いたずらはため息と共に

常森 楽

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7.向

411.舞う

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卒業式当日、私は在校生代表としてつつがなく出席した。
卒業生がみんなで泣く姿には、私も少しウルッとさせられた。
なにより、元生徒会長が大声で泣いていたのは微笑ましかった。
私は中学生の時の卒業式では泣かなかったけれど、高校では泣くのかな?
永那ちゃんとお付き合いするようになってから、世界が変わった。
クラスメイトとも問題なく話せるようになったし、千陽や優里ちゃん、森山さんとも遊ぶ仲になった。
こうして学生生活を充実して送れると、込み上げてくるものがあるのかもしれない。

卒業式が終わった後は、生徒会メンバー全員で片付けをした。
華やかだった会場は、人がいなくなると、どこか寂しげだった。
来年、私達もこんな風に送り出されるのだろう。
「あ~!やっと終わった~!」
1年生のひとりが言う。
「疲れたな」
日住君が笑い、みんなどこかホッとしているようだった。
私もホッとしている。
…3年生になるのか。
私達にはまだもう少し授業が残っているけれど、先に卒業式を体験してしまうと、なんだか不思議な感覚になる。
まるで私達も、もう授業がないみたいな…そんな気分にさせられた。

片付けを終えて、生徒会メンバーが帰っていく。
校内にはまだちらほらと卒業生が残っていて、写真を撮ったり、泣いている人がいて、それを誰かが慰めていたりしていた。
部活動をしていたであろう人達は、後輩達が駆けつけていた。
生徒会はそういった、部での送り出しのようなことはしていない。
片付けだけをしたメンバー含め、卒業式に学校に来たことで先輩達とは顔合わせできているから。
遠くに、日住君が自転車に乗って校門から出ていくのが見えた。
…金井さんとは、一緒に帰らないのかな?
金井さんからは何も言われていない。
相談も受けていないし、私から声をかけるようなことでもないだろう。
なんて思っていたけど、生徒会室の鍵を教員室に持っていった帰り、金井さんが泣いているところを見てしまった。
生徒会メンバーの1年生に肩を抱かれていた。
私はそっと、気づかれないように帰途についた。

いつか…私も永那ちゃんとお別れする日がくるのだろうか?
今のところ、全然その気配はない。
私から振るつもりは全くないし…別れるとすれば、永那ちゃんに振られてしまう想定しか考えられない。
嫌だな…。
考えただけで少し胸が痛い。
顔をぶんぶん左右に振って、頬をペチペチ叩いた。
春休み、毎日一緒にいようって約束したんだ。
どう楽しむかだけを、今は考えよう。
できれば、ずっとこの先も一緒にい続けたい。
そのために、楽しむんだ。

翌日の日曜日の朝、千陽が家に来た。
黒のベレー帽に、ブラウンのブラウス、紺のデニムを合わせていた。
「わっ、いつもと雰囲気が違う!千陽、可愛い!」
ブラウンのブラウスにはレースが施されていて、襟元がクシュッとしている。
「おー!千陽ー!」
「誉、今日はこの後、お姉ちゃんは千陽と2人で出かけるんだからね?」
「もうそれは聞いたよ」
誉が唇を突き出して、両手を後頭部にやる。
不貞腐れた態度の誉の頭をポンポンと撫でて、千陽は家に上がった。
私達もその後に続く。
ちなみにお母さんはいつも通り、まだ寝ている。
「俺も後で友達ん行くからー」
「うん。気をつけてよー」
「はーい」
千陽と2人で部屋に入った。

「穂、服は決めてるの?」
「ううん。まだ、何も決めてない」
“全力で可愛く”がわからなくて、千陽に任せることにしてしまった。
千陽がクローゼットを開ける。
「千陽にデニムのイメージがあんまりなかったから、新鮮だなあ」
私はベッドに座って、彼女の後ろ姿を眺める。
「ずっと永那の好みに合わせてきたからね」
「永那ちゃんの好み?」
「たぶん、なんとなくだけど…永那は白が好きなんだと思う」
千陽が小さくため息をつく。
「そうなの?」
「うん。だから、あたしは普段着を白系統でまとめてたんだけど、たまにはこういうのも着たいし」
…そっか。
“デニムと言えば”で青系統の色をイメージして千陽のデニム姿が新鮮と言ったけど、いつだったか、白のデニムは穿いていた気がする。
「穂の服、白系が多いから、てっきり永那の好みに合わせてるんだと思ってたけど、違うの?」
「それは、お母さんの好みだね」
「なるほど」
フッと千陽が笑って、服選びを再開する。

「これ、可愛い」
白地にミモザが描かれているワンピースと、永那ちゃんが初デートで選んでくれた、白色に近いベージュのシャツとスカート。
アイボリーとベージュの間の色。
ミモザのワンピースは永那ちゃんとの初デートで着た服だから、どちらも思い入れがある。
「そっちはお母さんが買ってくれたので、こっちは永那ちゃんが選んでくれたの」
「永那が?」
「そう」
「ふーん。やっぱり、白系が好きなんだ、永那。…じゃあ、これにしよ?少し寒いだろうから、上に何か羽織って」
「わかった」
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