いたずらはため息と共に

常森 楽

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「はよ帰れ」
永那ちゃんが芹奈を睨む。
「束縛系は嫌われるよ~?」
芹奈がニヤニヤしながら永那ちゃんを指差す。
「うるせー」
「ま、帰るか。もうママも帰ってきちゃうし…。んじゃ、またね~!」
「バイバーイ!」
永那ちゃんのお母さんが手を振る。
「ハァ」と深くため息をつく永那ちゃん。
「どっと疲れた…」
お母さんが私と永那ちゃんの腕を抱くように掴む。
「帰ろっ」

家に向かってる道中、お母さんは上機嫌だった。
「女の子同士でお付き合いか~。お母さんが高校生の時は、全然なかったな~。芸能人で、そういう人がいるんだって知ってたくらい」
「まあ…そうだよね…。お母さん、私に…その…恋人がいて、嫌じゃないの?」
「え~!?なんで~!?嫌じゃないよ!!」
「いや…前言ってたから…」
「知らない!言ってない!」
「えー……。んー…まあ、いっか」
「ねえ、穂ちゃん、穂ちゃん!」
「はい」
「どっちから告白したの?」
「あの…永那ちゃんから…」
「わ~!!永那から~!?」
輝くような笑顔を永那ちゃんに向ける。
「もー…」
困ったような顔をしながらも、永那ちゃんの目元は弓なりだった。

「お母さん」
「なにっ?」
「お姉ちゃんに言わないでよ…」
「どうして?」
「あの人は絶対偏見持ってるから」
「そうかな~?」
「そうなの」
「わかったよぉ…。どうせ、あの子は滅多に帰ってこないし…話すことなんてないんじゃないかな!」
お母さんの表情が少し曇る。
「でも…何かあったら来てくれるってさ?」
「何かって?」
「わかんないけど…。帰ってきてって言ったら、たまには帰ってきてくれるんじゃない?」
「そっか…」
曇った表情が晴れた。
「あ、あと!じいちゃんにも!!じいちゃんにも言わないでよ?」
お母さんが笑う。
「わかったわかった。永那はホント、秘密ばっかり。お母さんに、な~んにも教えてくれないもんね~?」
「言ったって、しょうがないじゃん」
「しょうがなくない!お母さんは永那のこと、知りたいもん」
「私も、永那ちゃんのこと、もっとたくさん知りたい」
「穂まで…」
「穂ちゃんにも言わないの?ダメだよ!永那!!」
「はいはい」

お買い物をして、お母さんと一緒にご飯を作る。
「私ね、永那が結婚するならどんな人かな~?って考えたことがあるの」
頷く。
「でも、そしたら永那…私から離れちゃうでしょ?結婚するってことは…別々に暮らすってことでしょ?」
「そう…かもしれませんね」
「離れ離れになるって考えたら、寂しくて」
お母さんの横顔は、必死に、叫びたいのを堪えているようだった。
「寂しくて…。みんな、私から離れていっちゃうの。それが、嫌で…」
私はただ黙って野菜を切る。
永那ちゃんが見ているテレビの音が、やけに大きく聞こえた。
「私には、永那しかいないから…」
ポタリとお母さんの瞳から雫が落ちる。
彼女はそれを指で拭って、笑みを作った。
「でも、穂ちゃんなら…穂ちゃんなら、いいかなって…思ったよ」
見つめ合う。
「これからも、永那のこと…よろしくね?」
「…はい」
「その…少しでいいから、私とも…仲良くしてね?」
「私は、お母さんのこと、大好きですよ。私の方こそ、これからも仲良くしていただきたいです」
「え!?」
お母さんの目はどんどん潤んでいき、下唇を噛んで、顎をしわくちゃにする。
すぐにわっと泣き始め、慌てて永那ちゃんが駆け寄ってきた。

「私、私…永那が穂ちゃんのことっ、穂ちゃんの、こと、傷つけたら、絶対、絶対絶対絶対、穂ちゃんの味方だから!ね?ね?」
「え!?なんの話!?」
お母さんは永那ちゃんに抱かれながら、泣きながら、言ってくれる。
「それは、心強いですね」
お母さんの髪の毛が目元についたから、それを取ってあげる。
「穂ちゃんっ、穂ちゃんっ」
抱きつかれ、抱きしめる。
永那ちゃんと目が合って微笑むと、彼女は困ったように笑った。
…千陽も芹奈もお母さんも、永那ちゃんが私を傷つける前提なのが不思議だけれど、みんなが私の味方をしてくれるなら、私は永那ちゃんの味方であろう。

お母さんが泣き止んだ後、3人でご飯の仕度をし、早めの夕食を食べた。
「駅まで送るよ」
永那ちゃんが言う。
「大丈夫だよ?」
「送りたい」
「じゃあ…お願いします」
彼女は頷いて、お母さんを見た。
「お母さん?」
「なに~?」
「行かないの?」
「行かないよ~」
「え!?行かないの?」
「行かないってば~」
お母さんはテーブルに顔を突っ伏して、こちらに顔を向けない。
永那ちゃんと顔を見合わせる。
ふぅっと永那ちゃんが息を吐く。
「じゃあ、駅まで送ってくるね?」
「うん」
「穂、行こっか」
頷くと、永那ちゃんが靴を履く。

ドアを開けた瞬間、「永那!」お母さんが叫ぶように言った。
振り向く。
「帰ってきて、ね…?」
お母さんも振り向いていた。
不安そうな瞳で永那ちゃんを見つめる。
「当たり前じゃん」
お母さんがホッとしたように笑った。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
2人が見つめ合って、笑みを浮かべる。
「穂ちゃん、また来てね」
「はい。お邪魔しました」
ドアが閉まる。
永那ちゃんが鍵を出して、ガチャッと鍵がかかるのを確認した。
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