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6.さんにん
386.ふたり
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絵文字で返して、画面を閉じようとしたら、通知が来た。
『もう、永那ちゃんに会いたい』
心臓が撃ち抜かれる。
ジッと画面を見つめてしまう。
スクリーンショットを保存して、深呼吸する。
『私も会いたい。好きだよ、穂』
『好き』
ああ…可愛い。可愛い。可愛い~!!
もう一度スクリーンショットを保存した。
…なんか、めちゃくちゃカップルっぽくない!?
いや、カップルなんだけどさ!
3ヶ月間の入院でお母さんも、私も、生活習慣が劇的に改善された。
お母さんは食後と寝る前に処方された薬を飲んで、2人とも0時過ぎには寝た。
私は3時頃に心配で目が覚めたけど、お母さんは寝息を立てて寝ていた。
変な感じだ。
でも…またお母さんは“病院に行きたくない”と言い始めるかもしれない。
今は良くても、いずれ…もしかしたら…。
だから期待は禁物。
それでも…それでも、今は、この平穏に浸っていたい。
寝坊した。
3ヶ月間、穂がアラームをつけてくれていたし、元々アラームで起きる習慣なんて私にはなかったからだ。
千陽に電話すると「なに?」と冷たく言われた。
「今どこ!?」
「学校のそばだけど」
「あー!だよな!だよな!ごめん、寝坊した!」
「…べつに、そんなことで電話しなくていい」
「え!?…あ…そっか」
今まで、寝坊で千陽に電話したことなんてなかった。
だって寝坊するときはいつも、既に学校が始まっていて、行くのを諦めていたから。
どうせ千陽が私の分のノートを作ってくれるし、学校なんか出席日数を稼ぐためだけに行っていたようなものだった。
…なんで私、電話したんだろう?
っていうか、急げばまだ授業に間に合う時間に起きられるなんて、ちょっと信じられなかった。
バタバタ準備して、冷蔵庫を開ける。
あ、そうだ…。
お弁当も水筒も、ないんだった。
…ちょっと、悲しい。
「永那ぁ?」
「あ、お母さん。ごめんね、起こしちゃったね」
「んーん、学校?」
「うん!行ってくるね!」
「行ってらっしゃ~い」
学校に行く前、お母さんに“行ってらっしゃい”って言われるのなんて、いつぶりだろう?
自然と笑みが溢れた。
ドアを開けて、トントントンと小気味よく階段を下りる。
最後、一段飛ばして、ジャンプした。
…なんか、楽しい。
全力疾走。
冬なのに、全然寒くない。
息は白いのに、鼻は冷たいのに、全然寒くない。
穂が編んでくれた手作りのマフラーがなびく。
電車はぎゅぅぎゅぅに混んでいた。
学校の最寄り駅についた瞬間、同じ制服を着た学生が、私と同じようにホームを走った。
まるで徒競走だ。
脱落者を追い抜いていく。
…あの子は遅刻かな。
冷たい空気が肺を満たす。
熱に変えて、口から吐く。
横っ腹が痛い。
「ほら、急げー」
校門で教師が言う。
階段を駆け上がる。
教室まであと少し。
先生の背中にぶつかりそうになって、くるっと避ける。
「おぉ、両角…走るなー」
「あーい!」
返事をしながら、走る。
「走るなって言ってるだろ…」
無視無視。
ガラガラと教室の扉を開ける。
ゼェゼェと息をして、膝に手をつく。
「間に合ったー!」
「永那、おはよー」
「おー」
クラスメイトに声をかけられて、なんとか笑う。
チャイムが鳴って、先生が教室に入ってくる。
「みんな席につけー」
チラリと穂を見ると、優しく笑みを向けられた。
…可愛い。
朝からなんちゅう可愛さだ…。
千陽には呆れたように笑われた。…笑うな!
呼吸を整えながら席につく。
どっと疲れがきた。
とろけるチーズみたいに、背もたれに寄りかかる。
「あー、疲れた…」
「永那が走ってくるとか、珍し」
後ろの席の友人に話しかけられる。
「だろ?…柄にもなく頑張っちゃったわ」
「なにそれ」
昼休み、購買でパンを買おうとしたら穂に声をかけられた。
「今日だけだけど…」
「お弁当!?やったー!!」
千陽に奪われそうになりながら、穂のご飯にホッとする。
穂との同棲が解消されてしまった(お母さんが帰ってきた)話をみんなにして、残りの時間は穂の膝枕で寝た。
平穏な日が、過ぎていく。
お母さんが帰ってきて1週間後の朝、試しにアラームをつけてみた。
毎日遅刻寸前だったから、さすがにつけないとヤバいと思ったから。
アラームの音でお母さんも起きたけど、問題なさそうだった。
学校から帰るとじいちゃんがいた。
「おかえり」
しゃがれた低い声は、やっぱり慣れない。
「永那~おかえり~!」
「ただいま」
私は手洗いうがいをして、荷物を部屋に置く。
お母さんの隣に座るけど、なんだか、居心地が悪い。
「永那」
「は、はい…」
「今まで、ありがとう」
「え!?えっと…」
「お母さんのこと。本来なら、私が面倒を見なければならないところを…お前ひとりに任せて」
「お父さん!私だって、もう大人だよ?」
お母さんが両頬を膨らませる。
「そうだな」
じいちゃんが頷く。
優しく、笑みを浮かべているような気もした。
「昔の私は、全く理解ができなくてな。最近ようやく、香那子の気持ちが、なんとなく…理解できるようになった気がしている」
『もう、永那ちゃんに会いたい』
心臓が撃ち抜かれる。
ジッと画面を見つめてしまう。
スクリーンショットを保存して、深呼吸する。
『私も会いたい。好きだよ、穂』
『好き』
ああ…可愛い。可愛い。可愛い~!!
