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8.閑話
25.永那 中1 春《相澤芽衣編》
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昼休みの多目的室、永那を待っていたけど、いつもの時間になっても来ないから、私は立ち上がった。
あの空き教室を覗き見る。
小倉心音の喘ぐ声…気持ち悪い。
明らかに永那のことを好いている。
もう卒業間近なんだから、先輩らしく「これで卒業ね。今までありがとう」とか言って、潔く身を引いたらいいのに。
そのほうが永那にも多少は好かれるんじゃない?
…でも、永那もお金が欲しいんだよね。
うーん…でも、結局お金、何度も持ってきてないよね?
最低のクズだと思う。
お金渡すからセックスしてもらってるんでしょ?
なのに忘れるって…どんだけ最低なの?
…忘れるっていうよりも、もう、渡すお金がなかったりして。
毎回1万円だもんね。
月に5回以上ヤってるんだから、5万以上の出費。
私の月のお小遣いの10倍。
金持ちって、こわーい。
息を吐き捨てるように「ハァッ」と、勢い良く立ち上がる。
そんなことより…問題は佐藤千陽だなぁ…。
部活のとき、永那は敬礼して、みんなに宣言していた。
「2年から幽霊部員になります!」
そんなこと宣言して幽霊部員になる人なんていないから…。
「正確に言えば来週から」
へへへと永那が笑った。
「来週、1年最後の部活なんだから来ればいいのに」
「いやあ、ちょっと忙しくなっちゃって…」
「せっかく永那、ギター上手くなってきたのに。もったいない。…ね?」
同級生の風美が言う。
私は頷いて、小さく息を吐いた。
「そうなんですよねー、私も続けたかったんですけど…」
続けたかったなら…佐藤千陽の送り迎えなんてやめてよ。
この日の部活は、永那を中心に楽しく過ごした。
下校時刻になって、みんなが帰り支度をするなか、風美が永那を呼ぶ。
「今日、一緒に帰らない?」
永那は首を傾げつつ頷いた。
胸騒ぎがして、2人の後をつける。
ギター2本は重いなぁ…。
たまに永那が一緒に帰って家まで持っていってくれるんだけど…風美のせいで、今日は自分で持って帰らなきゃいけなくなった。
「永那」
「はい?」
「ちょっと、公園寄ってこ?」
これは…。
永那と風美が2人で公園のベンチに座る。
「永那、私…前から、永那が好き」
「あ…」
永那は笑って「ありがとうございます」と頭を掻いた。
2人の間に沈黙がおりる。
フゥッと風美が息を吐いて「ダメ、だよね?」と聞いた。
必死に笑顔を作っている。
「え?ダメって?何がですか?」
思わずズッコケる。
風美も目を大きく開いて、驚いていた。
「あの…付き合うの…」
「ああ…そう、ですね。すみません」
「ううん」
風美は俯いて、膝の上で手を握りしめていた。
永那がその手に手を重ねる。
…バカじゃないの!?
風美が顔を上げて、顔を真っ赤にした。
「でも、嬉しかったです。好きって言ってもらえて」
「う、うん…」
「ちなみに、私の好きなところって…どこですか?」
「えっ…あ…優しいところ」
「優しい?」
「うん。前に、私がコード譜落としてバラ撒いたことあったでしょ?そのとき、みんなには文句言われちゃったけど…永那は笑い話にしてくれた。“札束が舞ってるみたいだ!”って。…たしかに、音楽してる人にとっては、札束みたいに大切なものだと思うし」
永那は真剣な顔をしながら頷いていた。
「一緒にいて楽しいなって思うし…会うと、いつも元気になる。あと、歌ってる姿がかっこよくて…」
へへと照れくさそうに風美が笑った。
永那が風美の顔を覗き込む。
「な、なに…?」
「いや…風美先輩、綺麗だなって思って」
は?
今告白してきた相手になんてこと言ってるの?
しかも、永那は今振ったばっかりでしょ!?
「キスしちゃ、ダメですか?」
「え…っ!?」
頭が痛くなる…。
「あ、すみません。つい」
“つい”ってなに…。
「いい…よ…」
ギリギリと歯が鳴った。
永那がニヤリと笑う。
風美はギュッと目を閉じた。
触れるだけのキスをして、永那が離れる。
ペロリと唇を舐めて、宙を見ながら頷く。
「風美先輩、ありがとうございます」
「…うん。こちら、こそ…」
風美は耳まで赤くして、手で顔を覆った。
「か、帰るね…!」
しばらくして、風美が鞄を持って走って公園を去っていった。
「永那」
「芽衣!どうしたの!?なんでここいるの!?」
「後、つけてきた」
「えぇ!?」
「ハァ」と息を吐いて、永那の隣に座る。
「重いから、持って」
「あ、うん」
ギターを1本渡す。
「なんでキスしてんの?」
私は膝に頬杖をついて、覗き込むように永那を見た。
「あー」
永那がニヤニヤしながら頬をポリポリ掻く。
「心音とキスして、芽衣とキスして…人によってキスって違うんだなあって思って、風美先輩とはどうだろう?って…」
「バカじゃないの?」
「えっ…そ、そうかな?」
「そうでしょ。てか、最低」
「なんでよ。風美先輩、私のこと好きって言ってたし、いいじゃん」
私はまたため息をつく。
「佐藤千陽にもキスすんの?」
「えー!?しないよ」
「なんで?」
「あいつとは、友達だし」
「ふーん?」
あの空き教室を覗き見る。
小倉心音の喘ぐ声…気持ち悪い。
明らかに永那のことを好いている。
もう卒業間近なんだから、先輩らしく「これで卒業ね。今までありがとう」とか言って、潔く身を引いたらいいのに。
そのほうが永那にも多少は好かれるんじゃない?
