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6.さんにん
397.冷たい
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8ヶ月記念日。
放課後、生徒会の集まりを終えた穂が起こしてくれた。
なんで夜ちゃんと寝てるのに、昼も変わらず眠いんだろう?
1日12時間くらい寝てるんじゃないの?私。
穂と2人で生活していたときは、そんなに寝ていなかった気がする。
「永那ちゃん?」
「ん?」
「どうしたの?」
手を繋ぎながら考えていると、穂に聞かれた。
「んや、なんでもないよ」
「本当に?」
ジッと見つめられて、口元が緩む。
「…8ヶ月記念日なのに、2人きりじゃなくて、申し訳ないなって」
「永那ちゃんが謝ることじゃないよ?それに…ずっと一緒にいるなら、これから何度だって2人で過ごせるでしょ?」
「そうだね」
穂の手編みのマフラーに顔をうずめて、喜びを噛みしめる。
「…でも、やっぱり、2人で過ごしたかったな」
息を吐くと、マフラーのなかがあたたかくなる。
「ちょっとだけ…寄り道していく?」
「寄り道?」
「うん!」
穂に手を引かれて、公園に来た。
「あ、永那ちゃん!焼き芋売ってるよ!」
「ホントだ」
「2人で分けない?」
「いいよ」
1本買って、半分に割る。
もくもくと湯気が視界を覆った。
2人でベンチに座る。
「熱そう」
穂がフーッフーッと息を吹きかける。
そのたびに湯気が立つ。
パクッと一口食べて、ホフホフと彼女が息を吐く。
口から白い息が溢れて、熱そうに上を向いた。
「美味しい?」
「うんっ」
彼女が飲み込むのを見届けてから、私も一口頬張る。
甘くて美味しい。
パサパサしたのは少し苦手だけど、見るからに密が溢れていて、なんというか…ジューシーだ。
私達が焼き芋をちょうど食べ終える頃、チラチラと雪が降り始めた。
「積もるかな?」
「積もったら雪だるま作ろう」
私が言うと、フフッと彼女が笑う。
「かまくらでもいいよ」
「さすがにそこまでは降らないんじゃないかな?」
穂は楽しそうに笑った。
「いつかさ…2人で北の方に旅行しよう?それで、かまくらに入ってみたい」
「そうだね。私も、かまくらなんて入ったことないな」
「穂も?」
「うん」
「じゃあ、2人とも初めてだね」
「そうだね」
「楽しみ」
立ち上がって、のんびり家に向かった。
家につく頃には雪が大粒になっていた。
穂が傘を差してくれようとしたけど、私は楽しいからと、彼女の傘に入るのを断った。
そうしたら穂が傘を閉じたから、なんだか嬉しくなって、彼女に抱きついた。
「あったかい」
彼女が呟くから、思わず抱きしめる力が強くなった。
彼女の頬にそっとキスをする。
家に入ると風がない分、外より多少は暖かかったけど、穂の家よりはるかに寒い。
夜ご飯を作ってくれる彼女が寒そうにしていて、ただひたすら申し訳なく感じた。
お母さんは相変わらず、穂が来てくれたのを喜んだ。
退院してから、たまに疲れてボーッとすることはあっても、前よりはるかに元気そうだった。
まだ1ヶ月も経ってないし、油断はできないけど…お母さんの元気そうな姿を見られるのは素直に嬉しい。
じいちゃんとも、ぎこちなくだけど、それなりに上手くやっているらしい。
鍋をつつきながら、私達は他愛もない話をした。
少しテレビを見て、また話して、笑い合う。
穂が帰る頃には、道路に少し雪が積もり始めていた。
「お母さん、私、駅まで穂を送ってくるよ」
「私も行く~!」
「お母さんは危ないから家にいて」
「やだやだ~!!行きたい~!」
「永那ちゃん、大丈夫だよ?ひとりで帰れるから」
穂が優しく笑う。
モヤモヤと嫌な感情が膨れ上がってくる。
少しは母親らしくしろよ…!
せっかくの穂との時間にお母さんを混ぜてあげてるっていうのに、駅までくらい遠慮しろよ…。
私達が付き合ってるなんて知らないから仕方ないのかもしれないけど…親って、娘の友達にここまで介入してくるもの?
穂のお母さんも、千陽の母親も、優里のお母さんだって、こんなに絡んできたりしなかった。
恥ずかしい。
「こんな雪降ってるのに、ひとりなんて心配だよ」
「私も行きたい…」
「お母さん…!いい加減にしてよ!」
お母さんの目が一気に潤んでいく。
「え、永那ちゃん、大丈夫だから。ね?」
奥歯がギリリと鳴る。
深く息を吐いて、お母さんの肩にコートをかけた。
お母さんが目元を指で擦って、嬉しそうに笑う。
自分もコートを羽織って、3人で外に出た。
ビューッと冷たい冬の風が吹く。
傘を差すと、お母さんが私の腕に抱きついた。
「無理しなくていいのに」
穂はまた優しく笑った。
…無理じゃない。私が穂と一緒にいたいんだ。私が。
すぐにつま先から冷えていく。
シャクシャクと雪の感触が靴越しに伝わってくる。
「寒いね」
俯いていたら、穂が私の顔を覗き込んだ。
「うん」
「寒いね~!」
お母さんは私の肩に頬を擦り寄せて、わざと白い息を吐くように、「ハア」と呟いた。
その様子を見て、穂が笑みを浮かべる。
手を繋ぎたい。
2人の時間を過ごしたい。
結局、おあずけにされていたキスも、頬にしかできなかった。
もっと、愛し合いたい。
放課後、生徒会の集まりを終えた穂が起こしてくれた。
なんで夜ちゃんと寝てるのに、昼も変わらず眠いんだろう?
