いたずらはため息と共に

常森 楽

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7.向

428.期待

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お母さんが戻ってきて、お花見を楽しんだ後、私達はすぐに解散した。
お母さんはまだいたがったけれど、やっぱりいつもより永那ちゃんへの当たりが強く、見てていたたまれなかった。
早めに解散するという永那ちゃんの判断は正しかったようで、帰った後、お母さんはひと通り悲しみや怒りを爆発させ、臥せってしまったらしい。

翌日家に来た永那ちゃんは酷く疲れた様子だった。
「久々だったよ、ホント」
目の下にクマを作り、来て早々、ベッドに横になった。
「眠れなかったの?」
「うん…。心配で」
「そっか」
彼女の髪を撫でる。
「結局、薬が効いたみたいで、ぐっすり眠ってくれはしたんだけど」
「今日、早く帰った方がいいね」
「ん~…帰りたくない…」
“ダメだよ”なんて言えない。
ただ、彼女の髪を撫で続ける。
「寝てていいよ」
「嫌だよ。せっかく穂がオンライン授業一緒に受けようって誘ってくれたのに」
「でも」
永那ちゃんが起き上がる。
「ちゃんと受けるよ」
「…わかった。授業、1時間後だから…せめてそれまでは寝てて?」
オンライン授業は、リアルタイムでも見られるし、後から配信された動画を見ることもできる。
無理にリアルタイムで見る必要もないけれど、初めはリアルタイムで空気感を味わっておいた方がいいと思った。

「俺、遊んでくるね」
永那ちゃんが寝息を立て始めてから数秒後、誉が部屋に顔を出した。
「うん。帰るの5時半?」
「うん、それくらい」
「気をつけてね」
「はーい」
暇になってしまったので、授業の準備を済ませて、本を読む。

アラームが鳴って、授業開始の15分前になった。
映像がパソコンに映し出される。
「永那ちゃん」
彼女の唇に、唇を重ねた。
自分からキスするの、久しぶり。
何度重ねても彼女は起きない。
「永那ちゃん、起きて。授業始まるよ?」
肩を揺さぶる。
試しに布団も捲ってみる。
「永那ちゃん」
全く起きる気配がない。
「永那ちゃん、いたずらしちゃいますよ?」
口づけする。
「いたずら、しちゃうよ?」
シャツを捲って、彼女の脇腹に手を当てる。
「しちゃうからね?」
指先を動かして、コショコショすると、永那ちゃんが目を開けて笑った。
「アハハッ、やめっ、やめっ、穂っ」
「寝ててもくすぐったいんだね」
「そりゃ、感覚はあるからね」
目元を指で擦っている。
彼女のシャツを戻す。
「あと5分で授業始まっちゃうよ?」
「え!?急がなきゃ!」
永那ちゃんはパタパタと洗面台に走っていく。

最初の授業が始まり、受験勉強らしくなってきた。
こうして先生の話を聞いていると、“いよいよ”という気にさせられる。
永那ちゃんは、しばらくは頑張って起きていたけれど、最後の方は寝てしまっていた。
寝ることは想定済み。
でも、私が予想していたよりも長く起きていた。
授業が終わってパソコンを閉じた後、寝ている永那ちゃんの髪を撫でた。
「頑張ったね」
いつだったか、誉がまだ小学校低学年の頃、足が速くなりたいと言って毎日のように公園で走っていたのを思い出す。
私も一緒に公園に行って、本を読みながらその様子を眺めていた。
たまに転んで怪我をして泣いても、諦めずに走っていた。
最後は力尽きて、私がおぶって家に帰った。
おぶってる最中、彼の寝息が聞こえてくる。
その息が首筋にかかってくすぐったいし、重いしで、私は私で大変だった。
寝ている人間は、起きている時よりも重い。
でも、帰って彼をベッドに寝かせた時、“大変”と思っていた気持ちが不思議と消えていった。
頑張っていた姿を思い出すから。
その時も、自然と口から出た。
“頑張ったね”
努力した結果、誉は運動会で1位だった。
それからは毎日のように公園に行くことはなくなり、彼を背負って帰ることもほとんどなくなった。

永那ちゃんの肩にブランケットをかけて、昼食作りを始める。
今日は簡単にパスタ。
一昨日、一緒にお弁当作れたの、楽しかったな。
パスタを茹でつつ、市販のパスタソースを選ぶ。
永那ちゃん、何が好きかな?
なんとなくのイメージで、ミートソースにした。
昨日の夕飯の残り、新玉ねぎのサラダを冷蔵庫から出す。
ダイニングテーブルにコップやお皿を置くと、永那ちゃんが起きた。
「ごめん…寝ちゃってた…」
「大丈夫だよ」
「ごめんね?」
「どうしてそんなに謝るの?」
「…だって、せっかく穂が誘ってくれたのに」
「いいよ、気にしなくて。それより、ご飯もう出来るから、食べよ?」
「…うん」
永那ちゃんを椅子に座らせて、茹で終わったパスタにバターを絡める。
「予備校の授業って、学校とちょっと違うんだね」
「そうだね。結構最初から受験対策について話すから、背筋が伸びちゃった」
「受験の心得!みたいなね?」
「うん」
「優里達もこんな感じなのかな?」
「たぶんね。あれ、リアルタイム配信だから、実際、予備校に行って授業受けてる子達もいるわけだし…」
永那ちゃんは頷きながら、お茶を飲む。
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