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8.閑話
43.永那 中2 夏《野々村風美編》
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コンビニに寄って、いつも通り妹の分と自分の分のお菓子を買う。
話していたらあっという間にマンションにつくから、コンビニから家が近いのが少し憎らしい。
もう少し遠かったら、もう少し永那といられるのに…。
そしていつも通り永那はマンションの少し手前で踵を返して、帰ってしまう。
寂しい気持ちが膨れ上がる。
家に帰ると、妹に「遅すぎ」と文句を言われた。
「しょうがないでしょ、お父さんに似て風美は小さい頃からマイペースなんだから」
お母さんがソファに寝転がりながら言う。
マイペース…。友達からもよく言われる。
マイペースにしているつもりなんて、全然ない。
いつも必死にいろんなことをやっているつもり…。
所詮、“つもり”なんだよね…。
勉強だって、私からしたら、すごく努力している。
でも…いつも平均より少し下くらいの成績。
塾にだって、通わせてもらってるのに。
妹は生意気だけど、普通に勉強して、平均より上の成績を取る。
何でもテキパキとこなして、お母さんに媚を売るのも上手い。
だからお母さんに好かれている。
自分が…嫌になる…。
ドアを閉めて、部屋にこもる。
リビングは居心地が悪い。
そう思うようになったのは、妹が小学4年生になった時から。
お母さんが、私よりも妹の方が出来が良いと明確に判断した時から。
好きなバンドに出会ったのも、その時くらい。
音楽に、救われた。今だって、救われてる。
でも、今は、それよりも…。
椅子に座って、参考書を開く。
妹はテレビを見て、私は必死に勉強をする。
それでも妹の成績のほうが良くて、悔しくてたまらない。
涙が溢れて、ポタポタとノートに落ちる。
「永那…会いたいよ…」
数日後。
「うっわ…お姉ちゃん、ニキビやばいね」
お菓子の食べ過ぎのせいか、期末試験の成績が芳しくなくてストレスになったのか、顔に大きなニキビが2つ…。
終業式の日にわざわざできなくてもいいのに…。
朝から妹に指摘され、お母さんにも言われ、学校に行ったら友達にも言われる。
ため息をつくけど、気分は晴れない。
全校生徒が体育館に集まって、気づけば永那を探していた。
友達と楽しそうに話す姿を見て、なんだか少し気持ちが上向いた。
“こっち見ないかな?”って思って、ずっと彼女を見ていたけど、残念ながら目が合うことはなかった。
いや…このニキビを見られたくないから、むしろ目が合わなくて良かったのかもしれない…。
夏休みは、毎日塾で過ごした。
授業がない日も、自習室にこもって。
家にいたら妹がいるし、しょっちゅう友達を連れてきては騒いでうるさいから。これはもう、毎年のこと。
お母さんがいれば多少は注意してくれるけど、お母さんがパートに行ってる日は本当に酷い。
夏休みが始まってちょうど1週間経った日、永那から連絡がきた。
嬉しくて、スマホを握りしめて、足をパタパタさせる。
ニキビ治って良かった~…。
『今日会えますか?』
『今日はいつもより早く会えるよ』
『何時ですか?』
『4時には!』
今から塾を出れば、4時前に公園につける。
「自習室でスマホを出さないでください」
見回りの先生に後ろから声をかけられ、肩を上げた。
「す、すみません…」
そっと鞄にしまう。
出していたノートや参考書、筆箱もしまって、机の上の消しカスをまとめて手に乗せる。
ゴミ箱に捨てて、急いで塾を出た。
スマホを見る。
『わかりました!待ってますね』
もういるの!?
ムシムシと暑い中、私は全力疾走した。
「永那!」
「おー、先輩」
永那がダルそうにベンチに座っていた。
背もたれに全体重を預けるみたいにして、足を大きく広げていた。
隣に座ると、足を閉じる。
「汗びっしょり」
「わっ、見ないでっ」
「え?どうして?」
「恥ずかしいから!」
余計に汗が出てくる。
鞄を漁ってハンカチを出す。
こういう時に限って、慌てて荷物をしまったからか、ハンカチが鞄の底にあって嫌になる。
汗を拭く姿を見られたくなくて、彼女に背を向ける。
彼女が覗き込んでくるから、ベンチの隅に移動して、隠れるように汗を拭く。
彼女が近づく気配がして“やめてよ”と言おうとしたら、ふいに抱きしめられて、鼓動が一気に速くなった。
「つかまえたーっ」
心臓がキュッと締めつけられる。
頭が真っ白になって、何も言えなくなった。
たらりと汗が流れる。
「風美先輩?…おーい、せんぱーい?」
彼女の声が耳元で聞こえて、ドキドキして、目眩がする。
「え!?大丈夫ですか!?」
ああ…ホントに、頭が、クラクラして…。
気づいたらベンチに寝転んでいた。
「あ、起きた」
永那の笑顔が真上にあって、彼女に膝枕されているのだと気づく。
顔が急激に熱くなる。
両手で顔を覆うと、額に何か乗っていて、それに手が当たる。
濡れた、私のハンカチだった。
「勝手に濡らしちゃってすみません。でも、熱中症だったら冷やさないとだから…」
