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6.さんにん
399.冷たい
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「ってか、あんたは持ってきてないの?」
冷めた目をした千陽が言う。
「え…」
呆れたようにため息をついて、千陽が立ち上がる。
「昔から貰うばっかなんだから。あたしは、べつにいいけど」
そうだった…。そうでした…。
私は誰に何を貰ったかなんてほとんど覚えていないから、ホワイトデーにお返しをしたこともない。
そもそもみんなにあげるだけのチョコを買うお金があったら、違うものに使いたい。
自主的にみんなが持ち寄るお菓子パーティーに参加する余裕なんて、私には全くなかった。
私が持ってこなくても、誰にも文句を言われたこともなかったし。
…でも、そうだよね。
誰かから貰うのが当たり前になって、穂にあげることなんて全然考えられてなかった。
っていうか、バレンタインの存在を忘れてるくらいだよ?
準備するなんて無理。
ホワイトデーに、返せばいいのかな?
「気にしなくていいよ、永那ちゃん」
穂も立ち上がって、千陽が歩き始める。
「あ、いや…そんなわけには…」
「今から、千陽の家に3人で行こう?」
「え!?千陽ん家!?なんで!?」
「秘密」
秘密…。秘密、ね…。
あー…なんだかなあ…。
つまり私が知らない内に穂は千陽の家に行っていて、何か仕込んでたってことだよね…。
なんか、すごくモヤモヤする。
その時、絶対キスはしてるでしょ?
セックスもした?
私は穂と2人きりの時間、全然過ごせてないのに!?
「永那ちゃん?」
嫌な想像が膨らんで、穂に話しかけられてもぎこちなく笑うしかできない。
「…あんまり、その…乗り気じゃない?あ、お母さんのことが心配とか?」
「いや…いや、大丈夫。全然平気」
「そんなに、時間はかからないと思うから…」
「うん」
穂と千陽が私の前を歩く。
2人の足元をボーッと眺めながら、無言でついていく。
…ダメだ。
3人でシようって、もう、約束したのに…今の私は、全然シたいと思えていない。
“楽しみだな”って、普通に思ってたのに。思ってたはずなのに。
情緒不安定過ぎて自分が嫌になる。
お母さんのせいにしたくない。
したくない。したくない。したくない、したくない。
くっそ…。
「永那」
気づけばスーパーの野菜売り場にいた。
「んぁ?」
「なに…考えてんの…?」
「…べつに、なんも」
「ハァ…そんなわけないでしょ、どう見ても。穂が、不安がってる。何かしちゃったんじゃないかって…」
私はやっと顔を上げて、穂を見た。
少し離れたところで野菜を選んでいる。
「本当は、家に永那を呼びたかったみたいなんだけど」
千陽が小声で話し始める。
「誉がいると、誉が永那に話しかけちゃうし、永那の帰る時間が遅くなっちゃうからって…あたしの家に行かせて欲しいってお願いされたの」
「…2人で何かサプライズ的なの準備してたんじゃないの?」
また千陽がため息をつく。
「してない」
「…ふーん」
べつに、ホッとしたとか、そういうんじゃないけど…でも…そっか…内緒で2人きりになったりはしていないのか。
「呆れる」
「あ?なんだよ?」
「あたしと穂が2人きりになるのが嫌?」
「そ、そういうわけじゃ…」
「じゃあ、どういうわけ?」
「私が…穂と2人になれなくて、イライラする。昨日だって、記念日だったのに、お母さんがずっと一緒にいた。穂を駅まで送るくらいだったら良いだろうって思ったら、それにもお母さんがついてきた。たった数分の話なのに、それすらもお母さんはついてきたがる」
「へえ」
千陽の反応はいつも通りなはずなのに、関心のなさそうな返事にいやにハッとさせられる。
自分が、まさか愚痴を言うなんて…。
「ごめん…」
「なにが?」
「愚痴ったりして…」
「べつに…。嬉しいけど」
変な奴。
人の愚痴なんて鬱陶しいだけだろ。
「お待たせ」
「全然待ってないよ」
穂が目を大きく開いて、パチパチと瞬きをする。
ゆっくり首を傾げるから、私もそれに合わせて首を傾げた。
「ハァ」と息を吐いてから、「機嫌、直ったみたい」と千陽が呟く。
「そう、なの…?あの、やっぱり、永那ちゃん、あんまり乗り気じゃなかった?」
「違う!違うよ?乗り気だよ?授業中、穂が何くれるのか楽しみで楽しみで、久しぶりに起きてたくらいなんだから!」
「じゃあ…なんで…元気なかったの?」
「ちょっと…なんていうか…」
言葉が出てこない。
「お母さんにイライラしてたんだって」
「お母さんに?」
「ち、千陽…」
「べつに隠すことじゃないでしょ」
そうかもしれないけど!
