いたずらはため息と共に

常森 楽

文字の大きさ
上 下
343 / 595
6.さんにん

342.まだ

しおりを挟む
■■■

先週の日曜日、期待していた。
やっと3人でできる…。
やっと、2人から愛してもらえるって。
でも実際は、すいの気持ちを確かめるための作業みたいな感じで、結局、イくこともできなかった。
…ムードが壊れたのは永那えなのせいだけど。
触れられたのだって、永那がふざけたときだけで。
キスは…嬉しかったけど。
あんな、死ぬほど恥ずかしい思いさせられて、ちゃんとさわってももらえないなんて、正直ショックだった。
だから今日も、同じような感じで進むんだろうな、と期待しないように頑張って1週間過ごした。
期待しようとする自分が嫌。
あたしは所詮、2人が情で大事にしてくれてる存在なんだから。
学校での穂の様子も余所余所しくて、あたしが話しかけても、胸元に視線が来ない。
…穂は、3人でシたいわけじゃないのかな。
やっぱり、あたしが離れないってわかって、その気、失せちゃったのかな。
ズキリと、胸が痛む。
仕方ないよね。
今までの関係が異常だったんだから。

マフラーに口元を埋めて、アスファルトを見ながら永那の家に向かう。
2人は今、穂の家で寝泊まりしてるけど…3人でするから、永那の家でってことなのかな?
土曜日だから、お母さんもたかもいるんだろうし。
珍しく、お昼を食べてからの集合だった。
2時前に永那の家の呼び鈴を鳴らす。
すぐにドアが開く。
さらに珍しく、永那が出てきた。
あたしが遊びに来たときは、いつも穂がドアを開けてくれるのに。
「おー」
ドアを片手で開けたまま、中に入れてくれる。
永那との距離が一瞬近くなって、好きな彼女の匂いが鼻を通る。
…あれ?
「穂は?」
物音がしないし、人の気配もないし、そもそも穂がいたら出迎えてくれるはず。
「ん?家」
あたしは首を傾げる。
「家って…」
「あ?」
永那が左眉を上げて、少し苛立ちながら、部屋の奥に入っていく。
あたしは何も言えなくなって、後をついていく。
永那が座った横に座る。
部屋を覗いてみても、穂はやっぱりいない。

「これ、ありがと」
袋を渡される。
…あたしの玩具が入ってる、袋。
「どう、だった?」
「穂、泣いちゃった」
この話がしたかったってこと?
それなら、べつに、明日でも…。
穂がいる前だと、できないのかな?
「ふーん。…痛かったの?」
「いや…痛くはなかったみたいなんだけど」
フッと、永那がニヤけるように笑う。
「私のほうがいいって。怖かったんだって」
彼女が口元を手で押さえる。
「クッソ可愛くない?」
あたしは曖昧に頷いて、鞄に袋をしまう。
マフラーとコートを脱いで、鞄の上に乗せた。

永那が頬杖をついて、窓を眺めながら、貧乏揺すりを始める。
「なんなの?」
「は?」
「“は?”って…。そっちが今日誘ってきたんでしょ?何か言いたいことがあったんじゃないの?」
永那は全然あたしを見ない。
…何か、言いにくいこと?
“やっぱり3人ではできない”みたいな?
穂は言えないから、代わりに永那が…ってこと?
「それとも…これ、返すためだけに、わざわざ呼んだの?」
「…ちげーよ」
「じゃあ、なに?」
「ハァ」と永那が大きなため息をつく。
ボリボリと頭を掻いて、髪がぐしゃぐしゃになる。

「なんか、飲む?」
永那はようやく窓から視線を外したけど、今度は自分の手元を見つめ始めた。
「え?…いや…なんなの?ホント。用がないなら、帰るけど」
「前のお前なら…意地でも隣にいたのにな」
思わず顔をしかめる。
永那は眉間にシワを寄せて、唇を歯で挟む。
「ホント…変わったよね、千陽ちよ
「ありがと…?」
フッと彼女が鼻で笑う。
永那が何を伝えたいのか、全然わからない。

永那は立ち上がって、もう一度頭を掻いた。
「ん」
目をそらしたまま、手を差し出される。
その手を見つめていると、「早く」と見下ろされた。
なんだか、すごく懐かしいようにも感じる。
手を重ねると、引っ張り上げられて、抱きしめられた。
鼓動が一気に速くなる。
「ムードなんて、よく、わかんないけど…」
耳元で囁かれただけなのに、体の奥の芯みたいなところが、ギュッと引っ張られるような感覚。
体が離れて、見つめられる。
彼女の視線があたしの唇に落ちて、あたしは唾を飲んだ。
ゆっくり彼女が近づいてきて、目を閉じかけて…慌てて彼女の肩を押す。
ドクンドクンと心臓がうるさく鳴り始める。
「ちょ…ちょっと…待って…ど、どういうこと?」
なんとか永那を見ると、永那は目を細めて、あたしを見下ろしていた。
その姿が、あたしがずっと好きだった永那で、胸が針でチクチク刺されるみたいに、キュンとした。

「ハァ」と永那がため息をつく。
「穂が…2人でセックスしてって」
頭が、真っ白になる。
「お前が嫌なら、やめる」
へその下の奥のほうが、ジクジクと、熱をおびていく。
「す、穂は…嫌なんじゃ…ない、の?」
「自分の気持ちを確かめるために、1回だけ、シてほしいって言ってた」
永那は相変わらず、冷たい目であたしを見下ろしていた。
「お前は、どうしたい?」
“どうしたい?”なんて…初めて、聞かれた…。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...