404 / 595
6.さんにん
403.冷たい
しおりを挟む
「心の病気のこととか、同性愛のこととか。小説も読んでるけど、そういう新書みたいなのも読んでみてる」
穂は…本当に、勉強熱心なんだな。
学校の勉強だけじゃなくて、そういう、自分の周りで起きていることに関心を持って勉強できるって、凄い才能だと思う。
私は、毎日生活するのにいっぱいいっぱいで、そんな風に努力しようと思ったことはなかった。
「でもね、読んでも読んでも、わからないことばっかりだよ」
「…そうなんだ」
「こうしてみたらいいのかも!って、読んだ後には思ったりもする。永那ちゃんに教えようかな?なんて…つい、余計な世話を焼こうとしちゃいそうになることもある。だけど、たぶん、そういう簡単な話じゃなくて」
涙が伝った跡がやたら寒くて、彼女の肩で涙を拭う。
「きっと、時間がかかるんだよ」
背中をトントンと優しく叩いてくれる。
「焦らないで、永那ちゃん」
彼女の優しい声に、胸の痛みが和らいでいく。
「焦らないで。私達、まだ17才だよ?時間は、きっと、たくさんある。ほら、大学生になったら2人で旅行もしたいし、いろんなところに行きたい。そう、話したでしょ?」
張り詰めていた何かが緩んで、今度こそ隠しきれないほどに涙が溢れた。
彼女がポケットからハンカチを出して、拭いてくれる。
「穂」
「ん?」
「好き」
フフッと彼女が笑う。
涙でボヤけた視界のなかでも、彼女の笑顔は素敵だった。
「私も、永那ちゃんが好き」
「…どうして?」
「え!?」
「こんな、めんどくさい性格してるのに」
「めんどくさくないよ?」
「こんな、泣いて…めんどくさいじゃん」
「めんどくさいなんて思ったこと、1度もないよ?永那ちゃんはいつも優しい。優しいから、泣くんでしょ?」
「…わけわかんないよ」
彼女が唇を尖らせて、考え込む。
“わけわかんない”に答えようとしなくていい。
ただの照れ隠しなんだから。
そう思って、彼女の唇に唇を重ねた。
彼女が目を見開く。
離れると、彼女は笑みを浮かべて歩き出した。
その後に続く。
彼女の後ろ姿が、すごく、頼もしく思えた。
「月曜、エッチすんの?」
穂は凄い勢いで振り向いた。
さっきエッチの話してたの、穂なのに。
…まあ、さっきはまだ駅が遠かったから人が少なかったけど。
「シーッ!」
楽しくなって、小走りに距離を詰めて彼女の横に立つ。
「すんの?」
「…す、少しだけ、ね?」
「少しだけで満足できんの?」
“むぅ”と、さっきよりも唇を尖らせる。
歩くスピードが速くなって、質問の答えを返す気はないらしい。
「穂!…ねえ、穂ってば」
呼びかけても、彼女は拗ねた子供みたいにぷいとそっぽを向いて、足早に歩く。
なんか、こういうとこ、千陽に似てきたな。
千陽は拗ねてもマイペースに歩くけど。
「わっ」
彼女がツルッと滑るから、反射的に腕を掴んだ。
「そんな速く歩いたら危ないよ?」
私がニヤニヤすると、彼女が悔しそうにする。
「穂とまだバイバイしたくないし。ゆっくり行こうよ」
彼女は深呼吸して、腕を掴んだ私の手をそっと握る。
上目遣いに見られて、それがあまりに可愛くて蕩けそうだ。
「あ、ありがとう…」
「うん。いいよ」
得も言われぬ満足感と高揚感。
好きだ。
叫びたくなるくらい、好きだ。
手を繋いで、ゆっくり歩く。
なのに駅がどんどん近づいて、あっという間に改札前についてしまった。
「また、明日ね」
「うん」
「気をつけて帰ってね」
「永那ちゃんもね」
「うん」
いつも通り、穂の背中を見送った。
1度振り向いて手を振ってくれたから、振り返す。
足元に気をつけながら家に帰った。
お母さんは少し膨れっ面だったけど、穂のご飯と今日いろんな人から貰ったチョコレートで機嫌をなおしていた。
ご飯を食べ終えると、お母さんは冷蔵庫からプラスチックのコップを取り出した。
「ハッピーバレンタイン!」
「わぁ…ありがとう、お母さん」
チョコレートのプリンみたいだった。
「簡単に作れるレシピ調べてね、マシュマロ使って作ったんだよ?」
「そうなんだ。買い物、大変じゃなかった?寒かったでしょ」
「全然平気!久しぶりにお菓子作って、楽しかったよ」
「そっか」
「食べて食べて!」
「うん」
スプーンで一口掬う。
「うん、美味しい」
「良かった~!お母さんも食べよ~っ」
口に入れた瞬間、“ん~!”と声を上げて美味しそうにプリンを食べる。
こうやって過ごす時間は、楽しいはずなのにな…。
翌日、穂は約束通り、みんなに配っていたチョコをくれた。
味が最高だったのは言うまでもない。
「誉、たくさんチョコ貰って帰ってきたんだよ!」
興奮気味に教えてくれて、その姿がちょっと珍しくて思わず笑った。
誉はモテるもんなー。
運動できて、成績も悪くなくて、ノリ良くて優しかったら、年齢問わずモテちゃうよね。
ちょっとお姉ちゃんっ子っぽいところも可愛らしいところだ。
それからあっという間に時間は過ぎた。
土日は、まるで少し前のお母さんみたいに眠りこけた。
眠り過ぎるとちょっと頭が痛くなるのが嫌なんだけど、どうしても起きられない。
