いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
上 下
382 / 595
6.さんにん

381.ふたり

しおりを挟む
「早く開けろよ」
既にドアの鍵は開いていて、ドアチェーンがかかっていて入れない…ということらしい。
ドアをガチャガチャ開けられる。
ドアチェーンかかってて良かったー!

走って穂の元へ。
「穂!穂!起きて!」
「んぅ…?」
「お姉ちゃん来た!やばい!」
穂が飛び起きる。
私が彼女のブラをつけてあげて、彼女はショーツを穿く。
「なんで!?」
「知らないよ!!マジで連絡の1つくらいよこせよ、ホント!」
「ねえ、私、髪ぐしゃぐしゃじゃない?」
「大丈夫」
小声で言い合う。

「おーい!早く開けろよ、何やってんだよ」
「うっせーよ!少しは待てよ!」
穂が服を着終えて、パタパタと洗面台に走っていく。
私がドアチェーンを外すと同時にドアが開く。
お姉ちゃんが舌打ちしながら靴を脱ぐ。
「来んならメッセージくらい送れよ」
「は?なんで?ここ私の家なんですけど?」
「ほとんど帰ってこないくせに何言ってんだよ」
「…あ、あの!」
お姉ちゃんが穂のほうを向く。
「誰?」
「あ、私」
「関係ねえだろ」
私は穂の前に立つ。
「あんた、また」
「ちげーよ。ふざけんな」
「“ふざけんな”って、あんたが何したか忘れたの?私が全額」
「わかったから!わかってるから…。この子は、ただの、友達だから」
奥歯を強く噛む。
胸がズキズキと痛む。

空井そらい穂です。永那ちゃんとは、高校のクラスが一緒で」
「ふーん。…あの、写真に写ってた子」
飾っていた写真をお姉ちゃんが覚えているとは思わなかった。
「ハァ」とお姉ちゃんはため息をついて、「急に邪魔して、ごめんね」と穂に謝った。
「い、いえ!私のほうこそ、勝手に家にお邪魔させていただいて…」
「んで、なに?何の用?」
「“何の用”って、明後日お母さん帰ってくるでしょ」
「だから何?」
「あんたひとりじゃ頼りないから、来てやったの」
「必要ねえよ、帰れよ」
「え、永那ちゃん…!」
穂に袖を掴まれる。
「ダメだよ、そんな言い方しちゃ」
「穂…」
彼女が優しく微笑む。

お姉ちゃんがコートを脱いで、リビングに行く。
穂があったかいお茶を淹れて、テーブルに置いてくれた。
「私、帰るよ」
「嫌だ」
「でも…」
「嫌」
穂の手を掴んで、離さない。
穂が困った顔をしているのはわかってる。
でも見たくなくて、俯いた。
「…穂が帰るなら、私も穂の家行く」
「永那ちゃん…」
お姉ちゃんがため息をついて、私達を見た。
「ここに…2人で寝泊まりしてるの?」
穂の荷物や、並んでいる2枚の布団を見れば、泊まっていることは明白だ。
「お姉ちゃんには関係ないだろ!」
「永那ちゃん…!ちゃんと説明しようよ」
ギリリと奥歯が鳴る。
「どうせわかってくれない。私の話なんか、聞いてくれない」
「あんたの考えはいつも短絡的で、後先考えずに行動する。私があんたの話を聞かないんじゃなくて、あんたの言動が信用できないから聞く価値がないだけ」
「お前…!」
頭に血が上って、お姉ちゃんに掴みかかろうとすると、穂に止められた。抱きしめられて。

「お姉さんは、永那ちゃんの努力を認めてくださったんじゃないんですか?」
「…は?」
「確かに永那ちゃんは、後先考えずに行動しちゃうところはあると思います。でも私にとっては、それがすごく魅力的だし、私が“やめて”って言えば、ちゃんと話も聞いてくれる。だから、勝手に、決めつけないでください。話を聞く価値がないなんて、勝手に決めつけないでください」
涙が溢れそうになって、目を掻くフリをする。
「ふーん。…じゃあ、何を聞けばいいの?」
既に座っているお姉ちゃんはテーブルに頬杖をついて、穂を睨む。
「永那ちゃん」
目を擦っても擦っても涙が止まらない。
「無理だよ…」
「大丈夫。…ね?」
穂に手を引かれて、座った。
「私から話す?」
顔を覗き込まれる。
私は頷きたい気持ちをグッと堪えて、首を横に振る。
「穂のお母さんが、ひとり暮らしをさせるのは心配だって言ってくれて、1週間おきに、お互いの家で寝泊まりしてる。本当は3ヶ月間穂の家にいて良いって言ってもらったんだけど、うちにはお母さんが大事にしてる花もあるし、ずっと空けておくのは心配だったから、1週間おきにしてもらった」
お姉ちゃんは相槌も打たずに、お茶を啜る。

他に何を話せばいいのかわからなくて、穂を見る。
穂が優しい笑みを浮かべて、ギュッと手を握ってくれた。
…なんか、私、すごいかっこ悪い。
「それで、今週は永那ちゃんのお母さんが帰ってくるので、それまで私がこの家にお泊りさせていただいています。掃除とか、棚に鍵をかけるのとか、お花の世話とか…ご飯の作り置きなんかも、手伝おうと思って」
お姉ちゃんはお茶を見たまま、何も言わない。
「永那ちゃんが作るご飯ってカレーばっかりなんです。お姉さん、知ってましたか?カレーばっかりだけど、永那ちゃん、ちゃんとお母さんのためにご飯作ってたんですよ?…ね?」
ギュッと胸が締め付けられる。
穂が、好きだ。
やっぱり、好きだ。
ずっと好きなんだから“やっぱり”なんておかしいけど…。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

処理中です...