いたずらはため息と共に

常森 楽

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6.さんにん

400.冷たい

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「今日は、千陽のお母さんいないの?」
「友達呼ぶって言ったら、“外でご飯食べてくる”って言われた」
「ふーん」
相変わらず、自分の娘に興味関心のない母親だな。
うちの母親は干渉し過ぎだけど。
「ごめんね、気遣わせちゃって」
「いいの。どうせママは気分で外食するような人だし」
千陽が穂の腕に抱きつく。
「あたし、穂と永那が家に来るの、いつも楽しみにしてる」
穂は嬉しそうに笑って、照れるように俯いた。

買い物を終えて、千陽の家に向かう。
寒いから、3人でくっつくようにして歩いた。
たまに、ぼんっと肩がぶつかって誰かがよろける。
そのたびになんだか可笑しくて、みんな、小さく笑いながら磁石みたいにまたくっついた。
昨日降った雪はもうシャビシャビで、とても雪だるまは作れそうにない。
「優里ちゃんのトリュフチョコ美味しかったね」
「あー、ね。学校ついて1番に食べたけど、あれが1番美味しかったかも」
「バドミントン部の子達にも配ったんだよね?きっと」
「そうだろうね」
「あの…前に言ってた、ペア組んでる子にもあげたのかな?」
「あげたんじゃない?あいつは、告白されたから気まずくて渡さないってことはないだろうから」
「そうだね。きっと、バドミントン部でも大好評だね」
「だね」

家に入ると、びっくりするくらい暖かった。
冷え切った指先が一気に温まって、ちょっと肌がピリッとする。
千陽が加湿器をつける。
穂はすぐにキッチンで作業を始めた。
私と千陽はソファでくつろぐ。
「穂、何作んの?」
「まだ秘密」
「そっち行っちゃダメ?」
「…今なら、いいよ?でも、少しだけ!ね?」
可愛い。
座ったばかりのソファから飛び起きて、軽くジャンプしながらキッチンに向かう。

目一杯彼女を抱きしめた。
「穂」
「永那ちゃん、冷たい」
「寒かったもん」
彼女の首筋に顔をうずめていると、自分の顔がまだ冷えているのがわかる。
「ねえ…みんなにあげてたやつ、私にはないの?」
「あ…欲しかった?」
「うん」
「ごめんね…。千陽から、永那ちゃんはチョコをたくさん貰うって聞いてたから…」
「穂のは絶対欲しいよ?」
「じゃあ、明日持ってくるね」
「残ってるの?」
「うん。誉とお母さんの分、残しておいたから」
「いいの?貰っても」
「うん」
「嬉しい」
久しぶりに、落ち着いて彼女の匂いを吸い込める。
学校でもひっつくことはあるけど、穂が恥ずかしがって逃げようとするから、落ち着いてはできない。
1ヶ月ぶりくらいかな…?
「永那ちゃん…そろそろ…」
「もう?」
少しの沈黙。
彼女が迷ってるのがわかる。
迷ってるのがわかってるからって遠慮はしない。
穂の匂いを嗅ぎ続ける。
「帰る時間、遅くなっちゃうよ…?」
「いいよ」
また沈黙。
私は深呼吸。
「だ、だめだよ…」
「しょうがないなあ。キスして?」
顔を上げると、穂が困ったように眉根を下げていた。
ゆっくり顔が近づいて、優しく唇が触れ合う。
やっとだ…。
…幸せ。
ああ、このまま…このままもっとしていたい。
していたい、けど…穂が何か準備してくれるみたいだし、仕方なく引き下がる。
後でたくさんしよう。

ソファに寝転ぶ。
トントンと小気味よく野菜を切る音が聞こえてくる。
「千陽」
「なに」
「もうちょい、こっち来て」
自分が動けよって話だけど、めんどくさいから千陽に来させる。
千陽が私のそばに座って、見下ろされる。
彼女の膝に頭を乗せると、その心地よさに、すぐに眠気が襲ってきた。
頭を撫でられて、余計眠くなる。
授業中寝なかったから…。
ソファの背もたれにかかっていた膝掛けを私にかけてくれるから、もう、余計に…。

「永那ちゃん」
唇に何かが触れる。
きっと穂の指だ。
「起きて」
まだ…寝てたい…。
「永那ちゃん」
でも、穂とキスしたい。
「永那ちゃん」
「あたしが先に貰おうかな」
穂が楽しそうに笑う。
「だ、め…」
なんとか瞼を上げて、目を開く。
「おはよう」
「おはよ」
千陽の膝の上で伸びをして、勢いよく起き上がる。
テーブルに置かれたお皿には、色とりどりの野菜が盛り付けられていた。
「薄く切って、揚げて、塩を振りかけただけなんだけどね…。千陽はいつもチップスあげてるって言ってたから、私は野菜チップスを作ろうって思ったの」
「え!?チップスって自分で作れんの!?」
「まあ…“もどき”だけどね。手作りだし、機械みたいに薄く切れるわけじゃないから。作ってから時間が経つとパリパリ感もなくなっちゃうし」
「へー…すげー…」
「食べて?」
「うん!いただきます!!」

まずはかぼちゃ。
甘みと塩味がちょうどいい。
スーパーで野菜チップスが売られているのを見たことがあるけど、まさか手作りできるとは…。
「うまい!めっちゃくちゃ美味しい!!」
「良かった」
次に蓮根。
「うっわー…なんだこれ…。穂が作るものはなんでも美味しいけど、これは…人生で食べたなかで1番美味しいかもしれない…」
「そう?本当に、揚げて塩かけただけだよ?」
「あたしも食べたい」
「まだダメ!私が全種類食べてから!」
千陽がぷいとそっぽを向いて不機嫌を表す。
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