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7.向
462.バランス
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「そ。絶対後悔したくなかったから。それでも“やっぱりこれじゃなかったかな~”って日があって、そしたらじいちゃんが、おまけしてくれた」
永那ちゃんが後ろを向いて、優しい笑みを浮かべる。
「永那ちゃんの、大事な場所なんだね」
「うん。初めてだよ、誰かを連れてきたのなんて。…高学年になったらさ、みんな来なくなったし」
「ありがとう、連れてきてくれて」
「穂は特別だよ?」
「お母さんは~?」
「お母さんも」
自販機で買ったサイダーを飲みながら、ベンチで寛ぐ。
ぽかぽかとした陽気に包まれて、穏やかな時間が流れていく。
親子が店内に入っていくのを見たり、葉桜になった桜の木の生き残りたちが風に舞っているのを眺めたり、時折お母さんが鼻歌を歌ったり…。
前に永那ちゃんと2人で行った公園にも行った。
親子が二組いて、ブランコが1つ空いていた。
お母さんが楽しそうに座り、永那ちゃんが背中を押す。
「永那?」
しばらく楽しんでいると、話しかけられ、永那ちゃんがお母さんの背を押す手を止める。
「芹奈」
「めっちゃ久しぶりじゃ~ん!」
「おー。…あ、中学ん時の友達」
私はペコリと頭を下げた。
いわゆる、ギャルと呼ばれる類の人…。
高校にも、ここまでギャルっぽい人はいない気がする。
「元気してた~?」
「うん。芹奈は?」
「めっちゃ元気!超元気!」
なぜかその会話でケラケラ笑い、永那ちゃんの肩をバシバシ叩く。
「え、ねえ、待って…永那のママとお姉ちゃん?」
「永那のママで~す!」
お母さんが手を上げる。
「あ、こっちはそうだけど…お姉ちゃんじゃなくて、高校の…」
「高校の……あ~、はいはい、理解したわ」
「は!?絶対理解してないだろ!?」
「したって」
また芹奈と呼ばれた子は笑いながらバシバシと永那ちゃんの肩を叩く。
「永那も相変わらずだね~」
「だから違うってば!」
「へ~?」
芹奈さんがニヤニヤする。
隣のブランコに座っていた親子が移動した。
なんだか、申し訳ない…。
「もう、芹奈帰れ」
「は~!?久しぶりの再会になに言ってんの、永那冷たいんですけど~。え、てかてか、千陽は?千陽どうしてる?」
「元気だよ…早く帰れよ。てか、私達が帰るか」
永那ちゃんと千陽のことを知ってる人…。
「え~、私永那が中学生の時の話聞きた~い!」
「永那めっちゃモテモテで~」
「やめろって。お母さんもいいから」
「永那のモテモテ話聞きた~い!」
「いや~、マジであれはヤバかった!恐怖すら感じたよね」
「やめろっつってんだろ」
永那ちゃんの額に血管が浮かぶ。
「こわっ」
「え、永那ちゃん…?大丈夫?」
「あ、ああ…ごめんね?穂」
「実はあたしも永那のこと好きだった時期あって!アハッ!ヤバッ!」
心臓がドクンと鳴る。
千陽と小倉心音さんと…この人も…。
そっか…だから永那ちゃんは家の周りをあんまり歩きたくなかったんだ…。
「え~!?芹奈ちゃん、永那、女の子だよ?」
「え!?永那ママ、今どき“好き”に女とか男とか関係ないから~、古い古い。更新して~」
永那ちゃんが指でこめかみをグリグリ押す。
「永那、女の子にもモテモテだったの?…すご~い!!」
「てか、永那は男より女にモテて…ね!!」
芹奈さんが永那ちゃんの肩を叩く。
お母さんはポカーンとして、ゆっくり私を見た。
緊張で全身が強張る。
「穂ちゃん…」
「は、はい…」
「永那、高校でも女の子にモテモテなの…?」
「お母さん!いい加減にしてよ。もういいでしょ?」
「永那、意外と恥ずかしがり屋?めっちゃ意外なんですけど!!」
「恥ずかしいとかじゃないから!そういう問題じゃないんだって!…ごめん、穂。もう帰ろう」
永那ちゃんは首筋をすごい勢いで掻きむしる。
お母さんの手を取って、強引にブランコから立ち上がらせた。
「永那っ、痛い~!」
「早く帰ろ」
お母さんの訴えも無視して、永那ちゃんは歩き出そうとする。
「ねえ」
呼ばれて、私は声の主に視線を向ける。
彼女が一歩私に近づく。
「好きになると、傷つくだけだよ?…まあ、今は言っても意味ないかもだけど」
「どうして、そう思うんですか?」
「永那に夢中になって、散々、傷つく子見てきたから」
ジッと見つめられた後、彼女は永那ちゃんを見て笑みを浮かべた。
嫌がるお母さんを無理矢理引っ張ろうとする永那ちゃん。
「私には、ずっと優しいです」
「今はね?」
芹奈さんの言い方は全く嫌味っぽくなく、ただ本当に、純粋にそう言っているみたいだった。
「けど、永那がお母さんと一緒にいるとこなんて初めて見た」
声音を大きくして、永那ちゃん達にも聞こえるように言う。
「は!?親なんだから一緒にいるだろ」
永那ちゃんがお母さんの手を離す。
「でもあたし、初めて会ったし」
「はじめまして!」
お母さんは永那ちゃんに引っ張られた手首を撫でながら笑う。
「痛い!痛かった!」
すぐに膨れっ面になり、永那ちゃんを睨む。
「ハァ」とため息をついて、永那ちゃんが項垂れる。
「ごめんね」
