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7.向
453.バランス
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修学旅行の後から、永那が前よりあたしに優しくあろうとしてくれていたのはわかっていた。
それが嬉しくて、やっと自分の気持ちが報われた気がしてた。
穂と永那との3人の関係に心地よさを感じて、2人からの愛を感じられて、とりあえず今はこれでいいやって思えた。
なのに、バランスが崩れそうで、怖かった。
永那にパパとのやり取りを見られて、永那が酷く傷ついた顔をした。
あたしはそれを見て、泣きたくないのに涙が溢れた。
あたしだって、永那があたしの泣いてるところを見たくないって言ってくれるのと同じように、永那が傷ついてるところなんて見たくない。
でも、あたしが泣くせいで、永那は余計に傷ついた顔をする。
何度か見たことのある顔。
“自分が相手を傷つけた”と過剰に自分を責めて、“相手のため”と永那は逃げる。
自分だって傷だらけのくせに、その人のことは誰かに任せて、ひとりで殻に閉じこもる。
そして平気なフリして、傷ついてないフリして、笑う。
そんな永那、見飽きた。
なんであたしからも逃げるの?
なんで“自分が傷つけた”って思うなら、逃げるの?
あんたが責任持って慰めてよ。
ちゃんとあたしに向き合ってよ。
バランスが崩れそう、なんて杞憂だった。
穂が永那を連れ戻して、とんちんかんなことを言い始める。
あたしも永那も、誰かに媚を売ることを酷く嫌う。
それはたぶん、過剰なほどに。
ずっと媚を売ってきた。
そうすることでしか、生きてこられなかった。
それ以外、どうすればいいのかわからなかった。
誰にも素の自分を見てもらえていないという孤独感。
媚を売らなきゃ、あるいは優しくしなきゃ、誰も見てくれないという不安。
でも穂には、そんな考えがない。
家族をちゃんと大事に思っていて、家族もそれに応えてくれる。
正義感が強くて、まっすぐで、人の言葉を素直に受け取る。
ずっと友達と呼べる人がいなかったせいか、変な自信のなさはあるけど、そんなの、もう昔の話。
穂はきっと、どんどん魅力的になっていく。
大学生になったら、今までと違って、普通に友達もできると思う。
そんな穂を見ていたら、自分がバカらしく思えてくる。
誰かに媚を売るとか売らないとか、そんなのどうでもよく思えてくる。
結局、あたしだって、永那と同じだ。
同じだから、“バランスが崩れる”なんて思ったんだ。
相手のことを勝手に予測して決めつける変な癖がまだ抜けない。
シャワーを浴びると、永那が穂に引っ付く。
穂がそれを嫌がって、永那はあからさまに落ち込んでいた。
永那の気持ちも、穂の気持ちもわかる。
永那は、お母さんが帰ってきてからずっと穂とまともに触れ合えなくて、それを爆発させてるんだと思う。
あたしだって、元旦からずっとずっと我慢してきたから、今回のお泊まりは楽しみにしていた。
なんなら、穂の代わりになってあげたいくらい、あたしは餓えていた。
でも、たくさんイって、疲れてるのも事実。
シャワーくらいゆっくり浴びたい穂の気持ちもわかる。
結局、永那はさっさと全身を洗い終えて、1番に浴室から出た。
「穂、背中洗って?」
「うん」
彼女が優しく洗ってくれる。
「千陽、髪伸びたよね」
「うん。ショートとどっちがいい?」
「迷うなあ…。どっちも可愛いんだもん、羨ましい。私がショートにしたら、こけしみたいになりそう」
彼女に“答え”がないのは知っている。
知ってるけど、なんとなく聞きたい。
「こけし?ならないでしょ。なったとしたら、その美容師、相当下手じゃない?」
穂が楽しそうに笑う。
「はい、出来たよ」
振り向いて、彼女の手を掴む。
「さわって?」
おずおずと手が近づいてきて、胸に触れる。
「なんで永那ってあんなにエロいんだろ?」
「え!?」
「さわり方、全然違う」
「…どうせ私は下手だよ」
穂が唇を突き出して拗ねる。
可愛い。
「穂が下手なんじゃない。…穂のさわり方は、優里とか、他の子の感じと似てる。永那がおかしいの」
「おかしいの?」
彼女は口元を手で隠して、クスクスと笑った。
2人とも、自分の身体を洗い始める。
「永那ちゃんは怪獣だからね」
「怪獣?なにそれ?」
「永那ちゃんが言ってたの。怪獣がいるんだって」
「よくわかんないけど…そうなんだ…」
「今日だって、永那ちゃん、千陽に止められるまでやめなかったでしょ?…たぶん、あれが怪獣モードなの」
「へえ」
「ハァ」と彼女がため息をつく。
「怪獣モードになると、疲れちゃうんだよね。…あ!嫌なわけじゃないんだけど」
「わかる。あたしも疲れた」
「千陽…?」
「ん?」
彼女が私の耳に口を近づける。
「こういう時は、永那ちゃんを気持ち良くしてあげるのが良いと思うんだ」
「つまり?」
「2人で永那ちゃんを気持ち良くしよ?」
「そんなことできる?」
「できる…と、思う!私達がどれだけ疲れるか、永那ちゃんも知った方がいいんだよ」
真剣な眼差しで言うから、笑える。
「羨ましい」
「なにが?」
「あたしも、そう言えちゃうくらい永那にされてみたい」
それが嬉しくて、やっと自分の気持ちが報われた気がしてた。
穂と永那との3人の関係に心地よさを感じて、2人からの愛を感じられて、とりあえず今はこれでいいやって思えた。
なのに、バランスが崩れそうで、怖かった。
永那にパパとのやり取りを見られて、永那が酷く傷ついた顔をした。
あたしはそれを見て、泣きたくないのに涙が溢れた。
あたしだって、永那があたしの泣いてるところを見たくないって言ってくれるのと同じように、永那が傷ついてるところなんて見たくない。
でも、あたしが泣くせいで、永那は余計に傷ついた顔をする。
何度か見たことのある顔。
“自分が相手を傷つけた”と過剰に自分を責めて、“相手のため”と永那は逃げる。
自分だって傷だらけのくせに、その人のことは誰かに任せて、ひとりで殻に閉じこもる。
そして平気なフリして、傷ついてないフリして、笑う。
そんな永那、見飽きた。
なんであたしからも逃げるの?
