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7.向
434.期待
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「明日、いっぱい気持ち良くしてあげるから。ね?」
「…明日」
「うん。だって明日はそういう日でしょ?」
掴んだ手をそっと離され、彼女が出ていってしまう。
中指と薬指をしゃぶり、隣に寝転んだ。
挿れていなかった方の左手で、髪を撫でられた。
右手は中指と薬指を浮かせて、私のお腹の上に。
「汗、びっしょり」
彼女に顔を近づける。
まだビクッと体が痙攣する。
額にキスされ、永那ちゃんは起き上がった。
ティッシュで汗を拭われ、服を着させてくれる。
カーテンを閉め、電気がつけられると、眩しくて目を瞑った。
「お茶持ってきてあげるね?」
「うん」
部屋のドアが開く。
湿った空気が入れ替わるような気がした。
永那ちゃんが部屋にコップを持ってきてくれたのと同時に、誉の声が聞こえてきて、なんとも言えない気持ちになる。
コップを受け取り、飲み干して、鏡で顔を確認する。
部屋を出ると、お菓子が入った袋を手にぶら下げて、ご満悦そうな誉がいた。
「見て見てー!姉ちゃんがくれたお金で取ったの」
「え!?誉が取ったの?」
「うん」
「すげー!めっちゃ才能あんじゃん」
「そーでしょー。ちょっと友達にもあげたから、本当はもっとあったんだよ?」
「今度私にも取って」
「いいよ」
UFOキャッチャーをしたことがないので、どのくらいすごいのか、私にはわからない。
永那ちゃんにはわかるようで、2人で楽しそうに話す。
「永那ちゃん、そろそろ…」
「そだね」
「じゃあ誉、お姉ちゃんも行ってくるね」
「またなー」
「うん」
永那ちゃんが誉の頭をポンポンと撫でる。
2人で外に出た。
「へくしゅんっ」と永那ちゃんが口を押さえる。
「花粉症?」
「んや、違うはず」
「風邪?」
「それは絶対ない」
“よく風邪を引いていた”と前に優里ちゃんから聞いたことがあったけど、夏休み以来、永那ちゃんは風邪を引いていない。
外で過ごさなくなったからかな?
だとすれば、私の功績なような気もして、少し嬉しい。
駅までの道中、桜の木が植わっている家がある。
ほとんど葉桜に変わってしまっているけれど、チラチラと花びらが舞って、永那ちゃんの頭に乗った。
「あ、ちょっと待って!」
「ん?」
スマホを出して、写真を撮る。
彼女に画面を覗かれて、撮った写真を見せる。
「これ、アイコンにする」
「そう?」
「うん」
メッセージで永那ちゃんに写真を送ると、彼女はすぐにメッセージアプリのアイコンを変えた。
私が撮ってあげた写真…。思いの外、嬉しい。
撮るのが下手だから、初めてこうしてみんなに見える形で私の撮った写真が使われているのを見ると、口元が緩まずにはいられない。
ちなみに私のアイコンは、前までは花の写真で、その後千陽に違う写真に変えられた。
千陽が撮った私の後ろ姿。
自分自身の写真にするのは気恥ずかしさもあったけれど、“友達が増えたんだからわかりやすくしないと”と言われて了承した。
そう言う千陽は、スイーツの写真なんだけど…。
永那ちゃんが私のスマホを奪って、メッセージ画面を開く。
「まだ千陽とラブラブメッセージ送り合ってんの?」
「…千陽から、送られてくるから」
彼女の頭についた花びらを取る。
「通話もしてるし」
「…千陽から、かかってくるから」
手の平に乗せると、風ですぐに飛ばされた。
「ふーん?」
「ダメ?」
「いいよ」
「通話しながら、一緒に勉強したりもするんだよ?」
「いいなあ、私もしたい」
「永那ちゃん、寝ちゃいそう…」
「穂と通話してたら寝ないよ」
「本当かなあ?」
「本当だよ」
“穂の声が心地よくて”とかなんとか言って、結局寝てそうだ。
最近は永那ちゃんとのメッセージのやり取りが増えている。
さすがに通話までは出来ていないけれど、前に比べれば一定数ラリーが続くようになった。
「明日、お母さん大丈夫そう?」
「うん」
「おじいちゃんが来てくれるんだよね」
「うん」
「良かった」
「うん」
永那ちゃんの表情は落ち着いている。本当に大丈夫そうだ。
いつも通り電車に揺られ、通い慣れた永那ちゃんの家まで一緒に行く。
「また明日ね。気をつけて帰ってね、穂」
「うん、また明日」
「ありがと」
頷いて、背を向けて歩き出す。
昨日とは反対に、見えなくなるまで、彼女が手を振り続けてくれた。
電車に揺られながら、さっき撮った写真をSNSに載せた。
永那ちゃんの顔は、目元が髪で隠れていて、鼻だけが写っているから、載せてもたぶん大丈夫。
サラサラの髪に花びらが1枚乗っている。
『いよいよ受験勉強、本格化…!』
未だになんて言葉を入力すればいいかわからない。
千陽から“いいね”されて、すぐに優里ちゃんからもされる。
次々とクラスメイトからもされるから、そっとスマホの画面を消した。
家についたら、ご飯を作って、食べて、明日の準備をして、お風呂に入って、勉強をして、寝る。
明日は14時半待ち合わせだから、そこまで急ぐ必要もない。
