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5.時間
320.考える
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「穂」
「ん?」
「今日、みんないるし、永那とシないでしょ?」
穂の目が大きく開いて、人差し指を唇に当てた。
「シーッ」
可愛い。
「永那、大丈夫なの?…昨日ので、満足したってこと?」
あのヤりたがりが、あれで満足したとは思えない。
穂に手を引かれて、部屋の奥に連れて行かれる。
穂があたしの肩に手を乗せるから、あたしは耳を彼女に寄せた。
「ネットカフェで…シてきたの…」
…やば。
だから永那からの返事が遅かったのか。
あたしがジトーッと彼女を見ると、「内緒だよ!」と小声で言われた。
…そんな事実を知らされていたのに、夜中に、穂の喘ぎ声が聞こえて呆れた。
桜も優里も寝ていたけど、こんなんで、誉とかに聞かれてないの?
最大限声を出さないように努力しているのは伝わってくるけど、それでも聞こえてしまう。
2枚の布団に3人で並んで窮屈だった布団から抜け出す。
ドアに耳を当てると、2人の声が聞こえる。
「永那ちゃん…ッ、も、もう…だめっ」
「なんで?“お仕置き”、“いくらでも”していいんでしょ?」
昨日のかー…。
あたしはドアに寄りかかって座る。
昨日寝ていないから眠い。
でも、不思議と目が冴えていた。
…あたしも、さわってほしいなあ。
しばらく2人のセックスの様子を聞いた後、あたしは布団に戻った。
…正確には、戻ろうとした。
でも、優里が占領して、寝られなかった。
椅子に座って、ダイニングテーブルに顔を突っ伏すけど、眠れない。
あたしは少し考えて、誉の部屋のドアをノックした。
そっと開ける。
意外と、2人のセックスの声は聞こえないんだとわかった。
あたしは誉のベッドの端に座って、彼の顔を見た。
髪を撫でる。
寝顔、穂に似てる。
海に行ったとき、笑顔も似ていると思った。
あたしは布団を捲って、狭いスペースで横向きに寝た。
誉の寝相が悪いから、強引に彼を壁に押しやる。
「ハァ」
あたしも、いつか2人以外に好きな人、できるのかな。
誉が転がってくるから、また押す。
何度か繰り返して、イライラしたから、思わず蹴った。
…あ。
「ん!?」
誉が飛び起きる。
「え!?千陽!?」
「布団、占領されちゃったの。ここで寝させて」
誉の目がまん丸くなって、白目が外灯で浮きだった。
「だめ?」
「…い、いいけど」
「ん」
あたしは広くなったベッドに、仰向けで寝転んだ。
誉があたしをジッと見るから「なに?」と聞くと、彼は首をぶんぶん横に振って、あたしに背を向けるようにして横向きで寝た。
「ねえ、誉」
「な、なに?」
「…なんでもない」
「は!?気になる言い方すんなよ」
「んー…じゃあ…誉ってエロいことに興味あんの?」
「はー!?な、なに言ってんの、マジで」
「誉が気になるって言うから」
「ハァ」と大きくため息をついて、彼は壁にぴったりくっついた。
誉のベッドは穂の部屋側ではなくて、お母さんの部屋側にあるから、壁にくっついても彼女達の声は聞こえないはず。
「そ、そりゃ…ないってことは、ないけど…」
「ふーん。ちゃんとヤるときはゴムつけなよ」