なんで“自分が傷つけた”って思うなら、逃げるの?
あんたが責任持って慰めてよ。
ちゃんとあたしに向き合ってよ。
バランスが崩れそう、なんて杞憂だった。
穂が永那を連れ戻して、とんちんかんなことを言い始める。
あたしも永那も、誰かに媚を売ることを酷く嫌う。
それはたぶん、過剰なほどに。
ずっと媚を売ってきた。
そうすることでしか、生きてこられなかった。
それ以外、どうすればいいのかわからなかった。
誰にも素の自分を見てもらえていないという孤独感。
媚を売らなきゃ、あるいは優しくしなきゃ、誰も見てくれないという不安。
でも穂には、そんな考えがない。
家族をちゃんと大事に思っていて、家族もそれに応えてくれる。
正義感が強くて、まっすぐで、人の言葉を素直に受け取る。
ずっと友達と呼べる人がいなかったせいか、変な自信のなさはあるけど、そんなの、もう昔の話。
穂はきっと、どんどん魅力的になっていく。
大学生になったら、今までと違って、普通に友達もできると思う。
そんな穂を見ていたら、自分がバカらしく思えてくる。
誰かに媚を売るとか売らないとか、そんなのどうでもよく思えてくる。
結局、あたしだって、永那と同じだ。
同じだから、“バランスが崩れる”なんて思ったんだ。
相手のことを勝手に予測して決めつける変な癖がまだ抜けない。
シャワーを浴びると、永那が穂に引っ付く。
穂がそれを嫌がって、永那はあからさまに落ち込んでいた。
永那の気持ちも、穂の気持ちもわかる。
永那は、お母さんが帰ってきてからずっと穂とまともに触れ合えなくて、それを爆発させてるんだと思う。
あたしだって、元旦からずっとずっと我慢してきたから、今回のお泊まりは楽しみにしていた。
なんなら、穂の代わりになってあげたいくらい、あたしは餓えていた。
でも、たくさんイって、疲れてるのも事実。
シャワーくらいゆっくり浴びたい穂の気持ちもわかる。
結局、永那はさっさと全身を洗い終えて、1番に浴室から出た。
「穂、背中洗って?」
「うん」
彼女が優しく洗ってくれる。
「千陽、髪伸びたよね」
「うん。ショートとどっちがいい?」
「迷うなあ…。どっちも可愛いんだもん、羨ましい。私がショートにしたら、こけしみたいになりそう」
彼女に“答え”がないのは知っている。
知ってるけど、なんとなく聞きたい。
「こけし?ならないでしょ。なったとしたら、その美容師、相当下手じゃない?」
穂が楽しそうに笑う。
「はい、出来たよ」
振り向いて、彼女の手を掴む。
「さわって?」
おずおずと手が近づいてきて、胸に触れる。
「なんで永那ってあんなにエロいんだろ?」
「え!?」
「さわり方、全然違う」
「…どうせ私は下手だよ」
穂が唇を突き出して拗ねる。
可愛い。
「穂が下手なんじゃない。…穂のさわり方は、優里とか、他の子の感じと似てる。永那がおかしいの」
「おかしいの?」
彼女は口元を手で隠して、クスクスと笑った。
2人とも、自分の身体を洗い始める。
「永那ちゃんは怪獣だからね」
「怪獣?なにそれ?」
「永那ちゃんが言ってたの。怪獣がいるんだって」
「よくわかんないけど…そうなんだ…」
「今日だって、永那ちゃん、千陽に止められるまでやめなかったでしょ?…たぶん、あれが怪獣モードなの」
「へえ」
「ハァ」と彼女がため息をつく。
「怪獣モードになると、疲れちゃうんだよね。…あ!嫌なわけじゃないんだけど」
「わかる。あたしも疲れた」
「千陽…?」
「ん?」
彼女が私の耳に口を近づける。
「こういう時は、永那ちゃんを気持ち良くしてあげるのが良いと思うんだ」
「つまり?」
「2人で永那ちゃんを気持ち良くしよ?」
「そんなことできる?」
「できる…と、思う!私達がどれだけ疲れるか、永那ちゃんも知った方がいいんだよ」
真剣な眼差しで言うから、笑える。
「羨ましい」
「なにが?」
「あたしも、そう言えちゃうくらい永那にされてみたい」
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