今は、冬のせいってことにしておく。
穂は…本当に、勉強熱心なんだな。
学校の勉強だけじゃなくて、そういう、自分の周りで起きていることに関心を持って勉強できるって、凄い才能だと思う。
私は、毎日生活するのにいっぱいいっぱいで、そんな風に努力しようと思ったことはなかった。
「でもね、読んでも読んでも、わからないことばっかりだよ」
「…そうなんだ」
「こうしてみたらいいのかも!って、読んだ後には思ったりもする。永那ちゃんに教えようかな?なんて…つい、余計な世話を焼こうとしちゃいそうになることもある。だけど、たぶん、そういう簡単な話じゃなくて」
涙が伝った跡がやたら寒くて、彼女の肩で涙を拭う。
「きっと、時間がかかるんだよ」
背中をトントンと優しく叩いてくれる。
「焦らないで、永那ちゃん」
彼女の優しい声に、胸の痛みが和らいでいく。
「焦らないで。私達、まだ17才だよ?時間は、きっと、たくさんある。ほら、大学生になったら2人で旅行もしたいし、いろんなところに行きたい。そう、話したでしょ?」
張り詰めていた何かが緩んで、今度こそ隠しきれないほどに涙が溢れた。
彼女がポケットからハンカチを出して、拭いてくれる。
「穂」
「ん?」
「好き」
フフッと彼女が笑う。
涙でボヤけた視界のなかでも、彼女の笑顔は素敵だった。
「私も、永那ちゃんが好き」
「…どうして?」
「え!?」
「こんな、めんどくさい性格してるのに」
「めんどくさくないよ?」
「こんな、泣いて…めんどくさいじゃん」
「めんどくさいなんて思ったこと、1度もないよ?永那ちゃんはいつも優しい。優しいから、泣くんでしょ?」
「…わけわかんないよ」
彼女が唇を尖らせて、考え込む。
“わけわかんない”に答えようとしなくていい。
ただの照れ隠しなんだから。
そう思って、彼女の唇に唇を重ねた。
彼女が目を見開く。
離れると、彼女は笑みを浮かべて歩き出した。
その後に続く。
彼女の後ろ姿が、すごく、頼もしく思えた。
「月曜、エッチすんの?」
穂は凄い勢いで振り向いた。
さっきエッチの話してたの、穂なのに。
…まあ、さっきはまだ駅が遠かったから人が少なかったけど。
「シーッ!」
楽しくなって、小走りに距離を詰めて彼女の横に立つ。
「すんの?」
「…す、少しだけ、ね?」
「少しだけで満足できんの?」
“むぅ”と、さっきよりも唇を尖らせる。
歩くスピードが速くなって、質問の答えを返す気はないらしい。
「穂!…ねえ、穂ってば」
呼びかけても、彼女は拗ねた子供みたいにぷいとそっぽを向いて、足早に歩く。
なんか、こういうとこ、千陽に似てきたな。
千陽は拗ねてもマイペースに歩くけど。
「わっ」
彼女がツルッと滑るから、反射的に腕を掴んだ。
「そんな速く歩いたら危ないよ?」
私がニヤニヤすると、彼女が悔しそうにする。
「穂とまだバイバイしたくないし。ゆっくり行こうよ」
彼女は深呼吸して、腕を掴んだ私の手をそっと握る。
上目遣いに見られて、それがあまりに可愛くて蕩けそうだ。
「あ、ありがとう…」
「うん。いいよ」
得も言われぬ満足感と高揚感。
好きだ。
叫びたくなるくらい、好きだ。
手を繋いで、ゆっくり歩く。
なのに駅がどんどん近づいて、あっという間に改札前についてしまった。
「また、明日ね」
「うん」
「気をつけて帰ってね」
「永那ちゃんもね」
「うん」
いつも通り、穂の背中を見送った。
1度振り向いて手を振ってくれたから、振り返す。
足元に気をつけながら家に帰った。
お母さんは少し膨れっ面だったけど、穂のご飯と今日いろんな人から貰ったチョコレートで機嫌をなおしていた。
ご飯を食べ終えると、お母さんは冷蔵庫からプラスチックのコップを取り出した。
「ハッピーバレンタイン!」
「わぁ…ありがとう、お母さん」
チョコレートのプリンみたいだった。
「簡単に作れるレシピ調べてね、マシュマロ使って作ったんだよ?」
「そうなんだ。買い物、大変じゃなかった?寒かったでしょ」
「全然平気!久しぶりにお菓子作って、楽しかったよ」
「そっか」
「食べて食べて!」
「うん」
スプーンで一口掬う。
「うん、美味しい」
「良かった~!お母さんも食べよ~っ」
口に入れた瞬間、“ん~!”と声を上げて美味しそうにプリンを食べる。
こうやって過ごす時間は、楽しいはずなのにな…。
翌日、穂は約束通り、みんなに配っていたチョコをくれた。
味が最高だったのは言うまでもない。
「誉、たくさんチョコ貰って帰ってきたんだよ!」
興奮気味に教えてくれて、その姿がちょっと珍しくて思わず笑った。
誉はモテるもんなー。
運動できて、成績も悪くなくて、ノリ良くて優しかったら、年齢問わずモテちゃうよね。
ちょっとお姉ちゃんっ子っぽいところも可愛らしいところだ。
それからあっという間に時間は過ぎた。
土日は、まるで少し前のお母さんみたいに眠りこけた。
眠り過ぎるとちょっと頭が痛くなるのが嫌なんだけど、どうしても起きられない。
今は、冬のせいってことにしておく。
0
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる