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6.さんにん
398.冷たい
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穂が改札を通って手を振ってくれる姿を見送ってから、お母さんと2人で帰った。
お母さんは自分のわがままが通ったからかご機嫌で、まるで子供みたいだ。
無性にイライラする。
私が諦める前…何もかも諦めてお母さんに尽くす前、私はお母さんに振り回されっぱなしだった。
イライラしたり、悲しくなったり、恥に感じたり、不安になったり、そんな風に感じる自分を心底嫌いになったり。
舞い戻ってくる。感情が…。
振り回されていたあの頃に感じた嫌な気持ちが。
同時に、別の不安も生まれた。
穂が、千陽に盗られたらどうしよう?って。
そんなことはない。
そんなことはないって、頭ではわかってる。
でも…万が一にも…。
いや、大丈夫。
だって元旦に3人で集まってから、千陽と穂は2人きりになっていない。
つまり2人はキスもしていないし、セックスもしていない。
だから、大丈夫。
…ああ、穂と2人きりになりたい。
穂…穂…穂…穂…。
音楽が鳴る。
気づけば眠っていた。
重たい瞼を上げて、布団から右手を出した。
アラームを止める。
目を擦ると指が鼻に触れた。
冷たい。
寒くて布団から出られる気がしない。
…学校、休もうかな。
布団の中に顔を突っ込んで、丸まる。
“永那ちゃん!眠いのは仕方ないけど、遅れてもいいからちゃんと学校には来ないとダメ!”
睡眠時間が伸びてから、1度学校をサボろうとしたら、電話で穂にそう叱られた。
思い出して、思わずフフッと笑ってしまう。
“私、永那ちゃんに…会いたいし…”
照れながら付け加えている姿を想像して、それがあまりに愛しくて、頭の中で彼女を抱きしめた。
というか、自分で自分を抱きしめるようにして、悶えた。
その日は最後の授業だけ出席した。
穂が褒めてくれたから、嬉しかったな。
深く息を吐く。
両手で顔をペシペシ叩いて、勢いよく布団から出た。
急ぎめに準備をして、まだ寝ているお母さんが息をしているか確認してから、学校に向かった。
教室に入ると、なんだか賑やかだった。
「はい!永那!」
「ん?」
優里がタッパーを手渡してくる。
「1つだよ!」
「ああ…ありがとう…」
タッパーの中に入っていたチョコレートをつまんで口に放り込む。
「うまい」
「へへへ~、そうでしょそうでしょ!今年は自信作なんだ」
「ふーん」
「反応薄いっ!もっと褒めてよ!!」
唇を突き出して、眉間にシワが寄る。
ポンと頭を撫でて、席に向かう。
「永那~!」
途中何度もいろんな人から話しかけられ、チョコが手渡される。
袋に入ってるのもあれば、優里と同じように直で渡されるのもあって、席につく頃には口の中が甘ったるくなっていた。
「バレンタインだったか」
「え~、気づくの遅くない?」
穂が苦手な女子が笑う。
こいつも穂が苦手だから、2人が交流することはほとんどないんだろう。
「毎年お菓子が貰えるイベントとしか認識していないもんでな。ハロウィンと同じよ」
「ハロウィンとバレンタイン全然違うしぃ!ウケるんだけど」
「気になる人に本命チョコあげるとかさ?そういうイベントじゃん」
別の女子が言う。
「なるほどね~」
本命、か。
今日、学校来て良かった。
穂の席の方を見るけど、人に囲まれていた。
一瞬行こうか迷って、チャイムが鳴ったから諦めた。
人だかりがなくなった瞬間、千陽と目が合った。
視線を穂に移すと、彼女とも目が合う。
いつもの優しい笑顔を向けられて、私も笑みを返す。
いいなあ、千陽。
私も穂の近くの席が良い。
…そういえば千陽は毎年、海外のポテトチップスをくれる。
“甘いものばっかりで飽きるでしょ?”と言っていた。
“どうせあげるなら、ちゃんと永那に食べてもらいたいし”なんて呟いたから、ちゃんと食べている。
袋に入った、持ち帰れるチョコレートは、大体お母さんにあげてしまう。
そんなこと、1度も千陽に打ち明けたことなんてないはずなのに、見透かしたように言うからビビる。
休み時間、やっぱり千陽はチップスをくれた。
ありがたく頂戴する。
穂は「放課後、渡すね」なんてワクワクするようなことを言ってきて、その後はもう、楽しみすぎて、ずっと頬が緩んでいた。
昼休みが終わる間際、知らない後輩からチョコレートを渡されたりしたけど、私の頭の中は穂からのプレゼントのことでいっぱいだったから、どんな子からどんな物を貰ったかなんて覚えていない。
放課後…一体何をくれるんだろう?
ハァ…エッチなプレゼントとかないかなあ?
せめてキスだけでも…。
なんて、授業中に考えていたら、何度も先生に問題を当てられる羽目になった。
何故…?
「穂」
「永那ちゃん、起きてるなんて珍しい」
穂が口元を手で隠しながらクスクス笑った。
可愛い…マジで好き。
「だって楽しみだったんだもん」
「そっか」
マイペースに荷物を鞄にしまうから、早く何をくれるのか知りたくて、つい彼女の鞄の中を覗き見る。
「ないよ?」
「え!?」
「今は何もないの」
「で…でも…さっき、みんなに配ってた…」
一気に不安が押し寄せてくる。
私は穂の手作りお菓子食べられないの?
…そんなわけないよね?
