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6.さんにん
388.ふたり
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百貨店について、穂が照れるように笑う。
「デパートなんて、ほとんど来たことがなかったから、永那ちゃんとお母さんが一緒に来てくれて良かった」
「私も久しぶりに来て、なんだか嬉しい~!」
目がチカチカしそうなくらい煌びやかだ。
上品な店員さんが、目が合うとニコリと笑ってくれる。
私はぎこちなく笑みを返して、会釈した。
「化粧品?」
「そう…。メイク教えてもらってるときにね、もう1本ブラシが欲しいって言ってて…」
マジで、私、何あげよう?
事前に目星をつけていたというお店で、穂が店員さんの話を聞く。
なんだか、居心地が悪い。
お母さんは楽しそうにしていて、いろんな化粧品を見ていた。
ふと、綺麗にグラデーションに並んでいたマニキュアが目に入る。
…こんなん、千陽の好みなんて、知らないけど。
でも…前に千陽の家で見た、千陽のネグリジェ姿を思い出した。
綺麗な桜色で、それが、よく似合っていて…。
桜色に近い、でも大人っぽく少しくすんだ色をしているマニキュアを手に取った。
ジッと眺めていたら「こちら、綺麗なお色ですよね」と店員さんに話しかけられて、固まる。
「独自の自然由来成分を配合していて…」
私は、ただ「はい、はい」とだけ言うロボットと化した。
そして、買った。
そのマニキュアに合う色のやつをもう1つ店員さんに選んでもらって、2つで5千円以上した。
驚愕だった。
こんなちっちゃいのが5千円!なんてこった…。
丁寧に包装してもらって、受け取る。
ちょうど穂もお会計をしているところだった。
「永那ちゃん、決まったの?」
「うん、マニキュア買った」
「いいね」
その後3人でカフェに入って、パフェなんかも食べちゃったりして、解散した。
本当だったら穂とのデートだったのに…。
楽しそうなお母さんの横顔を見て、気づかれないように息を吐く。
日曜日、お母さんは前に戻ったみたいに寝続けた。
夕方に目を覚まして、ボーッとしていた。
昨日はしゃぎ過ぎて、エネルギー切れを起こしたらしい。
そのまま毎日そうなるんじゃないかと不安になったけど、月曜日にはお散歩していたから安心した。
火曜日の朝、千陽を迎えに行く。
「おはよ」
「おはよ」
「誕生日、おめでとう」
「ありがと」
「これ」
鞄から出しておいた袋を手渡す。
「え…?」
「今年は“デート”なかったし…まあ、なんか、お前の欲しい物なんて、わかんないけど…適当に、選んでみた」
千陽がジッと袋を見つめるから、変にドキドキしてくる。
「開けていい?」
「い、今?」
「だめ?」
「…いいけど」
フゥッと息を吐いて、彼女の反応を伺う。
「永那が…選んだの?」
「そうだよ。当たり前じゃん」
「ふーん…」
「まあ、いらなかったら誰かにあげて」
「あげるわけないじゃん」
千陽が袋を大事そうに両手で抱えながら、伏し目がちに言う。
「永那から貰ったもの、全部大事にしてる」
「そっか…」
「うん。これも…大事にする。嬉しい」
その、笑顔が、今まで見た彼女の笑顔のなかで、1番、可愛かった。
「おー…よかった」
腕に抱きつかれる。
彼女の胸が押し付けられて、この感触が妙に久しぶりに感じた。
「高かったんだからな?」
「いくら?」
「5千円…」
「ふーん?」
上目遣いに見られて、目をそらす。
「ありがと」
「うん」
ポリポリと頬を掻く。
「なんでこの色にしたの?」
「前、千陽が着てたパジャマが、似合ってたから…それに似た色と思って」
「へえ」
学校につくと、千陽はいろんな人からお祝いされた。
数人の男子から告白されたりもしていたけど、全部笑顔で断っていた。
お昼には穂がお弁当を作ってきてあげていた。
私のプレゼントより喜んでいる気がする…。
なんかちょっと悔しい。
ってか!私の分のお弁当がない!悲しい!
嘆いてたら、穂が膝枕してくれたから大人しく寝た。
森山さんは宝石みたいな、鉱石みたいな、綺麗な形の石鹸がいくつかセットになっている物を、優里はボディオイルをプレゼントしていた。
…みんなお洒落な物をプレゼントするなあ。
私なんか、だいぶ適当なんじゃないの?
ちょっと恥ずかしい。
「永那」
帰りの電車、千陽が手すりに寄りかかりながら言う。
「ん?」
「あたし、永那と穂と、遊園地行きたい」
…あれ?結局今回もお出かけ(デート)はあるのか。
「どこの?安い遊園地ならいいよ」
「チケットは、あるの」
「もう買ったってこと?」
千陽が首を横に振る。
「前、文化祭の打ち上げしたときに、遊園地のチケット貰ったの。チケットの期限が3月までで、誰と行こうか迷ってたんだけど…やっぱり永那と穂と行きたいなって…」
「へえ!すげーな!そんなの貰えたんだ!」
「ビンゴで、1番だったから」
「あー…そういえば穂がそんなようなこと言ってたか…。いいよ!千陽のラッキーにあやかろうじゃないか!」
フフッと千陽が笑う。
「楽しみ。穂にも言っておかなきゃ」
「おー!…穂、乗り物乗れるかな?」
「あたしも、それで悩んでた。…でも、子供向けの乗り物もあるし、たぶん大丈夫でしょ」
「だな!」
久しぶりの遊園地!楽しみになってきた!