「うっ、うっさい!わかってるよ!」
「わかってるんだ」
からかうと「もー!」と怒る。
小6にもなれば、知ってる子は知ってるよね。
「永那とどんな話すんの?」
「え!?…あ、んー…姉ちゃんがご飯作ってくれて、2人で話すときとかは、永那から恋愛のアドバイスとか聞いたりした」
「どんな?」
「め、めっちゃ話し難いんだけど」
「教えて」
「その…相手の表情をよく観察しろ、とか」
どこが話し難いの。
「他は?」
「観察してもわかんないときは、ちゃんと相手に質問して、聞く。答えてくれないときは、1回聞いて諦めるんじゃなくて、違う言葉に置き換えて聞いてみる」
「なにそれ」
「そうやって、相手の気持ちを引き出すんだって…。俺も、よくわかんないけど」
ホント、わけわかんないアドバイス。
「俺…兄ちゃんができたみたいで、嬉しいんだ。永那、変なことばっか教えてくるけど…でも…兄ちゃんがいたら、こんな感じかなって」
「ふーん。でも、永那は男じゃない」
「わかってるよ」
「あたしね、永那がいろんな女から“永那が男だったら付き合ったのに”って言われてるとこ、見てきた。そのたびに永那、“男だったら、ってなんだよ”って怒ってた」
「そう、なんだ…」
「永那は、女だったから、今の永那になれたんだよ。あたしは、そう思う。だって、もし永那が男だったら、きっとあたし…こんなに、仲良くなってない」
「なんで?」
「女同士だから分かり合えることとか、女同士だから…安心できるとか…色々、あるでしょ」
「そうなんだ」
「…まあ、結局?永那は、“永那が男だったら付き合ったのに”って言ってきた相手のことも落としてたけどね」
「怖っ」
「ね」
あたしは誉の背中に引っつく。
彼の体が硬直するのがわかって、ちょっと楽しい。
「今は…男とか女とか、そういうのを明確に区別しないのが当たり前かもしれないけど…それでも…女と男って、やっぱりまだ隔たりがあるよね。あたし、いつも男から顔とか体で見られてきたから、なんとなく、そう思ってる。…まあ、もしかしたらイケメンも同じ気持ちなのかもしれないけど」
「…千陽って、けっこういろんなこと考えてるんだね」
「バカにしてる?」
「してない、してない」
「あたし、誉が穂の弟じゃなかったら、こんなに安心できないし」
「安心してくれてるんだ…」
「男のなかでは、ね。まあ、誉は男っていうより、子供って感じがするけど」
「ひど!俺、もう、中学生になるんだけど!」
「あたし、あんたが中学生のとき大学生なんだけど」
「…もー!いいよ!子供で!いいよ!」
フフッと笑ってしまう。
「ん?」
「今日、みんないるし、永那とシないでしょ?」
穂の目が大きく開いて、人差し指を唇に当てた。
「シーッ」
可愛い。
「永那、大丈夫なの?…昨日ので、満足したってこと?」
あのヤりたがりが、あれで満足したとは思えない。
穂に手を引かれて、部屋の奥に連れて行かれる。
穂があたしの肩に手を乗せるから、あたしは耳を彼女に寄せた。
「ネットカフェで…シてきたの…」
…やば。
だから永那からの返事が遅かったのか。
あたしがジトーッと彼女を見ると、「内緒だよ!」と小声で言われた。
…そんな事実を知らされていたのに、夜中に、穂の喘ぎ声が聞こえて呆れた。
桜も優里も寝ていたけど、こんなんで、誉とかに聞かれてないの?