永那ちゃんが言うと、お母さんは唇を突き出したまま「いいよ…?」と呟く。
「それで、永那は高校でもモテモテなの?」
芹奈さんが口角を上げながら、横目に私を見た。
永那ちゃんが後ろを向いて、優しい笑みを浮かべる。
「永那ちゃんの、大事な場所なんだね」
「うん。初めてだよ、誰かを連れてきたのなんて。…高学年になったらさ、みんな来なくなったし」
「ありがとう、連れてきてくれて」
「穂は特別だよ?」
「お母さんは~?」
「お母さんも」
自販機で買ったサイダーを飲みながら、ベンチで寛ぐ。
ぽかぽかとした陽気に包まれて、穏やかな時間が流れていく。
親子が店内に入っていくのを見たり、葉桜になった桜の木の生き残りたちが風に舞っているのを眺めたり、時折お母さんが鼻歌を歌ったり…。
前に永那ちゃんと2人で行った公園にも行った。
親子が二組いて、ブランコが1つ空いていた。
お母さんが楽しそうに座り、永那ちゃんが背中を押す。
「永那?」
しばらく楽しんでいると、話しかけられ、永那ちゃんがお母さんの背を押す手を止める。
「芹奈」
「めっちゃ久しぶりじゃ~ん!」
「おー。…あ、中学ん時の友達」
私はペコリと頭を下げた。
いわゆる、ギャルと呼ばれる類の人…。
高校にも、ここまでギャルっぽい人はいない気がする。
「元気してた~?」
「うん。芹奈は?」
「めっちゃ元気!超元気!」
なぜかその会話でケラケラ笑い、永那ちゃんの肩をバシバシ叩く。
「え、ねえ、待って…永那のママとお姉ちゃん?」
「永那のママで~す!」
お母さんが手を上げる。
「あ、こっちはそうだけど…お姉ちゃんじゃなくて、高校の…」
「高校の……あ~、はいはい、理解したわ」
「は!?絶対理解してないだろ!?」
「したって」
また芹奈と呼ばれた子は笑いながらバシバシと永那ちゃんの肩を叩く。
「永那も相変わらずだね~」
「だから違うってば!」
「へ~?」
芹奈さんがニヤニヤする。
隣のブランコに座っていた親子が移動した。
なんだか、申し訳ない…。
「もう、芹奈帰れ」
「は~!?久しぶりの再会になに言ってんの、永那冷たいんですけど~。え、てかてか、千陽は?千陽どうしてる?」
「元気だよ…早く帰れよ。てか、私達が帰るか」
永那ちゃんと千陽のことを知ってる人…。
「え~、私永那が中学生の時の話聞きた~い!」
「永那めっちゃモテモテで~」
「やめろって。お母さんもいいから」
「永那のモテモテ話聞きた~い!」
「いや~、マジであれはヤバかった!恐怖すら感じたよね」
「やめろっつってんだろ」
永那ちゃんの額に血管が浮かぶ。
「こわっ」
「え、永那ちゃん…?大丈夫?」
「あ、ああ…ごめんね?穂」
「実はあたしも永那のこと好きだった時期あって!アハッ!ヤバッ!」
心臓がドクンと鳴る。
千陽と小倉心音さんと…この人も…。
そっか…だから永那ちゃんは家の周りをあんまり歩きたくなかったんだ…。
「え~!?芹奈ちゃん、永那、女の子だよ?」
「え!?永那ママ、今どき“好き”に女とか男とか関係ないから~、古い古い。更新して~」
永那ちゃんが指でこめかみをグリグリ押す。
「永那、女の子にもモテモテだったの?…すご~い!!」
「てか、永那は男より女にモテて…ね!!」
芹奈さんが永那ちゃんの肩を叩く。
お母さんはポカーンとして、ゆっくり私を見た。
緊張で全身が強張る。
「穂ちゃん…」
「は、はい…」
「永那、高校でも女の子にモテモテなの…?」
「お母さん!いい加減にしてよ。もういいでしょ?」
「永那、意外と恥ずかしがり屋?めっちゃ意外なんですけど!!」
「恥ずかしいとかじゃないから!そういう問題じゃないんだって!…ごめん、穂。もう帰ろう」
永那ちゃんは首筋をすごい勢いで掻きむしる。
お母さんの手を取って、強引にブランコから立ち上がらせた。
「永那っ、痛い~!」
「早く帰ろ」
お母さんの訴えも無視して、永那ちゃんは歩き出そうとする。
「ねえ」
呼ばれて、私は声の主に視線を向ける。
彼女が一歩私に近づく。
「好きになると、傷つくだけだよ?…まあ、今は言っても意味ないかもだけど」
「どうして、そう思うんですか?」
「永那に夢中になって、散々、傷つく子見てきたから」
ジッと見つめられた後、彼女は永那ちゃんを見て笑みを浮かべた。
嫌がるお母さんを無理矢理引っ張ろうとする永那ちゃん。
「私には、ずっと優しいです」
「今はね?」
芹奈さんの言い方は全く嫌味っぽくなく、ただ本当に、純粋にそう言っているみたいだった。
「けど、永那がお母さんと一緒にいるとこなんて初めて見た」
声音を大きくして、永那ちゃん達にも聞こえるように言う。
「は!?親なんだから一緒にいるだろ」
永那ちゃんがお母さんの手を離す。
「でもあたし、初めて会ったし」
「はじめまして!」
お母さんは永那ちゃんに引っ張られた手首を撫でながら笑う。
「痛い!痛かった!」
すぐに膨れっ面になり、永那ちゃんを睨む。
「ハァ」とため息をついて、永那ちゃんが項垂れる。
「ごめんね」
永那ちゃんが言うと、お母さんは唇を突き出したまま「いいよ…?」と呟く。
「それで、永那は高校でもモテモテなの?」
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