1日12時間くらい寝てるんじゃないの?私。
穂と2人で生活していたときは、そんなに寝ていなかった気がする。
「永那ちゃん?」
「ん?」
「どうしたの?」
手を繋ぎながら考えていると、穂に聞かれた。
「んや、なんでもないよ」
「本当に?」
ジッと見つめられて、口元が緩む。
「…8ヶ月記念日なのに、2人きりじゃなくて、申し訳ないなって」
「永那ちゃんが謝ることじゃないよ?それに…ずっと一緒にいるなら、これから何度だって2人で過ごせるでしょ?」
「そうだね」
穂の手編みのマフラーに顔をうずめて、喜びを噛みしめる。
「…でも、やっぱり、2人で過ごしたかったな」
息を吐くと、マフラーのなかがあたたかくなる。
「ちょっとだけ…寄り道していく?」
「寄り道?」
「うん!」
穂に手を引かれて、公園に来た。
「あ、永那ちゃん!焼き芋売ってるよ!」
「ホントだ」
「2人で分けない?」
「いいよ」
1本買って、半分に割る。
もくもくと湯気が視界を覆った。
2人でベンチに座る。
「熱そう」
穂がフーッフーッと息を吹きかける。
そのたびに湯気が立つ。
パクッと一口食べて、ホフホフと彼女が息を吐く。
口から白い息が溢れて、熱そうに上を向いた。
「美味しい?」
「うんっ」
彼女が飲み込むのを見届けてから、私も一口頬張る。
甘くて美味しい。
パサパサしたのは少し苦手だけど、見るからに密が溢れていて、なんというか…ジューシーだ。
私達が焼き芋をちょうど食べ終える頃、チラチラと雪が降り始めた。
「積もるかな?」
「積もったら雪だるま作ろう」
私が言うと、フフッと彼女が笑う。
「かまくらでもいいよ」
「さすがにそこまでは降らないんじゃないかな?」
穂は楽しそうに笑った。
「いつかさ…2人で北の方に旅行しよう?それで、かまくらに入ってみたい」
「そうだね。私も、かまくらなんて入ったことないな」
「穂も?」
「うん」
「じゃあ、2人とも初めてだね」
「そうだね」
「楽しみ」
立ち上がって、のんびり家に向かった。
家につく頃には雪が大粒になっていた。
穂が傘を差してくれようとしたけど、私は楽しいからと、彼女の傘に入るのを断った。
そうしたら穂が傘を閉じたから、なんだか嬉しくなって、彼女に抱きついた。
「あったかい」
彼女が呟くから、思わず抱きしめる力が強くなった。
彼女の頬にそっとキスをする。
家に入ると風がない分、外より多少は暖かかったけど、穂の家よりはるかに寒い。
夜ご飯を作ってくれる彼女が寒そうにしていて、ただひたすら申し訳なく感じた。
お母さんは相変わらず、穂が来てくれたのを喜んだ。
退院してから、たまに疲れてボーッとすることはあっても、前よりはるかに元気そうだった。
まだ1ヶ月も経ってないし、油断はできないけど…お母さんの元気そうな姿を見られるのは素直に嬉しい。
じいちゃんとも、ぎこちなくだけど、それなりに上手くやっているらしい。
鍋をつつきながら、私達は他愛もない話をした。
少しテレビを見て、また話して、笑い合う。
穂が帰る頃には、道路に少し雪が積もり始めていた。
「お母さん、私、駅まで穂を送ってくるよ」
「私も行く~!」
「お母さんは危ないから家にいて」
「やだやだ~!!行きたい~!」
「永那ちゃん、大丈夫だよ?ひとりで帰れるから」
穂が優しく笑う。
モヤモヤと嫌な感情が膨れ上がってくる。
少しは母親らしくしろよ…!
せっかくの穂との時間にお母さんを混ぜてあげてるっていうのに、駅までくらい遠慮しろよ…。
私達が付き合ってるなんて知らないから仕方ないのかもしれないけど…親って、娘の友達にここまで介入してくるもの?
穂のお母さんも、千陽の母親も、優里のお母さんだって、こんなに絡んできたりしなかった。
恥ずかしい。
「こんな雪降ってるのに、ひとりなんて心配だよ」
「私も行きたい…」
「お母さん…!いい加減にしてよ!」
お母さんの目が一気に潤んでいく。
「え、永那ちゃん、大丈夫だから。ね?」
奥歯がギリリと鳴る。
深く息を吐いて、お母さんの肩にコートをかけた。
お母さんが目元を指で擦って、嬉しそうに笑う。
自分もコートを羽織って、3人で外に出た。
ビューッと冷たい冬の風が吹く。
傘を差すと、お母さんが私の腕に抱きついた。
「無理しなくていいのに」
穂はまた優しく笑った。
…無理じゃない。私が穂と一緒にいたいんだ。私が。
すぐにつま先から冷えていく。
シャクシャクと雪の感触が靴越しに伝わってくる。
「寒いね」
俯いていたら、穂が私の顔を覗き込んだ。
「うん」
「寒いね~!」
お母さんは私の肩に頬を擦り寄せて、わざと白い息を吐くように、「ハア」と呟いた。
その様子を見て、穂が笑みを浮かべる。
手を繋ぎたい。
2人の時間を過ごしたい。
結局、おあずけにされていたキスも、頬にしかできなかった。
もっと、愛し合いたい。
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