感じかな?
どちらにしても、変な言い方だ。
乳房を上げ、拭かれる。
喋り方が面白くて、私が笑っていると、彼女は機嫌良く続けてくれた。
「次は、腕でございま~す。多少くすぐったいかもしれませんが、我慢してくださいませ~」
腕を持ち上げられ、サッと拭いてくれる。
脇に触れられた瞬間、くすぐったくて体を捩った。
「待っ…永那ちゃんっ!アッ、ハハッ、だめっ、だめ!」
「我慢してくださいませ~」
やっと片腕が終わると、もう片方が開始される。
私はバタバタと足を動かしたり、体を動かしたりするけれど、永那ちゃんはお構いなしだった。
むしろそれを楽しんでいるかのようだった。
「お客様~、我慢してくださいませ~」
なんて高い声で言うから、私は余計に笑った。

「“我慢してくださいませ”ってなに?」
笑いを堪えながら私が言うと、永那ちゃんは眉根を下げて笑みを浮かべる。
「知らね」
シートを替え、お腹が拭かれる。
膝を立てられ、脚まで丁寧に。
「なんか、良いね」
「ん?」
「私、永那ちゃんにさわられるの、好きだよ」
彼女の鼻の穴が大きく膨れ上がる。
口角が上がって、白いが歯が見える。
「もっといっぱいさわってあげようか?」
彼女が恥部に触れるから、眉間にシワを寄せる。
意味じゃない」
「なーんだ」
強引にかと思ったけれど、彼女はそのまま私の体を優しく拭き続けた。

「他に気になるところはございませんかっ?」
「大丈夫です」
「うし!じゃあ終わり!」
ゴミ箱にシートを投げ捨て、彼女が私の上にダイブする。
「あ~、穂とのイチャイチャタイムは最高」
足元でぐしゃぐしゃになっていた布団を、永那ちゃんは器用に足で持ち上げて、かけてくれる。
裸のまま、2人で1つの布団に入っていると、徐々にお互いの体温が混ざり合っていく。
「穂」
「なに?永那ちゃん」
「好きだよ」
「私も永那ちゃん、好きだよ。大好き」
足を絡める。
「永那ちゃん」
「なに?穂」
「明日、デートしない?」
「デート?」
「せっかくの春休みだし…」
「いいよ!どこ行く?」
彼女のがキラキラと輝く。

彼女をギュッと抱きしめた。
抱きしめ返してくれる。
鎖骨に顔をうずめると、彼女の匂いが鼻を通る。
うちの柔軟剤とは違う匂い。
一緒に生活していた時、“永那ちゃんの匂いだ”と思って嬉しかった匂い。
ふわりとした爽やかな甘い香りと、彼女自身の香りが混ざって、安心感を抱く。
「水族館」
フフッと彼女が笑う。
「穂、水族館好きだね」
「うん。…ずっと行ってみたかったところがあるんだけど、そこでもいいかな?」
「いいよ。穂の行きたいとこに行こう」
「ありがとう」
「楽しみだ」

彼女の優しい声が好き。
彼女といると、子供の時に戻ったみたいな気持ちになる。
あたたかくて、安心感があって、気づいたらずっと笑ってる。
柄にもなく、甘えてる。
わがままを言っている自分がいる。
“受け入れてくれる”って、当たり前のように思っている自分がいる。
無意識につけていた鎧が、彼女の前では、気づいたら無くなっているみたいな。
モゾモゾと動いて、彼女の胸に顔を押し付けた。
「穂?」
返事をするのが億劫だ。
「穂?…寝るの?」
「んぅ…」
ぬくもりの中で、意識が薄れていく。
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