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6.さんにん
396.冷たい
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ジェットコースターから降りると、穂が振り向いて笑顔を向けてくれた。
「慣れだね!慣れ!」
「じゃあ、でっかい方行ってみる?」
一気に彼女の顔がくしゃくしゃになる。
「冗談だって」
「永那、最低」
千陽が優里みたいなことを言う。
…マジで落ち込むからやめてくんないかな!?
「後でもう一回乗ろ?」
穂の腕に抱きついて、2人で歩き出す。
…くっそー。ホントに冗談なのに!
自信がついたのか、垂直落下するアトラクションに乗ろうと穂が言った。
やっぱり私の思った通りで、ジェットコースターよりもスピードはないし、高さもそんなにないしで、穂は大丈夫そうだった。
最初に落下する時こそビクついていたけど、「大丈夫だった」と笑う。
その後も、穂が乗れそうなアトラクションに乗って、お昼を食べて、クレープも食べたりして、遊園地を満喫した。
穂が「乗ってきていいよ」と言ってくれたから、1回だけ千陽と(大人用の)ジェットコースターに乗った。
そんなに混んでいなかったから長くは並ばなかったけど、それでも列ができていた。
並んでる最中、千陽に手を繋がれた。
「寒い」
「だな」
指を絡められたから、隠すようにポケットに手を突っ込んだ。
…浮気してるってこんな感じ?
まあ、公認の浮気だけど。
…だから、疚しいことなんて、ないはずなんだけど。
どうにも居心地が悪いというか、なんというか…。
居心地が悪いとまでは言わないけど、むず痒い感じがする。
“今更”感が否めないけど、それでも…。
ジェットコースターに乗り終えて戻ると、穂はベンチに座って本を読んでいた。
こんなところでも本を読むとは…真面目だなあ。
好き。
まだこの時期でもイルミネーションがやっているからと、暗くなっても私達は帰らなかった。
2人がお母さんのことを心配してくれたけど、私は自分に言い聞かせるように「大丈夫」と頷いた。
暗闇に紛れて穂にキスして、不安な気持ちを誤魔化した。
「たくさん写真撮れたね」
帰りの電車で、穂が嬉しそうにスマホを見るから、私と千陽が覗き込む。
「永那ちゃん、変な顔してる」
口元を手で隠しながらクスクス笑うから、あまりに可愛くてキスしたくなる。
目ざとく穂がそれを察知して「だめだよ?」と囁いた。
…あんまり“ダメ”って言われると、ちょっと傷つくんだよなあ。
唇を尖らせて俯くと「明後日ね?」と顔を覗き込まれた。
「うん」
一気にテンションが上がる。
我ながら単純だな、私は。
明後日は、8ヶ月記念日だ。
学校帰りに穂が家に遊びに来てくれる。
本当は、夜に穂を1人で帰らせるのは嫌なんだけど…今朝、泣くお母さんをなだめるために穂にメッセージを送ったら、了承してくれた。
「穂、気をつけて帰るんだよ?」
「うん、わかってるよ。2人も気をつけて帰ってね」
私と千陽が頷いて、電車を降りた。
ホームから手を振ると、穂が振り返してくれる。
電車が動き出すと冬の冷たい夜風が吹いた。
「行こうか」
千陽は頷きながら私の腕に抱きついた。
「体が冷え切ってる感じがするわ」
「うん」
「久しぶりに湯船でも入ろうかな」
「あたしも」
「お前、毎日入ってるんじゃないの?」
「入ってる」
「じゃあ久しぶりじゃないじゃん」
「そんな細かいこと、どうでもいいでしょ」
「…まあ、そうだな」
その後は無言のまま、私達は歩く。
千陽を家まで送って、小走りに帰った。
「ただいま」
「…おかえり」
お母さんが不貞腐れながらも返事をしてくれた。
「遅い」
「ごめんね」
「寂しかった」
「うん、ごめんね」
「お腹すいた!」
「え!?なんも食べてないの?作り置きしておいたやつあるじゃん」
「ひとりぼっちで食べるのは嫌なの!」
「…ごめんね」
お母さんのご飯を準備して、横に座った。
体の芯まで冷え切ってるからお風呂に入りたかったけど…ほんの少し我慢だ。
お母さんがご飯を食べ終えて、湯船にお湯を溜めた。
一緒に入りたいと騒ぐから、お母さんを洗ってあげる。
「永那?」
「ん?」
「ごめんね…」
「なにが?」
「…こんな、お母さんで」
思わず手を止める。
「どうしたの?急に」
返事はない。
私はそのまま追求せずに、お母さんの髪を洗った。
何か、良い言葉をかけてあげられたのかもしれない。
頭の中にいろんな言葉が思い浮かんでは、喉まで来て、飲み込んだ。
どの言葉も違う気がしたし、どの言葉も、口にしてしまっては嘘っぽくなってしまうと思ったから。
嘘っぽい言葉を言うくらいなら、何も言わないほうが良いと思った。
お母さんは…離婚届を出すまでは、普通だった。
毎日のように働いて、ご飯もちゃんと作ってくれて、いつも笑顔だった。
父親が全然帰ってこなくても、何も言わなかった。
ただ帰ってくると甘えるだけで、いないときはしっかりしてるイメージが強かった。
…あのとき、どんな気持ちだったんだろう?
どんな気持ちで過ごしていたんだろう?
まだ聞けないけど、いつか聞いてみたい。
寂しくなかったのかな?