午前中は勉強する予定。
きっと永那ちゃんは寝ているんだろうな。
「…明日」
「うん。だって明日はそういう日でしょ?」
掴んだ手をそっと離され、彼女が出ていってしまう。
中指と薬指をしゃぶり、隣に寝転んだ。
挿れていなかった方の左手で、髪を撫でられた。
右手は中指と薬指を浮かせて、私のお腹の上に。
「汗、びっしょり」
彼女に顔を近づける。
まだビクッと体が痙攣する。
額にキスされ、永那ちゃんは起き上がった。
ティッシュで汗を拭われ、服を着させてくれる。
カーテンを閉め、電気がつけられると、眩しくて目を瞑った。
「お茶持ってきてあげるね?」
「うん」
部屋のドアが開く。
湿った空気が入れ替わるような気がした。
永那ちゃんが部屋にコップを持ってきてくれたのと同時に、誉の声が聞こえてきて、なんとも言えない気持ちになる。
コップを受け取り、飲み干して、鏡で顔を確認する。
部屋を出ると、お菓子が入った袋を手にぶら下げて、ご満悦そうな誉がいた。
「見て見てー!姉ちゃんがくれたお金で取ったの」
「え!?誉が取ったの?」
「うん」
「すげー!めっちゃ才能あんじゃん」
「そーでしょー。ちょっと友達にもあげたから、本当はもっとあったんだよ?」
「今度私にも取って」
「いいよ」
UFOキャッチャーをしたことがないので、どのくらいすごいのか、私にはわからない。
永那ちゃんにはわかるようで、2人で楽しそうに話す。
「永那ちゃん、そろそろ…」
「そだね」
「じゃあ誉、お姉ちゃんも行ってくるね」
「またなー」
「うん」
永那ちゃんが誉の頭をポンポンと撫でる。
2人で外に出た。
「へくしゅんっ」と永那ちゃんが口を押さえる。
「花粉症?」
「んや、違うはず」
「風邪?」
「それは絶対ない」
“よく風邪を引いていた”と前に優里ちゃんから聞いたことがあったけど、夏休み以来、永那ちゃんは風邪を引いていない。
外で過ごさなくなったからかな?
だとすれば、私の功績なような気もして、少し嬉しい。
駅までの道中、桜の木が植わっている家がある。
ほとんど葉桜に変わってしまっているけれど、チラチラと花びらが舞って、永那ちゃんの頭に乗った。
「あ、ちょっと待って!」
「ん?」
スマホを出して、写真を撮る。
彼女に画面を覗かれて、撮った写真を見せる。
「これ、アイコンにする」
「そう?」
「うん」
メッセージで永那ちゃんに写真を送ると、彼女はすぐにメッセージアプリのアイコンを変えた。
私が撮ってあげた写真…。思いの外、嬉しい。
撮るのが下手だから、初めてこうしてみんなに見える形で私の撮った写真が使われているのを見ると、口元が緩まずにはいられない。
ちなみに私のアイコンは、前までは花の写真で、その後千陽に違う写真に変えられた。
千陽が撮った私の後ろ姿。
自分自身の写真にするのは気恥ずかしさもあったけれど、“友達が増えたんだからわかりやすくしないと”と言われて了承した。
そう言う千陽は、スイーツの写真なんだけど…。
永那ちゃんが私のスマホを奪って、メッセージ画面を開く。
「まだ千陽とラブラブメッセージ送り合ってんの?」
「…千陽から、送られてくるから」
彼女の頭についた花びらを取る。
「通話もしてるし」
「…千陽から、かかってくるから」
手の平に乗せると、風ですぐに飛ばされた。
「ふーん?」
「ダメ?」
「いいよ」
「通話しながら、一緒に勉強したりもするんだよ?」
「いいなあ、私もしたい」
「永那ちゃん、寝ちゃいそう…」
「穂と通話してたら寝ないよ」
「本当かなあ?」
「本当だよ」
“穂の声が心地よくて”とかなんとか言って、結局寝てそうだ。
最近は永那ちゃんとのメッセージのやり取りが増えている。
さすがに通話までは出来ていないけれど、前に比べれば一定数ラリーが続くようになった。
「明日、お母さん大丈夫そう?」
「うん」
「おじいちゃんが来てくれるんだよね」
「うん」
「良かった」
「うん」
永那ちゃんの表情は落ち着いている。本当に大丈夫そうだ。
いつも通り電車に揺られ、通い慣れた永那ちゃんの家まで一緒に行く。
「また明日ね。気をつけて帰ってね、穂」
「うん、また明日」
「ありがと」
頷いて、背を向けて歩き出す。
昨日とは反対に、見えなくなるまで、彼女が手を振り続けてくれた。
電車に揺られながら、さっき撮った写真をSNSに載せた。
永那ちゃんの顔は、目元が髪で隠れていて、鼻だけが写っているから、載せてもたぶん大丈夫。
サラサラの髪に花びらが1枚乗っている。
『いよいよ受験勉強、本格化…!』
未だになんて言葉を入力すればいいかわからない。
千陽から“いいね”されて、すぐに優里ちゃんからもされる。
次々とクラスメイトからもされるから、そっとスマホの画面を消した。
家についたら、ご飯を作って、食べて、明日の準備をして、お風呂に入って、勉強をして、寝る。
明日は14時半待ち合わせだから、そこまで急ぐ必要もない。
午前中は勉強する予定。
きっと永那ちゃんは寝ているんだろうな。
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