ワクワクした気持ちのまま、私はいつも通り千陽を家まで送った。
「デパートなんて、ほとんど来たことがなかったから、永那ちゃんとお母さんが一緒に来てくれて良かった」
「私も久しぶりに来て、なんだか嬉しい~!」
目がチカチカしそうなくらい煌びやかだ。
上品な店員さんが、目が合うとニコリと笑ってくれる。
私はぎこちなく笑みを返して、会釈した。
「化粧品?」
「そう…。メイク教えてもらってるときにね、もう1本ブラシが欲しいって言ってて…」
マジで、私、何あげよう?
事前に目星をつけていたというお店で、穂が店員さんの話を聞く。
なんだか、居心地が悪い。
お母さんは楽しそうにしていて、いろんな化粧品を見ていた。
ふと、綺麗にグラデーションに並んでいたマニキュアが目に入る。
…こんなん、千陽の好みなんて、知らないけど。
でも…前に千陽の家で見た、千陽のネグリジェ姿を思い出した。
綺麗な桜色で、それが、よく似合っていて…。
桜色に近い、でも大人っぽく少しくすんだ色をしているマニキュアを手に取った。
ジッと眺めていたら「こちら、綺麗なお色ですよね」と店員さんに話しかけられて、固まる。
「独自の自然由来成分を配合していて…」
私は、ただ「はい、はい」とだけ言うロボットと化した。
そして、買った。
そのマニキュアに合う色のやつをもう1つ店員さんに選んでもらって、2つで5千円以上した。
驚愕だった。
こんなちっちゃいのが5千円!なんてこった…。
丁寧に包装してもらって、受け取る。
ちょうど穂もお会計をしているところだった。
「永那ちゃん、決まったの?」
「うん、マニキュア買った」
「いいね」
その後3人でカフェに入って、パフェなんかも食べちゃったりして、解散した。
本当だったら穂とのデートだったのに…。
楽しそうなお母さんの横顔を見て、気づかれないように息を吐く。
日曜日、お母さんは前に戻ったみたいに寝続けた。
夕方に目を覚まして、ボーッとしていた。
昨日はしゃぎ過ぎて、エネルギー切れを起こしたらしい。
そのまま毎日そうなるんじゃないかと不安になったけど、月曜日にはお散歩していたから安心した。
火曜日の朝、千陽を迎えに行く。
「おはよ」
「おはよ」
「誕生日、おめでとう」
「ありがと」
「これ」
鞄から出しておいた袋を手渡す。
「え…?」
「今年は“デート”なかったし…まあ、なんか、お前の欲しい物なんて、わかんないけど…適当に、選んでみた」
千陽がジッと袋を見つめるから、変にドキドキしてくる。
「開けていい?」
「い、今?」
「だめ?」
「…いいけど」
フゥッと息を吐いて、彼女の反応を伺う。
「永那が…選んだの?」
「そうだよ。当たり前じゃん」
「ふーん…」
「まあ、いらなかったら誰かにあげて」
「あげるわけないじゃん」
千陽が袋を大事そうに両手で抱えながら、伏し目がちに言う。
「永那から貰ったもの、全部大事にしてる」
「そっか…」
「うん。これも…大事にする。嬉しい」
その、笑顔が、今まで見た彼女の笑顔のなかで、1番、可愛かった。
「おー…よかった」
腕に抱きつかれる。
彼女の胸が押し付けられて、この感触が妙に久しぶりに感じた。
「高かったんだからな?」
「いくら?」
「5千円…」
「ふーん?」
上目遣いに見られて、目をそらす。
「ありがと」
「うん」
ポリポリと頬を掻く。
「なんでこの色にしたの?」
「前、千陽が着てたパジャマが、似合ってたから…それに似た色と思って」
「へえ」
学校につくと、千陽はいろんな人からお祝いされた。
数人の男子から告白されたりもしていたけど、全部笑顔で断っていた。
お昼には穂がお弁当を作ってきてあげていた。
私のプレゼントより喜んでいる気がする…。
なんかちょっと悔しい。
ってか!私の分のお弁当がない!悲しい!
嘆いてたら、穂が膝枕してくれたから大人しく寝た。
森山さんは宝石みたいな、鉱石みたいな、綺麗な形の石鹸がいくつかセットになっている物を、優里はボディオイルをプレゼントしていた。
…みんなお洒落な物をプレゼントするなあ。
私なんか、だいぶ適当なんじゃないの?
ちょっと恥ずかしい。
「永那」
帰りの電車、千陽が手すりに寄りかかりながら言う。
「ん?」
「あたし、永那と穂と、遊園地行きたい」
…あれ?結局今回もお出かけ(デート)はあるのか。
「どこの?安い遊園地ならいいよ」
「チケットは、あるの」
「もう買ったってこと?」
千陽が首を横に振る。
「前、文化祭の打ち上げしたときに、遊園地のチケット貰ったの。チケットの期限が3月までで、誰と行こうか迷ってたんだけど…やっぱり永那と穂と行きたいなって…」
「へえ!すげーな!そんなの貰えたんだ!」
「ビンゴで、1番だったから」
「あー…そういえば穂がそんなようなこと言ってたか…。いいよ!千陽のラッキーにあやかろうじゃないか!」
フフッと千陽が笑う。
「楽しみ。穂にも言っておかなきゃ」
「おー!…穂、乗り物乗れるかな?」
「あたしも、それで悩んでた。…でも、子供向けの乗り物もあるし、たぶん大丈夫でしょ」
「だな!」
久しぶりの遊園地!楽しみになってきた!
ワクワクした気持ちのまま、私はいつも通り千陽を家まで送った。
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