いたずらはため息と共に

常森 楽

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6.さんにん

359.クリスマス

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穂が疲れきっていたから、昼はインスタント麺にした。
食べている最中だというのに、彼女は何度も箸を置いて、顔を突っ伏していた。
「そんなに疲れた?」
いつもの彼女なら“行儀悪い”って言ってそうなのに。
「疲れたよ…?」
チラリと目線だけ私に向けられる。
その瞳があまりに綺麗で、口元が緩む。
「なに笑ってるの」
太ももをツンツンと指で突かれる。
「可愛いから」
私は麺を啜って、醤油ラーメンの味を楽しむ。

食べた後に寝るのは嫌だとゴネられたけど、なんだかんだ穂はすぐに寝息を立てていた。
寝起きからいっぱいエッチしたからなあ…疲れるのも無理はない。
充実感に浸りながら、寝ている彼女を抱きしめた。
2時間後くらいに穂を起こすとして…それまで暇だな。
今から寝たら私、起きられないだろうし、どうしよう?

スマホのカメラを起動する。
彼女を抱きしめながら、何枚か写真を撮った。
「めっちゃ可愛い」
涎が出る。
服の袖で拭いて、千陽ちよに送りつけた。
『何をしていたでしょーか?』
『うざい』
返事が早いのは素晴らしいけれども!全然答えになってないんですけど!?
『千陽なにしてんの?』
『パーティ』
またパパのパーティか?多くない?
パーティってパンティみたい。
『楽しい?』
『全然』
『私はこれからクリスマスデート!楽しみ♡』
『う ざ い』
わざわざ一文字一文字バラバラに送ってきやがった。
『写真、もっと送って』
仕方ないから穂のほっぺにチューしてる自撮りを送る。
変顔の自撮りも送ってあげた。大量に。

しばらく待ったけど、返事がないから穂のSNSを見る。
まだ5件しか投稿されていない。
最初は穂の家のベランダで育てている花の写真。
冬に咲く花が咲いたからと、楽しそうに載せていた。
“今年も咲きました”なんて、おばあちゃんが投稿してるみたいな文章だ。
2つ目はみんなで試験勉強しているときの写真。
優里ゆりが載せていたから、真似していた。
3つ目は半年記念に行った海。
私と手を繋いでいる写真も載せていて、よく見ると指輪が写っていたから、ちょっと照れる。
4つ目は私の家で作ったご飯。美味しかったなあ、鍋。
日が射し込む畳が綺麗だとか言って、それも撮って載せている。
5つ目は、誉と3人で飾り付けたクリスマスツリー。

私も中学のときは少しやっていたけど、面倒になって、長続きしなくて、今はアカウントがあるだけ。
千陽もSNSはアカウントを持っているだけだから特に何も思わなかったけど、穂がやってるのを見ると、またやろうかな?なんて思えてくる。
でもどうせ長続きしないんだよな。

穂の投稿についている“いいね”をタップする。
優里繋がりで、クラスメイトのほとんどが穂と相互フォローになっている。
23件の“いいね”のなかに、違和感を覚えるアカウントを発見。
アカウントを見てみると心音ここねだった。
怖い…SNSって怖い…本当に怖い…。
どうやって見つけるの?マジで。
心音が“いいね”している穂の投稿が、3つ目と5つ目なのも怖い。
穂はわかってるの?これ。
非公開アカウントにさせよう。決めた。
暇だから心音の投稿を見る。
お洒落な写真がたくさん。
“久しぶりの美容院。初めてのブリーチ、憧れのミルクティ色♡可愛くしてもらえた”と、自撮りを載せている。
んー…なんか、複雑な気持ち。
彼女と再会した日から、もう2ヶ月以上経っている。
どう過ごしているのか、気にならないわけじゃない。

投稿を遡っていく。
「ハァ」と思わずため息をつく。
私が彼女に“お礼”としてあげたお菓子の写真が載っていた。
“大切な人から♡嬉しい。大事に食べる”
コメントには“彼氏?”とか“ここちゃんの大切な人、羨ましい”とか書かれていて、返事が絵文字1つ。
口を手で隠した絵文字だ。
なにそれ…!
ちゃんと“違う”って言えよ!
私と会った日から、ちょいちょい思わせぶりな投稿があって目眩がする。
右手の薬指の指輪を撮っていたり、私が寝てしまっていた駅前のベンチの写真があったり、ソファに伸ばした素足を載せていたり。
“いつか…”とか“疲れて寝ちゃってたの、可愛かった”とか“好きな人の匂い”とか…!
恥ずかしくないの!?
…いや、まあ…私と会った後に、好きな人ができたのかもしれないけど。
そうであってほしい。そうであってくれ。

『好き』
通知が来て、心臓が跳ねた。
スマホも跳ねて、ベッドに落ちた。
…マジで、ビビらせないでよ。
ため息をついて、スマホを拾う。
千陽とのメッセージ画面を開いて、サングラスをかけた顔の絵文字を送っておいた。
…もうダメだ。
スマホを放り投げる。
穂を抱きしめて、至るところにキスをした。
「穂~、穂~」
彼女の匂いを嗅ぐ。
“好きな人の匂い”
「だー!!!」
頭をぶんぶん振って、必死に忘れようとする。
くっそー…感情がなかった過去に戻りたい。
平気で人を傷つけていた、過去…。
…いや、戻りたくなんかない。
この幸せを消したくなんか、ない。
でも、じゃあ、どうすれば…!!
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