もう一度スクリーンショットを保存した。
…なんか、めちゃくちゃカップルっぽくない!?
いや、カップルなんだけどさ!
3ヶ月間の入院でお母さんも、私も、生活習慣が劇的に改善された。
お母さんは食後と寝る前に処方された薬を飲んで、2人とも0時過ぎには寝た。
私は3時頃に心配で目が覚めたけど、お母さんは寝息を立てて寝ていた。
変な感じだ。
でも…またお母さんは“病院に行きたくない”と言い始めるかもしれない。
今は良くても、いずれ…もしかしたら…。
だから期待は禁物。
それでも…それでも、今は、この平穏に浸っていたい。
寝坊した。
3ヶ月間、穂がアラームをつけてくれていたし、元々アラームで起きる習慣なんて私にはなかったからだ。
千陽に電話すると「なに?」と冷たく言われた。
「今どこ!?」
「学校のそばだけど」
「あー!だよな!だよな!ごめん、寝坊した!」
「…べつに、そんなことで電話しなくていい」
「え!?…あ…そっか」
今まで、寝坊で千陽に電話したことなんてなかった。
だって寝坊するときはいつも、既に学校が始まっていて、行くのを諦めていたから。
どうせ千陽が私の分のノートを作ってくれるし、学校なんか出席日数を稼ぐためだけに行っていたようなものだった。
…なんで私、電話したんだろう?
っていうか、急げばまだ授業に間に合う時間に起きられるなんて、ちょっと信じられなかった。
バタバタ準備して、冷蔵庫を開ける。
あ、そうだ…。
お弁当も水筒も、ないんだった。
…ちょっと、悲しい。
「永那ぁ?」
「あ、お母さん。ごめんね、起こしちゃったね」
「んーん、学校?」
「うん!行ってくるね!」
「行ってらっしゃ~い」
学校に行く前、お母さんに“行ってらっしゃい”って言われるのなんて、いつぶりだろう?
自然と笑みが溢れた。
ドアを開けて、トントントンと小気味よく階段を下りる。
最後、一段飛ばして、ジャンプした。
…なんか、楽しい。
全力疾走。
冬なのに、全然寒くない。
息は白いのに、鼻は冷たいのに、全然寒くない。
穂が編んでくれた手作りのマフラーがなびく。
電車はぎゅぅぎゅぅに混んでいた。
学校の最寄り駅についた瞬間、同じ制服を着た学生が、私と同じようにホームを走った。
まるで徒競走だ。
脱落者を追い抜いていく。
…あの子は遅刻かな。
冷たい空気が肺を満たす。
熱に変えて、口から吐く。
横っ腹が痛い。
「ほら、急げー」
校門で教師が言う。
階段を駆け上がる。
教室まであと少し。
先生の背中にぶつかりそうになって、くるっと避ける。
「おぉ、両角…走るなー」
「あーい!」
返事をしながら、走る。
「走るなって言ってるだろ…」
無視無視。
ガラガラと教室の扉を開ける。
ゼェゼェと息をして、膝に手をつく。
「間に合ったー!」
「永那、おはよー」
「おー」
クラスメイトに声をかけられて、なんとか笑う。
チャイムが鳴って、先生が教室に入ってくる。
「みんな席につけー」
チラリと穂を見ると、優しく笑みを向けられた。
…可愛い。
朝からなんちゅう可愛さだ…。
千陽には呆れたように笑われた。…笑うな!
呼吸を整えながら席につく。
どっと疲れがきた。
とろけるチーズみたいに、背もたれに寄りかかる。
「あー、疲れた…」
「永那が走ってくるとか、珍し」
後ろの席の友人に話しかけられる。
「だろ?…柄にもなく頑張っちゃったわ」
「なにそれ」
昼休み、購買でパンを買おうとしたら穂に声をかけられた。
「今日だけだけど…」
「お弁当!?やったー!!」
千陽に奪われそうになりながら、穂のご飯にホッとする。
穂との同棲が解消されてしまった(お母さんが帰ってきた)話をみんなにして、残りの時間は穂の膝枕で寝た。
平穏な日が、過ぎていく。
お母さんが帰ってきて1週間後の朝、試しにアラームをつけてみた。
毎日遅刻寸前だったから、さすがにつけないとヤバいと思ったから。
アラームの音でお母さんも起きたけど、問題なさそうだった。
学校から帰るとじいちゃんがいた。
「おかえり」
しゃがれた低い声は、やっぱり慣れない。
「永那~おかえり~!」
「ただいま」
私は手洗いうがいをして、荷物を部屋に置く。
お母さんの隣に座るけど、なんだか、居心地が悪い。
「永那」
「は、はい…」
「今まで、ありがとう」
「え!?えっと…」
「お母さんのこと。本来なら、私が面倒を見なければならないところを…お前ひとりに任せて」
「お父さん!私だって、もう大人だよ?」
お母さんが両頬を膨らませる。
「そうだな」
じいちゃんが頷く。
優しく、笑みを浮かべているような気もした。
「昔の私は、全く理解ができなくてな。最近ようやく、香那子の気持ちが、なんとなく…理解できるようになった気がしている」
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