…でも、永那もお金が欲しいんだよね。
うーん…でも、結局お金、何度も持ってきてないよね?
最低のクズだと思う。
お金渡すからセックスしてもらってるんでしょ?
なのに忘れるって…どんだけ最低なの?
…忘れるっていうよりも、もう、渡すお金がなかったりして。
毎回1万円だもんね。
月に5回以上ヤってるんだから、5万以上の出費。
私の月のお小遣いの10倍。
金持ちって、こわーい。
息を吐き捨てるように「ハァッ」と、勢い良く立ち上がる。
そんなことより…問題は佐藤千陽だなぁ…。
部活のとき、永那は敬礼して、みんなに宣言していた。
「2年から幽霊部員になります!」
そんなこと宣言して幽霊部員になる人なんていないから…。
「正確に言えば来週から」
へへへと永那が笑った。
「来週、1年最後の部活なんだから来ればいいのに」
「いやあ、ちょっと忙しくなっちゃって…」
「せっかく永那、ギター上手くなってきたのに。もったいない。…ね?」
同級生の風美が言う。
私は頷いて、小さく息を吐いた。
「そうなんですよねー、私も続けたかったんですけど…」
続けたかったなら…佐藤千陽の送り迎えなんてやめてよ。
この日の部活は、永那を中心に楽しく過ごした。
下校時刻になって、みんなが帰り支度をするなか、風美が永那を呼ぶ。
「今日、一緒に帰らない?」
永那は首を傾げつつ頷いた。
胸騒ぎがして、2人の後をつける。
ギター2本は重いなぁ…。
たまに永那が一緒に帰って家まで持っていってくれるんだけど…風美のせいで、今日は自分で持って帰らなきゃいけなくなった。
「永那」
「はい?」
「ちょっと、公園寄ってこ?」
これは…。
永那と風美が2人で公園のベンチに座る。
「永那、私…前から、永那が好き」
「あ…」
永那は笑って「ありがとうございます」と頭を掻いた。
2人の間に沈黙がおりる。
フゥッと風美が息を吐いて「ダメ、だよね?」と聞いた。
必死に笑顔を作っている。
「え?ダメって?何がですか?」
思わずズッコケる。
風美も目を大きく開いて、驚いていた。
「あの…付き合うの…」
「ああ…そう、ですね。すみません」
「ううん」
風美は俯いて、膝の上で手を握りしめていた。
永那がその手に手を重ねる。
…バカじゃないの!?
風美が顔を上げて、顔を真っ赤にした。
「でも、嬉しかったです。好きって言ってもらえて」
「う、うん…」
「ちなみに、私の好きなところって…どこですか?」
「えっ…あ…優しいところ」
「優しい?」
「うん。前に、私がコード譜落としてバラ撒いたことあったでしょ?そのとき、みんなには文句言われちゃったけど…永那は笑い話にしてくれた。“札束が舞ってるみたいだ!”って。…たしかに、音楽してる人にとっては、札束みたいに大切なものだと思うし」
永那は真剣な顔をしながら頷いていた。
「一緒にいて楽しいなって思うし…会うと、いつも元気になる。あと、歌ってる姿がかっこよくて…」
へへと照れくさそうに風美が笑った。
永那が風美の顔を覗き込む。
「な、なに…?」
「いや…風美先輩、綺麗だなって思って」
は?
今告白してきた相手になんてこと言ってるの?
しかも、永那は今振ったばっかりでしょ!?
「キスしちゃ、ダメですか?」
「え…っ!?」
頭が痛くなる…。
「あ、すみません。つい」
“つい”ってなに…。
「いい…よ…」
ギリギリと歯が鳴った。
永那がニヤリと笑う。
風美はギュッと目を閉じた。
触れるだけのキスをして、永那が離れる。
ペロリと唇を舐めて、宙を見ながら頷く。
「風美先輩、ありがとうございます」
「…うん。こちら、こそ…」
風美は耳まで赤くして、手で顔を覆った。
「か、帰るね…!」
しばらくして、風美が鞄を持って走って公園を去っていった。
「永那」
「芽衣!どうしたの!?なんでここいるの!?」
「後、つけてきた」
「えぇ!?」
「ハァ」と息を吐いて、永那の隣に座る。
「重いから、持って」
「あ、うん」
ギターを1本渡す。
「なんでキスしてんの?」
私は膝に頬杖をついて、覗き込むように永那を見た。
「あー」
永那がニヤニヤしながら頬をポリポリ掻く。
「心音とキスして、芽衣とキスして…人によってキスって違うんだなあって思って、風美先輩とはどうだろう?って…」
「バカじゃないの?」
「えっ…そ、そうかな?」
「そうでしょ。てか、最低」
「なんでよ。風美先輩、私のこと好きって言ってたし、いいじゃん」
私はまたため息をつく。
「佐藤千陽にもキスすんの?」
「えー!?しないよ」
「なんで?」
「あいつとは、友達だし」
「ふーん?」
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