寂しかったんだろうけど…その気持ちに、どう整理をつけていたんだろう?
「慣れだね!慣れ!」
「じゃあ、でっかい方行ってみる?」
一気に彼女の顔がくしゃくしゃになる。
「冗談だって」
「永那、最低」
千陽が優里みたいなことを言う。
…マジで落ち込むからやめてくんないかな!?
「後でもう一回乗ろ?」
穂の腕に抱きついて、2人で歩き出す。
…くっそー。ホントに冗談なのに!
自信がついたのか、垂直落下するアトラクションに乗ろうと穂が言った。
やっぱり私の思った通りで、ジェットコースターよりもスピードはないし、高さもそんなにないしで、穂は大丈夫そうだった。
最初に落下する時こそビクついていたけど、「大丈夫だった」と笑う。
その後も、穂が乗れそうなアトラクションに乗って、お昼を食べて、クレープも食べたりして、遊園地を満喫した。
穂が「乗ってきていいよ」と言ってくれたから、1回だけ千陽と(大人用の)ジェットコースターに乗った。
そんなに混んでいなかったから長くは並ばなかったけど、それでも列ができていた。
並んでる最中、千陽に手を繋がれた。
「寒い」
「だな」
指を絡められたから、隠すようにポケットに手を突っ込んだ。
…浮気してるってこんな感じ?
まあ、公認の浮気だけど。
…だから、疚しいことなんて、ないはずなんだけど。
どうにも居心地が悪いというか、なんというか…。
居心地が悪いとまでは言わないけど、むず痒い感じがする。
“今更”感が否めないけど、それでも…。
ジェットコースターに乗り終えて戻ると、穂はベンチに座って本を読んでいた。
こんなところでも本を読むとは…真面目だなあ。
好き。
まだこの時期でもイルミネーションがやっているからと、暗くなっても私達は帰らなかった。
2人がお母さんのことを心配してくれたけど、私は自分に言い聞かせるように「大丈夫」と頷いた。
暗闇に紛れて穂にキスして、不安な気持ちを誤魔化した。
「たくさん写真撮れたね」
帰りの電車で、穂が嬉しそうにスマホを見るから、私と千陽が覗き込む。
「永那ちゃん、変な顔してる」
口元を手で隠しながらクスクス笑うから、あまりに可愛くてキスしたくなる。
目ざとく穂がそれを察知して「だめだよ?」と囁いた。
…あんまり“ダメ”って言われると、ちょっと傷つくんだよなあ。
唇を尖らせて俯くと「明後日ね?」と顔を覗き込まれた。
「うん」
一気にテンションが上がる。
我ながら単純だな、私は。
明後日は、8ヶ月記念日だ。
学校帰りに穂が家に遊びに来てくれる。
本当は、夜に穂を1人で帰らせるのは嫌なんだけど…今朝、泣くお母さんをなだめるために穂にメッセージを送ったら、了承してくれた。
「穂、気をつけて帰るんだよ?」
「うん、わかってるよ。2人も気をつけて帰ってね」
私と千陽が頷いて、電車を降りた。
ホームから手を振ると、穂が振り返してくれる。
電車が動き出すと冬の冷たい夜風が吹いた。
「行こうか」
千陽は頷きながら私の腕に抱きついた。
「体が冷え切ってる感じがするわ」
「うん」
「久しぶりに湯船でも入ろうかな」
「あたしも」
「お前、毎日入ってるんじゃないの?」
「入ってる」
「じゃあ久しぶりじゃないじゃん」
「そんな細かいこと、どうでもいいでしょ」
「…まあ、そうだな」
その後は無言のまま、私達は歩く。
千陽を家まで送って、小走りに帰った。
「ただいま」
「…おかえり」
お母さんが不貞腐れながらも返事をしてくれた。
「遅い」
「ごめんね」
「寂しかった」
「うん、ごめんね」
「お腹すいた!」
「え!?なんも食べてないの?作り置きしておいたやつあるじゃん」
「ひとりぼっちで食べるのは嫌なの!」
「…ごめんね」
お母さんのご飯を準備して、横に座った。
体の芯まで冷え切ってるからお風呂に入りたかったけど…ほんの少し我慢だ。
お母さんがご飯を食べ終えて、湯船にお湯を溜めた。
一緒に入りたいと騒ぐから、お母さんを洗ってあげる。
「永那?」
「ん?」
「ごめんね…」
「なにが?」
「…こんな、お母さんで」
思わず手を止める。
「どうしたの?急に」
返事はない。
私はそのまま追求せずに、お母さんの髪を洗った。
何か、良い言葉をかけてあげられたのかもしれない。
頭の中にいろんな言葉が思い浮かんでは、喉まで来て、飲み込んだ。
どの言葉も違う気がしたし、どの言葉も、口にしてしまっては嘘っぽくなってしまうと思ったから。
嘘っぽい言葉を言うくらいなら、何も言わないほうが良いと思った。
お母さんは…離婚届を出すまでは、普通だった。
毎日のように働いて、ご飯もちゃんと作ってくれて、いつも笑顔だった。
父親が全然帰ってこなくても、何も言わなかった。
ただ帰ってくると甘えるだけで、いないときはしっかりしてるイメージが強かった。
…あのとき、どんな気持ちだったんだろう?
どんな気持ちで過ごしていたんだろう?
まだ聞けないけど、いつか聞いてみたい。
寂しくなかったのかな?
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