最大限声を出さないように努力しているのは伝わってくるけど、それでも聞こえてしまう。
2枚の布団に3人で並んで窮屈だった布団から抜け出す。
ドアに耳を当てると、2人の声が聞こえる。
「永那ちゃん…ッ、も、もう…だめっ」
「なんで?“お仕置き”、“いくらでも”していいんでしょ?」
昨日のかー…。
あたしはドアに寄りかかって座る。
昨日寝ていないから眠い。
でも、不思議と目が冴えていた。
…あたしも、さわってほしいなあ。
しばらく2人のセックスの様子を聞いた後、あたしは布団に戻った。
…正確には、戻ろうとした。
でも、優里が占領して、寝られなかった。
椅子に座って、ダイニングテーブルに顔を突っ伏すけど、眠れない。
あたしは少し考えて、誉の部屋のドアをノックした。
そっと開ける。
意外と、2人のセックスの声は聞こえないんだとわかった。
あたしは誉のベッドの端に座って、彼の顔を見た。
髪を撫でる。
寝顔、穂に似てる。
海に行ったとき、笑顔も似ていると思った。
あたしは布団を捲って、狭いスペースで横向きに寝た。
誉の寝相が悪いから、強引に彼を壁に押しやる。
「ハァ」
あたしも、いつか2人以外に好きな人、できるのかな。
誉が転がってくるから、また押す。
何度か繰り返して、イライラしたから、思わず蹴った。
…あ。
「ん!?」
誉が飛び起きる。
「え!?千陽!?」
「布団、占領されちゃったの。ここで寝させて」
誉の目がまん丸くなって、白目が外灯で浮きだった。
「だめ?」
「…い、いいけど」
「ん」
あたしは広くなったベッドに、仰向けで寝転んだ。
誉があたしをジッと見るから「なに?」と聞くと、彼は首をぶんぶん横に振って、あたしに背を向けるようにして横向きで寝た。
「ねえ、誉」
「な、なに?」
「…なんでもない」
「は!?気になる言い方すんなよ」
「んー…じゃあ…誉ってエロいことに興味あんの?」
「はー!?な、なに言ってんの、マジで」
「誉が気になるって言うから」
「ハァ」と大きくため息をついて、彼は壁にぴったりくっついた。
誉のベッドは穂の部屋側ではなくて、お母さんの部屋側にあるから、壁にくっついても彼女達の声は聞こえないはず。
「そ、そりゃ…ないってことは、ないけど…」
「ふーん。ちゃんとヤるときはゴムつけなよ」
「うっ、うっさい!わかってるよ!」
「わかってるんだ」
からかうと「もー!」と怒る。
小6にもなれば、知ってる子は知ってるよね。
「永那とどんな話すんの?」
「え!?…あ、んー…姉ちゃんがご飯作ってくれて、2人で話すときとかは、永那から恋愛のアドバイスとか聞いたりした」
「どんな?」
「め、めっちゃ話し難いんだけど」
「教えて」
「その…相手の表情をよく観察しろ、とか」
どこが話し難いの。
「他は?」
「観察してもわかんないときは、ちゃんと相手に質問して、聞く。答えてくれないときは、1回聞いて諦めるんじゃなくて、違う言葉に置き換えて聞いてみる」
「なにそれ」
「そうやって、相手の気持ちを引き出すんだって…。俺も、よくわかんないけど」
ホント、わけわかんないアドバイス。
「俺…兄ちゃんができたみたいで、嬉しいんだ。永那、変なことばっか教えてくるけど…でも…兄ちゃんがいたら、こんな感じかなって」
「ふーん。でも、永那は男じゃない」
「わかってるよ」
「あたしね、永那がいろんな女から“永那が男だったら付き合ったのに”って言われてるとこ、見てきた。そのたびに永那、“男だったら、ってなんだよ”って怒ってた」
「そう、なんだ…」
「永那は、女だったから、今の永那になれたんだよ。あたしは、そう思う。だって、もし永那が男だったら、きっとあたし…こんなに、仲良くなってない」
「なんで?」
「女同士だから分かり合えることとか、女同士だから…安心できるとか…色々、あるでしょ」
「そうなんだ」
「…まあ、結局?永那は、“永那が男だったら付き合ったのに”って言ってきた相手のことも落としてたけどね」
「怖っ」
「ね」
あたしは誉の背中に引っつく。
彼の体が硬直するのがわかって、ちょっと楽しい。
「今は…男とか女とか、そういうのを明確に区別しないのが当たり前かもしれないけど…それでも…女と男って、やっぱりまだ隔たりがあるよね。あたし、いつも男から顔とか体で見られてきたから、なんとなく、そう思ってる。…まあ、もしかしたらイケメンも同じ気持ちなのかもしれないけど」
「…千陽って、けっこういろんなこと考えてるんだね」
「バカにしてる?」
「してない、してない」
「あたし、誉が穂の弟じゃなかったら、こんなに安心できないし」
「安心してくれてるんだ…」
「男のなかでは、ね。まあ、誉は男っていうより、子供って感じがするけど」
「ひど!俺、もう、中学生になるんだけど!」
「あたし、あんたが中学生のとき大学生なんだけど」
「…もー!いいよ!子供で!いいよ!」
フフッと笑ってしまう。
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