いたずらはため息と共に

常森 楽

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8.閑話

18.永那 中1 春〜秋《相澤芽衣編》

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■■■

「軽音部は、なんかかっこいいから入部したいと思いました。楽器はしたことありません。お金ないので楽器買えないです。ピアニカなら、できるかな?小学生のときのがあるし」
多目的室にいた全員が、その自己紹介で笑った。
お調子者っぽい雰囲気で、みんなが笑うのを彼女は楽しそうに見ていた。
ハッキリ“恋”とは思わなかったけど、私はそのときから、永那えなのことが気になっていた。
同級生も、先輩達も“綺麗な子だからライブとかしたら映えそうだけど、あの子は幽霊部員だね”と口々に言っていた。
私もそう思った。
でもなぜか永那は部活に顔を出しては、みんなの練習を楽しそうに眺めた。
だから私は頻繁に永那に話しかけた。

お父さんが趣味でギターを弾いていたから、私はその影響で、小さい頃からギターを弾くのが好きだった。
小学4年生くらいから、曲も作るようになった。
でも…恥ずかしくて誰にも聞かせたことはなかった。
中1のとき、ポエムが好きだと言っている女子がいた。
それを陰でいろんな人がからかっているのを聞いてから、“やっぱり誰にも聞かせなくて良かった”と思った。
歌詞って、要はポエムだし。
私が作る曲は、日々の鬱憤をぶつけたものが多かったし、とてもじゃないけど、誰かに聞かせられるようなものじゃなかった。
でもある日、永那に聞かれてしまった。
昼休み、こっそり作っていた合鍵で入った多目的室で、ひとり歌っていた。
ほとんど人が来ないはずの4階に、なぜか永那はいた。

ガラガラと扉を開けて「良い曲!なんて歌ですか?」と、いきなり聞かれた。
「永那…なんで…」
永那が首を傾げて近づいてくる。
「芽衣先輩の声が聞こえたから」
「そうじゃなくて…なんで4階にいるの?」
「あー…それは…ちょっと先輩に呼び出されて」
「先輩?誰?」
「んー…小倉 心音おぐら ここね先輩って知ってますか?」
考えてみたけど、知らない。
軽音部の先輩ではなかった。
永那は乾いた笑い声を出して「ま、その先輩とお話してたんです」と投げやりに言った。

「芽衣先輩」
永那は、距離が近い。
綺麗な瞳で真っ直ぐ見つめられて、少し、ドキドキした。
「さっきの曲、なんて曲ですか?」
「え…。ああ…うーん…特に、タイトルは、決めてないんだけど…」
「え!?」
永那の顔がもっと近くなる。
「タイトル決めてないって…もしかして…先輩が作ったんですか!?」
「あ…うん…」
「すげー!!」
キラキラした顔で見つめられて、息を呑んだ。
これが私の、初恋だった。
「もっと聞かせてください!」
「は、恥ずかしいよ…」
「え!?なんでですか!?めっちゃ良い曲でしたよ!」
「えぇ…」
「聞きたいなあ」
永那はあぐらになって、膝に頬杖をつく。
彼女のさらさらの髪が揺れる。

仕方なく、私はギターを弾き始める。
「いつだって君は強引で 私の気持ちなんて 知らないで わがままだって言うけれど 君のほうがずるいんだ」
チラリと永那を見ると目が合って顔が熱くなる。
「私がいつも いろんなことを 考えてるなんて君は知らないくせに」
親友の好きな人に告白された。
私は好きじゃなかったから断ったけど、それを知った親友に“最低!”と泣かれてしまった。
親友は明るくて、無邪気で…そっか、少し永那に似てるのかな。
でも…永那は気遣い上手に見えるけど、親友は我が道を行くタイプ。
“こうしたい!”って思ったら、そうせずにはいられない。
どうしてもできないってなると、いつも不機嫌になった。
不機嫌になられるたびに、私は彼女のご機嫌取りをしたり、時には自分のしたいことをせずに彼女に付き合った。
…なのに、なんで私が“最低”なの?
相手が勝手に私のことを好きになっただけじゃん。

1分くらいの、短い曲。
歌い終えると永那はパチパチと大袈裟に手を叩いた。
「すごい!すごいですね!芽衣先輩!!」
「そ、そうかな?」
「うん!」
「…そろそろ、昼休み終わるね」
ギターをケースにしまう。
「もっと聞きたかったなあ」
可愛くて、彼女の頭を撫でた。
「明日も、ここにいますか?」
ただ、そう聞かれただけなのに、なぜか私は赤面した。
まるで、デートのお誘いみたいで。
「…わ、わかんない。いたら、来る?」
「はい」
「じゃあ、いる」
永那がニシシと笑う。
可愛い。
なんか…子犬みたい。

家に帰って、曲が浮かんだ。
楽しくて、お兄ちゃんに「ご飯だよ」と呼ばれても書き続けた。
次に妹が呼びに来て、最後にお母さんに叱られた。
ご飯を急いで食べて、また部屋にこもる。
永那の笑顔ばっかり思い浮かんだ。
次の日の授業中も、昨日書いた曲を頭の中で流していた。
音を立てないように、机を指でトントンする。
また永那の笑顔が思い浮かんで、全然授業に集中できなかった。

お昼を食べて、ギターケースを持つ。
「芽衣」
親友が私の手を取る。
あんなに泣き喚いて、“最低”とか言ってきたのに、もうなかったことにしてる。
心の中でため息をつく。
「今日、カラオケ行こうよ」
「うん」
「やったー!」
彼女の手を離して、私は小走りに多目的室に向かった。
周りを見渡して、多目的室の鍵を開ける。
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