でも、なるべく愚痴を言う姿なんて見せたくないよ…。
かっこ悪いじゃん。
「思ってることは、話してくれた方が嬉しい。話してくれない方が、辛い」
千陽がボソボソと話す。
修学旅行の時、穂に似たようなことを言われたな。
ボリボリと頭を掻いて、息を吐き出す。
「ほら、昨日…。穂を駅まで送る時、本当は2人になりたかったんだけど、お母さんがついてきちゃったじゃん?だから…私、いつ穂と2人になれるんだろう?って…」
「公園で2人になれたと思ってたけど…それじゃあ、ダメだった?」
「あ…いや…嬉しかったよ。でも、もっとずっと一緒にいたかったから」
「そっか…そうだね」
彼女が優しく微笑む。
冷めた目をした千陽が言う。
「え…」
呆れたようにため息をついて、千陽が立ち上がる。
「昔から貰うばっかなんだから。あたしは、べつにいいけど」
そうだった…。そうでした…。
私は誰に何を貰ったかなんてほとんど覚えていないから、ホワイトデーにお返しをしたこともない。
そもそもみんなにあげるだけのチョコを買うお金があったら、違うものに使いたい。
自主的にみんなが持ち寄るお菓子パーティーに参加する余裕なんて、私には全くなかった。
私が持ってこなくても、誰にも文句を言われたこともなかったし。
…でも、そうだよね。
誰かから貰うのが当たり前になって、穂にあげることなんて全然考えられてなかった。
っていうか、バレンタインの存在を忘れてるくらいだよ?
準備するなんて無理。
ホワイトデーに、返せばいいのかな?
「気にしなくていいよ、永那ちゃん」
穂も立ち上がって、千陽が歩き始める。
「あ、いや…そんなわけには…」
「今から、千陽の家に3人で行こう?」
「え!?千陽ん家!?なんで!?」
「秘密」
秘密…。秘密、ね…。
あー…なんだかなあ…。
つまり私が知らない内に穂は千陽の家に行っていて、何か仕込んでたってことだよね…。
なんか、すごくモヤモヤする。
その時、絶対キスはしてるでしょ?
セックスもした?
私は穂と2人きりの時間、全然過ごせてないのに!?
「永那ちゃん?」
嫌な想像が膨らんで、穂に話しかけられてもぎこちなく笑うしかできない。
「…あんまり、その…乗り気じゃない?あ、お母さんのことが心配とか?」
「いや…いや、大丈夫。全然平気」
「そんなに、時間はかからないと思うから…」
「うん」
穂と千陽が私の前を歩く。
2人の足元をボーッと眺めながら、無言でついていく。
…ダメだ。
3人でシようって、もう、約束したのに…今の私は、全然シたいと思えていない。
“楽しみだな”って、普通に思ってたのに。思ってたはずなのに。
情緒不安定過ぎて自分が嫌になる。
お母さんのせいにしたくない。
したくない。したくない。したくない、したくない。
くっそ…。
「永那」
気づけばスーパーの野菜売り場にいた。
「んぁ?」
「なに…考えてんの…?」
「…べつに、なんも」
「ハァ…そんなわけないでしょ、どう見ても。穂が、不安がってる。何かしちゃったんじゃないかって…」
私はやっと顔を上げて、穂を見た。
少し離れたところで野菜を選んでいる。
「本当は、家に永那を呼びたかったみたいなんだけど」
千陽が小声で話し始める。
「誉がいると、誉が永那に話しかけちゃうし、永那の帰る時間が遅くなっちゃうからって…あたしの家に行かせて欲しいってお願いされたの」
「…2人で何かサプライズ的なの準備してたんじゃないの?」
また千陽がため息をつく。
「してない」
「…ふーん」
べつに、ホッとしたとか、そういうんじゃないけど…でも…そっか…内緒で2人きりになったりはしていないのか。
「呆れる」
「あ?なんだよ?」
「あたしと穂が2人きりになるのが嫌?」
「そ、そういうわけじゃ…」
「じゃあ、どういうわけ?」
「私が…穂と2人になれなくて、イライラする。昨日だって、記念日だったのに、お母さんがずっと一緒にいた。穂を駅まで送るくらいだったら良いだろうって思ったら、それにもお母さんがついてきた。たった数分の話なのに、それすらもお母さんはついてきたがる」
「へえ」
千陽の反応はいつも通りなはずなのに、関心のなさそうな返事にいやにハッとさせられる。
自分が、まさか愚痴を言うなんて…。
「ごめん…」
「なにが?」
「愚痴ったりして…」
「べつに…。嬉しいけど」
変な奴。
人の愚痴なんて鬱陶しいだけだろ。
「お待たせ」
「全然待ってないよ」
穂が目を大きく開いて、パチパチと瞬きをする。
ゆっくり首を傾げるから、私もそれに合わせて首を傾げた。
「ハァ」と息を吐いてから、「機嫌、直ったみたい」と千陽が呟く。
「そう、なの…?あの、やっぱり、永那ちゃん、あんまり乗り気じゃなかった?」
「違う!違うよ?乗り気だよ?授業中、穂が何くれるのか楽しみで楽しみで、久しぶりに起きてたくらいなんだから!」
「じゃあ…なんで…元気なかったの?」
「ちょっと…なんていうか…」
言葉が出てこない。
「お母さんにイライラしてたんだって」
「お母さんに?」
「ち、千陽…」
「べつに隠すことじゃないでしょ」
そうかもしれないけど!
でも、なるべく愚痴を言う姿なんて見せたくないよ…。
かっこ悪いじゃん。
「思ってることは、話してくれた方が嬉しい。話してくれない方が、辛い」
千陽がボソボソと話す。
修学旅行の時、穂に似たようなことを言われたな。
ボリボリと頭を掻いて、息を吐き出す。
「ほら、昨日…。穂を駅まで送る時、本当は2人になりたかったんだけど、お母さんがついてきちゃったじゃん?だから…私、いつ穂と2人になれるんだろう?って…」
「公園で2人になれたと思ってたけど…それじゃあ、ダメだった?」
「あ…いや…嬉しかったよ。でも、もっとずっと一緒にいたかったから」
「そっか…そうだね」
彼女が優しく微笑む。
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