だって、“彼女”なんだし。
フフッと彼女が笑う。
お母さんは自分のわがままが通ったからかご機嫌で、まるで子供みたいだ。
無性にイライラする。
私が諦める前…何もかも諦めてお母さんに尽くす前、私はお母さんに振り回されっぱなしだった。
イライラしたり、悲しくなったり、恥に感じたり、不安になったり、そんな風に感じる自分を心底嫌いになったり。
舞い戻ってくる。感情が…。
振り回されていたあの頃に感じた嫌な気持ちが。
同時に、別の不安も生まれた。
穂が、千陽に盗られたらどうしよう?って。
そんなことはない。
そんなことはないって、頭ではわかってる。
でも…万が一にも…。
いや、大丈夫。
だって元旦に3人で集まってから、千陽と穂は2人きりになっていない。
つまり2人はキスもしていないし、セックスもしていない。
だから、大丈夫。
…ああ、穂と2人きりになりたい。
穂…穂…穂…穂…。
音楽が鳴る。
気づけば眠っていた。
重たい瞼を上げて、布団から右手を出した。
アラームを止める。
目を擦ると指が鼻に触れた。
冷たい。
寒くて布団から出られる気がしない。
…学校、休もうかな。
布団の中に顔を突っ込んで、丸まる。
“永那ちゃん!眠いのは仕方ないけど、遅れてもいいからちゃんと学校には来ないとダメ!”
睡眠時間が伸びてから、1度学校をサボろうとしたら、電話で穂にそう叱られた。
思い出して、思わずフフッと笑ってしまう。
“私、永那ちゃんに…会いたいし…”
照れながら付け加えている姿を想像して、それがあまりに愛しくて、頭の中で彼女を抱きしめた。
というか、自分で自分を抱きしめるようにして、悶えた。
その日は最後の授業だけ出席した。
穂が褒めてくれたから、嬉しかったな。
深く息を吐く。
両手で顔をペシペシ叩いて、勢いよく布団から出た。
急ぎめに準備をして、まだ寝ているお母さんが息をしているか確認してから、学校に向かった。
教室に入ると、なんだか賑やかだった。
「はい!永那!」
「ん?」
優里がタッパーを手渡してくる。
「1つだよ!」
「ああ…ありがとう…」
タッパーの中に入っていたチョコレートをつまんで口に放り込む。
「うまい」
「へへへ~、そうでしょそうでしょ!今年は自信作なんだ」
「ふーん」
「反応薄いっ!もっと褒めてよ!!」
唇を突き出して、眉間にシワが寄る。
ポンと頭を撫でて、席に向かう。
「永那~!」
途中何度もいろんな人から話しかけられ、チョコが手渡される。
袋に入ってるのもあれば、優里と同じように直で渡されるのもあって、席につく頃には口の中が甘ったるくなっていた。
「バレンタインだったか」
「え~、気づくの遅くない?」
穂が苦手な女子が笑う。
こいつも穂が苦手だから、2人が交流することはほとんどないんだろう。
「毎年お菓子が貰えるイベントとしか認識していないもんでな。ハロウィンと同じよ」
「ハロウィンとバレンタイン全然違うしぃ!ウケるんだけど」
「気になる人に本命チョコあげるとかさ?そういうイベントじゃん」
別の女子が言う。
「なるほどね~」
本命、か。
今日、学校来て良かった。
穂の席の方を見るけど、人に囲まれていた。
一瞬行こうか迷って、チャイムが鳴ったから諦めた。
人だかりがなくなった瞬間、千陽と目が合った。
視線を穂に移すと、彼女とも目が合う。
いつもの優しい笑顔を向けられて、私も笑みを返す。
いいなあ、千陽。
私も穂の近くの席が良い。
…そういえば千陽は毎年、海外のポテトチップスをくれる。
“甘いものばっかりで飽きるでしょ?”と言っていた。
“どうせあげるなら、ちゃんと永那に食べてもらいたいし”なんて呟いたから、ちゃんと食べている。
袋に入った、持ち帰れるチョコレートは、大体お母さんにあげてしまう。
そんなこと、1度も千陽に打ち明けたことなんてないはずなのに、見透かしたように言うからビビる。
休み時間、やっぱり千陽はチップスをくれた。
ありがたく頂戴する。
穂は「放課後、渡すね」なんてワクワクするようなことを言ってきて、その後はもう、楽しみすぎて、ずっと頬が緩んでいた。
昼休みが終わる間際、知らない後輩からチョコレートを渡されたりしたけど、私の頭の中は穂からのプレゼントのことでいっぱいだったから、どんな子からどんな物を貰ったかなんて覚えていない。
放課後…一体何をくれるんだろう?
ハァ…エッチなプレゼントとかないかなあ?
せめてキスだけでも…。
なんて、授業中に考えていたら、何度も先生に問題を当てられる羽目になった。
何故…?
「穂」
「永那ちゃん、起きてるなんて珍しい」
穂が口元を手で隠しながらクスクス笑った。
可愛い…マジで好き。
「だって楽しみだったんだもん」
「そっか」
マイペースに荷物を鞄にしまうから、早く何をくれるのか知りたくて、つい彼女の鞄の中を覗き見る。
「ないよ?」
「え!?」
「今は何もないの」
「で…でも…さっき、みんなに配ってた…」
一気に不安が押し寄せてくる。
私は穂の手作りお菓子食べられないの?
…そんなわけないよね?
だって、“彼女”なんだし。
フフッと彼女が笑う。
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