「あ…ありがとう…。ごめんね」
「え?なんで謝るんですか?」
「迷惑かけちゃって…」
「迷惑なんかじゃないですよ。私が会いたいって言ったんだし」
話していたらあっという間にマンションにつくから、コンビニから家が近いのが少し憎らしい。
もう少し遠かったら、もう少し永那といられるのに…。
そしていつも通り永那はマンションの少し手前で踵を返して、帰ってしまう。
寂しい気持ちが膨れ上がる。
家に帰ると、妹に「遅すぎ」と文句を言われた。
「しょうがないでしょ、お父さんに似て風美は小さい頃からマイペースなんだから」
お母さんがソファに寝転がりながら言う。
マイペース…。友達からもよく言われる。
マイペースにしているつもりなんて、全然ない。
いつも必死にいろんなことをやっているつもり…。
所詮、“つもり”なんだよね…。
勉強だって、私からしたら、すごく努力している。
でも…いつも平均より少し下くらいの成績。
塾にだって、通わせてもらってるのに。
妹は生意気だけど、普通に勉強して、平均より上の成績を取る。
何でもテキパキとこなして、お母さんに媚を売るのも上手い。
だからお母さんに好かれている。
自分が…嫌になる…。
ドアを閉めて、部屋にこもる。
リビングは居心地が悪い。
そう思うようになったのは、妹が小学4年生になった時から。
お母さんが、私よりも妹の方が出来が良いと明確に判断した時から。
好きなバンドに出会ったのも、その時くらい。
音楽に、救われた。今だって、救われてる。
でも、今は、それよりも…。
椅子に座って、参考書を開く。
妹はテレビを見て、私は必死に勉強をする。
それでも妹の成績のほうが良くて、悔しくてたまらない。
涙が溢れて、ポタポタとノートに落ちる。
「永那…会いたいよ…」
数日後。
「うっわ…お姉ちゃん、ニキビやばいね」
お菓子の食べ過ぎのせいか、期末試験の成績が芳しくなくてストレスになったのか、顔に大きなニキビが2つ…。
終業式の日にわざわざできなくてもいいのに…。
朝から妹に指摘され、お母さんにも言われ、学校に行ったら友達にも言われる。
ため息をつくけど、気分は晴れない。
全校生徒が体育館に集まって、気づけば永那を探していた。
友達と楽しそうに話す姿を見て、なんだか少し気持ちが上向いた。
“こっち見ないかな?”って思って、ずっと彼女を見ていたけど、残念ながら目が合うことはなかった。
いや…このニキビを見られたくないから、むしろ目が合わなくて良かったのかもしれない…。
夏休みは、毎日塾で過ごした。
授業がない日も、自習室にこもって。
家にいたら妹がいるし、しょっちゅう友達を連れてきては騒いでうるさいから。これはもう、毎年のこと。
お母さんがいれば多少は注意してくれるけど、お母さんがパートに行ってる日は本当に酷い。
夏休みが始まってちょうど1週間経った日、永那から連絡がきた。
嬉しくて、スマホを握りしめて、足をパタパタさせる。
ニキビ治って良かった~…。
『今日会えますか?』
『今日はいつもより早く会えるよ』
『何時ですか?』
『4時には!』
今から塾を出れば、4時前に公園につける。
「自習室でスマホを出さないでください」
見回りの先生に後ろから声をかけられ、肩を上げた。
「す、すみません…」
そっと鞄にしまう。
出していたノートや参考書、筆箱もしまって、机の上の消しカスをまとめて手に乗せる。
ゴミ箱に捨てて、急いで塾を出た。
スマホを見る。
『わかりました!待ってますね』
もういるの!?
ムシムシと暑い中、私は全力疾走した。
「永那!」
「おー、先輩」
永那がダルそうにベンチに座っていた。
背もたれに全体重を預けるみたいにして、足を大きく広げていた。
隣に座ると、足を閉じる。
「汗びっしょり」
「わっ、見ないでっ」
「え?どうして?」
「恥ずかしいから!」
余計に汗が出てくる。
鞄を漁ってハンカチを出す。
こういう時に限って、慌てて荷物をしまったからか、ハンカチが鞄の底にあって嫌になる。
汗を拭く姿を見られたくなくて、彼女に背を向ける。
彼女が覗き込んでくるから、ベンチの隅に移動して、隠れるように汗を拭く。
彼女が近づく気配がして“やめてよ”と言おうとしたら、ふいに抱きしめられて、鼓動が一気に速くなった。
「つかまえたーっ」
心臓がキュッと締めつけられる。
頭が真っ白になって、何も言えなくなった。
たらりと汗が流れる。
「風美先輩?…おーい、せんぱーい?」
彼女の声が耳元で聞こえて、ドキドキして、目眩がする。
「え!?大丈夫ですか!?」
ああ…ホントに、頭が、クラクラして…。
気づいたらベンチに寝転んでいた。
「あ、起きた」
永那の笑顔が真上にあって、彼女に膝枕されているのだと気づく。
顔が急激に熱くなる。
両手で顔を覆うと、額に何か乗っていて、それに手が当たる。
濡れた、私のハンカチだった。
「勝手に濡らしちゃってすみません。でも、熱中症だったら冷やさないとだから…」
「あ…ありがとう…。ごめんね」
「え?なんで謝るんですか?」
「迷惑かけちゃって…」
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